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マイケル・C・ウィリアムズ
中東和平プロセス特別調整官による
東京セミナー基調演説

プレスリリース 07/040-J 2007年06月26日

東京、2007年6月26日

アラブとイスラエルの紛争は今まさに、その60年にわたる歴史の中でも有数の難局を迎えています。この意味で、「和平への道の回復(Restoring the path to peace)」というタイトルは、まさに理にかなったものといえましょう。事実、それこそが、国連の中東和平プロセス特別調整官である私の使命でもあります。 私がこの職に就いてからまだ6週間しか経っていませんが、その間にも、イスラエルとパレスチナの亀裂がどれだけ深いか、そして、国連安全保障理事会決議に体現された土地と和平の交換原則に基づき、占領と紛争に終止符を打つことがどれだけ困難かを、世界は痛感してきました。

ガザで暴力が噴出する1週間ほど前、世界は1967年の第3次中東戦争40周年を迎えました。当時から始まった占領は現在まで続き、イスラエルの一般市民はパレスチナ全土とゴラン高原に入植してきました。これらの入植地は、地続きのパレスチナ国家の樹立にとって最大の障害となっているだけでなく、パレスチナ人の暮らしを妨げるヨルダン川西岸地区の封鎖・バイパス道路システムの元凶にもなっています。

私たちはここ数週間、ガザ地区の事実上の政権がハマスによって暴力的に奪取され、パレスチナ挙国一致政府が崩壊し、アッバス議長が非常事態を宣言する姿を目の当たりにしてきました。パレスチナ人の闘争は対内的にも対外的にも、多くの危機によって彩られてきましたが、ここ数週間の深刻な騒乱ほど、深く大きな影響力を秘めたものはほとんどありませんでした。このような動きにより、パレスチナ人の間には事実上、地理的、党派的な分裂が生じました。そして、和平プロセスの基本原則を拒否し続ければ、平和は大きな試練にさらされることが再び明らかになりました。いかに不完全であろうとも、イスラエル人とパレスチナ人の双方にとって、自由で安全な将来を実現する方法は、この和平プロセスをおいて他にありません。

レバノンの安定もまた、パレスチナ難民キャンプの悲惨さと貧しさを糧とする過激派分子により、大きな脅威にさらされています。どちらの場合も、一般のパレスチナ人が最大の被害を受けることに変わりはありません。また、どちらのケースでも、過激派内部の日和見主義者がガザやレバノンからイスラエルにロケット弾を打ち込み、事態の悪化を目論んでいます。こうした攻撃はパレスチナ人の主義主張に資するどころか、その立場を悪くしています。

レバノンとガザに暮らすパレスチナ人の窮状は、依然として懸念すべき大問題です。レバノンでは、正規軍とファタハ・アルイスラム過激派との戦闘により、民間人数十人が死亡したほか、難民数千人がキャンプから脱出を余儀なくされました。ガザでは、党派間の戦闘で数百人が死亡し、さらに数百人がエジプトやイスラエル、ヨルダン川西岸地区へと避難しました。ガザと西岸地区でのイスラエル軍による作戦行動も、引き続き懸念すべき問題となっています。

このような事態を見て絶望することは簡単ですが、それは間違いです。私たちはその代わりに、現状の力学を変え、よりプラスの方向にエネルギーを注ぎ込むために何ができるかを考えなければなりません。

国連はこの意味で、ガザ地区封鎖による重大な人道上の懸念に対処すべく、日夜努力を続けているところです。ガザ地区に通じる道路の封鎖を解除するためには、全当事者の協力が必要ですが、この取り組みでは、人道的な義務を最優先させなければなりません。

また、治安の悪化も大半のパレスチナ人にとって最大の懸案事項です。ガザと西岸地区は引き続き、パレスチナの領土として一体をなし、法的にはアッバス議長率いるパレスチナ自治政府が行政を担当していますが、現地の新たな状況を見ると、挙国一致政府の再建に向けてすぐに行動しない限り、パレスチナでは治安確保について、2つの異なるアプローチに発展することになりそうです。ファヤド首相率いる非常事態政府は、西岸地区の治安を最も差し迫った懸案事項としています。ガザでは、ハマスが秩序の確立に向けた動きを強めています。仮に今後、パレスチナ人同士の対話や新たな選挙があった場合、パレスチナの人々は、安定と秩序という最大の関心事項への取り組みにどちらが成功しているかを考慮することでしょう。

イスラエルと国際社会からの政治的、財政的支援を直ちにアッバス議長とパレスチナ自治政府に提供することはきわめて重要です。その手始めとして、イスラエルが徴収したパレスチナの付加価値税(VAT)と関税収入を直ちに引き渡すべきです。また、違法入植地からの立ち退き、バリケードや検問所の撤去、捕虜の釈放など、これまでイスラエルが行ってきた約束を実行に移す必要もあります。一方のパレスチナ自治政府(PA)も、暴力を停止するだけでなく、その機構を根本的に改革するという従来の約束を実行に移すべきです。このようなステップを積み重ねるとともに、パレスチナ人が知恵と成熟を示し、国民の結束という究極の必要性を見据えない限り、パレスチナ被占領地区の情勢が安定化する公算は低いでしょう。

しかし、それだけでは不十分です。特別調整官として見聞きしてきた事実によって、アラブ・イスラエル紛争の全側面に取り組む政治プロセスは、パレスチナ内部の安定だけでなく、長期的な地域の平和にとっても差し迫った要件であるという私の確信は、さらに強まりました。この意味で、休眠状態にあった4者協議(カルテット)が再び動き出し、当事者や地域関係者の実質的関与を強化させ始めたことは、喜ばしい動きといえます。地域内から新たなアイデアを募り、その活用を図るという新たなレベルの活動が始まったのです。そのきっかけは、アラブ連盟が2002年に発足させた包括的和平イニシアティブへの回帰を決意したことに求められます。このアラブ和平イニシアティブにより、アラブ諸国は歓迎すべき一員として、和平の模索に恒久的に参加することになりました。これはパレスチナ人にとっての朗報であると同時に、イスラエルに対しても、今後の中東地域におけるその地位という点で、和平にどのような意味があるかを明確に示すものといえます。しかし最も重要なのは、長年にわたって暴力と紛争に苦しんできた地域に、もうひとつのビジョンが生まれるということです。それは、40年間の占領が終わりを告げ、イスラエルが隣国と平和に共存する地域の姿に他なりません。私はこれまでの活動で、イスラエルとパレスチナという最も重要な中心的要素間の対話だけでなく、地域レベルの対話促進も重視する形で、国連の支援を確保してきました。私としては、イスラエルとシリアの交渉再開の可能性を探ることも、その中に含まれると考えています。

国際社会が再び関心を高めていることに加え、当事者も和平の前進に再び関心を高めている兆候が見受けられます。アッバス議長と新たに樹立されたパレスチナ非常事態政府は、再び国際社会との関係を深め、イスラエルとの対話を進める意欲を示しています。イスラエル指導部も、アラブ和平イニシアティブに前向きな姿勢を示した上で、2006年4月の選挙を受けて練られた構想、すなわち西岸地区の大部分から撤退するという立場に回帰するとの意向を表しました。オルメルト首相は、イスラエルにガザと西岸地区のパレスチナ人を統治する意図がないことを明言しています。また、イスラエル政府は現状において、一方的行動に出るという選択肢はないことを認識し、アッバス議長との協力によって、ともに目標達成を図ることも決意しています。私としては、その当然の帰結として、占領の終結と紛争の終結を重視し、かつ、最終決着という目標を目指してこれを緊急に成し遂げるプロセスのみが、すべての当事者にとって納得できる解決策だという結論が出るものと信じています。

とはいえ、レバノン国内の紛争が北部国境を越えて飛び火するのではないかとの懸念をイスラエルが抱くのは、無理からぬことです。イスラエル北部や南部に対するロケット弾攻撃で、被害や死者が出ているという状況は、どんな国にとっても耐えられるものではありません。また、パレスチナ自治政府の手が届かないところで武器の拡散や民兵の増強が進んだことで、多くの人命が失われたばかりか、パレスチナ人はイスラエルとの紛争だけでなく、不必要な内部抗争にも巻き込まれることになりました。こうした破壊的な勢力は現実に存在し、暴力を用いて、いかなる和平プロセスの再開も妨げようとしています。イスラエル社会の中で、西岸地区への入植を戦略的目標として追求し続ける勢力についても、同じことがいえます。

私たち全員には今、このような勢力が引き続き和平プロセスを牛耳ることを許してよいのか、という問いが突きつけられています。 攻撃によって、私たちの努力は無に帰し続けるのでしょうか。暴力を使ったり、既成事実を積み上げたりすることで、他方の側が自国内で平和に、そして安全に暮らすチャンスを葬り去ろうとする者を目の当たりにしながら、私たちはこのまま何もできないで終わるのでしょうか。和平への道を修復するとすれば、答えは自ずと明らかでしょう。