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安全な飲み水と衛生へのアクセスに関する人権上の義務問題担当国連独立専門家 カタリーナ・デアルブケルケ氏訪日調査

プレスリリース 10-045-J 2010年07月28日

東京
2010年7月28日

9日間の正式な訪日調査を終えるに当たり、安全な飲み水と衛生施設の利用に関する人権上の義務を担当する独立専門家は、下記の声明を発表しました。
「自ら活動して他を動かしむるは水なり」
(京都貴船神社「水五訓」より)

私は7月20日から28日にかけ、日本を正式訪問し、政府が水と衛生に対する権利の享受をどのように確保しているのかを検証しました。私は外務省、厚生労働省、国土交通省、農林水産省、環境省をはじめ、私の権限範囲内に入る事項を所管する省庁との間で会合を開きました。また、JICAや大阪府、大阪市の当局者とも会談しました。東京では三園浄水場と落合水再生センターを訪れました。さらに東京、京都、大阪の市民社会組織とも数多くの会合を開いたほか、大阪と東京のホームレスの方々、京都郊外のウトロ地区に住む方々も訪問しました。私は、訪日調査に便宜を図っていただいた日本政府に感謝の意を表したいと思います。今回の訪日調査以前からご支援をいただいた市民社会組織や個人の方々にも感謝いたします。また、水と衛生施設の利用問題について、個人的な情報を提供いただいた皆様に対しても、謝意を表明いたします。

政府との会合では、日本が人権を保障してゆく決意が改めて表明されました。国連経済的、社会的、文化的権利委員会に対する最近の報告にもあるとおり、日本が独立の国内人権機構の設立を優先課題としていることを、私は喜ばしく思います。このような機構が成立すれば、日本における人権の享受をさらに全面的に確保できる可能性があるため、私はすべての政党に対し、この計画を直ちに支持するよう促します。この機構には、市民的権利、文化的権利、経済的権利、政治的権利、社会的権利の別にかかわらず、すべての人権について検討、啓発する権限を認めなければなりません。人権に関する全般的な枠組みについては、日本に包括的な差別禁止法がないことを指摘できます。差別禁止は人権法の核心をなす原則の一つであることに鑑み、私は政府に対して特に、経済的、社会的、文化的権利の享受との関連で、法律上、実践上の差別を禁じるよう求めます。更に裁判所は政府の活動を評価する基準として国際人権規範が常に使われることを体系的に確実にしなければなりません。私はこの関連で、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約の選択議定書の批准も、政府に強く求めたいと思います。

水と衛生に対する権利を保障するためには、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約第11条に基づき、誰もが水と衛生施設を十分に利用し、個人と家庭のニーズを尊厳ある形で充足できなければなりません。人が安全に消費できる水質と、人や動物が接触しないよう、排泄物を安全に隔離する衛生施設が必要です。個人と家庭が使う水は、工業用水や農業用水など、他のいかなる水の用途よりもはっきりと優先しなければなりません。水道・衛生サービスは、最も困難な状況にある人々でも利用できるよう、安価なものとせねばなりません。しかし、だからと言って、これらを無償で提供すべきだということではありません。こうしたサービスを受けるのに必要な手段を持たないおそれのある人々に、特に注意を向けるべきだということです。日本政府がこれら権利を明確に認識することを、私は期待しています。

日本は比較的短期間に、水道と衛生施設の全面普及の確保に向け、長足の進歩を遂げました。政府との会合でも、上下水処理場を訪問した際にも、安全な飲み水を確保し、廃水その他による汚染から環境を守ろうとする決意ははっきりと感じられました。日本ではどこでも、水道の水を飲むことができますが、これは称賛すべき成果です。私は、下水の再生や汚泥の再利用といった重要な取組みについても学びました。また、地震をはじめとする緊急時に備え、水と衛生施設を確保しようとする日本の取組みには、特に感銘を受けました。これらは重要な成果であり、日本はいかなる生活の場面でも、また、いかなる時にも、あらゆる人々が水と衛生設備を安全に利用できるよう、こうした取組みを続けてゆかなくてはなりません。

日本は少子高齢化による特殊な課題を抱えています。長年にわたるアクセスの拡大とは逆に、日本は今後、国内の一部で水道・下水事業の能力を低減させてゆくための適切な解決策を見出す必要に迫られています。上下水システムの維持は資金の入手可能性だけでなく、消費の水準とも結びついていますが、人口の減少は消費の低下と、設備の維持に必要な税収・使用料収入基盤の縮小をもたらします。当局がこうした課題への対応策を探る中で、節水を促し、水を効率的に利用できる小規模システムを考案し、最貧層からこうした基本的権利を奪わないような料金体系を確立することを特に重視する必要があるでしょう。こうした課題について議論し、その克服に向けた斬新な解決策を明らかにするため、各省庁、市町村、市民社会、学界および財界などからなるマルチステークホルダー型プラットフォームを設ける取組みが期待されます。

水と衛生に対する権利はとりわけ、人種、性別、民族、障害および年齢を理由とする差別なしに享受できなければなりません。差別禁止という原則は人権法の核心をなすため、人権が最も疎外、排除され、弱い立場にある人々に焦点を当てるのは、当然のことといえます。よって、私は訪日中、ホームレスや外国人、障害者、自由を奪われた人々など、最も弱い立場にある集団と話し合い、その現状について学ぶことに多くの時間を費やしました。

私は東京と大阪で、公園に暮らすホームレスの人々や、ホームレス集団の代表者と面会しました。公園で暮らす人々はある程度、公共施設を通じて水や衛生を得ることができます。それだけで他の国々よりもましだとはいえますが、ホームレスの人々が住む公園の公共施設の維持を関係当局が怠っているケースも見られます。私は、このような施設の修理や維持の要請に行政が対応しないこともあるという話も耳にしました。また、こうした人々がシャワーや浴場などの個人衛生施設を利用できないことについても、懸念を抱いています。公園に暮らす女性は、プライバシーのニーズが異なり、月経時には特別の衛生手段も必要となることから、さらに困難な状況に置かれています。政府と地方自治体が密接に連携し、ホームレスの代表も交えて、こうした問題につき国際人権規準に沿った総合的解決策を模索するよう望みます。

私は京都近郊のウトロ地区も訪れました。ここには朝鮮人の方々が数世代にわたって暮らしています。水と衛生施設の利用状況は長年をかけ、徐々に改善してきたようですが、さらに改善の余地があります。水と衛生の分野で多大な成果をあげてきた国に、依然として水道水を利用できない人々がいることは衝撃的でした。周辺地域にはほとんど下水道があるにもかかわらず、ここには下水道が通っていません。下水も生活排水のはけ口もないことから、1年前のような洪水が起きれば、排泄物などにより環境が汚染され、深刻な衛生上の懸念が生じます。ウトロの住民の中には、年金受給権がないとの理由から、水や衛生になかなか手の届かない人々がいることも気がかりです。

私が視察した公衆便所に、障害者も利用できるものが多かったことについては、嬉しく思います。しかし、障害者やその権利擁護団体の代表とお会いした際には、障害者のアクセス上のニーズに配慮した住宅への入居に深刻な問題が伴うことを知りました。すでに触れた差別禁止法の欠如が、ここでも関係しています。しかも、母親が学校で常にトイレの面倒を見られない限り、障害を持つ子どもは学校に通えないことがあるという話も聞きました。私はこの関連で、障害者の権利に関する2010年6月の閣議決定実施に向けた文部科学省の取組みを歓迎します。

私はまた、自由を奪われた人々の状況についても知りました。一部の刑務所では、受刑者が許可された時のみ洗髪や洗濯を許され、通常それは週2-3回に限られるという点について懸念を覚えます。この規則を破れば独房に入れられるという話もあります。さらに、保護房に収容されている場合でさえ、受刑者が拘束具(第二種手錠)をはめられて、自由にトイレに行ったり、水を飲んだりできないことも知りました。法務省からは受刑者の水と衛生へのアクセスが禁じられていないという保障を受けました。自由を奪われた人々でも、その健康と清潔さを保つため、衛生目的を含め、尊厳ある形で水と衛生施設を利用できなければなりません。

私がお会いした人々の中には、水道・衛生サービスの民営化を懸念する向きもありました。サービス供給方法について、人権は中立であるため、どちらのサービス供給形態が適切か、それともその組合せが適切かは、状況に応じて変わってきます。しかし、官民どちらの運営形態を取るにせよ、国には常に、水と衛生に対する権利をあらゆる次元で保障する義務があります。よって、私は日本に対し、とりわけ水質基準、水道料金およびサービス品質を律するような実効的規制枠組みを導入するよう呼びかけます。民営化には慎重を要することもあるため、人権の継続的尊重を確保するためには、委託契約の期間中はもとより、外部委託の決定以前にも、行政が人権影響評価を実施し、このような決定が持つ意味合いを十分に理解しておくべきです。

日本は国際的にも、水と衛生の分野で最大のドナーであり、こうした問題に関するそのノウハウは、開発途上国のシステム改善への取組みに役立ってきました。私は、ODA憲章の根幹に人間の安全保障という理念があり、その中に人権の保護が含まれていることを歓迎します。今でも水や衛生施設を利用できない人々に手を差し伸べるよう、さらに取組みを進めれば、人権を守るという日本の決意をODAによりよく反映できるでしょう。また、来る中間レビューとの関連で、こうした考え方をはっきりと取り入れることもできるでしょう。アジアの中所得国に裨益する円借款が援助の大半を占めていることから見て、日本のODAは現在、水や衛生施設をある程度すでに利用できている人々のアクセス改善に大きく役立っています。後発開発途上国向けの無償資金援助や技術協力の拡大へと軸足を移し、(大規模な上下水道網よりも)基本的な水と衛生サービスの供給を重視すれば、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成はもとより、すべての人々に少なくとも安全な飲み水と衛生施設への基本的アクセスを確保することにも大きく貢献できるはずです。私は日本がすでに「環境社会配慮ガイドライン」に人権原則を多く取り入れていることを歓迎する一方で、日本に対し、優先順位の設定、プロジェクト設計および実施のあらゆる側面で人権を指針とするよう促します。

日本を去るにあたり、私は水道や衛生施設の充実だけでなく、これらを安全、衛生的かつ利用可能なものにするために活用されている革新的技術にも、感銘を覚えています。国民の一部についての不安は残るものの、私はこうした問題が早急に解決できるものと確信しています。日本は国内的な成果においても、国際的な援助水準においても、世界のトップクラスにあります。私は政府に対し、こうした部門における今後のあらゆる取組みの中心に人権を据えるよう求めます。