5カ年行動計画
2012年1月25日
変化の潮流が現在、私たちの人文地理的、自然地理的環境に変容をもたらしている。人口構成の転換、ダイナミックな新興経済国の台頭、国内・国家間の格差拡大、幻滅を共有し結集した市民による既存の社会契約への挑戦、これまでになく人々を直接に結び付ける技術的・組織的変革、気候変動などの動きはいずれも、私たちの世界とグローバル・システムの基盤に未曾有の負荷を与えている。これらは漸進的変化だけでなく、飛躍的な変化も推進する。このような動きは密接に関連し、ますます複雑になっている。私たちの世代、そして将来の世代がこの目まぐるしく変わる現実によって提供される機会を活用し、リスクの高まりを抑えられるようにするためには、国際社会がこれまでにも増して、一致協力する必要がある。
国連は唯一、このような行動を促進できる立場にある。開発、平和と安全、人権、人道援助など、相互に関連する問題全般について、総合的な解決策を提供できるからである。また、共通の解決策の策定に至る普遍的な対話を促進し、政府や国際機関と共同でグローバルな課題に取り組み、負担を共有する新たな支持基層を動員するとともに、国際協力に向けた新たな規範や構造、プロセスに正当性を与えることもできる。
今後の5年間は、将来に向けた共通のビジョンを定め、これに合意し、その達成に道を開く投資を行い、協力を得られる支持基層を拡大するとともに、増大の一途をたどる国際システムに対する負荷に対処できる柔軟かつ強靭な国際的体制を築くうえで、極めて重要な時期となる。
国連は、国際的なガバナンスを強化し、建設的な協力の形式を確立することで、未曾有の脅威と変革のニーズを管理し、新しい世代の機会を活用してゆくうえで、中心的な役割を果たすことができる。
この行動計画は、国際社会が今後5年間に遂行しなければならないと私が考える一連の行動を定めるものである。行動を起こすためには、可能、必要かつ時機を捉えたグローバル協働を触発すべく、国連が利用できるあらゆる人材、資金、政治資源を結集する必要がある。また、特殊な状況に置かれた国々の社会経済発展のニーズに取り組むために必要な国際的支援を総動員するという私たちの決意を新たにする必要もある。
この行動計画では、私たちの世代に与えられた5つの機会に関する具体的な措置と、その実現を可能にする2つの重要要因を取り扱うが、これらはいずれも、私が2011年9月の国連総会演説で明らかにしたものである。
私たちの世代に授けられた責務と機会
I.持続可能な開発
1.ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた前進を加速させる。
- 不平等に焦点を置きながら、特殊なニーズを抱える国々や、十分な前進が見られていない国々で特に取り組みを強化することで、貧困削減目標の全世界的な達成のめどをしっかりと立てる。
- マラリア、ポリオ、子どもの新規HIV感染、母子の破傷風、はしかという重大死因を2015年までに撲滅するという目標の達成に向け、最後の追い込みをかける。
- 全世界で充足されていないニーズに対応するためのリプロダクティブ・ヘルス・サービスの提供を含め、母子保健に関するグローバル戦略を全面実施し、千万単位の人々の生命を救う。
- 相応の資金、人材、政治的資源を動員し、約2億人の子どもを苦しめる成長阻害という隠れた悲劇に終止符を打つことにより、現在と将来の世代の潜在能力を開花させる。
- 21世にふさわしい良質、適切かつ普遍的な教育の達成に向けたグローバルな運動を触発することにより、世代的な前進を刺激する。
2.気候変動に取り組む。
- 緩和・適応対策の具体的な実施を促進する。
- グリーン気候基金の活動を軌道に乗せることにより、気候変動対策の資金調達を促進するとともに、2020年までに合意済の目標1,000億ドルを達成できるよう、官民から資金を調達する。立ち上げ資金全額の実効的な拠出を確保する。各地域・小地域における特に脆弱な地点のマッピングを通じたものを含め、気候変動の経済的コストと、これに対応する資金ニーズに対する理解を深める。
- 森林破壊と森林劣化による排出量削減に関する合意(REDD+)を促進、履行して森林を守るとともに、森林に依存する人々の生活を維持する。
- 2015年までに、国連気候変動枠組条約に基づき、すべての当事者に適用される法的拘束力を有する包括的な気候変動に関する合意を確保する。
- 気象科学を強化、擁護、利用し、根拠に基づく政策を策定、促進する。
3.ポスト2015年開発枠組みに関するコンセンサスを作り上げ、これを実施に移す。
- MDGsを土台として、新世代の持続可能な開発目標を定めるとともに、目標達成に向けたロードマップの概略を示し、加盟国の検討を求める。
- 国連システムを結集し、持続可能な開発の基礎的要素に取り組むための全世界的、地域的、国内的な戦略の支援に当たる。
- エネルギー:「すべての人のための持続可能なエネルギー」イニシアチブに基づく幅広いマルチ・ステークホルダー連合を結成し、2030年までに、現代的エネルギー・サービスの完全普及達成、エネルギー効率改善のペース倍増、および、全世界のエネルギー消費に再生可能エネルギーが占める割合の倍増を図る。
- 食料と栄養:食料・栄養の安全保障に関し、世界的に合意された目標を決め、小規模農家と食品加工業者を支援するためにすべての主要ステークホルダーを動員し、定期的に食料危機に直面するコミュニティーや国々の強靭性を高める。
- 水:世界全体に安全な飲み水と十分な衛生施設を完全に普及させるため、国連全体の取り組みを立ち上げ、これを遂行する。
- 海洋:海洋と沿岸生息地のガバナンスを改善し、海洋の生物多様性保護のための制度的、法的枠組みを開発することにより、乱獲と汚染に取り組む海洋に関する盟約(コンパクト)に合意する。
- 輸送:空運、海運、フェリー輸送、鉄道輸送、陸上輸送および都市公共輸送の提供者と政府、投資家を招集し、特に都市部における全世界的な過密化と汚染の悪化に取り組むことのできる、より持続可能な輸送システムの実現に向けた提言を作成し、これを実施に移す。
- 加盟国との連携により、南極大陸を世界自然保護区とする。
II.予防
- 気候変動、環境破壊、都市化、人口増加という深刻化の一途をたどる課題に取り組む各国の災害リスク削減計画の策定と実施を支援する。南南協力の基盤を提供し、革新的な手法や技術の利用を促進することを含め、後発開発途上国や最も弱い立場にある国々を特に重視する。
- 下記により、暴力的紛争を予防するための早期警報と早期対応を優先する。
- 国際システム全体から得られる情報のマッピング、関連づけ、収集および統合を行うこと。
- 各国の促進・対話能力を支援すること。
- 国連による周旋、仲介、危機対応および平和構築サービスを簡単かつ迅速に展開できるようにすること。
- 下記により、予防的な手法で人権に取り組む。
- 人権侵害の予防に必要な基本的要素を特定する政策枠組みを策定すること。
- 幅広い人権手段の利用における前進とギャップを把握する予防マトリクスを確立すること。
- 「保護する責任」への取り組みを前進させること。
- 各国が早急に脆弱性を特定し、十分な社会的セーフティ・ネットと雇用主導型の成長を促進する政策を採用する手助けをすることにより、外的な経済・金融ショックに対する抵抗力をつける。
III.国連の中核的活動のイノベーションと強化を通じた、より安全な世界の構築
- 下記の決意を新たにすることにより、平和維持活動のためのパートナーシップを拡大する。
- 地域機関と責任を分担し、強い協力関係を築く。
- 平和維持要員が、複雑化の一途をたどる活動の要請にさらに素早く、機敏に対応するために必要な能力と支援を得られるようにする。
- 国連の民間人保護の能力を強化する。
- よりグローバルで責任ある、強靭な人道援助システムを構築する。
- 現地、国内、地域レベルで、特に開発途上国の人道援助機関との協力を強化し、コミュニティーの強靭性や緊急事態への対応力の強化を図るとともに、体制整備の進捗状況を評価するためのモニタリング・システムを確立する。
- 人道援助活動に関する透明性と実効性に関するグローバル宣言とアジェンダの促進を含め、援助の透明性とコミットメントの強化に向けて国際的約束の共有を図る。
- 中央緊急対応基金を含め、プール型の資金調達メカニズムへの支援を拡大するとともに、ステークホルダーと協同し、緊急対応に向けた追加の革新的な財源や資金調達法の方策を洗い出す。
- 人道援助に関与する幅広い組織の間での知識共有と共通のベスト・プラクティスの確立を支援するため、世界人道サミットを招集する。
- 核兵器その他の大量破壊兵器と通常兵器の分野で、グローバルな軍縮と不拡散への取り組みを再び活性化するとともに、核安全保障、原子力安全性、武器取引や懸案の地域的問題を含め、関連の新たな課題に対処する国連の役割を強化する。
- 加盟国による「国連グローバル・テロ対策戦略」と国内テロ対策計画の実施をよりよく支援するため、テロ対策の一貫性を高め、取り組みを拡大する。その一環として、関連の政府間機関は、国連テロ対策調整官のポスト創設を検討すべきである。
- 集団的行動を動員し、新たなツールや地域的、グローバルな総合戦略を策定することにより、組織犯罪や海賊行為、薬物取引の脅威の高まりに対処する。そのためには法の支配や公衆衛生、人権に関する対応も必要になる。
IV.移行期にある国々への支援
- 平和構築、人権、法の支配、選挙支援、国民的和解、紛争解決、腐敗対策、憲法制定、権力分担取り決め、民主的実践など、比較優位のある重要分野で、ベスト・プラクティスを開発し、国連の能力と支援を拡大する。
- 不安定な紛争環境下で、合意された戦略目標と相互のアカウンタビリティ(説明責任)を伴った「移行コンパクト」を支援する。
- 国内司法制度の強化を目指す能力育成措置によって支援、補強することにより国際刑事司法制度を強化し、重大な国際犯罪の不処罰に立ち向かうことでアカウンタビリティの時代を提唱し、これを確立する。
- 国際金融機関や地域開発銀行その他のステークホルダーを含む国際・地域機関との戦略、活動面での協力を深める。
V.女性と若者:連携と支援
- 女性に対する暴力を犯罪と認め、被害者に補償と救済を提供する法律を採択し、女性に司法へのアクセスを提供し、女性に対する暴力の実行犯を捜査、訴追しようとする国々に対する支援を強化することにより、女性に対する暴力の根絶に取り組む国連のキャンペーンを深める。
- 女性が政治指導部に平等に加わることを保障する措置を採るよう各国に奨励し、女性の参画を促進するような選挙管理を行い、女性が実質的なリーダーとなれる能力を育成することにより、女性の政治参加を全世界で促進する。平和構築への女性の参加に関する事務総長の7項目アクションプランに特に注力する。
- 官民、市民社会と、マルチ・ステークホルダー間のパートナーシップを築き、社会・経済復興への女性の全面参加を確保するための行動計画を策定する。行動計画には、相続法、賃金、育児、ワークシェアリング、租税に関する提言を盛り込むべきである。
- 雇用、起業、政治的包摂、市民権および諸権利の保護、ならびにリプロダクティブ・ヘルスを含む教育に関する既存のプログラムの焦点をさらに若年層に絞ることにより、史上最大規模の若年層世代のニーズに取り組む。この課題への取り組みを前進させるため、国連システムは、アクション・プログラムを策定、実施し、国連ボランティア計画(UNV)の傘下にユース・ボランティア・プログラムを立ち上げるとともに、新たにユース担当特別顧問を任命する。
実現するために
I.国連の活動全般におけるパートナーシップの力の活用
- コミットメントの触発とアカウンタビリティの促進を図る組織として「国連パートナーシップ・ファシリティ」を新設することにより、幅広い問題について民間企業、市民社会、慈善団体および学術界と変革志向のマルチステークホルダー・パートナーシップを結ぶことのできる国連の能力をさらに高める。
- 機能の整理統合により、グローバル・コンパクトと国連パートナーシップ・ファシリティからなる一貫した連携能力を創造するとともに、国連システム全体のパートナーシップへの取り組みを調整する。
- ソーシャル・メディアを含むアウトリーチ・ツールを全面的に活用し、国連が新旧の支持基盤に働きかけを行える能力を強化する。
II.国連の強化
- 現行予算プロセスの見直し促進などにより、より効果的なマンデートの遂行を確保するとともに、マネジメント・イノベーションへの取り組みを通じ、周知の資源の制約内で、より多くの活動を遂行する。
- “Umoja”(国連のERPシステム)の厳格な実施などを通じ、グローバルに展開する事務局で働く職員が資金、人材、物的資源、知識および情報技術をより効果的に共有する近代的な労働力を構築する。
- 成果主義の計画策定・アカウンタビリティ・管理システムの採用、予算策定の合理化、システム全体を対象とするリスク・マネジメント手法の導入などにより、国連の開放性、柔軟性およびアカウンタビリティを高める。
- 結果を出すための管理とモニタリング、アカウンタビリティ向上の確保および成果の改善に注力する「Delivering as One(国連諸機関が一体となった任務遂行)」第2世代を発足させる。
- 安全対策予算、人事に関する決定を関連のあらゆる計画策定・予算プロセスを通じて主流化し、より多くの国連フィールド拠点でセキュリティ脅威の分析能力を高め、国連を取り巻く脅威に見合うよう国内・国際職員の安全対策研修を改善することにより、国連職員の安全を確保する。国連はまた、トラウマに苦しむ職員に対する支援も強化しなければならない。