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世界防災白書 ― Living with Risk
より安全な世界を実現する防災の道筋を国連が明らかに

プレスリリース 02/065-J 2002年08月06日

 8月9日、国連は世界防災白書を発行する。地震で建物はぐらついても経済はぐらつかない、サイクロンでドラマは生まれても悲劇は生まれない、また洪水が風景を水びだしにしても、希望を押し流してしまわない、そのような世界の実現を呼びかける。

 400ページにわたる「世界防災白書-Living with Risk」は、火山の噴火、森林・原野火災、ハリケーン、津波、地すべり、竜巻といった自然の力、また事故災害や環境悪化に起因する災害を通じて、専門家やコミュニティーが学んだ教訓の集大成である。我々が直面するこの課題はかなり手ごわい。というのも、過去10年のあいだに発生した4,777回の自然災害で、88万人以上の命が奪われ、18億8千万人の住まい、健康、生活に悪影響を及ぼしただけでなく、全世界で6,850億ドルもの経済的損失をもたらしたからだ。

 「現代の災害はしばしば人間活動により引き起こされているか、あるいは人間活動が災害の深刻さを助長させています」。コフィー・アナン国連事務総長は、白書の発行に寄せてこう述べている。「最も憂慮すべきは、人間が地球上の自然バランスを変え、この地球を居住可能な惑星にしている大気、海洋、極地の氷雪、森林、その他の自然の恵みに対してかつてない干渉をしていることです。同時に、我々自身をも潜在的に危険な状態に置いているのです。歴史上、人類がこれほど地震多発地域周辺の都市に集中したことはありません。貧困と人口の過密化でかつてないほどの人々が氾濫原や地すべりの発生しやすい地域での生活を余儀なくされているのです」

 白書では、1999年に終了した、国連「国際防災の10年」で得られた教訓を検証する。また、数世紀にわたって世界各地で風水害、森林・原野火災、干ばつなどからコミュニティーを守ってきた伝統的な方法に触れ、さらに、都市の爆発的成長がもたらす新たな脅威について検証する。また、政治による問題解決の努力や円滑な情報伝達が人命を救い、開発途上国に希望をもたらし始めている点についても言及している。

 「地震で死者を出さないようにするのは不可能ではない」、と国連人道問題担当事務次長の大島賢三氏は言う。「人は地震で亡くなるのではなく、危険な建物が原因で亡くなるのだ。自然の力はすさまじい。しかし、危険を予見することは可能だ。いわゆる『自然災害』でおびただしい数の犠牲者が出たのは、悲しいかな、そうした犠牲者や地域の指導者たちが、災害の危険性を理解せず、悲劇を未然に防ぐために必要な手段をとらなかったからなのだ。今回の白書は、安全な地球を実現するための旅の始まりと考えていただきたい」

 白書では、経済発展と不安定な環境との複雑な関連について検証している。たとえば、気まぐれな自然は、ハリケーンや地震という形で猛威をふるい、脆弱な経済に揺さぶりをかけ、最貧層の人たちの乏しい資産をも奪ってしまう。また、規模の小さな、それほど激甚でない災害が、マスコミの取材陣や救援隊が去ったあとも、被災地にじわじわと影響を及ぼし続けるのだ。白書は、リスク評価、予警報体制、公衆の安全といった簡単な手段が、将来に向けての地域開発計画に必ず盛り込まれるべきだ、と提言している。

 「防災について考える場合、一筋縄ではいかない問題がいくつもある。たとえば、活動や投資は、コミュニティーの緊急の必要に応えるものでなければならない反面、災害によって生じるリスクを軽減するものでなければならないということだ。開発が死活問題である諸国にとって、とりわけこの点は重要である」。2000年に活動を開始し、より安全な世界を築き上げるための新しい処方箋をまとめた国連国際防災戦略事務局の事務局長である、サルバーノ・ブリセーニョ(Salvano Briceno)氏は次のように話している。「たとえば、連絡がつきにくい遠隔地に早期警報システムを設置すれば、事故や急患といった『通常の』緊急事態に通信手段として利用することもできる。教訓から学んだ人々が、災害に強い安全な社会を創るのだ」

 一例をあげよう。1991年、サイクロンとそれに伴う高潮に襲われたバングラディシュでは、13万9千人以上の死者がでた。その後、気象関係者、政府の計画立案者、一般のボランティアが、最も危険な地域にいる人々に警告を発し、最寄りの避難シェルターに避難させるための迅速、単純、かつ安上がりな方法を考え出した。相変らずベンガル湾は、年中行事のように高潮とサイクロンに見舞われているが、今では人々が万全の備えを怠らないため、犠牲者の数は激減している。しかしながら、ある地域で得られた教訓が、別の地域で生かされるとは限らない。1998年、ハリケーンミッチは、ホンジュラスとニカラグアの社会基盤の70%を破壊した。翌年には、100年に一度の大型サイクロンがインドのオリッサ州を襲い、被災者数はミッチの時の10倍に達し、一晩にして1万8千もの村が全滅したのである。

 「この白書は、これまでとは違う未来を提言している。防災そして脆弱性の軽減こそ、最善の策なのだ。少ない費用で、犠牲者の数は減り、生活を守り、明るい未来を築くことができる。災害リスクの軽減は、持続可能な開発の一部なのだ」

 白書「Living with Risk」は、よりよい世界への道筋を提示している。そのような世界では、コミュニティーが自然の脅威と対峙して存在するのではなく、環境に順応して共生している。政治家、計画立案者、土木技術者、銀行業 / 保険業者、地質学者、気象学者、社会福祉の専門家、医師、緊急対応専門家による経験に基づいて本白書は作成されている。また、人間活動によって引き起こされる地球規模での温暖化がもたらす新たな問題についても述べ、他方、アンデス山脈のインカ帝国、ベトナム、上海といった様々なコミュニティーで数世紀前から実践されている、干ばつや風水害に対する単純だが効果的な防災の手法についても取り上げている。

 「我々は、もう一度、自然と共に生きるすべを学ぶ必要がある」、とブリセーニョ氏は言う。「高度な科学技術を駆使した方法を考えようとか、昔の単純な世界に戻ろうと言っているのではない。高度な科学技術は、多くの国では経済事情から適用が困難だろうし、素朴な昔の世界に戻ることなどは、夢物語にすぎないからだ。無理なことをやろうと言っているのではない。災害についてより理解を深め、なぜ我々の社会が脆弱なのか、どういう災害リスクがあるのかを知ったうえで、慎重に災害に備え、防災に努めようと提案しているにすぎないのだから」

 世界防災白書の全文は、ISDRのホームページで読むことができます。(www.unisdr.org)
 国連ISDR事務局への問い合わせ:H. Molin Valdes (molinvaldes@un.org)