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開発と平和のためのスポーツの国際デー特集シリーズ
スポーツの力を平和と開発のために
~第8回~ 国際連合児童基金(UNICEF)の取り組み

UNICEFはすべての子どもたちの権利が守られる世界の実現をめざし、教育と開発をさらに推進するためにスポーツの力を活用しています。2014年に初めて実施される「開発と平和のためのスポーツの国際デー」に際し、UNICEFからスポーツと平和・開発に関する事業について伺いました。また今回、競泳選手としてアトランタオリンピックにも出場し、現在はUNICEFで人道・開発の専門家として活躍している井本直歩子さんからもお話を伺うことができました。

1. 貴機関におけるスポーツの位置づけ・方針はなんですか

UNICEFとパートナーが、学校でのスポーツやレクリエーション活動をサポートをしている小学校で輪になって遊ぶ子どもたち ©UNICEF/NYHQ2007-1367/GIACOMO PIROZZI

スポーツや遊びは、子どもたちや若者が、健康かつ幸福で満足できる生活を送るための必須要素です。また、日本も1994年に批准した国連子どもの権利条約では、加盟国に対し、全ての子どもたちに、安全かつ健康な環境で、遊びやリクレーションを楽しむ場を与えるよう求めています。UNICEFでは、子どもの権利を守る国連機関として、スポーツを、開発のためのスポーツ「Sport for Development (S4D) 」という中に位置づけて、スポーツが持つ様々な恩恵を通じて、全ての子どもたちが、健康で、質の高い教育を受けることができるよう取り組んでいます。実際、スポーツへの参加が、健全な身体・精神発達を促し、子どもの健康強化、学習能力の向上に繋がることがわかっています。

また、女の子たちや障がいのある子どもたちが、積極的にスポーツに参加することで、公平な社会造りに貢献した事例もあります。さらには、スポーツに取り組むことで、未然に犯罪の被害者になることを防止し、少年兵などの誘いや、薬剤やアルコールからの誘惑に打ち勝った事例も多く報告されています。また、UNICEFでは、紛争活動に巻き込まれたり、自然災害や紛争によって心身ともに傷ついた子どもたちに、リハビリテーションの一環として、スポーツや遊びを積極的に取り入れています。スポーツの持つ力は、国連ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するためにも重要です。スポーツは社会的・経済的な力を目標に向かって結集させる効果的な手段となっています。

コートジボワールのポポコ村でゴム跳びをして遊ぶ子どもたち ©UNICEF/NYHQ2012-1004/OLIVIER ASSELIN

2. 著名人の活用・実施状況があれば教えてください

子どもとのサッカーを通じて、スポーツの持つ力を訴えるメッシ選手 ©UNICEF/NYHQ2013-0497/
Jingjai N.

著名なスポーツ選手は、子どもたちや若者が、苦難を乗り越えたり、成功をつかむための良いモデルとなります。そのような尊敬を集めるスポーツ選手たちや、オリンピックのような大規模なスポーツ大会は、子どもたちにとって重要な問題を、世界中の人たちに訴える機会を与えてくれます。UNICEFは、以下のような世界的なスポーツ選手やスポーツ機構と、子どもたちのためのパートナーシップを組んでいます。

  • デイビット・ベッカム: 元プロサッカー選手、UNICEF親善大使として特にSports for Developmentの啓蒙活動に従事。最近ではフィリピンの台風被災地を訪問。
  • セレーナ・ウィリアムズ: プロテニス選手、UNICEF親善大使として活動。特にアフリカの教育の拡充を訴える。
  • ヨナ・キム: フィギアスケート、バンクーバーオリンピック金メダリスト、UNICEF親善大使として、ハイチ地震などの自然災害のサポートを中心に活動。
  • リオネル・メッシ: FC Barcelonaプロサッカー選手、UNICEF親善大使として活動。最近ではタイで知的障がいのある子どもたちとともにサッカーを楽しみ、障がいのある子どもたちへの理解を高めることに貢献。
  • 長谷部誠選手: プロサッカー選手、被災地訪問や、日本ユニセフ協会の公共CMなどを通じ、UNICEFへの支援や、次代を担う若者たちに、「子どもたちの未来のために、まず一歩を踏み出そう、踏み出さなければ何も変わらない。」と呼びかけている。

長谷部サッカー選手もUNICEFの活動を応援しています
©日本ユニセフ協会/2012/satomi matsu

  • 国際オリンピック委員会(IOC):1993年からスポーツとオリンピック精神を通じ、子どもたちの健康と小学校教育の権利を守る活動を共同で実施。
  • 国際クリケット委員会(ICC):クリケットが盛んな国々では、AIDSの問題も深刻なことから、Think Wise というパートナシップを通じて、HIVの予防啓発や、感染者などへの差別の撲滅に取り組んでいる。
  • Special Olympics International:2007年から、障がいのある子どもたちの理解を高める活動に共同で取り組んでいる。
  • 国際サッカー連盟(FIFA):1999年から、子どもの権利の啓蒙活動に、世界大会ばかりでなく、各国のサッカー連盟を通じ取り組んでいる。

3. 貴機関が行うスポーツに関するプロジェクトをひとつご紹介ください

a. プロジェクト名

国際サッカー連盟(FIFA)とのパートナーシップ:2002年のFIFAワールドカップ日本・韓国大会では、“Say Yes for Childrenキャンペーン”, 2006年のドイツ大会では、“UNITE FOR CHILDREN. UNITE FOR PEACE. (子どものために、平和のために 世界は一つになろう) キャンペーン”。

UNICEFが支援する南スーダン、ジュバにある小学校で縄跳びをして遊ぶ子どもたち ©UNICEF/NYHQ2007-0877/GEORGINA CRANSTON

b. 目的

平和な世界、紛争や虐待のない世界を実現する。そして、すべての子どもたちに生きる、育つ、学ぶ、守られる、そして参加するという権利が保障されることをめざし、FIFAワールドカッップドイツ大会の開催に合わせて、世界中の視聴者にむけ、メッセージを呼びかけました。

c. 場所

東京・韓国・ドイツを中心に実施、そしてTVなどを通じ世界中で実施されました。

d. 期間

2002年、2006年にFIFAワールドカップにあわせて実施。

e. 概要

エチオピア、オロミア州の小学校で体育の授業を受ける子どもたち ©UNICEF/ETHA_201300450/Ose

“Say Yes for Childrenキャンペーン”では、世界中の人たちに、子どもたちの生活を改善するために必要な10のアクションの実施を約束してもらうように促しました。また、ワールドカップの試合会場では、“Say Yes”のTシャツを着た子どもたちが選手と手をつないで入場。[10のアクションとは、子どもの差別の禁止やHIV/エイズとの闘いを含むアクションの総称]

“UNITE FOR CHILDREN.UNITE FOR PEACE UNICEFキャンペーン”では、世界中の人々へTeam UNICEFに参加して(インターネットで申し込む)、子どもたちの平和を守るムーブメントを起こしました。またTeam UNICEFは、デイビット・ベッカム、ティエリ・アンリ、中田英寿など、サッカー界トップの選手たちと世界各国の子どもたちにより構成され、共に“UNITE FOR CHILDREN.UNITE FOR PEACE”を唱え、子どもたちの生活改善を訴えました。

UNICEFが支援している、フィリピン台風被害にあったレイテ島タナウアン町の学校で遊ぶ小学生 ©UNICEF/NYHQ2014-0125/Pirozzi

各国レベルでは、例えばスーダンでは、スーダン・サッカー協会とUNICEFスーダン事務所とが協力し、平和と子どもの権利についての重要なメッセージを、マスコミを通じて全国の視聴者に届けました。また、ソマリアでは、UNICEFと若者との協力でサッカーをより大掛かりなプログラムに組み入れ、紛争解決や平和構築の手段としての参加とノンフォーマル教育(学校外教育)を推進しました。スリランカでは、UNICEFがスポンサーとなって“平和への架け橋”と呼ばれるスポーツ・プログラムを実施し、シンハラとタミールの子どもたちがいっしょにサッカーを楽しむ活動を行いました。

f. 評価・課題(これまでの成果を含む)

世界中で数百万人規模という多くの人たちが参加しました。

4. スポーツの活用について、今後の展望を教えてください

自然災害や紛争の被害を受けた子どもたちや若者にとって、スポーツやリクリエーション活動は心理社会プログラムでとても貴重な役割を果たしています。
UNICEFのスポーツ・ボックス・キット(サッカーボールやバスケットボール、縄跳びなどの様々なスポーツ用品のセット)は、心理社会的ケアを行う上で欠かせないものです。パートナーと共に被災や被害にあった子どもたちへ、このキットを提供しています。また平和構築の支援として、子どもや若者が武装グループの勧誘を受けない予防策として、児童兵から開放された子どもたちのリハビリとして、スポーツ活動を取り入れています。

バングラデシュにて、学校の校庭で遊ぶ女子学生たち ©UNICEF/BANA2014-00560/Mawa

障がいを抱える人々は世界の人口、少なくとも10%以上、途上国で暮らす人々の20%にあたると言われています。障がいのある子どもたちが、スポーツやリクリエーションを通して自信やスキルを身につけることは、とても有益なことです。また、コミュニティーに対し、障がい者への理解を深め、変化を起こす際にも、スポーツやリクリエーションは役立つツールと言えます。UNICEFは地元コミュニティー、国家と共に、子どもの権利が実現できるよう努力し、全ての子どもたちがスポーツに参加できるよう活動を行っています。障害者権利条約と選択議定書を支持し、その支援活動も推進しています。

5. コメント(特に日本の若者へのメッセージや協力の呼びかけなど)をお願いします

ぜひUNICEFと共に「子どもたちにふさわしい世界」を実現しましょう。「子どもたちにふさわしい世界」は、戦争もなく、搾取や虐待、いじめ、暴力もなく、貧困の悪循環がなく、環境が守られている世界です。子どもたちにふさわしい世界は、子どもたちだけでなく、大人、男性、女性、全ての人にとって、「ふさわしい世界」です。この世界を、一緒に実現するため、身近なスポーツを通して、まず最初の一歩を踏み出しませんか。

 

特別インタビュー UNICEF職員・井本直歩子さん

1996年アトランタオリンピック、
競泳4x200m自由形リレー決勝にて
©PHOTO KISHIMOTO

国連機関には、スポーツ選手から転身し、専門家として活躍している職員もいます。アトランタオリンピック日本代表の元競泳選手の井本直歩子さんは選手引退後、国際協力機構(JICA)での勤務を経て、現在は国連児童基金(UNICEF)で人道・開発支援の専門家として、子どもたちの支援に携わっています。水泳の海外遠征や試合で、さまざまな国の選手と出会ったことがきかっけで、途上国に興味を持ち始めたという井本さんに、スポーツの力について聞きました。

1. タクロバン(フィリピン)では、UNICEFはどのような活動をし、その中で井本さんの役割はどのようなものですか

教育クラスターコーディネーターとして、教育セクター全体のコーディネーションを教育省と共に行っています。具体的には、緊急支援計画全体の目標や基準や方針を決めたり、全体の復興ニーズを確認したり、重複を防ぐためにパートナーのマッピングをしたりします。

ハイチにて。今後ユニセフが建てる学校のテントの教室にて、教材配布
(2012年9月)

2. 水泳の経験が、どのようにUNICEFでの活動に生かされていますか

高い目標を持ち、モチベーションを高く保ち、常にあきらめずに前進する姿勢、忍耐力。それから長時間仕事する体力です。

3. スポーツは支援地をどう力づけると感じていますか

健全な心身の育成だけでなく、嫌なことを忘れ、励まし、仲間との友情、一体感を築くことができる。長期的に紛争・政治を超え、平和を促進することができれば良いと思います。

4. 子どもにとってスポーツが大切だと言われていますが、井本さんにとって特に印象深いエピソードがあれば教えてください

数々の国際大会で、私たちは最高に恵まれた環境でトレーニングしているのに対し、途上国の選手たちは、強くなりたくても環境が整っていないことを実感し、スポーツはフェアじゃないと感じました。人間は誰にも、スポーツを楽しむ権利があると思い、少しでも多くの子どもたちにこの権利を実現してもらいたいと考え、この世界を志しました。

フィリピン・パナイ島にて。倒壊した学校の始業式
(2014年1月)

東日本大震災後の仮設住宅の「子どもに優しい空間」にて
(2011年4月)

編集後記(国連広報センター)

今年は、スポーツと国連に関して記念すべき年となりました。昨年の国連総会で決まった「開発と平和のためのスポーツの国際デー」(4月6日)が、日本をはじめ世界各地で実施されたからです。今回ここで取り上げた国連機関は6つに留まったものの、国連はこれまでスポーツが平和と開発を促し、寛容と相互理解を育むという側面に着目して「スポーツの持つ力」を広く積極的にアピールしてきました。ここ日本においては、2020年東京五輪・パラリンピック開催に向けて、スポーツを通じた国際支援活動がますます進んでいくことが予想されます。この意味で、第一回の「開発と平和のためのスポーツの国際デー」記念である本シリーズは、読者の皆さんと国連との距離をいくらか縮めることができたのかな、と思っています。今後もスポーツというテーマから目が離せません。身近なスポーツを通して、「平和と開発のためのスポーツ」という国連の取り組みに多くの方々に接していただければと願っています。