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国際女性の日特集シリーズ
女性職員から見た、職場としての国連
~第8回 国連広報センター(UNIC) 根本かおる(ねもと かおる)所長~

同シリーズも今回が最終回。最後を飾るのは、全国を駆け巡り、多くの人に国連の役割を伝え、関心を持ってもらえるように日々奮闘する国連広報センター(UNIC)の根本かおる所長です。

(1) UNICの所長になるまでのキャリアについて教えて下さい。

womans_day_2014_vol8_1子ども時代の4年間をドイツで過ごし、大学では国際法を学び、世界のことには興味がありましたが、取り立てて国連で働くことに関心を持っていた訳ではありませんでした。私と国連との出会いは、1990年代半ば、報道記者として勤務していた日本のテレビ局を休職し、ニューヨークのコロンビア大学国際関係論大学院に留学していた頃のことになります。

クラスメートに国連PKOミッションで働いたことがある学生がいたり、国連職員が実務家の講師として招かれるセミナーや国連幹部が登壇するシンポジウムが頻繁に催されたり、それまでテレビのニュースで見るばかりだった国連との距離が、その舞台裏で懸命に働く人々の姿を知ったことで、ぐっと縮まった感がありました。その後、国連機関でのインターンシップを通じて国連を中から覗けたことから、国連の仕事が「実現可能な夢」のように感じた私は、若手の登竜門のJunior Professional Officer(JPO:外務省が、将来的に国際機関で正規職員として勤務することを志望する若手邦人を対象に、一定期間各国際機関で職員として勤務する機会を提供する制度)の試験を受け、1996年にマスコミから国連機関の世界に転身したのです。当時のJPOの年齢制限ギリギリの、33歳での転職でした。(現在の年齢制限は35歳)

JPOとして国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)トルコ事務所で難民認定審査の仕事に携わった後、正規職員として2011年末までUNHCRに勤め、ブルンジ、コソボ、ネパールの難民支援活動の最前線で働いた他、ジュネーブ本部で政策立案や民間部門からの資金調達も手がけました。その間、2年間国連世界食糧計画(WFP)日本事務所に広報官として出向し、2年半UNHCRの日本における国内委員会にあたる国連UNHCR協会で事務局長を務めた経験もあります。

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国際機関でインターンシップを経験。ネパールでブータン難民と

東日本大震災を日本で経験したことから、これまでの難民支援の現場で培った知見を日本に還元したいと思い、2011年末でUNHCRを離れ、フリー・ジャーナリストとして活動していました。私が出会った難民たちが全てを失ってもなお諦めることなく這い上がろうとした姿を、是非震災後の日本に伝えたいという気持ちから、難民にまつわる著作を3冊執筆しました。講演で、聴衆の皆さんに直接思いを届けるということも行なってきました。そんな中で国連広報センター所長の空席情報を目にした訳ですが、マスコミでの経験と国連機関での経験とを融合させることのできる機会ではないかと思い、応募し、今に至ります。

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ケニアのダダーブ難民キャンプで、ソマリア難民の子どもたちと

(2) ワーク・ライフ・バランスはどのように保っていますか?

週末は土日のいずれかが行事への出席や登壇でつぶれます。仕事だと思うと気が滅入るので、イベントを個人的にも楽しむように心掛けています。また、時々寄席に行って、たくさん笑うようにしています。映画も好きなので、時間ができるとアンテナにピピッと来た作品を観ています。あとは、気分転換と健康のために、野菜たっぷりの料理を作るのが毎日の楽しみです。

(3) 国連で働く中で、女性であることが活かせた経験はありますか?反対に、女性であることが障害となった経験はありますか?

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女の子に下着セットを手渡す根本所長

有利だったことは思い出せても、不利になったことは思い出せません(笑)。例えば、難民支援や食糧援助の現場などでは、支援対象の半分以上が女性であるのと同時に、早婚や性暴力などセンシティブな問題に目配りしなければなりません。保守的な部族や宗教上の掟で、男性が女性と直接話すことが許されないような環境もあります。そんな場面では、男性の職員ではなかなか女性の心の叫びを汲み取ることが難しく、女性の職員であるおかげで女性のニーズを把握しやすく、かえって有利に働きます。

ネパール勤務時代、下着がなくて学校からドロップアウトしてしまった難民の女の子たちに出会い、個人的に知人から寄付を10万円集めて、1000人の難民少女たちに下着セットを配布した経験があります。同じ女性として、女の子たちの「人間の尊厳」のために何とかしたい!という気持ちに突き動かされてのことでした。

(4) UNICでは、世界各地で起きている女性をとりまく問題に対してどのようにアプローチしていますか?また、その活動を通して目指している、女性の社会でのあり方とは何ですか?

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性差別による暴力廃絶に関するイベントでモデレーターを務めた

女性の権利や男女の平等の視点は、国連広報センターの発信活動において、最優先課題の一つです。3月8日の「国際女性の日」や11月25日から12月10日までの「性差別による暴力廃絶活動の16日間」など、様々な機会をとらえてイベントやキャンペーンを行なっています。また、ミレニアム開発目標やポスト2015開発アジェンダを議論する上でも、女性を含め、あらゆる人々を包摂することや格差の問題を解消することが重要になります。あらゆる女性が自分らしく生きられるように、すべての局面において女性への目配りが絶えず求められます。

(5) UNICの女性に関する人事政策について特徴的な点があれば、挙げてください。

女性の権利向上の旗振り役を務める国連では、国連を職場とする職員について男女比率の格差を2000年までに解消しようという計画でした。しかし、それはあまりに野心的過ぎたようで、期限から10年以上経った今も、現在のペースでは男女の平等が達成されるのに副部長職以上で102年、課長職以下で20年かかると見られています。専門職で女性が半数に達しているのは一番ジュニアな事務官レベルだけで、レベルが上がるにしたがって、女性の割合が下がる傾向があり、組織を挙げてジェンダー平等を達成しようと取り組んでいます。

それでも、日本の役所や大企業に比べると、女性の割合は高い比率を占め、機関によってばらつきがありますが、国連事務局にユニセフなどの国連機関を加えた国連ファミリー全体で見た場合、副部長級で30.2パーセント、部長級で27.4パーセント、そして局長級で29.2パーセントにまでここ数年で伸びました。女性の上司は当たり前ですし、幹部会が背広姿の男性だけという風景はまずありません。国連事務局では妊娠・出産・育児という女性のライフ・ステージに合わせて、フレックスタイム制度を導入していますし、国連本部には授乳室も整っています。

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ネパールで、ネパール人や難民女性の代表たちと女性の権利向上を求めて行進した

国連では、あらゆるレベルにおいて女性の比率を50パーセントにという目標達成に向けて、2010年に新たに創設されたUN Womenが推進役になり、UN-SWAP (UN System-Wide Action Plan on Gender Equality and Empowerment of Women)という国連ファミリー全体に初めて適用される、統一された行動計画を策定しました。戦略的な計画づくりや監査、リソース配分、研修などの15の指標に基づいて各国連機関・組織の履行状況が検証されます。

(6) 国際舞台で活躍したいと思っている女性に一言お願いします。

日本企業で勤務した経験と比較して、国連は性別を意識せず、自分らしく、ワーク・ライフ・バランスを考えながら働きやすい環境だと言えると思います。私自身、多くの女性の上司に恵まれてきました。彼女たちは国籍は様々ですが、皆家庭と職場を両立させ、時に優しく、時に厳しく、自分のプライベートの経験談も交えながら的確に指導してくれました。そんなロールモデルに恵まれたおかげで、女性であるが故に自己抑制するなどということもなく、自分らしく働ける環境だと感じています。こうした経験を意欲のある方々に共有しながら、是非ともより多くの意欲ある方々に、ご自分のキャリア・プランに「国連で働くこと」を組み入れてもらいたいと願っています。

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国連の人事担当者が採用制度などを説明する「国連アウトリーチ・ミッション」が来日した際も、ミッション・リーダーは女性だった

編集後記

今回は、日本にある国連オフィスのリーダーとして働く8名の女性にこれまでのキャリアや国連での仕事、女性であるがゆえの苦労ややりがいについて語ってもらいました。とてもカラフルなシリーズになったのではないかと思います。職場のトップ ― 女性であれ男性であれ ― がワーク・ライフ・バランスを体現しようと努めれば、他の職員にとってそこはとても働きやすい環境になるでしょう。実際、子育てや介護で多忙な女性職員は、日本にある国連事務所でも少なくありません。そういう女性ほど自分らしく楽しみながら仕事をしているように見えます。こんな国連を、より多くの若い若者に将来の職場として一つの候補に入れてもらえれば、と願っています。

以下は、本企画に関わったインターンたちの感想です。
「どの方も、仕事と家庭との切り替えが上手だと思った」
「ワーク・ライフ・バランスを上手く取れていないと率直に語る部分は人間味があると思った。インターネットや情報技術の進歩は、良くも悪くもワーク・ライフ・バランスに影響するというのも驚いた。しかし、上手に休日を楽しんだり、家族との時間を大切にしていたり、それぞれの努力が見えた」
「海外と日本の仕事における男女の差(会議での男女比を日本では気にしない等)が、国連で働く女性ならではの視点で聞けて良かった」
「この企画でいちばんおもしろいと思ったのが、キャリアの部分。ただ、大学以前の過ごし方も知りたくなった。子どもの頃からの夢や、専攻を決めたのかきっかけなども知りたい」

本ウェブサイトの「国連職員の声」http://www.unic.or.jp/working_at_un/voices/ では、様々な国連職員の声を皆様に伝えています。是非、この機会にご覧下さい。