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「世界的食糧問題を考える-国連事務総長と学生との対話集会」での潘基文(パン・ギムン)国連事務総長によるスピーチ(北海道大学、2008年7月8日)

2008年07月08日

佐伯浩学長、教職員と学生の皆様、おはようございます。私は国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)です。皆様にお目にかかれて光栄です(以上、日本語で)。

国連スタッフが私の発言を理解できているとよいのですが。

かくも優秀で評価の高い学術機関で講演できることを、私はうれしく思います。また、皆様がここ北海道で開かれるG8サミットと並行し、環境問題に関する多くの有意義な活動を集中的に開催されている「サステナビリティ・ウィーク」の期間中に、こうしてお話しできることは、まさに特権と考えてしかるべきでしょう。

皆様の活動のように、地球上の生命と生活を維持、保護、改善しようとする取り組みが、これほど重要となったことはありません。世界は今まさに、相互に絡み合う3大危機、すなわち世界的な食料危機、気候変動の危機、そして開発の危機と闘っているところです。私たちは、すべての国々が21世紀によりよい世界をつくるために合意したビジョン「ミレニアム開発目標(MDGs)」を通じ、こうした危機に取り組もうとしています。

共通の理解に基づき、また、政府、ドナー、国際・地域機関、非政府組織(NGO)、民間企業、そして学界という重要なプレイヤーをすべて結集して、グローバルな対策を講じない限り、私たちがこれらの課題を克服することはできません。

そのためには、今すぐ行動を起こさなければなりません。現在の食料価格の高騰を抑え、逆転させるための緊急策を講じなければ、最も貧しい人々が一番苦しむことになります。飢餓や深刻な栄養不良はさらに広がることでしょう。すでに人類に徐々に被害を与えつつある気候変動は、食料危機をさらに悪化させるおそれがあります。しかも、食料と燃料の価格が急騰し、世界全体でインフレ圧力がさらに強まれば、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成は、2015年という期限に向けた折り返し点を過ぎた現段階で、さらに遠のいてしまうことにもなりかねません。

私はきょう、食料問題を中心にお話ししたいと思います。皆様の大学のような学術機関は、この課題の克服に重要な役割を担っているからです。

食料危機の波及効果は、すでに表れ始めています。最も深刻な影響は、特にアフリカの女性や子どもなど、最も弱い立場にある国々と人々に及んでいます。私たちはきのう、福田総理の主宰のもと、多くのアフリカの指導者、そしてG8の指導者と突っ込んだ話し合いを行いました。食料を持つ国々が持たざる国々への供給を制限するにつれ、隣国間の絆は弱まってきています。また、生活水準を維持できない人々が抗議行動に出る中で、政府と国民との絆もストレスにさらされています。茶わん一杯のご飯を選ぶか、病院や学校に通うことを選ぶかという、本来あってはならない究極の選択を迫られる家庭も出てきました。

こうした危機は一般的に、食料価格高騰の危機と呼ばれています。国連食糧農業機関(FAO)の食品価格指数は、この1年間で51%上昇しており、世界は今年、2007年を2,150億米ドル上回る額を食料輸入に費やすものと見られています。しかし、状況をさらに詳しく見れば、食料生産と食糧安全保障は、それよりはるかに深刻な構造上の危機を抱えていることが分かります。

皆様の大学が世界中の誰よりもよくご存じのとおり、世界の食料需要は増大しています。世界銀行は2030年までに、全世界の食料需要が50%増大すると見ています。そして2050年までに、世界人口は3分の1増加し、90億人を超えることになります。その一方で、農業生産に必要なエネルギーや水、土地はますます少なくなっているのです。

すでに世界では、8億人以上が飢えに苦しみ、飢餓や栄養不良で命を失う子どもたちは年間350万人強と、一日あたりほぼ1万人に上っています。これは受け入れがたい数字です。アジアだけでも、現在の食料・燃料価格の急騰で、10億人以上が深刻な影響を受け、さらに数千万人が苦闘と欠乏の生活を強いられるおそれがあります。

私たちは今こそ、一つの国際社会として結束し、共有の人間性を求めて、ともに責任ある行動を起こし、世界が現時点で享受している食糧安全保障の崩壊を回避しなければなりません。そうしなければ、受け入れがたいほど大きな代償を払うことになってしまいます。さらに1億人もが飢餓に陥る可能性もあります。低所得国の情勢不安は手のつけられない状況に陥りかねません。危機に対する介入のコストも高まります。移住者は増え、世界的なインフレが加速するでしょう。そして、MDGs達成に向けた近年の進展を含め、経済的な機会と持続可能な成長も損なわれることになってしまいます。

しかし、私たちが危機感を持って協力すれば、こうした動きを食い止め、さらには逆転させるチャンスもあります。こうした理由から、私は国連事務総長として、国連、ブレトンウッズ機関などから主要なパートナーをすべて呼び集め、ハイレベル・タスクフォースを結成しました。世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、FAO、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)、経済協力開発機構(OECD)をはじめとする参加機関は、食料危機に一貫して取り組む共同計画「包括的行動枠組み(Comprehensive Framework for Action)」を策定しました。

この「包括的行動枠組み(CFA)」は、緊急に必要とされる食料援助とセーフティ・ネットを最弱者層に提供しながら、食糧安全保障や農業生産、食料商品市場の機能を改善するための短期・中長期的行動と政策の転換を明らかにしています。

私たちは各国政府との連携により、不可欠な支援の確保に努めています。先月ローマで開かれた世界食糧安全保障会合で、私たちはCFAの主要要素に合意しました。それ以来、私たちはG8諸国から、どうしても必要な約束の取り付けを図ってきました。北海道洞爺湖サミットは、グローバルな指導力を発揮できるまたとない機会です。私たちはG8指導者の公約と政治的な意志を必要としています。是非とも「食料のためのパートナーシップ」に加わっていただき、グローバルな食料危機の悪化を食い止めるために必要な政治的、財政的、経済的措置を講じてもらうことが必要なのです。

講じるべき措置は明らかです。

第一に、私たちは直ちに、弱者層がこの緊急事態の中で、至急必要な援助を得られず、取り残されることのないようにせねばなりません。そのためには、食料援助その他の栄養介入の拡大、食料援助に向けた予測可能な財政支援の増額、ドナーの拠出に対する制約の削減、そして、人道援助食料の購入に対する輸出制限と輸出課徴金の免除が必要です。また、人道援助用食料について、世界的な備蓄制度を確立する必要もあり得ます。

第二に、私たちは今年からすぐに、農業生産の増大を図らなければなりません。そのためには、特に小規模農家を対象として、次の種まきまでに緊急に必要な種子や肥料を提供しなければなりません。こうした農家は世界に4億5,000万軒を数え、家族も含めると、世界人口の実に3分の1に上ります。このような小規模農家による収穫が、彼らの生活の直接の支えとなっているのです。作物に直接依存しているのです。政府開発援助(ODA)における農業の割合が急激に低下していることは嘆くべき事態であり、これを逆転すべき時期はすでに訪れています。事実、この割合は20年前の18%から、3%程度にまで落ち込んでしまいました。私はG8指導者と国際ドナーに対し、ODAに占める農業の割合を現在の3%から、少なくとも10%にまで引き上げるよう働きかけています。また、対アフリカODA総額を引き上げるという、2005年グレンイーグルス・サミットでの約束も守らなければなりません。 第三に、G8諸国で農業補助金を削減することにより、公正な貿易と市場の自由な流れを促さなければなりません。食料不安を抱える低所得国の農産品価格の高騰により、貯蓄を農業投資に向けるチャンスが生まれているからです。

第四に、農業と農村開発への投資を急増させることで、これを持続可能な経済部門へと発展させなければなりません。そのためには、農業や農村インフラに対する公共支出の増額が必要です。また、生産性向上のための農業研究にも、より多くの資金を投入しなければなりません。そうすれば、開発途上国での継続的な生産性と所得の向上に必要な民間投資を誘致することにも役立つでしょう。

第五に、食料品に対する輸出制限と課徴金を最低限に抑え、食料価格の安定化を図ることを含め、世界の食料品市場を強化し、すべての国々と人々、特に貧困層のニーズを満たせるようにせねばなりません。私は改めて、開発途上国に対する貿易支援パッケージを含め、次回の世界貿易機関(WTO)ドーハ開発ラウンドの早期妥結を求めたいと思います。

第六に、G8諸国とそのパートナーは、バイオ燃料生産に対する補助金と関税による保護を考え直さなければなりません。気候変動対策においては、バイオ燃料が引き続き欠かせない要素となることは間違いありません。しかし、バイオ燃料の開発と食料生産上の優先課題との均衡を保つ方法については、国際的なコンセンサスと政策ガイドラインに関する合意が必要です。その中には、現行の補助金と関税政策の見直しも含まれます。

親愛なる友人と学生の皆様、

このような意味で、北海道洞爺湖サミットは転機となる可能性を秘めています。それはまさに、食糧安全保障に関する行動と政策転換に着手し、今後さらに2年間のG8サミットにおいて、世界的な食糧安全保障にしっかりと焦点を定める機会にほかなりません。ハイレベル・タスクフォースはG8諸国と連携し、今後3年間から5年間の進捗状況を監視、追跡することにより「包括的行動枠組み」で明らかにされた行動と政策転換に取り組むとともに、必要な場合には一層の調整を求めていきます。

今回のサミットは、関連の課題について指導力を示す絶好のチャンスでもあります。万人のための食糧安全保障を達成するためには、気候変動問題への取り組みが欠かせません。氷河の融解が加速する一方で、水の供給が危機を迎えようとしています。そして、世界人口のうち、乾燥地に暮らす3分の1の人々にとって、気候変動による気象パターンの変化は、砂漠化と干ばつをさらに悪化させる要因となりかねません。

昨年12月にバリ島で開かれた国連気候変動会合は、多くの成果を生みました。私たちは世界が期待し、そして必要とする合意の達成に向け、歩を進めなければなりません。中でもG8をはじめとする先進国は、二酸化炭素排出量の大半を占めてきたという歴史的責任から、指導的な役割を担わなければなりません。コペンハーゲンでの気候変動会合まで18カ月足らずとなった今、地球の将来は危機に瀕しています。私たちは、コペンハーゲンで採択すべき新たな包括的合意を作り上げなければなりません。しかもこの合意は、京都議定書の第一約束期間が満了する2012年までに発効させる必要があるのです。

日本の政府と国民には、再び大きな歴史的政治責任がのしかかることでしょう。世界第2位の経済大国として、そして1997年に京都議定書を成立させた国として、皆様にはこの交渉の妥結を助ける政治責任があります。皆様こそが今後の世代の指導者です。将来は皆様の肩にかかっているのです。私を含め、今の世代は、より住みよく、環境的に持続可能な世界として、この地球を皆様に引き継ぐ政治責任を負っています。私たちはその責任を果たすことを約束しています。私も全力で、政治的な意志の結束に努めてきました。

日本をはじめ、財政的、技術的な能力と資源を備えている国々は、この取り組みをリードしていかなければなりません。私自身も、日本や米国、欧州諸国などの先進国が、その歴史的責任を自覚し、この取り組みを先頭に立って進めると同時に、開発途上国が気候変動によって生じつつある課題を克服できるよう、支援の手を差し伸べなければならないことを、繰り返し強調してきました。開発途上国は地球温暖化に大きな責任を負っていません。しかし、地球温暖化は先進国と途上国の分け隔てをせず、その影響は全世界で実感されています。とはいえ、「共通だが差異ある責任」に基づき、対策措置に分け隔てをすることはできます。これは基本原則の一つです。また、来年12月末までに、コペンハーゲンでバランスのとれた裾野の広い批准可能な条約に合意しなければなりません。これはG8議長国である日本の責任です。皆様の決意ある行動こそが、私の頼りです。

同時に、MDGsの期限である2015年が、徐々に近づいています。2008年という、まさに折り返し点を迎えた今、21世紀の世界共栄を目指す青写真として世界の指導者が提示したMDGsを実現するという決意を、私たちは新たにしなければなりません。8つの目標のうち、最も進展の遅れているのが妊産婦の健康ですが、この分野で挫折すれば、その他多くの目標達成に向けた進展も滞ってしまいます。同様に、マラリアによる死者が依然として年間100万人以上に上ることも、受け入れがたい事実です。しかも、世界人口の6人に1人にあたる10億人が、顧みられない状態にある熱帯病で苦しんでいるのです。

私たちは全体として、これらグローバルな課題に対処するため、何が必要かをはっきりと知っています。あとは行動あるのみです。私たちは、G8をはじめとする援助国政府が、特にアフリカについて合意されたODA目標を達成するだけでなく、市場原理に反する関税や補助金の削減により、成長と開発を支援することを期待しています。また、包括的な一次医療制度の構築、リプロダクティブ・ヘルスと幼児保健の完全普及、さらには、緊急に必要な殺虫剤処理済みの蚊帳1億2,000万張の購入資金供与を含め、エイズやマラリア、結核、さらには放置されているアフリカの熱帯病への対策の動員といった問題についても、重点的な検討をお願いしたいと思います。取り組みをさらに本格化させれば、2010年までにマラリアによる死者をなくすことができます。そのためには政治的な意志が必要です。担当特使と私は、マラリアによる死者をゼロにできるよう、懸命な努力を続けているところです。

親愛なる皆様、

このように複雑に絡み合ったグローバルな課題に対処するためには、集団的な連携による取り組みが必要です。省庁や組織、または機関が個別に対処することはできません。これらがすべて協力しなければならないのです。その中には皆様全員をはじめとする現在、そして将来の指導的科学者も含まれています。そして、共通のグローバル・ビジョンのもと、これらすべての関係者を結集する場をつくることこそが、国連の役割なのです。

それと同時に、最も高いレベルでの政治的指導力も必要ですが、この指導力が発揮できるのはG8首脳をおいてほかにありません。私たちには能力も、技術革新もあります。日本は科学技術面でも最先進国の一つです。皆様には資金もあります。世界の指導者に欠けているのは、政治的な意志だけです。各国指導者が気候変動や世界食料危機、ミレニアム開発目標を優先的政策課題に掲げることを決定すれば、これら将来的な課題のすべてに取り組めると思います。

指導者にその責任を問おうではありませんか。私としても、共同的な取り組みを提唱、調整する上で、指導的な役割を担い続ける所存です。そして、G8その他各国政府がこの崇高な目的を追求できるよう、国連の資源を総動員して支援を行っていくことを約束します。

今後に向けて、地球上の生命を守り、生活を改善していくという私たちの使命を、ともに果たしていこうではありませんか。皆様の決意と発意、そして指導力に期待しています。

ありがとうございました。

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