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「『地球温暖化』京都タウンミーティング」での潘基文(パン・ギムン)国連事務総長によるスピーチ(京都、2008年6月29日)

2008年06月29日

京都大学次期学長の松本紘博士、
パネリストの方々、
皆様、
親愛なる若き学生の皆さん

皆様おはようございます。お元気ですか。

私はきょうの会合に参加でき、うれしく思います。国連事務総長として、就任から18カ月後に初めて日本を訪問できたことは、私にとって大きな名誉です。また、公式訪問の初日をこうして過ごせることは、大きな喜びでもあります。

気候変動対策と聞いて、真っ先に思い出される都市は、京都をおいて他にないでしょう。1997年、国際社会はこの地に集い、京都議定書を採択しました。国連事務総長として、研究者や学生の方々、そして気候変動に関心と不安をお持ちの人々に広く語りかけることほどふさわしく、適切な任務はあり得ません。

私はこの機会に、重要なメッセージを世界に向けて発信したいと心から思いました。ここに、「京都から国連事務総長へのメッセージ」というタイトルが掲げてあります。私が皆様にメッセージをお伝えすることになるのか、それとも私が皆様からのメッセージをお受けすることになるのかはまだわかりませんが、いずれにせよ、私は皆様のメッセージをすべて受け止めようと考えています。次期学長の松本教授をはじめ、有識者の方々からは、すでに多くのご提案を承っていますが、私はこのような機会がいただけたことを深く感謝しています。特に、若い方々とここでお会いできたことをうれしく思います。結局のところ、これからの世界を引っ張っていくのは、皆様なのですから。

私たちの義務と責任は、この地球という星を、より住み心地よく、環境的に持続可能な世界として、次の世代に引き継いでいくことにあります。私たちはこの責任を強く感じています。だからこそ、私はこの場で、皆様とともにこの問題に取り組んでいくことをはっきりとお約束します。松本次期学長からもご指摘がありましたとおり、私は事務総長に就任当初から、国連全体はもとより、私個人の最優先課題としても、気候変動の問題に取り組んでいくことを何度となく明らかにしてきました。気候変動はいかなる国や企業、コミュニティも独力で立ち向かうことのできない課題です。世界第1位と第2位の経済大国である米国と日本を含め、どれほど強大な国家であろうとも、単独で問題の解決は図れないのです。このグローバルな課題には、グローバルな対応が必要です。私が政治的意志を結集しようとしてきたのも、そのためです。私たちには資源も技術もありますが、指導者レベルでの政治的意志が大きく欠けているのです。ですから、私はあす、福田首相とお会いして、この問題を話し合うことにしています。

どの国にも、どの社会部門にも、問題解決に貢献する能力と義務があります。だからこそ私は、皆様とここで意見交換ができることをうれしく思っています。日本のビジョンと革新は、グローバルな気候変動対策に欠かせません。

何も手を打たなければ、農業生産性の低下、水不足の悪化、異常気象の多発、生態系の崩壊、健康上のリスク増大など、重大な結果が生じることは、誰もが理解しています。私たちはすでに、世界中でこのような事態が起きる様子を目の当たりにしてきました。最近でも、深刻な異常気象による自然災害や洪水、地震、長期にわたる干ばつが見られます。

つまり、今すぐに行動を起こさなければ、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成が不可能になるばかりか、これまで苦心して手に入れた開発が台無しになってしまう恐れさえあるのです。

対策はとっくに講じておくべきだったと指摘する専門家や学識者も多くいます。しかし、今すぐ行動を起こせば、まだ間に合うかもしれません。ですから私は皆様、特に政府指導者の方々に、行動をお願いしているのです。また、政治家にこのような責任を常に思い出させることは、ここにいらっしゃる学識者の方々にとっての義務でもあります。

しかし、気候変動はこのような真剣に取り組むべき課題だけでなく、世界が今までとは異なる、より持続可能な道を歩むための絶好のチャンスも提供しています。こうした道を、きょうここにいらっしゃる学生の方々、さらにはその子孫へと引き継ぐことができれば、私たちはそれを誇りにできるでしょう。このチャンスを是非とも生かし、「低炭素経済」への歴史的な移行を遂げなければなりません。

私たちは昨年、ともに力を合わせれば、克服不可能と思える課題でも、集団的な行動で乗り越えられることを肌で感じました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は科学的根拠を、スターン報告書は経済的根拠を、国連気候変動ハイレベル会合は政治的リーダーシップを、そしてアル・ゴア氏の著書『不都合な真実(Inconvenient Truth)』は世論の認識を、それぞれ提供したのです。これらはいずれも、グローバルな対策にはずみをつけ、大きな突破口を開くことに貢献しました。事実、昨年12月に合意された「バリ・ロードマップ」は、2012年以降を対象とした総合的枠組みの策定に向け、新たな交渉プロセスをスタートさせました。

「バリ・ロードマップ」は画期的な前進でしたが、これで満足してはなりません。2009年のグローバルな合意成立をめざし、あらゆる努力をさらに続ける必要があります。私たち国連も、今年12月にポーランドのポズナンで、そしてその1年後にデンマークのコペンハーゲンで、加盟国が大きな成果を得られるよう、できる限りの支援を行っていきます。

この任務を確実にこなすため、私は適応や技術移転、能力育成の分野を含め、各国による現行の合意、さらには国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のもとで今後成立する何らかの合意の実施を支援できる国連システムの能力を重視しています。ポズナンでは、この点に関する具体的な進展をご報告できることと思います。

親愛なる皆様、

私は昨年の12月11日、バリでの京都議定書採択10周年記念式典で、日本の鴨下一郎環境大臣とお会いすることができました。

京都議定書は、国際社会が温室効果ガス排出の抑制を図る上で歴史的かつ重要な第一歩となりました。それ以来、京都議定書の採択と批准のプロセスは、今後の道のりの長さを測る尺度となってきました。私たちが2012年以降について、より複雑かつ野心的で、科学的な研究結果にも見合う長期的目標を掲げた合意をめざす中で、このことは重要な意味を持っています。

京都議定書の第1段階目標期間は2012年末までとなっているため、批准プロセスに必要な時間を考えると、新たな協定は昨年バリで合意されたとおり、2009年末のコペンハーゲン会議までに採択しなければなりません。この新協定については、4つの基本原則がすでに出来上がっています。目下の課題は、UNFCCC交渉プロセスを通じて、詳細な点を詰めることにあります。気候変動枠組み条約締約国が最近のボン会議で細部の検討に入り、8月のアクラ会議でもその継続を予定していることを、私は心強く思います。指導者はまず何よりも、2008年12月のポズナン会議までに達成すべき目標に焦点を当てなければなりません。

  • バリで合意された基本原則すべてに取り組み、新協定のあり方について共通のビジョンを作り上げること。
  • 第2に、開発途上国による適応と緩和のニーズに関する合意実施を支援するため、金融メカニズムを強化、新設すること。
  • 適応基金の十分な資金調達と活動を確保すること。
  • 低炭素技術の開発途上国への移転方法について、具体例を示すこと。

皆様、

2009年に交渉を妥結させるためには、すべての主要排出国による野心的な目標の設定が欠かせません。私は、G8諸国のほとんどが温室効果ガス排出削減に関し、長期目標の設定を予定していることをうれしく思います。

私は最近、福田康夫首相が発表された「低炭素社会・日本をめざして」という感銘深いビジョンを称賛したいと思います。その中には、2050年までに日本の温室効果ガス排出量を60%から80%削減する計画も盛り込まれています。先進国がその重い責任を担う上で必要とされるのは、このように自ら模範を示すことによる指導力の発揮にほかなりません。

私たちはコペンハーゲン会議までに、長期的目標だけでなく、短期・中期目標にも合意しなければなりません。こうした目標が設定されれば、価格決定に対するプラスの影響が生まれ、市場原理を活用しながら必要とされる技術の変革と市場の転換を図れるようになるでしょう。そうなれば、開発途上国も必要な対策を促されるため、2009年の交渉成立が可能になるはずです。

日本は、2020年までに温室効果ガス排出量を現在の水準から14%削減できるとの試算を発表しています。きょう、私は日本に対し、さらに遠大な提案作成に向け、一層の指導力の発揮をお願いしたいと思います。

皆様、
親愛なる若き学生の皆さん、

国際エネルギー機関(IEA)の最新報告書は、効率の改善と再生可能エネルギーの普及につながる措置を組み合わせれば、2050年までに温室効果ガス排出量を半減できるとしています。これはすなわち、建物や器具などの最終利用効率を劇的に向上させる措置を講じること、発電所で炭素回収・貯留技術を利用すること、再生可能燃料への転換を図ること、さらには、より野心的な基準や規制を導入することを意味します。

このような規模の緩和策を可能とするためには、多額の投資と資金の流れに加えて、技術の開発や移転も必要となります。IEA報告書の試算によると、2050年までに温室効果ガス排出量を半減するには、2010年から2050年にかけ、45兆ドルの追加投資を行う必要があります。

G8財務相は最近、開発途上国による適応策と緩和策に対する支援として、多国間資金援助を増額する用意があることを表明しました。私はこれをうれしく思います。開発途上国は当然のことながら、こうした資金が従来の開発援助に代わるのではなく、これを補完し、しかもUNFCCCプロセスで交渉中の金融構造と整合するものになることを期待しています。

日本が「クールアース推進構想」を通じて、100億ドルの供与を約束したことに対し、私は拍手を送りたいと思います。これは特にアフリカにとって、技術移転と適応策導入に必要な資金を確保する上で、大きな一歩となるからです。第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)で採択された横浜宣言と行動計画も、きわめて将来性の高い成果といえます。これらが実施に移されれば、アフリカの経済成長は加速し、人間の安全保障は向上し、環境問題や気候変動への取り組みも進むことでしょう。

公的金融は引き続き、適応策支援の主たる資金源としての役割を果たす必要があります。しかし緩和策については、民間とのパートナーシップや、京都議定書のクリーン開発メカニズム、排出権取引、炭素税などの市場原理活用型手段に頼ることが必要になります。

日本は今後とも、このような市場原理活用型メカニズムの潜在能力を引き出す上で、指導的な役割を果たすことができます。クリーン開発メカニズムは幸先のよいスタートといえるでしょう。これを改善、拡大していけば、開発途上国にとってきわめて重要な資金源へと発展させることも可能だからです。導入済みのものであれ、今後開発すべきものであれ、このような市場原理活用型の手段により、森林の保全や持続可能な管理、さらには開発途上国での炭素ストック増大に取り組む誘因を提供する必要もあります。

皆様、

私たちは気候変動を本来あるべき地位、すなわち最優先の検討課題という地位にまで引き上げてきました。私たちに期待する人々を今さら失望させることはできません。子孫たちに私たちの行動のツケを回してはならないのです。そして今すでに、気候変動の影響をまともに受けている最もぜい弱な人々を見捨てることもできません。

コペンハーゲンでの交渉成立という私たちに共通の目標を、期限どおり全面的に達成するため、私は今後とも、日本の模範的なパートナーシップに期待を寄せていきます。そして、ここにいらっしゃる皆様をはじめ、日本全国、さらには全世界の若い方々に対しては、将来の指導者として、私たちの責任を問い続けるようお願いしたいと思います。私たちは、皆様全員に対する責任を負っているからです。

是非とも皆様のご意見をお寄せください。そして私は、皆様からのメッセージを伝えていきたいと思っています。

ありがとうございました。