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根拠は明白、行動の時はいま ― 2030年までの排出量半減は可能(2022年4月4日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 22-018-J 2022年04月12日

ジュネーブ、2022年4月4日 – 本日発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書の中で、科学者たちは、2010-2019年の全世界の年間平均温室効果ガス排出量は人類史上最も高い水準であったものの、増加のペースは減速していると述べています。すべての部門において排出量を直ちにかつ大幅に削減しない限り、地球温暖化を1.5°Cに抑えることは不可能ではあると指摘すると同時に、気候変動対策のエビデンスは増えているとしています。

2010年以降、太陽光・風力発電、蓄電池のコストは、最大85%まで持続的に低下しています。政策や法制度の幅が広がることで、エネルギー効率が改善し、森林破壊が減速し、再生可能エネルギーの導入が加速しました。

「私たちは岐路に立っています。今日私たちが下す決定によって、住み続けられる未来を確保することができるのです。私たちは、温暖化を抑えるために必要なツールとノウハウを持っています。私は、多くの国々が気候変動対策を講じていることに勇気づけられています。政策、規制、市場機能は効果を発揮しつつあります。これらの規模を拡大してより広く公平に適用すれば、大幅な排出削減を支援し、イノベーションを刺激することができるのです」李会晟(イ・フェソン)IPCC議長はこのように語っています。

IPCC第3作業部会報告書『気候変動2022:気候変動の緩和』の政策決定者向け要約は、2022年3月21日からオンラインで開かれた承認セッションにおいて、4月4日に195のIPCC加盟政府による承認を受けました。同報告書は、今年完成予定であるIPCCの第6次評価報告書(AR6)の第3回分にあたります。

すべての部門に、2030年までに排出量を少なくとも半減させるための選択肢がある

地球温暖化を抑制するには、エネルギー部門における大転換が必要です。それには、化石燃料利用の大幅な削減、広範囲に及ぶ電化、エネルギー効率の改善、(水素などの)代替燃料の利用が含まれます。

「私たちの生活様式と行動の変化を可能にするための正しい政策、インフラ、テクノロジーを導入することで、2050年までに温室効果ガス排出量を40-70%削減することができます。これは、未着手の大きな可能性をもたらすものです。エビデンスによれば、こうした生活様式の変化によって、私たちの健康と福祉を増進することも可能です」プリヤダルシ・シュクラIPCC第3作業部会共同議長はこのように述べています。

都市やその他の都市部もまた、排出量削減の大きな機会を提供します。これは、(徒歩で移動可能なコンパクトな街づくりなどによる)エネルギー消費量の削減、低排出のエネルギー源と組み合わせた輸送手段の電化、自然を活用した炭素の回収・貯留の改善によって達成することができます。歴史ある都市、急成長を遂げている都市、そして新たな都市を対象にした選択肢があるのです。

「ほぼすべての気候下において、ゼロ・エネルギー・ビルやゼロ・カーボン・ビルの例があります。今後10年の行動が、建造物による緩和の可能性を実現する上で非常に重要です」こう語るのは、ジム・スキーIPCC第3作業部会共同議長です。

産業界で排出量を削減するには、原料使用の効率化、製品の再利用とリサイクル、廃棄物の最小化が必要です。鉄鋼、建材、化学製品といった一次材料については、温室効果ガスの排出量が低かっったり、ゼロであったりする生産プロセスが、試験段階や商用に近い段階にあります。

この部門が世界の排出量の約4分の1を占めています。排出量正味ゼロを達成することは難易度が高く、新たな生産プロセス、低排出・排出量ゼロの電力、水素、そして必要に応じて炭素の回収・貯留が必要です。

農業、林業とその他の土地利用においては、大規模な排出量削減のほか、規模を拡大して二酸化炭素の除去・貯留も可能です。しかし、土地利用によって、その他の部門における排出量削減の遅れを埋め合わせることはできません。対応における選択肢により、生物多様性に恩恵をもたらすことができ、気候変動への適応を支援し、生計手段、食料と水、そして木材の供給を確保することができるのです。

次の数年間が非常に重要

私たちが評価したシナリオでは、温暖化を1.5°C(2.7°F)前後に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までに減少に転じさせ、2030年までに43%削減する必要があります。同時に、メタンも約3分の1削減する必要があります。これを行ったとしても、一時的にこの気温の閾値(いきち)を超えてしまうことはほぼ避けられませんが、今世紀末までには閾値未満に戻せる可能性があります。

スキー共同議長は以下のように述べています。「地球温暖化を1.5°C(2.7°F)に抑えたいのであれば、今が最後のチャンスなのです。すべての部門で排出量を直ちに、かつ大幅に削減しない限り、それは不可能です」

二酸化炭素の排出量が正味ゼロに達した時、世界の気温は安定します。気温上昇1.5°C(2.7°F)の場合、それは世界の二酸化炭素の排出量正味ゼロを2050年代初頭に達成することを意味します。2°C(3.6°F)の場合は、2070年代初頭です。

今回の評価では、温暖化を2°C(3.6°F)前後に抑える場合でも、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までに減少に転じさせ、2030年までに25%削減しなければならないことが示されました。

投資ギャップの解消

本報告書はテクノロジー以外も視野に入れています。資金の流れは、温暖化を2030年までに2°C(3.6°F)未満に抑えるために必要な水準の3分の1から6分の1にとどまっている一方、投資ギャップを解消するための世界の資本と流動性は十分にあることを示しています。しかしそれは、公的部門の資金と政策の整合性を高めることを含め、各国政府と国際社会から明確なシグナルを発信することにかかっています。

シュクラ共同議長は以下のように語っています。「適応コストの減少や、気候への影響を回避することによる経済的利益を考慮せずとも、私たちが温暖化を2°C(3.6°F)以下に抑えるために必要な措置を講じた場合、2050年の世界の国内総生産(GDP)は、現行の政策を維持した場合と比較して、数ポイント低くなるにすぎません」

持続可能な開発目標(SDGs)の達成

持続可能な開発には、気候変動による影響の緩和と適応のために加速させた公平な気候変動対策が不可欠です。一部の対応における選択肢は、炭素を吸収・貯留できると同時に、コミュニティーが気候変動に伴う影響を抑える上で役立ちます。例えば、都市においては、公園と緑地のネットワーク、湿地、都市農業により、洪水のリスクとヒートアイランド効果を軽減することができます。

産業界における緩和は、環境に与える影響を軽減し、雇用とビジネス機会を増大させることができます。再生可能エネルギーによる電化と公共交通機関における転換により、健康、雇用、公平性を高めることができます。

「気候変動は、1世紀以上にわたる持続不可能なエネルギーと土地の利用、生活様式、生産・消費形態の結果です。本報告書は、いまどのような対策を講じるかで、私たちがより公平で持続可能な世界に向かって進めるかを示しています」スキー共同議長はこのように述べています。

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。

IPCC Press Office
メール:ipcc-media@wmo.int

IPCC第3作業部会
Sigourney Luz
メール:s.luz@ipcc-wg3.ac.uk

Facebook、Twitter、LinkedIn、InstagramでIPCCをフォローしてください。

編集者向け注記

『気候変動2022:気候変動の緩和』 ― 気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書への第3作業部会からの報告

第3作業部会の報告書は、気候変動の緩和における前進と誓約に関する最新の世界的な評価を提供し、世界の排出源について検討しています。また、長期的な削減目標と関連した気候変動に関する各国の誓約の効果を評価しつつ、排出量削減と緩和の取り組みにおける展開について説明しています。

第3作業部会は、最新の報告書において新たな内容を複数導入しています。1つは緩和の社会的側面に関する新たな章で、「需要サイド」すなわち消費と温室効果ガス排出を促進する要素について検討しています。この章は、気候変動の「供給サイド」すなわち排出している側について検討した、本報告書の部門別の各章と対になっています。また、二酸化炭素の除去技法など、部門をまたいだ緩和の選択肢に関する横断的な章も設けています。さらに、イノベーション、技術開発と技術移転に関する新たな章では、適切に策定された政策に基づいて国家レベルで確立されたイノベーション・システムが、好ましくない結果を回避しつつ、緩和、適応と持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できることを説明しています。

第6次評価報告書(AR6)への第3作業部会からの報告の政策決定者向け要約と追加的資料・情報は、https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/でご覧になれます。

注記:報告書は当初、2021年7月に発表予定でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、IPCCを含む科学界における作業がオンラインに移行したため、数カ月の遅れが生じました。IPCCがその報告書の1つについてオンラインによる承認セッションを開催したのは、今回が3回目です。

数字で見るAR6第3作業部会

報告書は65カ国の執筆者278人によって作成されました。その内訳は下記のとおりです。
▪ 統括執筆責任者36人
▪ 主執筆者163人
▪ 査読編集者38人

その他に執筆協力者354人が参加しました。

18,000点以上の参考文献が引用されました。

専門家と政府からの査読コメントは計59,212件でした。

(1次ドラフト21,703件、2次ドラフト32,555件、政府に配布した最終ドラフト4,954件)

IPCCについて

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関です。気候変動、その影響とリスクに関する科学的評価を政治指導者に定期的に提供するとともに、適応と緩和の戦略を提案することを目的に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって1988年に設置されまました。国連総会は同年、WMOとUNEPによるIPCCの共同設立に支持を表明しました。IPCCには195カ国が加盟しています。

世界中から何千もの人々がIPCCの業務に貢献しています。評価報告書については、専門家がIPCCの執筆者として自発的に時間を割き、毎年発表される数千点の科学論文を評価し、気候変動の要因について知られていること、その影響と将来のリスク、また適応と緩和によってそれらのリスクを低下できる方法について、包括的な要約を提供しています。

IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は気候変動の自然科学的根拠を、第2作業部会は影響、適応および脆弱性を、そして第3作業部会は気候変動の緩和をそれぞれ取り扱います。また、排出量と除去量測定の方法論を開発する国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースも設けられています。

IPCCによる評価報告書は、あらゆるレベルの政府に対し、気候変動政策を策定するために利用できる科学的情報を提供します。IPCCの評価は、気候変動に取り組むための国際交渉で重要な参考資料となります。IPCCの報告書は数段階に分けて起草、審査されることで、客観性と透明性が保証されています。

第6次評価サイクルについて

包括的な科学的評価報告書は、6、7年に1回発表されます。直近の第5次評価報告書は2014年に完成し、パリ協定に主要な科学的知見を提供しました。

IPCCは2015年2月の第41会期において、第6次評価報告書(AR6)の作成を決定しました。2015年10月の第42会期では、この報告書と、第6次評価サイクルで作成すべき特別報告書に関する作業を監督する新たなビューローを選出しました。2016年4月の第43会期では、3件の特別報告書、1件の方法論報告書とAR6の作成が決定されました。

第1作業部会は2021年8月9日に、第6次評価報告書『気候変動2021:自然科学的根拠』を発表しました。第2作業部会は2022年2月28日に、第6次評価報告書『気候変動2022:影響・適応・脆弱性』を発表しました。

結びとなる第6次評価報告書の統合報告書は2022年秋に完成する予定です。

さらに、IPCCは評価報告書の発表の間に、特定の課題に関する特別報告書も発表します。

『1.5℃の地球温暖化』は、気候変動の脅威、持続可能な開発、貧困撲滅へのグローバルな対応を強化する観点での、産業革命以前と比較した1.5°C(2.7°F)の地球温暖化の影響、および関連のグローバルな温室効果ガス排出量の動向に関するIPCCの特別報告書であり、2018年10月に発表されました。

『気候変動と土地』は、気候変動、砂漠化、土地劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障、および陸上生態系における温室効果ガスの流れに関するIPCC特別報告書であり、2019年8月に発表されました。また、『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書』は2019年9月に発表されました。

IPCCは2019年5月に、各国政府が温室効果ガスの排出量と除去量を推計するために使用する方法論の改訂版である『2006年国別温室効果ガス・インベントリーに関するIPCCガイドライン2019年精緻化版』 を発表しました。

さらに詳しい情報については、www.ipcc.ch をご覧ください。

ウェブサイトには、IPCCに関する動画と、ウェビナーや生配信イベントとして実施されたアウトリーチ・イベントの録画を含む、アウトリーチ用資料が掲載されています。

IPCCが公開した多くの動画が、IPCCのYouTubeチャンネルでご覧になれます。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

【関連資料】気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会報告書の発表に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長ビデオ・メッセージ (ニューヨーク、2022年4月4日)