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国連女性の地位委員会:背景資料

プレスリリース 07/011-J 2007年03月08日

女児に対する差別と暴力に終止符を

女児には権利があり、この権利の侵害は容認できないばかりか、社会全体に悪影響を及ぼすとの意識が高まってきました。それでも、女児に対する差別と暴力は世界中で続いています。

国連女性の地位委員会は第51会期(2007年2月26日~3月9日)の優先的議題として「女児に対するあらゆる形態の差別と暴力の撤廃」を取り上げます。

経緯

女児が差別を受ければ、保健医療の利用や質だけでなく、経済的機会にも格差が生まれます。差別は性暴力をはじめとする暴力や、女児の健康と福祉にとって有害なしきたりとなって現れることもあります。画一的な思考がなくならないことで、社会の仕組みについて学び、意思決定過程に参加するなど、男児であれば得られる機会が女児には与えられないため、権利も十分に行使できないという悪循環が生じているのです。

女児が全面的な権利を手に入れることを阻んでいる障害については、国連総会や人権条約機関のほか、各種国際会議も深い懸念を表明しています。最も大きな懸念としては、女児が貧困や武力紛争の悪影響を特に受けやすいことのほか、さまざまな形で性的、経済的搾取の対象とされやすいことがあげられます。

男女平等の実現と女性のエンパワーメントを図るグローバルな政策枠組みとして1995年に採択された「北京行動綱領」は、女児に対する差別と暴力が早くから始まり、その後一生続くことを指摘しています。行動綱領採択10年後の再検討会議で、加盟国は性的虐待、有害な伝統慣習、 児童労働、教育機会の欠如など、女児が依然として抱えている危険を重点的に取り上げるとともに、HIV/エイズや、紛争中、紛争後に生じるものを含めた性的搾取、人身売買など、新たに拡大しつつある危険も洗い出しました。

国連女性の地位委員会(CSW)第42会期では、合意に基づき、女児に教育とエンパワーメントを施し、女児の健康を増進し、女児を武力紛争から守り、人身売買や搾取的労働条件を予防するための行動を提案する結論文書が採択されました。

法的枠組み

「児童の権利に関する条約」と「女性に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条約」という2つの国連条約は、女児に対する差別と暴力の撤廃を確保する一連の包括的措置を定めています。これら条約はそれぞれの選択議定書とともに、女児の権利を保障、推進するための法的、政策的枠組みの根拠をなすものです。子どもの労働に関する国際労働機関(ILO)第182号、第183号条約も追加的な法手段となっています。

これまでの前進と今後の課題

これまでに大きな前進が見られました。女児には権利があり、この権利の侵害は容認できないばかりか、社会全体に悪影響を及ぼすとの認識は高まりつつあります。女児にとって懸念すべき問題があらゆる分野で洗い出されているほか、男女平等や子どもに関する現行の法制、政策、戦略、行動計画に女児への視点を取り入れる策も徐々に講じられています。

女児の人権保障に向けたグローバルな政策提言を実施に移すための取り組みとして、胎児の性別を理由とする妊娠中絶の禁止、児童労働の防止、最低婚姻年齢の引き上げや、商業目的の性的搾取、ポルノ、人身売買、性的虐待を含む女児に対する暴力への対策など、女児の保護を目的とした国内法を制定したり、強化したりする国も多くなっています。

このような措置にもかかわらず、実施面で不備な点はまだ多く残っています。政策立案者、サービス提供者、コミュニティや家族などの重要な関係者はもとより、女児自身でさえも、女児の権利を十分に認識しているとは限りません。女児は各国の政策やプログラムから取り残されることが多いばかりか、子どもの家事労働、強制的な早婚、ディーセント・ワーク(人間らしい仕事)、戸籍登録、HIV/エイズ、性的虐待、人身売買などの重要な問題への取り組みも遅れています。

女児に対する画一的な見方や行動がなくならないため、男女平等を保証するための法的、政策的枠組みを作っても、その全面実施が妨げられているだけでなく、女児の地位や取扱いにも直接的な悪影響が及んでいます。

危険にさらされる女児:女児に対する差別と暴力

女性に対する暴力に関する事務総長の詳細な調査と、子どもに対する暴力に関する国連独立専門家の報告という2件の画期的な調査に加え、CSWによる検討向けに事務総長が作成した、女児に対するあらゆる形態の差別と暴力に関する報告書も、女児に対する差別と暴力の動かぬ証拠を掲げた上で、これに終止符を打つよう強く求めています。具体的な調査結果としては、下記があげられます。

  • 女児の中でも思春期の女子や移住者、孤児、障害者、拘留者、農村部の居住者など、一部集団のリスクが特に高い。
  • 女児は最も安全を感じるべき場所で最大の危険にさらされることが多い。女児を保護する責任を担う個人や機構、家族、コミュニティ、教育機関がしばしば加害者となる。
  • 女児と女性は誕生以前から老後まで、生涯を通じてさまざまな暴力にさらされる。
  • 今日の女児と若い女性はデートレイプなど、新たな形態の暴力にさらされることが多くなってきた。
  • 女児は男児に比べ、家庭でもコミュニティでも、性的搾取、早婚、女性器切除、性交渉の強制その他の性暴力 、強制売春など、多様な差別と暴力を受ける恐れが大きい。
  • 貧困、HIV/エイズ、紛争やその直後などの要因は、女児が差別や暴力を受けるリスクを著しく高める。
  • また、女児は男児に比べ、国内的にも国際的にも、経済的、性的搾取を目的とした人身売買の被害者となりやすい。

家事労働

女児の家事労働には規制がなく、各国の統計にもほとんど表れませんが、家事労働が女児の教育を阻むことは実際に多くあります。家事や育児を切り盛りするために、女児が退学を強いられることもあります。世界全体で就学年齢の女児数百万人が、場合によっては5歳から自宅以外で家事労働を行っています。こうして家庭に閉じ込められている女児は、社会的な支援や保護をほとんど、あるいはまったく得られず、差別や暴力、虐待にさらされています。同年代の子どもたちと付き合えないことで、女児の自尊心や自信にも悪影響が及ぶおそれがあります。学校を休みがちになって成績が下がれば、女児が将来的に貧困に陥る危険性も高まります。

思春期の女子と有害な伝統慣習

10歳から14歳の女子、特に、家庭や学校といった自分たちを保護してくれる枠に入っていなかったり、世帯主であったり、早婚のリスクが大きかったり、すでに結婚している者には支援の手が極めて届きにくく、差別や暴力を受ける危険性が特に高くなっているため、そのエンパワーメントを図る取り組みは欠かせません。

一部の社会では、思春期の女子が女性器切除、早婚、息子の誕生を望む傾向など、差別に起因し、その権利を侵害するような有害な伝統慣習に苦しんでいます。

女性器切除女性器切除を受けた女性は現時点で1億4,000万人にも及ぶほか、さらに200万人の女児が毎年、女性器切除の危険にさらされていると見られます。

早婚または幼年期の結婚世界的に見ると、20歳から24歳の女性の36%が18歳未満で結婚または同棲関係に入っています。このような早婚や幼年期の結婚は女児の教育を妨げるだけでなく、はるかに年上の配偶者との関係で女児を弱い立場に置くことで、極めて大きな悪影響を及ぼします。また、同年代の子どもとの付き合いや、コミュニティ活動への参加もできなくなります。

15歳から19歳の女児は20代の女性に比べ、妊娠または出産期に死亡する確率が2倍となっています。15歳未満の女児の場合、この確率は5倍に跳ね上がります。負傷したり、産科ろうこうなど後遺症のある病気に感染したりする女児は、さらに多くなっています。

息子の誕生を望む傾向多くの社会では、息子の誕生を望む傾向が根強いため、胎児の性別を理由とする妊娠中絶や女児殺害、男女比のゆがみなどが生じています。

HIV/エイズ

多くの要因から、女児がHIV/エイズに感染する危険性は高くなっています。貧困に加え、教育と経済的独立性の欠如、有害な伝統慣習、交渉力の弱さ、さらには人身売買やレイプをはじめとする性的搾取などの性差別も、女児が自分の身を守ったり、感染による影響に十分に対応したりする能力を弱めています。しかも、性の健康についての教育や知識を得ることは望ましくないとされることが多いため、HIV/エイズに感染したり、その影響を受けたりしている女児は、保健サービスさえ受けられない可能性が高くなっているのです。

全世界では、15歳以上の女性と女子全体の48%にあたる1,730万人がHIVに感染しています。15歳から25歳までの若年層について見ると、全世界のHIV感染者とエイズ患者に占める女性の割合が60%を超えています。サハラ以南アフリカでは、15歳から24歳の若年HIV感染の実に4人に3人近く(74%)が女性です。

紛争中と紛争後

紛争中や紛争後には、女児が差別や暴力に遭う危険性がさらに高まります。子ども兵士の40%を占める女児は力ずくで無理やり徴用され、虐待や搾取、性暴力にさらされます。最近の紛争では、幼児を含む女児のレイプが、戦争の武器として用いられるようになりました。

武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)プログラムは、若い男性や男児を主な対象とすることが圧倒的に多くなっています。女児の子ども兵士が家庭やコミュニティに戻る際には、自分たちが受けたトラウマに加え、根深い偏見にもさらされるため、女児を対象とする社会復帰プログラムの策定と遂行はさらに難しくなります。

紛争中や紛争後には、世帯主となる女児も増えます。兄弟姉妹を養わねばならない女児が性的虐待や搾取、HIV感染の危険にさらされる恐れはさらに大きくなります。

教育

学校での男女格差をなくすとともに、女児が学校に通い、さらに長く勉強できるようにすることで成績を改善するための国際的な目標値が設けられ、その実現に向けた取り組みが続いていますが、正規の学校教育を受けられない女児の数は、依然として5,500万人に上ります。登下校時に暴力を受ける恐れは、女児が規則正しく学校に通うことを妨げる一因となっていますが、場合によっては、男女別の安全な衛生施設がないことも、これに拍車をかけています。女児の就学率向上を達成した国々でさえ、男子に比べて女子の留年や退学が多く、十分な成果が得られないこともあります。

エンパワーメント:

女児に対する差別と暴力に終止符を打つ鍵

差別と暴力の悪循環を断つためには、女児のエンパワーメントが必要です。エンパワーメントを受けた女児は、自分たちの生活をコントロールし、コミュニティと積極的にかかわり、自分たちに直接関係する問題について賢い選択を下す能力を高めることができます。

女児のエンパワーメントを図るためには、その潜在能力の十分な発揮を妨げている障壁を取り払わねばなりません。重要な対策としては、女児が教育や訓練、保健サービス、コミュニティ活動、そして、安心して同世代の仲間と交流できる場を利用できるようにすることがあげられます。

特に大きな危険にさらされている女児については、社会的、精神的な支援サービスが欠かせません。具体的には、女児の権利とリプロダクティブ・ヘルスに関する教育、職業訓練、自意識と自尊心を育てるツールや活動など、それぞれの年齢に適した総合的、包括的な情報やサービスを取り入れた女児専用プログラムという形で実施できるでしょう。特に、早期の妊娠や多産、HIV/エイズをはじめとする性感染症対策に関心を集中させる必要があります。

女児の経済的自立を援助することも、その保護とエンパワーメントにとって極めて重要ですが、世帯主である女児、HIV/エイズ、紛争または人身売買の影響に苦しむ女児など、危険性の高い状況で暮らす女児にとっては、これが大きく役立つ可能性もあります。

教育へのアクセス改善

教育を広く利用できるようにすることは、女児のエンパワーメントを図る上で極めて重要です。奨学金、制服、図書、無償の交通手段や給食の支給により、女児を学校に通わせるための費用負担を軽減するための取り組みは、女児の就学率を高め、維持するのに効果的な戦略といえます。女子専用の衛生施設や寄宿舎の設置、学校の電化、道路建設などへのインフラ投資を行えば、農村部の女児が教育を受けやすくなります。妊娠した女生徒や若い母親が学校に通い続けられるようする政策の導入は、女児の教育への平等なアクセスを確保する上で重要な一歩といえます。

ジェンダーに配慮した適切な教育の環境、方法、内容、教材を整備するとともに、教師と生徒のジェンダー認識を高めることも大切です。

女児のエンパワーメントを図るためには、自然科学、工学、技術など、これまで男性のものとされてきた分野への女児の進出を促すことも重要なステップといえます。情報通信技術(ICT)を利用できる女子が男子よりも少ないことからして、女児のICTへのアクセスを確保すれば、情報その他の人材育成機会に対するアクセスも改善するだけでなく、仲間同士やボトムアップ型のコミュニケーションを含め、社会的交流の機会も広がるため、女児に新たな道が開ける可能性もあります。

女児にとって「安全な場」の確保

人身の安全と治安の確保は、女児のエンパワーメントに必須の課題です。実例を見ても、女児にとって「安全な場」があれば、指導力などの重要な生活技能を磨いたり、友人と助け合いのネットワークを作ったり、自分たちの権利について学び、これを擁護したり、自分に対するプラスのイメージを身につけたり、自分たちの生活にかかわる事項について責任ある賢い決定を下す機会が生まれます。青少年クラブや、女子でも安心して利用できる総合センターに女児が参加すれば、その長期的な福祉によい影響が表れるだけでなく、女児が積極的に社会参加できるようなエンパワーメントを図り、その自尊心を傷つける社会的圧力に対抗できる見通しも明るくなることがわかっています。

安全で女子も参加しやすい形で行えば、スポーツも女児のエンパワーメントにとって強力なツールとなり、チームワーク、意思疎通、他者の尊重といった重要な価値観や技能の発達にもつながります。

温かい家族や友人、コミュニティといった女児に欠かせない社会資本を積極的に育成する必要があります。男児に対しては幼児期から、女性と女児が平等な取扱いと機会を得る権利を尊重する意識を植え付けるべきです。

今後の前進に向けて

女性や子どもに関するあらゆるレベルの政策、戦略、行動計画で、女児への配慮をさらに明確に打ち出さねばなりません。

各国は、女児にはっきりと焦点を絞った政策やプログラムを策定、強化する必要があります。また、分野を問わず、子どもやジェンダーに配慮した予算作成過程で、女児を具体的視野に入れるようにするなど、一般的な政策やプログラムで女児の視点を主流化するための取り組みもさらに進めるべきです。特に危険度の高い状況においては、女児のニーズや優先課題に取り組む革新的かつ特定的なプログラムを積極的に支援し、これに十分な資金を割り当てるべきです。

早期の妊娠、性感染症やHIV/エイズを予防する方法を含め、リプロダクティブ・ヘルス問題に対する女児の認識を高める必要もあります。また、年齢に見合った性教育を含め、情報やサービスを簡単に利用できるようにすることも必要です。

女児の権利に対する認知度と認識を高め、男性と男児の積極的な関与を求めることは、女児に対する差別と暴力をなくし、そのエンパワーメントを図る上で重要な戦略です。思春期の男子に対しては、男らしさ、女らしさとは何かを建設的に話し合い、特に性の健康やリプロダクティブ・ヘルス、HIV/エイズについて、女子と有意義な意見交換を行う機会を与えるべきでしょう。

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国連広報局作成  DPI/2450B-2007年2月