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国連総会での事務総長演説 「混乱から平和へ」 (ニューヨーク、2014年9月24日)

プレスリリース 14-062-J 2014年09月30日

この新装成った総会議場に皆様をお迎えでき、たいへん光栄に思います。

この偉大な議場は「われら人民」が本拠とする場所です。21世紀に見合う姿へと改修、刷新され、新たなスタートを切りました。

この改修を可能にした皆様全員に感謝します。

「キャピタル・マスター・プラン」は簡単なプロジェクトではありませんでした。しかし、加盟国の皆様は、そのビジョンを受け入れました。そして、投資をしました。皆様が今、目の当たりにしているのが、その素晴らしい成果です。私たちはこの最新式の空間の中で、世界の現状の改善に取り組んでいくのです。

こちらをご覧ください。

[39秒間の「バーチャル・テープカット」合成写真を上映]

本当のところ、私たちは壮大なオープニング・セレモニーを行いたかったのですが、お金と時間を節約するため、このバーチャル・オープニング・セレモニーを行うこととしました。

すべての人民、そしてすべての国々の名において、私はこの総会議場のオープンを正式に宣言します。ありがとうございました。このバーチャル・オープニング・セレモニーによって、皆様は多くの資金を節約したのです。ご理解に感謝いたします。

毎年、この時期になると、議場は希望にあふれます。それは国連憲章に体現された希望であり、この壇上で発言する指導者たちの希望であり、その約束を耳にする全世界の人々の希望でもあります。

今年は、その希望に陰りが見えています。言語に絶する残虐行為や罪のない人々の死によって、私たちは沈痛な思いに包まれています。冷戦の亡霊が再び、私たちの前に姿を現したのです。私たちは「アラブの春」が道を誤り、暴力的な方向に進む様子も目にしました。

第2次世界大戦の終結以来、これほど多くの難民や国内避難民、亡命者が生じた時期はありません。国連がこれほど多くの人々に、緊急食料援助その他の救命物資の支給を要請されたことも、今までありませんでした。

暴力で事が収まると信じる人々により、外交は守勢に立たされています。自分たちの考え方だけが正しいのだと主張する過激派により、多様性は攻撃を受けています。戦争の永続化で利益を得る人々の妨害行為により、軍縮は非現実的な夢とみなされるようになりました。

危機が積み重なり、疾病が広がる中で、世界は崩壊しつつあるように見えるかもしれません。しかし、リーダーシップの役割はまさに、希望の種を見つけ、これを大きく育てていくことにあります。それが私たちの責務です。それこそ、私がきょう皆様にお願いしたいことなのです。

この1年間は、国連憲章に謳われた諸原則にとって試練の年となりました。樽爆弾から断首刑に至るまで、さらには民間人に対する兵糧攻めから病院、国連が設置した避難所、援助車両への攻撃に至るまで、人権と法の支配が攻撃にさらされています。

最近のガザの悲劇を受け、パレスチナとイスラエルの人々の亀裂はかつてなく深まっています。二家共存という解決策を維持できなければ、私たちは戦闘の永続化を覚悟せねばならないでしょう。

ウクライナと周辺地域の情勢不安も続いています。

南スーダンでは、政権争いによって数千人が死亡したほか、数百万人が飢饉のリスクにさらされています。

中央アフリカでは物理的、精神的疲弊が進んでいます。

マリとサヘル地域は依然として、反乱やテロ、不正薬物の密輸、組織的犯罪の温床となっています。

ソマリアでは、アフリカ諸国連合がテロ集団「アル・シャバーブ」と対峙しています。ナイジェリアでは「ボコ・ハラム」が残虐行為を本格化させており、女性と女児に深刻な影響が及んでいます。

イラクとシリアでは、日ごとに蛮行が激化し、中東地域全体に破壊的な波及効果が広がっています。

全世界のイスラム教指導者が繰り返し述べているように、この地域で猛威を振るっているテロ組織は、イスラムの教えと何ら関係ありません。これら過激派集団が国際の平和と安全にとって脅威となっていることは明確であり、この脅威には多面的、国際的な対応が必要とされています。

私たちは、凶悪犯罪に歯止めをかけるため、断固とした行動を取る一方で、そもそもこの脅威が生まれた原因について、率直に議論する必要があります。中東地域の人々は、国際法も基本的人権も尊重しない悪いガバナンスと間違った決定のツケを払わされてきたからです。

世界全体で国家と制度の脆弱性がこれほど露呈したことはありませんでした。その中には、腐敗によって空洞化が生じたケースもあれば、排除政策によって被害者が怒りや絶望、暴力へと駆り立てられたケースもあります。国家はガバナンスの責任、それもすべての国民のためのガバナンスの責任をしっかりと果さなければなりません。

あからさまな戦闘が起きていない場所でも、暴力は依然として暮らしを蝕んでいます。男性が女性を犠牲にする構造は、戦場から市街地、さらには公共の空間から家庭という私的空間に至るまで、全世界で見られます。移住者はますます危険な旅を強いられるだけでなく、目的地に着いても受け入れを拒まれています。

統合のモデルとみなされてきた多くの国々でも、対立を煽る政策が導入されるようになりました。他者が偏見を持っていることはすぐに気づいても、自分自身の中にある偏見には気づかない人々が多くいます。リアルタイムのコミュニケーションや自由貿易、移動の簡便さといった、人々を結びつける動きは、人々を分裂させる勢力によっても活用されています。

世界に「シートベルト着用」という警告が出ています。多国間システムや国内の諸制度、人々の生活が乱気流にさらされているからです。

人権は私たちの対応を判断する試金石のひとつです。「Human Rights Up Front(人権最前線)」イニシアティブのねらいは、私たちの思考と現場での取り組みの中心に人権を据えることにあります。南スーダン全土の国連拠点で10万人近くが保護されたことは、この新たなアプローチの大きな初期的成果といえます。

国際社会も同様に、早期警報メカニズムとしての人権の価値に対する認識を高める必要があります。私は加盟国に対し、その国民に対する責任を全うするよう強く促します。国家も自らの脆弱性について、オープンに議論する必要があります。世界人権宣言は単に一連の自由を宣言しているだけでなく、保護されない人々は決して黙っていないと警告していることも想起しようではありませんか。

私たちは問題を予期し、早いうちに政治的合意を達成できるよう、はるかに多くの取り組みを図る必要があります。

私たちが直面する課題によりよく対処できるよう、私は国連平和維持活動の見直しを求めており、数週間後にはハイレベル調査委員会の設置も予定しています。

安全保障理事会の結束は欠かせません。安全保障理事会が団結すれば、シリアの化学兵器全廃、中央アフリカ共和国での平和維持活動の合意、アフリカ大湖地域における和平枠組みへのタイムリーな支援といった、具体的な成果が表れます。

逆に、シリア問題については依然として結束が見られないことで、深刻な人的被害と、安保理をはじめとする国連全体に対する信頼の低下が生じています。

総会もまた、その責任を堅持し、果たすべき役割を全うしなければなりません。

今まさに燃えさかる炎から出る煙で、将来の問題や可能性を見失うことがあってはなりません。

希望を持つべき理由を見つけることは難しいかもしれませんが、その理由は現実に存在します。病院や学校をはじめ、目立たぬところで開発課題は目覚ましい進歩を見せています。

地球規模の貧困、幼児死亡率、妊産婦死亡率はいずれも半減しました。まだ長い道のりが残ってはいるものの、このような進歩、そしてその他多くの進歩は、ミレニアム開発目標(MDGs)がどれだけ大きな効果をもたらしたか、そして私たちが団結すれば何が達成できるかを如実に示しています。

現在は今後15年間の行動計画に関し、活発な世界的対話が進められているところです。

小島嶼開発途上国は今月、「 Samoa Pathway(小島嶼開発途上国行動モダリティ推進への道)」を採択し、この議論に参加しました。この成果文書は、特にこれら開発途上国に影響する諸問題に取り組む幅広いアクションプランとなっています。

この議場では2年前、全世界の先住民が、その社会からの隔絶に終止符を打つよう求めました。

そして一昨日、世界の指導者たちは、カイロ人口開発会議で達成された歴史的コンセンサスを引き続き実施に移すべきことを再確認しました。

私たちが望む未来に関する対話は、国連がこれまで繰り広げた中で最もオープンなイニシアティブのひとつとなっています。世界的なアンケート調査「マイ・ワールド」には、500万人以上が参加しました。私はさらに数百万人が、オンラインでその意見を表明することを期待しています。

この対話によって、壮大なプロジェクトができ上がりつつあります。それは、貧困や飢餓を単に削減するのではなく、これをなくすとともに、すべての国々とすべてのコミュニティが真に持続可能な開発への道を歩めるようにするという意志に裏打ちされた、すべての国に適用される普遍的なプログラムです。

国連総会のオープン・ワーキング・グループは、MDGsで達成できなかった目標を達成し、不平等を緩和し、地球環境を保護し、私たちが望む未来を構築するための持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の素案を提出したところです。皆様の要望どおり、私は年末、加盟国による交渉のたたき台となる総括報告書を提示する予定です。

私たちが目標とするのは転換です。その出発点は、女性と女児のために門戸を開き、天井を壊すこと以外に考えられません。 ステレオタイプ的な思考は深く根ざしています。貧困から災害、疾病、さらには非識字に至るまで、どの危機を取ってみても、女性と女児が最も苦しんでいることがお分かりになるでしょう。世界人口の50%を排除したままで、世界の潜在能力を100%発揮することなどできないのです。

気候変動対策は、私たちのどの希望とも切り離せない要素です。私は3日前、ここニューヨークの街で、よりクリーンでグリーンな未来を求める数十万人のデモ行進に加わりました。参加者は指導者たちに対し、その苛立ちだけでなく、機会があることも示すメッセージを送ったのです。

昨日の「気候サミット」は、画期的な出来事でした。私たちは国家、資本、CEO、そして市民が大同団結する姿を目の当たりにしました。マルチステークホルダーの連合が、排出量を削減し、強靭性を育て、私たちの経済と社会を大転換させるための資金を拠出するため、過去に例を見ない行動を起こしました。私たちはこの勢いを今年12月にリマで、そして来年にはパリで、有意義かつ普遍的な気候協定へと結びつけねばなりません。デモ行進の横断幕の言葉を借りれば、私たちには「しなければならないことをする」義務があるのです。

気候変動対策とポスト2015年開発アジェンダへの取り組みの信憑性を高めるためには、資金の確保が欠かせません。今こそ、グローバルな富とグローバルな必要性を適正にマッチさせる時です。官民、国内・国外を問わず、あらゆる資源を活用することが必要です。予算を徹底的に切り詰めれば、人々が苦しみます。資源を人間の潜在能力を発揮するためでなく、武器の性能を向上させるために使えば、私たちの安全は損なわれます。

私たちの優先順位をはっきりさせ、適切な政策を導入し、人々のためになる投資を確保することも、リーダーシップの役割です。今後15カ月は、グローバルな繁栄と安定を決定づける期間となるでしょう。私は皆様に対し、是非とも望みを高く保つようお願いします。

西アフリカでのエボラ出血熱の流行は、未曽有の危機へと発展しています。私はこの理由から、影響を受けている国々とコミュニティによる取り組みを補強するために必要なあらゆる資源を動員するため、初の保健活動「国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)」を立ち上げました。

このミッションは、世界保健機関(WHO)の専門知識を国連の後方支援能力と組み合わせたものです。UNMEER要員は一昨日、ガーナに到着し、ミッション本部の開設に取りかかっています。国際社会は現地の医療従事者の支援に向けて結集しています。

私たちは今、ケア、追跡、輸送、機材の面で取り組みを20倍に拡大する必要があります。食料が値上がりし、食料システムが崩壊の危険にさらされる中で、食料の安定確保はますます重大な懸案となりつつあります。

私たちは恐怖とデマというウイルスに対処しなければなりません。人の移動や輸送を禁止しても、医療要員や医療用品が届かなくなるだけで、エボラの蔓延は食い止められません。エボラ患者を隔離する必要はあっても、その対策に懸命に取り組んでいる国々を隔離する必要はありません。

私たちはリーダーシップと連帯により、ギニアやリベリア、シエラレオネの人々がエボラ出血熱の流行を食い止め、よりよい未来へとつながる道に回帰する手助けけができるのです。

世界は最近、第1次世界大戦開戦100周年を迎えました。

多くの紛争がそうであるように、この戦争も全体構想というよりは、小さな問題の取り扱いを誤ったことから勃発しました。

第2次世界大戦後の国連の創設は、グローバルな決意の成果でした。戦後の計画立案者たちを駆り立てたのは、単に「二度と過ちを繰り返さない」という思いだけでなく、私たちが「力を合わせる」ことによって、どのような世界を実現できるのかというビジョンでもあったのです。

私たちは現在、山積する課題に直面しています。人々は強欲や不平等からの保護を求めています。国連はその声に応えなければなりません。

第1次世界大戦から1世紀が経過し、私たちは70年に及ぶ経験を国連とともに積んできました。しかし、世界は依然として、実現できるはずの平和を手にしていません。

私たちは現在、天災よりもはるかに多くの人災に直面しています。私たちが母なる自然を制御することは不可能かもしれません。しかし、世界の平和と正義を確保する責任は、私たち以外の誰にあるというのでしょうか。

戦争であれ、貧困であれ、無知であれ、人間がつくる危機は人間が止められるはずです。

私たちの世代がこのままの世界を安心して子どもたちに引き継げるとは思えません。

それでも、私には希望があります。その希望の源こそ、激動の時代にも変わらず私たちを導いてくれる国連憲章に他なりません。

私は国連の職員や平和維持要員、人道援助要員、人権擁護者その他、国連憲章の精神を体現している人々から感銘を受け続けています。

私たちがこの偉大な議場を新時代に見合うよう改修したのと同じように、私は各国代表、そして各国首脳の皆様がリーダーシップを立て直し、目的の一貫性を回復することを期待しています。私たちは国家連合として、いかなる課題にも取り組む能力と意志を備えているのです。

皆様のリーダーシップに感謝いたします。ありがとうございました。

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