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国連ハビタット親善大使 マリ・クリスティーヌ さん

今回ご紹介するのは、主に開発途上国での「まちづくり」に取り組んでいる国連ハビタットの親善大使 マリ・クリスティーヌさんです。
「まちづくり」に 興味がある方のみならず、「ボランティアや国際貢献をしたいけれど何から始めたらいいのか分からない」という方にも多くのヒントを与えてくれるインタビューです。マリさんの暖かい人柄がにじみ出るお話をお楽しみ下さい。

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写真:特定非営利活動法人
日本ハビタット協会提供

4歳まで日本で暮らし、その後諸外国で生活。様々な文化の中で培った幅広い視点を活かしつつ、国際連合人間居住計画(国連ハビタット)親善大使としての活動を始め、「アジアの女性と子どもネットワーク(AWC)」の代表など、幅広い活動を行っている。東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻修士課程修了。都市計画・まちづくり(環境整備、地域社会のあり方、過疎化、活性化、高齢化に対する取り組みなど)女性・教育・人権・いじめ問題、ボランティアのあり方などに関しての講演活動も行っている。

 

― マリさんはご自身の著書の中で、ボランティアについて書かれていますが、マリさんはボランティアに関してどうお考えですか。

物を差し上げる場合、渡す側の気持ちと受け取る側の気持ちも含めて、色々な考え方がありますよね。「アジアの女性と子どもネットワーク(AWC)」では、お金を現地へ持って行って、そこで現地の文房具を買います。そうするとそこにお金が落ちて、経済も潤って、なおかつ子どもたちにも新しい物をあげられる。最初は、自分の子どもたちがお粗末に置いている鉛筆やクレヨンを、大切にしてくれる現地の子どもたちに使ってもらおうと思って集めていました。ただ活動していく中で、私たちは学んで、現地で地元の人々の経済が成り立つ方法に切り替えていったんです。

私はいつもボランティア活動をする上で、相手をかわいそうだと思って支援してはいけないと考えています。なぜかというと相手をかわいそうだと思った途端に相手が自分より下にいると思うんですね。相手の苦しみや辛さ、その大変さを分かち合うことが対等な人間同士がすることだと思います。

un_interview_photo01国連でよく使われるdignity(尊厳)という言葉がありますが、dignityという気持ちを相手に持ってもらうためには、自分も相手に対してdignified(相手を尊重する)な接し方をしなくては駄目だと思います。「かわいそうだからあげる」ではなくて、むしろ「大変だろう、私たちも同じ立場だったらこうしてもらいたい」という気持ちを持って接することが一番人として対等なやり方で、相手の痛みを分かち合う、共有するということがすごく大切だと思います。

― 小さい頃からボランティア活動をされていたのですか。

子どもの頃はガールスカウトでクッキーを売ったり、教会の活動の一環で孤児院でクリスマスパーティーをしたり、老人ホームを訪ねたりしました。それに、スモーキー・ベアーという山火事から森を守るクマのマスコットが好きで、そのファンクラブに入っていましたね。災害があれば、毛布や募金を集めるというのがごく普通に生活の中で行われていたので、小さい頃から自然とボランティアって大事なんだなということは感じていました。

「基本的にはどこに行っても家族って皆どこも一緒なんです」

― 小さい頃から様々な文化の中で生活して来られましたが、そういう体験を通してどのようなことを学ばれましたか。

父はイタリア系のアメリカ人で、母は日本人ですから、家庭の中には常に3つの文化がありました。その3つの文化を保ちつつ、ドイツに住み、アメリカに1年、イランに4年、それからタイに2年住んで日本に帰ってきたのですが、たくさんの文化、価値観、考え方の中で友達を作るには、黙ってじっとしていたんでは友達ができないんです。やはり自分から進んで友達になろうとしないと駄目なんですね。小さいときは恥ずかしがりやで、「自分が恥ずかしいと思っているときは相手も同じくらい恥ずかしいんだよ」とよく父に言われました。それに「Ask Why(どうしてって聞いてごらん)」ということもよく言われました。「自分が誰かに理由を尋ねれば、よっぽど意地悪な人じゃない限りは、ちゃんと相手も教えたいって気持ちがあるから教えてくれるよ」、「知らないことは知ったかぶりしちゃ駄目だよ」とよく言われましたね。

基本的にはどこに行っても家族って皆どこも一緒なんです。自分の親を大切にし、今日より明日、明日より明後日の方をもっとよくしようと願って皆生活しています。貧しい生活をされている方も同じ気持ちで、なんとかして貧しい生活から抜け出して、もっといい生活をしたいと皆願っているけれども、ただその術がなかったり、そうできない状況にいたりするんです。

「生きる、生活をするということは、全部一本の糸で繋がっています」

― 国連ハビタットの「まちづくり」とはどのようなものでしょうか。

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写真:特定非営利活動法人
日本ハビタット協会提供

国連ハビタットの考える人間居住、つまり「まちづくり」は経済基盤やインフラ整備がきちんと整っていて、それで人々が生き生きと暮らせるというまちづくりです。生きる、生活するということは、全部一本の糸で繋がっています。上下水道の整備、電気の供給、ゴミの処理がなされているか、雇用の場があるか、初等教育、医療の恩恵が受けられるか、また交通機関がちゃんと整っているかどうか。また、それを支える法律があって、人権が守られているか。それらは全部繋がっているわけですから単独では何もできないですよね。一つの社会のシステムがあり、なおかつそれを守るインフラができているということがすごく重要なんです。開発途上国にはまだそういうシステムがなくて、それに頼ることができない生活をしている方々がたくさんいます。

「Right to secure tenure(保有権を確保する権利)」という言い方をするのですが、この土地は自分のものであると主張でき、その権利が守られ、そこに自分の家を作ることができる。また、それを支えてくれるまち・コミュニティのインフラがきちんと存在し、その中で人々のコミュニティづくりができているということのバランスがすごく大切です。そういうものを一から作らなくてはいけないところもあれば、あったけれども自然災害や戦争によって全部破壊されたので、それをもう一度作り直して早く元の生活に戻らなくてはならないところもあります。そのための支援をするというのが国連ハビタットの基本的なスタンスなんです。

「コミュニティというのはきちんと構築されていればすごく強いものなんですよ」

un_interview_photo03― コミュニティの存在とは人々にとってどのようなものなのでしょうか。

紛争や自然災害が起こるとまちがボロボロになりますよね。皆心もすごくいためるわけですし、自分の愛する人たちも周りからいなくなったり、死んでしまったり、目の前で殺されたりすることもあるわけです。それをもう一回復興したり立て直したりするためには、コミュニティの絆がすごく重要になってきます。コミュニティというのはきちんと構築されていればすごく強いものなんですよ。国連ハビタットの職員の方で、佐藤摩利子 さんという方がいらっしゃいますが、彼女がよく「Community is immunity(コミュニティは免疫力)」って仰るんですね。コミュニティがきちんとしていると、お互い支え合うことができます。戦争や災害の後でも、早く復活できるところは元々コミュニティがきちんとしているところなんですね。

― 「まちづくり」を支援する上で何が大切でしょうか。

コミュニティを作る上での、国連ハビタットのポリシーの一つとして、地元のコミュニティの人々が自らどうコミュニティを動かしていくかを考えるための支えになるというのがあります。アフガニスタンで作った堤防を例に挙げると、まず堤防ができて再び川の水が畑に流れるわけですけれども、そこに果物の木をたくさん植えたんですね。そうすれば、そこで人々が農業を営むことができて、果物をジャムにしてその収入をまた何かに使ってというふうに経済が回っていくんです。コミュニティの仕組みを地元の人々が自分達で考えて実行することがその後のコミュニティの強さにつながるのですから、外から行って「あなた達こうしなさい、ああしなさい」と押し付けるコミュニティ作りじゃ根がつかないんです。やはりそういう点では、ただ与えるだけでは駄目で、コミュニティをきちんと引き込んだ形で進めていくことがすごく大事なことだなと思います。

「国連機関もまちづくりと一緒」

― 他の国連機関と協力して支援を進めることもあるのですか。

ある意味で国連機関もまちづくりと一緒で、どの時期にどの機関がお手伝いするかということが役割分担されています。例えば、難民キャンプにいる方々が難民キャンプから早く定住できる場所へ移動できるよう、まずUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が難民の方々の生活を支えます。その後定住できる場所に移るときはハビタットが一緒にお手伝いします。国連機関同士で協力しながら、国連のサポートというのはあるんですね。

「女性にとっていいまちは、女性の周りの方々にとってもいいまちになります」

― マリさんは「女性にとってよいまちは、みんなにとってよいまち」であると、常日頃おっしゃっています。それはどうしてでしょうか。

写真:特定非営利活動法人 日本ハビタット協会提供

写真:特定非営利活動法人 日本ハビタット協会提供

今は男女平等・男女参画社会ですから、男性も女性も役割を分担するということがすごく大切なことです。でも、開発途上国では基本的に女性たちが介護や世話の一番の提供者となり家族を守ります。ご主人が戦争に行って亡くなった、出稼ぎに行って家にいないとなると、家族を守る役割は必然的に女性のものになるからです。女性が自分たちだけで子どもを育てたり、周りにいる高齢者や障害を持っている人々の面倒を見たりするのですから、女性にとっていいまちは女性の周りの方々にとってもいいまちになります。

子育てや家事の役割分担は日本は半分ずつということになっています。建前と実状は違いますから、そこをどう取り組んでいくかが先進国の日本の課題でもありますが、先進国になればなるほど、社会のシステムを支える法律や制度が整備され、それがきちんと行使できるようになり男女の負担が半分ずつになることが理想です。開発途上国では、女性が教育を受けるインフラができていない、またはできたところで、女性の家事負担が多すぎて、まだまだ女性が教育を受けられない状況です。ですから女性たちがきちんと教育を得られるような環境を作ることが大事です。

日本はアジアや開発途上にある国々の模範にならなくてはいけませんから、女性や女性の問題を支えてくれる政治家が育つ、またそういう視点から法律が作られていくことが大事ですね。先進国、開発途上国、それぞれの男女平等のあり方があります。ですから、一概に全部平等じゃなくてはいけませんということではなく、むしろその国の発展具合やその時代時代に合わせてどう取り組んでいくかを考えるということ、またそれを考える権利を持つことができ、その権利が守られていることがすごく大事なことです。そういう意味では国連もやることが沢山ありますね。

― COP10の広報アドバイザーとしてもご活躍ですが、COP10とはどのような会議なのでしょうか。

un_interview_photo05COP10というのは「生物多様性条約第10回締約国会議」の略です。現在、地球温暖化によって一日に何千種類もの生物が消えています。もちろん地球は何十億年もの間動いていますから、多くの生物が絶滅してはいるんですけれども、温暖化によって絶滅する速度がものすごく速くなったので、それを食い止めようということがこの会議の基本です。また、生物の権利に関しても話し合われます。例えば、医療などの分野において重要な生物や微生物がいたとして、その生息地が開発途上国・地域の場合そういう生物の権利に関してまだ整備が進んでいません。それらの権利を薬品会社や先進国が持ってしまうことで、生物資源のバランスが崩れている場合があります。それに対してどう同意をしていくかということもこの会議の中で話し合われます。

「バランスが取れていないと、すごく偏った国際協力になると思うんです」

― 最後に、社会貢献・国際協力を志す日本の方々にメッセージをお願いします。

まず、現状が分からなくては、国際協力なんてできないと思うんですね。自分の国がどう運営され、世界の一つの模範になっているかということを、先進国か開発途上国かに関わらず、どの国でも考えることがすごく大事だと思います。今、ブータンがGNH(国民総幸福量)というのを一つの指針にして国民が幸せであるかどうかを見ていますけれども、お金がいくらあってもハッピーにはなれないんだということは先進国がもう十分に示していると思います。社会のシステムは日本の中でもまだ充実していません。開発途上国やそこで困っている人たちのことを考えるのはすごく大事なことだけれど、やはり自分の身の回りも良くしていきながら、相手の国、人々のことも思うということ、このバランスが取れていないと、すごく偏った国際協力になると思うんですね。

un_interview_photo06一度、フィリピンで現地の方に、「あなたたちが日本で志の高い、正しい判断をする政治家を選べば、そのような政治家は、日本が出しているODA(政府開発援助)がフィリピンで適正に使われるよう責任を持ってくれる、そういう形の国際協力もありますよ」と言われたんです。すごく遠回りではあるけれども、そういうことがドミノ方式に開発途上国にまで影響を及ぼすんだということを普段認識して暮らせば、別に開発途上国に出かけて「国際貢献したいんです」と言わなくても、きちんと国際貢献になるんですね。国連機関の仕事に就くことは、もちろん大事な国際協力だと思いますけれども、方法は一つではないと思います。いつでも広くアンテナを張って、世界や国々がどう動いているか、自分の周りはどうなっているかということをきちんとバランスよく理解していることが私はすごく大事だと思いますね。

(インタビュアー:山口 裕子/写真:山口 裕朗)