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「われら人民」のために...
国連憲章の適用と適応で、より強く実効的な国連を目指したダグ・ハマーショルドの遺産を振り返って

ヘンリック・ハマーグレン

2015年10月、国連は創設70周年を迎えます。この機会に、その設立文書である国連憲章の妥当性を考えてみる価値はあるでしょう。国連は世界の変化に合わせて進化を遂げましたが、加盟国には、国連の能力を強化し続け、憲章の目的と原則を守る決意を新たにする責任があります。この関連で、ダグ・ハマーショルド第2代国連事務総長が明確にしたビジョンと価値観には、今でも大きな意味があります。

国連憲章は、その内容と希求において他に類を見ない勇気ある宣言であり、その目的と原則は、今日の複雑かつグローバルな課題に取り組むうえで、今なお妥当性を備えています。悲劇的な死を遂げる約1カ月前の1961年8月17日、ハマーショルドは国連総会に提出された年次報告書の序文で、国連憲章の妥当性を次のようにまとめています。「憲章の前文では『正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立』することが、国連の原則および目的として明言されています。この文言によって…国連憲章はもう一つの民主主義の原則、すなわち法の支配をも表現しているのです。」1

国連憲章は類希な文書ですが、加盟国はその潜在力と意味を十二分に活かすところまで、それをまんべんなく適用していません。国連創設70周年は、これまでの実績を取りまとめ、憲章遵守の意思を再確認するための重要な機会です。国連憲章をどのように再活性化すべきかについて議論する場合、その目的と原則に対するコミットメントをいかに再確認、実現できるかという問題に取り組むとともに、変化する世界の要請に応じて、どの程度の改正が必要かを明らかにすることが必要です。

憲章の建設的適用によって国連の適応を図り、諸々の解決策を見出そうとしたダグ・ハマーショルドの誠実さ、決意、そして精力的な仕事ぶりは、今でも私たちのインスピレーションであり、方向を示す羅針盤でもあります。最後となった1961年の総会への年次報告書で、ハマーショルドは、4つの基本的原則の実現を通して、国連憲章の目的を段階的に達成してゆくべきだと論じました。

  • 主権の平等、および、個人の人権と基本的自由の尊重の両面における平等な政治的権利
  • 開発と経済的・社会的前進をもたらす条件の整備を通じ、生活水準の向上を目指すための平等な経済的機会
  • 国際社会の行動と活動の根底をなす、確固たる法の支配の枠組
  • 国際社会共通の利益に反する武力行使の禁止2

ダグ・ハマーショルドはいろいろな意味で、理想主義者であり、現実主義者でもありました。国連の可能性や、国連憲章の目的と原則を信じていたという点では、理想主義者だったと言えますが、国連と、国益を中心に行動する加盟国の限界を理解していたという点では、現実主義者だったのです。ハマーショルドは1956年の演説で、理想主義と現実主義の隔たりに言及しました。国連が期待を裏切ったという主張は語弊があるとして、次のように述べました。「私たちは国連憲章の目的について語っているのでしょうか。それは普遍的に共有された理想の表現であり、残念ながら私たちがそれを裏切ることは多くとも、それが私たちを裏切ることはありません。それとも、私たちは国連という機構について考えているのでしょうか。それは私たちの道具です。それを作ったのも、使っているのも私たちです。そこに欠陥があるとすれば、それを正す責任は私たちにあります。」3

国連創設70周年を迎えた今、私たちは、国連憲章が私たちを裏切ることはなく、欠陥があるとすれば、それを正す責任は加盟国にあることを再認識させるハマーショルドの言葉を、もう一度考え直すことができます。国連憲章前文のすべての規定は相互に関連し、相互に依存しています。ヤン・エリアソン国連事務次長補も2011年の第13回年次ダグ・ハマーショルド記念講演で、次のように述べています。「…平和、開発、人権の追求を並行して進めることが、恒久的な解決に必要です。開発なしに平和はあり得ません。平和なしに開発はあり得ません。そして、人権が尊重されなければ、持続可能な平和も開発もあり得ません。ある国や地域で、3つの柱のうちの1つが弱体化すれば、全体的な構造が揺らぎます。だからこそ、この3つの領域を隔てる障壁や障害を、取り払わねばならないのです。」4

ダグ・ハマーショルドのビジョンと遺産から着想を得た次の8つの提言は、より強く、実効力のある国連をつくるための対話とプロセスを進めるうえで参考となるでしょう。

  • 国連憲章は施行されるべきものであり、加盟国は、国連憲章の履行が引き続き自らの責任であることを再確認し、認識すべきです。第70回国連総会では、前文の3本柱の履行と、憲章改正の決定に向けた期限付きプロセスに焦点を絞った改革の議論に関し、共同声明発表の準備を行うべきです。
  • 国連は憲章の人間中心的な側面を守らなければなりません。「われら人民」という前文の冒頭部分を、国連とその活動の中心に据えなければなりません。また、国連全体がそのイデオロギーの基盤を見直し、万人を受けれるという性質を確保する必要があります。
  • 国連のリーダーシップと国際公務員の誠実性をさらに強化すべきです。ダグ・ハマーショルドも繰り返し強調したとおり、国連憲章は、憲章の原則のみに忠実であるべき事務総長に対して、強力で自立した役割を規定しています。次期事務総長の選任は、透明性と説明責任をさらに高めるための重要な機会です。国連はまた、憲章第100条と第101条に謳われた国際公務員の中立性、誠実性、倫理性という原則を改めて活性化させるべきです。国連はよりいっそうの誠実さを備え、プロ意識と行動力と機動性に優れた職員を従える21世紀にふさわしい事務局の確保に向け、策を講じるべきです。
  • 安全保障理事会は、今日の世界の地政学的現実を反映すべく民主化、拡大しなければなりません。改革への取り組みの行き詰まりを打開せねばならず、定められた期限までに合意を達成するための明確なプロセスを確立すべきです。安全保障理事会を改革できなければ、その権威は失墜を続け、ますます無視されることになるため、国際平和と安全を守るという役割が失われてしまうおそれもあります。例えば、目に余る残虐行為や大規模な人権侵害が発生した場合には、拒否権の行使を制限する提案も検討すべきです。安保理の拡大には、国連憲章の改正が必要です。憲章はこれまでに3度、改正されていますが、今回の改正は、安保理の構成を変更する一連の改正からスタートできます。
  • 平和と安全の維持に向けた取り組みは、予防と平和構築を推進する新たな手法と改良された手段を用いなければなりません。国連は目下、未来の世代を戦争の惨害から救うという目的を達成できていません。国連の平和構築と平和維持活動は再考されるべきです。武力行使を含まない措置に言及する第34条と第41条をさらに掘り下げ、紛争の予防と平和的解決の必要性に応じて適用すべきです。平和構築への女性の参加を確保するために、さらなる取り組みが必要です。地域機関との協力を明確化、拡充するために、憲章第8章の規定をさらに活用すべきです。
  • 人権を尊重、適用、擁護しなければなりません。国連は国際的規範の策定と推進に欠かせない役割を果たすのです。加盟国は、女性や女児の権利を含む人権の保護と推進を改めて決意するとともに、全加盟国が遵守すべきグローバルな条約や法的枠組において規定及び承認されている基本的な価値と原則を、尊重し履行しなければなりません。
  • 正義と国際法の尊重を拡大し、ジェンダー的正義と環境法に関する規定を含めるべきです。私たちはジェンダー的正義を幅広く認識し、これに対する新たなアプローチを策定しなければなりません。また、法の支配に関する国連の活動全体に環境法を取り入れるとともに、これを確実に、持続可能な開発目標の一環とせねばなりません。
  • 社会の進歩は、グローバルな持続可能な開発に向けてその方向を転換するとともに、すべての人々の責任として取り組まなければなりません。国連憲章の改正によって、持続可能性を盛り込まなければなりません。

ダグ・ハマーショルドは、改革に向けたアジェンダの特定と設定に不可欠な役割を果たしました。しかし、その一方で、このような改革を追求する際の限界や、現実主義の必要性も鋭く認識していました。就任のわずか1年後、ハマーショルド事務総長は、ヘンリー・カボット・ロッジ・ジュニアの言葉を取り上げて、次のように述べました。「国連は私たちを天国に導くためではなく、私たちを地獄から救うために創設されたと言われています。この言葉は、私がこれまでに聞いたどの言葉よりも、国連の不可欠な役割と、私たちがそれを支援する際の心構えの両者を、見事に表現しています。」5

ハマーショルドは、その個人的な資質、倫理観、そして信念において、国連憲章の原則の多くを体現し、守りました。しかし同時に、真に連合した世界を構築する努力が結実するには、多くの時間が必要なことも認識していました。彼は1956年5月20日、ニューヨーク大学での演説で、次のように述べています。「…私たちは依然として、自分たちの国際機関がウッドロー・ウィルソンの言う『国々の目となって、共通の利益を見守る』という根本的な目的を実現するための方法を模索しているところです。40年経っても、同じ目的を追求していることでしょう。それ以外に何を期待できるというのでしょうか。世界的な機関は、人類史上の新しい冒険なのです。これを完成させるためには、苦い経験を多く積み重ねる必要があり、そのためには、時間をかける以外の方策はありません。」6

それでもハマーショルドは、多くの制約にもかかわらず、国連こそ人類が必要とする組織であることを疑いませんでした。「私たちは、利害の対立を解決する国際的な試みに建設的な要素を加える存在として、国連を必要としています。また、将来の紛争を防止するうえで、国家以外の、あるいは超国家的な力が影響を与えうるための規範を探るという、時間と労力を要する試みの基盤、そして枠組として、国連は必要なのです。」7

  1. Official Records of the General Assembly, Sixteenth Session, Supplement No.1A (a/4800/add.1), p. 2.
  2. Hans Corell, “Dag Hammarskjöld, the United Nations and the Rule of Law in Today’s World”, lecture at Dag Hammarskjöld University College of International Relations and Diplomacy, Zagreb, 29 November 2011.
  3. Dag Hammarskjöld, “Address at New York University Hall of Fame Ceremony on the Unveiling of the Bust and Tablet for Woodrow Wilson, New York, 20 May 1956”, in Public Papers of the Secretaries-General of The United Nations, vol. III: Dag Hammarskjöld 1956-1957, Andrew W. Cordier and Wilder Foote, eds. (New York and London, Columbia University Press 1973), p. 145.
  4. Jan Eliasson, Peace, Development and Human Rights. The Indispensable Connection. The Dag Hammarskjöld Lecture 2011 (Uppsala, Dag Hammarskjöld Foundation, 2011), p. 12.
  5. Dag Hammarskjöld, “Address at University of California Convocation, Berkeley, California, 13 May 1954”, in Public Papers of the Secretaries-General of The United Nations, vol. II: Dag Hammarskjöld 1953-1956, Andrew W. Cordier and Wilder Foote, eds. (New York and London, Columbia University Press 1972), p. 301.
  6. Dag Hammarskjöld, “Address at New York University Hall of Fame Ceremony on the Unveiling of the Bust and Tablet for Woodrow Wilson, New York, 20 may 1956”, p. 145.
  7. Dag Hammarskjöld, “’Do We Need the United Nations?’, Address Before the Students’ Association, Copenhagen, 2 may 1959”, in Public Papers of the Secretaries-General of The United Nations, vol. IV: Dag Hammarskjöld 1958-1960, Andrew W. Cordier and Wilder Foote, eds. (New York and London, Columbia University Press 1974), p. 374.

著者について

ヘンリック・ハマーグレン氏は、ダグ・ハマーショルド財団の総裁を務めています。