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東日本大震災の教訓を東北から世界へ! 国連デー@東北大学 (前編)

2011年10月26日

700人が参加して「国連デー@東北大学」が開催されました

国連憲章の発効を記念して設けられた「国連デー」の10月24日、仙台市の東北大学川内キャンパスで、記念イベント「国連デー@東北大学:東日本大震災からの復興、そして新生 ~東北から世界へ」が開かれました。東日本大震災の経験を共有し、その知見と教訓を世界に向けて発信しようと、国連機関、大学、企業、NPOの関係者や学生・高校生ら約700人が参加、活発に意見を交換しました。

会場となった東北大学は同月、地球規模課題の解決に貢献しようとする高等教育機関と国連のネットワーク「国連アカデミック・インパクト(UNAI)」に加盟したばかり。今年の国連デー・イベントは、その署名を記念して、同大と駐日国連諸機関が共同で主催する形となりました。

【オープニング】

主催者を代表して挨拶した井上明久・東北大学総長は、「大震災という人間の生存と尊厳を揺るがす過酷な体験は、世界の国々に共通する。9.11がアメリカと世界を変えたように、3.11が日本、そして世界を変える」と強調。「この経験や教訓を人類共通の資産として後世に伝え、安心・安全社会の創世を目指した新たな人類社会へのパラダイムシフトを実現していくことが、今を生きる私たちの役目です」と訴えました。

開催地・仙台の奥山恵美子市長は、「国連をはじめ、地方大学、関係機関の結集した叡智によって、これからに向けての様々な知見がいただけることは、被災地・仙台にとっても貴重な機会です」と歓迎。続いて潘基文・国連事務総長からのビデオメッセージが紹介されました。

オープニングの最後には、阪神淡路大震災の経験を活かすべく、前日、東北大学と災害科学分野での包括提携を結んだ神戸大学の福田秀樹学長が登壇。神戸大学が取り組んできた学生ボランディア支援や三次元システムによるシミュレーション技術を活用した計算科学人材育成に加えて、「今後は介護・看護、災害用ロボットの技術開発、バイオリファイナリー、農業汚染物質や汚染水の浄化、被災歴史資料の保存の取り組みなど、各分野で連携が可能かどうか、検討を進めていきたい」と決意を述べました。

【持続可能な社会の新生に向けて ①大学からの視点】

最初の基調報告では、東北大学理学研究科の山口昌弘教授をファシリテータに、神戸大学と東北大学が、それぞれの被災体験から得られた教訓と将来に向けた提言を披露し合いました。

神戸大学都市安全研究センター長の田中泰雄教授は、「阪神淡路大震災と東日本大震災をつなぐ次世代の安全社会づくり」をテーマに発表。阪神淡路大震災から学んだこととして、包括的な総合防災の必要性と、自然災害に対する事前対応としての「減災」の重要性を訴えました。また、このためには、「リスクアセスメント」「リスクマネジメント」に加えて、教育を通じて経験を次世代に伝えていく「リスクコミュニケーション」が欠かせないとして、大学間の知恵と情報の共有を呼びかけました。さらに、阪神淡路大震災から10年の節目にあたる2005年に神戸で開かれた国連世界防災会議で採択された世界的な防災10年戦略「兵庫行動枠組」に言及。「2015年に、東日本大震災の経験をもとに世界にどういうメッセージを発信できるのかが、日本に課せられた大きな課題だ」と主張しました。

一方、東北大学からは、「震災からの復興と持続可能な社会の新生に向けた東北大学の取り組み」と題して、3分野の専門家が、それぞれが取り組んでいる復興アクションを紹介しました。農学研究科の中井裕教授は、マガキ養殖復興支援や被災農地調査、食用・エネルギー用の菜の花の栽培といった「食・農・村の復興支援プロジェクト」のこれまでの実績を報告。「被災農家は農家を継続しながら、自ら農地を復旧させることによって、プライドと将来への希望を持つことができる」と支援活動の意義を強調しました。

電気通信研究所長の中沢正隆教授は、東北大学電気通信研究機構を通じた産学官の連携とグローバルな協力に基づく、災害に強い情報通信ネットワークの構築に向けた研究開発の現状について発表しました。被災後に明らかになったICTの問題点について、①通信回線の途絶②情報収集の不能③情報発信の不足を挙げ、対応策として通信インフラが被災した状態でも最低限の通信容量を保障できる無線・通信・光の統合ネットワークの確立や、携帯電話が使えなくなった場合でも地域のワイヤレスLANを活用できるような、低消費電力の無線ネットワークの開発、災害時のトラフィックの急増に耐えられる高速光ネットワークの整備などの取り組みを紹介しました。

震災復興関係の環境エネルギープロジェクトを担当している総長特任補佐の湯上浩雄教授は、同大が今後進めていこうと考えている環境エネルギープロジェクトについて説明。太陽光、地熱、風力、小水力など、東北の豊かな自然エネルギーとバイオマスなどを有効利用しつつ、災害時、平常時を問わず、安全・安心なエネルギー供給を確実にすることが重要との考えを示しました。そのためには、平常時には系統電力と連携し、夜間蓄電やコジェネレーションを効率的に利用する一方、災害時には、家庭、地域、都市など階層ごとに最低限必要なエネルギーの自立が必要だとして、実現に向け、今後は「東北、全国、そして世界の大学・教育機関とも連携してクリーンエネルギーの研究・開発を推進していきたい」と締めくくりました。

【持続可能な社会の新生に向けて ②企業からの視点】

続いて行われた二つ目の基調報告では、東北大学経済学研究科長の大滝精一教授をファシリテータに、日本の産業界を代表する企業と、東北で活動する企業各2社の代表が、企業の社会貢献や今後のCSR(企業の社会的責任)のあり方、震災を踏まえた本業のイノベーションの方向性などについて、アイデアを出し合いました。

まず冒頭に、富士ゼロックス株式会社の有馬利男・相談役特別顧問が、「CSRとは? 大震災を経て思うこと」と題して講演。世界で約8,000、日本でも146の企業・組織が加盟し、自らがジャパン・ボードの議長を務める「国連グローバル・コンパクト(GC)」の活動を紹介しました。特に震災後の取り組みとして、GCのジャパン・ネットワーク(GC-JN)の加盟企業が連携し、一体となってボランティア活動を行っていることなどについて報告しました。

このような活動は、学生ボランティアが少なくなる今年9月から来年3月まで、加盟企業が社員ボランティアを派遣する活動。現在は毎週14社が30人程度をめどに、最大60人ほど派遣しています。また、震災発生直後には、GC-JNから世界の約6,000企業に対して支援を要請。呼びかけに応じて提供された資金は、同氏が共同代表理事を務める民間、政府、NGOによる支援組織「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」を通じて、復興支援に役立てられました。

有馬氏は、「従来寄付というと、おつきあい的なものが多かったが、今回は億円単位の腰の据わった支援金がたくさんあった」とその特徴を述べた上で、そのほかの企業の支援活動の特徴として①長期・大型の支援活動の実施②自らの事業とのシナジーを探る動き③人材育成や企業間の連携を意識したボランティア活動④企業が社会活動のノウハウを得て、将来に備えるためのNGOなどへの人材派遣⑤専門能力をもった人材の提供によるプロボノ的な支援⑥社会起業的な発想による事業化—などの傾向が見られたと解説。「限られた事例ではあるが、企業の社会との関わり方、企業経営のあり方、大きく言うと日本産業のあり方が変わっていくのではないかという契機を感じた」と振り返りました。

続いて、「企業の活動事例」として、震災後に行った支援活動を3社が発表しました。パナソニック株式会社コーポレートコミュニケーション本部社会文化グループ戦略推進室の横川亘室長は、同社では①約8億円の支援金②本業の技術を活用した支援物資の提供③ボランティアなどその他の活動–を実施したと報告。中でも、本業の技術を活用した事案として、タンザニアの無電化地域に送る予定だった太陽光と蓄電池を活用した完全独立型の電源システム「ライフイノベーションコンテナ」を南三陸町に寄贈したケースや、魚などを瞬間冷凍できる仮設冷凍コンテナを他社と共同で漁港に提供したこと、太陽光パネルを使った充電式の電灯「ソーラーランタン」を被災地に約8,000個送った例などを紹介しました。また、学校支援活動として、事業用のHD映像コムを宮城県内の3つの高校に寄贈し、遠隔連絡、遠隔授業などに役立ったと話しました。

岩手県に工場を持ち、東北に約2,600人の働き手を抱える関東自動車工業株式会社の服部哲夫・取締役社長は、トヨタグループの一員としての物流ネットワークを活かし、救援物資の提供や土砂・がれきの撤去、家財の搬入などのボランティア活動を早い段階から現在まで実施してきたことに言及。トヨタの国内での自動車製造の13%を担っている立場から「モノづくり活動を持続的に成長していくことが地域の復興につながると信じて、これからの企業活動をがんばっていきたい」と意気込みを語りました。また、トヨタグループとして、日本における生産拠点を東北を含む3拠点で整備・強化していく計画を説明。東北大学などの地域の教育機関や、地場企業とも連携し、「モノづくり改革と技術開発力の強化を東北で実現したい」と呼びかけました。

仙台市若林区で300年以上にわたって農業を営んでいる株式会社舞台ファームの針生信夫・代表取締役は、農業の新しい姿を求めて、数年前に企業型農業をスタート。そうした状況下で発生した大震災により、所有する農地の70%が津波で被害に遭ったものの、2年前に建てたばかりの本社が無傷で残ったため、加工工場などにあった何十トンもの野菜、何百トンもの米、20トン以上の水を利用して、被災当日から炊き出しをしたエピソードを披露。1カ月で2万2千食以上を提供、陸前高田市から南相馬市にかけて支援物資110トンを運んだ実績を臨場感たっぷりに話しました。初動の3-4日間にこうした支援ができたことを振り返った針生氏は、農業会社が社会にあり、人々がパワーを得る源となった経験を通じて、新しい農業のあり方に確信を得たとしました。

【クロージング】

午前の部のクロージングでは、「日本『再創造』~未来を見据えよ」と題して、日本産学フォーラム(BUF)代表世話人で、東京大学総長顧問の小宮山宏・三菱総合研究所理事長が登壇。午前中のセッションで出た提言を踏まえ、これらを「東北の地において、整合性を持って実現する」ために必要なことを総括しました。

講演の冒頭で、「僕らは東北の地で、新しい社会をつくる、実現する機会を与えられたと考えるべきだ」と切り出した小宮山氏は、震災からただ復旧するだけでは、地域に若い人が戻らず、一気に高齢化が進む可能性があるとして、「復旧時にどうやって再生、発展のための種を仕込んでいくかポイントだ」と主張。その柱となる分野としては、最先端のエコロジー産業や地域健康医療産業、六次産業などを挙げ、中でも林業復活の必要性を訴えました。国土の70%近くが森林に覆われている国で、木材資源の自給率が24%であることに、世界からも森林伐採、自然破壊の面から非難が集まっている日本の現状を踏まえ、「荒れ放題にさせている」森林の復活は「十分に可能」と強調。また、「バイオマスは、山にいま燃やすものを取りに行って持ってきて燃やしても経済的に成り立つはずがない。しかし、日本全国で林業が復活すれば、同じ量くらいのバイオマスは自然に出て集まる。それが膨大なエネルギーになる」として、エネルギー自給の観点からも、林業の復活が鍵を握ると訴えました。

エネルギー問題については、「一番重要なのは効率。いかにしてエネルギーを確保するかも重要だが、それは二番目」と説明。「最大のエネルギー源は省エネルギー」との持論を展開しました。その具体例としては、日本の自動車が同じ重さの外国製自動車よりも20%もエネルギー消費が少ない事実を挙げ、「燃料電池車、電気自動車になれば、1台の車のエネルギー消費は2050年までにはいまの5分の1になる。重さが半分になれば10分の1になる。これが技術の役割で、それを日本がリードしている」との認識を示しました。

また、同様に重要なポイントとして、リサイクルに言及。「金属を上手に集めてリサイクルすれば、少ないエネルギーでもう一度資源になる。この『都市鉱山』は天然鉱山よりもいい」と強調。こうした技術改革を日本が牽引することで、2050年までにリサイクルで鉱物資源を供給する国となり、世界のモデルをつくることが重要だと述べました。加えて、家庭やオフィスのエネルギー消費は技術と工夫によりいくらでも減らせると分析。「車に代表されるように、いいものを作る競争で日本が勝ち続けて、日々の暮らしで使うことで日本の産業を強くし、それを世界に展開していく。これが日本の戦略です」との方向性を示しました。

小宮山氏はさらに、「Vision without action is a day dream. Action without vision is a nightmare.」という言葉を紹介し、「社会の中でいかにビジョンとアクションをうまく整合性を持ってやっていくのかが問われていく」と主張。水、木材、食料、鉱物資源、エネルギーといった基礎資源を自給するというビジョンは合理的、かつ日本のために必要だとして、「エネルギー自給率70%の国を目指しましょう」と呼びかけました。

具体的な目標として、現在の日本のエネルギー自給率18%を、32%まで増やすことを提案。自然エネルギーが豊富な東北が、この分野で日本をリードすることの重要性を強調しました。また、この数値目標を達成できれば、世界的な人工物の飽和により、エネルギーを必要とする建造物、車などの数は一定に抑えられ、加えてエネルギー消費自体が減ることで、合理的な推論として、55%減らすのは難しい目標ではないと試算。結果として自給率70%は達成できるとの見込みを示しました。その前提となる人工物の飽和については、21世紀前半までに、ほとんどの国が先進国化することによって、ビル、家、車、家具など、生活の基本的なものについては普及が進み、需要が飽和する状態だと解説。今考えなければいけないのは、モノの製造と販売が牽引してきたこれまでとは違う新社会をどう形成していくかだとして、我々が将来期待し、思い描く「プラチナ社会」(小宮山氏の造語)へ向かう姿を、世界に発信することだと訴えました。

後編へ続く

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初の地方開催となった国連諸機関による国連デー・イベント。会場の東北大学川内萩ホールには、約700人が駆けつけました。(写真提供・東北大学)
井上明久・東北大学総長
奥山恵美子・仙台市長
福田秀樹・神戸大学学長
持続可能な社会の再生に向けて~大学からの提言
ホール2階に設けられた学生によるパネル展示
持続可能な社会の再生に向けて~企業からの提言
有馬利男・グローバル・コンパクト・ボード・ジャパン(GC-BJ)議長
小宮山宏・日本産学フォーラム(BUF)代表世話人
午前と午後の部を結ぶネットワーキング・ランチでは、活発な意見交換が続いた