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さらに安全、公正かつ人間的な未来を目指して

ミハイル・ゴルバチョフ

『UNクロニクル』の編集者から私に対し、今回の国連創設70周年記念特集号への寄稿の要請がありました。私はそれに応じました。なぜなら、国連はその使命、普遍性、そして創設時に寄せられた期待という点で、他のどのような機関とも異なっているからです。私の政治生命を通じて、国連は重要かつ顕著な役割を果たしてきました。

私は1988年12月、総会で行った演説を覚えています。当時、世界的な対立を克服して冷戦に終止符を打つための取り組みが、具体的な成果を上げ始めていました。恒久的平和、紛争の予防と終結、そしてグローバルな課題の解決を模索する加盟国が真に協力できる場としての国連が、その本来の使命を全うする条件が整っていました。

安全保障理事会の理事国は久々に、協調的かつ効果的な行動に向けて合意に達し、これによってイラク政権によるクウェート侵攻に対処することができました。国連はその他の地域紛争にも積極的に関与し、中東での執拗な対立さえ、解決不可能ではなくなってきたように見えました。国際社会と普遍的な組織である国連は、環境危機や貧困や低開発といったグローバルな課題に注意を向けることができるようになりました。何億もの人々、そして人類そのものの生存が、これら問題の解決にかかっているからです。

そして今、私たちは、当時盛り上がった期待に完全には応えられなかったことを認めねばなりません。とは言え、国連がこれまでに多くの成果を上げたこと、そして、加盟国と世界の人々に対してその必要性を何度となく実証してきたことは間違いありません。2000年のミレニアム開発目標(MDGs)採択に至るイニシアティブが発足した場も、国連でした。このミレニアム・プロジェクトにより、世界の数百万の人々が、それなりの生活の質と適切な生活基盤、そして一定の尊厳を享受するために解決せねばならない問題に、加盟国の関心が集中しました。重要なのは、これに関する具体的なターゲットが設けられたことです。その成果の分析はまだ済んでおらず、すべての目標が達成されたわけではないことも明らかになっていますが、このプロジェクトは全体として建設的な取り組みでした。貧困は徐々に減少し、数百万人が教育、医療、きれいな水や衛生施設を利用できるようになりました。私が創設に協力し、現在も積極的に関わっているNGO「グリーンクロス・インターナショナル」が、この壮大な取り組みに独自の貢献をしていることを嬉しく思います。この貢献は今後も、さらに効果的な形で続けなければなりません。

しかし、だからと言って、冷戦後の世界情勢に満足してよいというわけではありません。むしろ私たちは、これまでに、そして今でも、目の前で起こっていることに対して厳しい批判を向けるべきです。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が言った、より安全で、より公正かつより人間的な真の新しい世界秩序が生まれるどころか、私たちはグローバル・ガバナンスの力が及ばない乱雑な、そしてしばしば無秩序なプロセスが増幅する様子を目の当たりにしてきたからです。

このことは、国連の役割と地位に影響を与えました。特に旧ユーゴスラビアと中東では、国連が安全保障面での大きな脅威を収束させるプロセスから排除され、その影響力は大幅に低下しました。加盟国による一方的な行動は、世界機関である国連の本質それ自体に反するものです。最近の出来事は、このような一方的政策が、それを遂行する者を含め、誰にとっても危険であるばかりか、逆効果でさえあることを実証しています。問題を解決するどころか、悪化させるとともに、新たな、そして多くの場合はさらに深刻で危険な問題を作り出すからです。しかし、すべての国がこの苦い経験に学んでいるとは思えません。

この1年半は、国際社会にとって特に大きな試練の時となりました。国連憲章が国際平和と安全の維持にために特別な責務を与えている国を含める大国の間で、相互の信頼が失われてしまいました。国際関係の基盤となるべき根本原則が無視されつつあります。具体的には、対話、相互利益の尊重、妥協、紛争や紛争解決への平和的な取り組みといった原則です。このような状況では国連が効果的に機能できないことは、言うまでもありません。

私が最も懸念しているのは、ウクライナ危機をめぐる大国間の不和により、多くの重要な世界的課題に関するこれら国々のやり取りと協力が、事実上ストップしていることです。ハイレベルでの接触は現在、最小限に抑えられ、実現する場合も、互いに聞く耳を持たず、対話が成り立たないことが多くなっています。この現状は、世界が奈落の淵にありながら指導者たちが会談を避けていた1970年代末から1980年代初頭の状況に似通ってきています。行き詰まりを打開し、信頼と通常の話し合いの再開に向けた政治的意志を示すことが、今まさに求められているのです。

私たちは今、原則に立ち返らなければならないと思います。中でも、核兵器の使用は許されないという原則を最優先すべきです。核保有国が近年になって採用している軍事政策や主張の中には、核戦争が許されないことを強調した1985年の米ソ共同声明の前の時代に後退している文言が見られます。「核戦争に勝利はなく、決して起こしてはならない」ことを再確認するために、おそらく安全保障理事会のレベルで、改めて声明を出さねばならないと私は確信しています。

ロシア連邦とアメリカ合衆国が世界で果たす重要な役割に鑑み、私は両国のリーダーに対し、グローバルな課題を包括的に話し合い、すべての課題を検討し、その解決に向けた協力のための枠組をつくるため、会談を行うよう呼びかけました。極めて重要とはいえ、たったひとつの地域紛争をめぐる意見の食い違いで、世界情勢を大混乱に陥れてはなりません。国際政治を対立ではなく、協力の場へと戻すために、安全保障理事会の他の常任理事国も、有意義な対話をスタートさせて相互の利益を明らかにするよう、積極的な働きかけができると確信しています。

今の時代は、リーダーシップが肝心であることは間違いありません。リーダーたちがその責任を認識し、主観的な不満を含む積年の不和を克服すれば、膠着状態を打開する道は見つかることでしょう。政治的な対立が不可避と考えられ、核保有量が現在よりはるかに多かった30年前も、私たちはこれを何とか克服しました。私たちは今、パニックに陥っても、悲観主義に屈してもなりません。例えて言うならば、国連本部の上空に立ち込める暗雲を払拭し、国連がグローバルな組織としての使命を全うするための条件を整えることは可能なのです。

著者について

元ソビエト連邦大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏は現在、モスクワの国際社会経済・政治研究基金総裁を務めています。