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犯罪防止刑事司法委員会第27会期におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶(ウィーン、2018年5月14日)

プレスリリース 18-029-J 2018年05月16日

事務総長として初めて、ここウィーンを訪問でき、非常にうれしく思います。

当地を拠点として、越境犯罪、人身取引、腐敗、薬物対策、サイバー犯罪という、国際社会が直面する極めて困難な問題に取り組んでいる国連職員、加盟国代表、市民社会、そして私たちのあらゆるパートナーの方々に感謝いたします。

私は就任以来、紛争と犯罪を予防し、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」実施に向けた取り組みを結集させることを最優先課題としてきました。国連薬物犯罪事務所(UNODC)と本委員会には、果たすべき重要な役割があります。

私たちのグローバルな取り組みとの関係で、皆様の活動についていくつか述べさせていただきたいと思います。

私は、本委員会に提出された人身取引に関する3本の決議案を歓迎します。紛争の長期化と不平等の拡大、移住に対する組織立った国際的対応の欠如によって、この憎むべき犯罪は蔓延しています。

その結果は至る所で見られます。公海や砂漠で凄惨な死を遂げる人々、強制労働と性的隷属、子ども兵士の徴募、その他多くの形態の搾取や虐待などです。

しかし、これらは巨大な越境犯罪ネットワークの氷山の一角にすぎません。私たちは募集人から船長、売春宿の所有者、さらには人の不幸に付け込んで財を成しているギャングのボスに至るまで、こうした犯罪ネットワーク全体に対処する必要があります。

そのためには、加盟国が「国連国際組織犯罪防止条約」とその人身取引議定書に基づく協力を大幅に強化しなければなりません。

国連安全保障理事会は、人身取引犯の資金源に対処しています。

今年中に採択が見込まれる「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」を、もうひとつの契機とすべきです。

私たちは、犯罪防止と刑事司法について話し合う際、法律が強制よりも遵守によって機能することを常に忘れるべきではありません。法律の効果とその執行への取り組みを最もよく保証できるのは、公正と正義に対する世論の考え方だからです。

その意味で、現在の刑事司法問題で真っ先に取り上げるべきは、腐敗対策だと言えます。

私は、この犯罪に対する皆様の取り組みを非常に重視しています。腐敗は人々の機会を奪い、経済成長と法の支配を損ない、政府に対する人々の信頼を傷つけるからです。

24時間ニュースやソーシャルメディアのおかげで、腐敗はますます目に見えるようになってきました。全世界で普通の人々が腐敗に「ノー」を突き付けるとともに、透明性や説明責任を実証できるリーダーと制度を求めています。

腐敗と闘うためには、トップが進んで筋を通すという文化を作らなければなりません。

15年前に成立し、締約国184カ国を数える「国連腐敗防止条約」は、実質的な変革につながっています。全世界の法的機関が行動を起こしています。

私は、UNODCによるこの分野の活動を称賛します。しかし、はるかに多くの取り組みが必要です。私は腐敗対策、グッドガバナンスの強化、法の支配に関する国連の加盟国に対する支援を強化するよう、皆様に強く訴えます。

UNODCはまた、薬物の乱用と密売というグローバルな脅威への取り組みでも鍵を握る役割を果たしています。

私はポルトガル首相時代、3つの国際薬物統制条約が認めていた柔軟性を用いて、個人使用目的での薬物所持に非刑罰的な健康に基づくアプローチを導入しました。

予防・治療・社会復帰プログラムに割り当てる資金を増額する一方で、薬物密売の犯罪化については、極めて厳格な政策を維持しました。この政策は大きな成功例として称えられました。注射による薬物使用者のHIV感染率が劇的に低下する中で、薬物使用率も50%近く減少しました。ポルトガルは現在、ヨーロッパで薬物使用による死亡率が最も低い国の1つに数えられています。

よって私は、薬物政策に関し、バランスの取れた包括的なアプローチを支持しています。つまり、2016年の世界薬物問題に関する国連特別総会で見られた前進に沿って、予防と治療を重視するアプローチです。私は、次回の閣僚級会合がこの合意を土台に進められることを期待しています。

各国はそれぞれの薬物政策を決定しなければなりませんが、私としては、独断や偏見ではなく、結果に基づく人間中心のアプローチの必要性について、コンセンサスはできているものと考えています。

国連はUNODCを通じ、支援の体制を固めています。

この10年間で紛争が激化する中で、テロ攻撃は増大し、社会や地域全体が不安定化しています。

私は、根本的原因への対処から被害者の支援に至るまで、テロ対策を国連システム全体の最優先課題としてきました。

事務総長としての私の最初の改革には、国連テロ対策事務所の設置が含まれていました。「国連グローバル・テロ対策戦略」の実施と、加盟国によるその実施の支援に際する戦略的リーダーシップと調整を強化することが目的です。

そして3カ月前には、国連、国際刑事警察機構(INTERPOL)、世界税関機構間の調整を改善するための「テロ対策調整コンパクト」に署名しました。

私は来月、初の「国連加盟国テロ対策機関責任者ハイレベル会議」を招集する予定です。

UNODCには、普遍的なテロ対策の法的枠組みを補強するための技術援助提供で果たすべき欠かせない役割があります。それは、私たちのグローバルな取り組みにおいて重要な要素です。

現場の状況に変化をもたらすために各国政府と協力できる能力があるという点で、UNODCの右に出るものはありません。

高い適応力をもつ手強い敵と対峙する中で、皆様には取り組みの強化をお願いします。

ここで、今次委員会で皆様が中心的に検討されることになる主要議題について2、3お話ししたいと思います。

サイバー犯罪は、はるかに多くの対策を必要とし、かつ、すぐに取り組みを行わねばならない問題領域の一つです。

ビッグデータやアナリティクス、AI(人工知能)とオートメーション(自動化)をはじめとする新技術は、しばしば第4次産業革命と呼ばれる激動の時代の到来を告げています。こうした技術により、私たちはあらゆる人に利益をもたらす成長と開発に向けた条件を整備し、気候変動の影響に対処し、これを緩和するとともに、私たちの環境を保護できるようになるはずです。

しかし、これによって新たな形態の犯罪も可能になります。サイバー犯罪は毎年1.5兆ドル程度の収益をもたらすと見込まれています。そして、多くの犯罪と同じように、社会的最弱者層を標的としています。

開発途上国は、サイバーディフェンスで立ち遅れることが多くなっています。オンラインでの子どもの性的搾取と虐待が蔓延し、女性と女児が不当に大きな被害を受けています。

私は本委員会とUNODCが、50カ国以上の警察官や検察官、裁判官を対象に行っている啓発活動と不可欠な訓練の提供を称賛します。

私たちはさらに幅広く、こうしたテクノロジーがあらゆる人の利益を考えて用いられるよう、大がかりな集団的取り組みを行う必要があります。

国連は、すべてのステークホルダーが一堂に会し、こうした問題を検討できるプラットフォームです。

持続可能な開発目標(SDGs)と予防のアジェンダをともに実現するためには、国連がこれまでよりもさらに対応力と資金力を高める必要が出てくるでしょう。

ウィーン、ニューヨーク、そして全世界の事務所やミッションをはじめ、国連システム全体が相互に、また、市民社会やビジネスセクター、学界、そしてもちろん何よりも各国政府と密接に協力せねばなりません。

ここウィーンでの討議とアプローチへの合意には、極めて重要な意味があります。

私は、本委員会が国内・国際犯罪への取り組みを前進させながら、グッドガバナンスや法の支配、人権を強化していけることを祈っています。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。