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武力の行使に訴えるより先に、国連には平和的な解決のあらゆる可能性を探る義務がある

プレスリリース 03/004-J 2003年02月13日

以下は2月8日、米国バージニア州ウィリアムズバーグのウィリアム・アンド・メアリー大学において、コフィー・アナン国連事務総長が同大学の創設310周年を記念して行った講演内容です。

 この名誉学位を授与していただいたこと、そして、ジンニ将軍およびブリンクリー氏とこれを分かち合えることを、光栄に存じます。世界の平和と繁栄に対する両氏の貢献は、まさにこの名誉にふさわしいものといえます。
 
 この特別な日に皆様とお会いできることは、妻のナーネと私にとって、大きな喜びです。
 
 ただ一つ、皆様と同じように、私も悲しく思うことは、先週のスペースシャトル・コロンビアの悲劇的な事故、特に、先ほど学長も語られていたように、貴校のもっとも優秀な卒業生の一人、デイビッド・ブラウン氏の死亡が、皆様の祝賀行事にいささか暗い影を落してしまったことです。
 
 皆様のご承知のとおり、彼は、インドとイスラエル出身の2人の方々を含め、それぞれ経歴を異にしながらも、同じく才能に恵まれた同僚たちと運命をともにしました。宇宙の探索には国境はなく、コロンビアの損失は人類全体にとっての損失を意味します。それはまさに、私たちがすべて、人類という一つの家族を構成していることを思い知らされるときでもあります。
 
 今日、この家族は不安な時期を迎えています。中東での暴力の激化、核の拡散、そして新たなテロ攻撃に対する深い憂慮が広がっています。そしてもちろん、ここ米国にも、世界全体にも、イラクでの戦争の危険に対する極めて大きな懸念があります。
 
 この危険を回避するために、国連は何をしているのかと疑問に思う方々も多いことでしょう。
 
 そもそも国連が創設されたのは、「戦争の惨害から将来の世代を救う」ためではなかったのか、と。
 
 それはそのとおりです。国連の創設者たちは、2度の世界戦争を経験しました。ですから、戦争がもたらす恐ろしい荒廃と惨禍を痛感し、世界が再び、このような苦悩を経験しないようにすることを決意したのです。
 
 私たちはこのビジョンを失ってはなりません。戦争は常に人災なのです。その他すべての可能性が費え、かつ、これに代わり得る策がさらに悪い結果をもたらすことが明らかな場合にはじめて、武力の行使を考えるべきです。イラクで再び戦禍が起きれば、イラクの人々、そして恐らくその近隣諸国の人々も、大きな被害と苦痛に見舞われかねません。私たちはすべて、そして何よりもイラクの指導者自身が、できる限りこの事態を防がなければなりません。
 
 しかし、国連の創設者たちは平和主義者ではありませんでした。力に対して力を用いなければならない時があることを知っていました。国連憲章に強力な強制措置規定が組み込まれ、国際社会が侵略に対して団結し、これを打ち破ることができるようになっているのも、このためです。
 
 12年前、イラクがクウェートを侵攻した際に、国連はまさにこれを実行に移しました。安全保障理事会はまず、侵略者に対し、平和的な撤退という明白な代替案を示しました。そして、これが拒否されたとき、安保理は武力の行使を容認したのです。
 
 それは厳しい選択でしたが、必要な選択でもありました。安全保障理事会はその責任から逃げませんでした。その権限により、国連のリーダーシップの下、幅広い多国籍軍が忍耐強く形成されました。クウェートを救うために軍隊を派遣した22カ国のうち、少なくとも11カ国がイスラム教国でした。この教訓は今日もしっかりと生きています。
 
 残念ながら、イラクは1991年に停戦協定の条件に従って受け入れた義務をすべて全うしていません。特に、安全保障理事会は、大量破壊兵器の全面的な廃棄を確認できていません。
 
 これはただ一国の問題ではなく、国際社会全体の問題です。各国が自衛のためではなく、国際の平和と安全に対する脅威に幅広く対処するために武力を行使する決定を下す場合、これを正当化できるのは、国連の安全保障理事会を置いて他にありません。世界中の諸国および諸民族は、このような正当性、そして国際的な法による支配を根本的に重視しているのです。
 
 このような幅広い脅威の明らかな一例が、大量破壊兵器のもたらす恐怖です。イラクに限らず、この問題は最大の重大性を備えており、国際社会はその安全の基盤を極めて慎重に再考することを迫られています。
 
 この再考は統一された形で行うことが極めて重要です。そうすることにより、軍縮と不拡散に関する多国間条約を損なうことなく、逆にこれらを強化する形で、より大きな安全を確保すべきです。集団的かつ多国間のアプローチのみが、大量破壊兵器の拡散を実効的に防止し、世界をより安全な場所とすることができるのです。
 
 もちろん、この目標を根底から揺るがすのは、大量破壊兵器を実際に使用することであることに変わりはありません。したがって、私はすべての当事者に対し、イラクであろうとなかろうと、そのような兵器を使用しないことを誓うよう、厳粛に警告しなければなりません。その使用を命じたり、これに加担したりする者は、もっとも大きな責任を負うことになるでしょう。
 
 それでも、このような心配が取り越し苦労であることを期待しましょう。私たち国連には、武力の行使に訴えるより先に、平和的な解決のあらゆる可能性を探る義務があるのです。
 
 3カ月ほど前、安全保障理事会は決議1441を採択し、イラクの国連兵器査察官に新しい、さらに強力な権限を与えました。この決議は慎重で粘り強い交渉によって生まれたもので、その結果、全会一致で採択されました。このことが決議に一層の権威を与えています。それは法、集団的努力、および、国連独自の正当性に裏打ちされた権威です。これこそが、平和と安全に資する多国間外交の真髄なのです。
 
 この決議が与える権限のもと、国連査察官は4年ぶりにイラクに戻りました。1990年代前半の経験からも分かるとおり、査察は実際に機能しうるのです。国連査察官はその間に、爆撃によって破壊されたものよりもはるかに多くの兵器と施設を廃棄しました。
 
 今日、査察官が再びイラクで活動できるのは、ブッシュ大統領の断固とした姿勢、および、そこから生まれる強い圧力に負うところが大きいのです。
 
 1月27日、査察官は安保理に1回目の報告を提出しました。次の金曜日には2回目の報告が予定されています。イラクがしなければならないことについては意見が一致しています。イラクは武装解除を、自ら進んで行わなければなりません。このメッセージは安全保障理事会全理事国、アラブ連盟およびイラクの近隣諸国によって伝えられています。
 
 また、ブリクス博士とエルバラダイ博士という2人の査察責任者に対しては、あらゆる方面からの信頼が寄せられています。両氏は優秀なプロとして職務をこなしています。今週末、両氏はバグダッドに戻り、イラクに対して再び、その武装解除の義務を果たすには、何を実質的かつ文字通りに履行しなければならないかを明らかにします。水曜日、パウエル国務長官が安全保障理事会で行った説得力のある説明は疑いなく、両氏の立場を強くしうるものでした。
 
 実効的で信頼性のある査察により、義務の遂行と武装解除をイラクに行わせることができれば、その見返りは大きなものとなります。イラクはもはや、近隣諸国にとっての脅威とはならないでしょう。そして私たちは、大量破壊兵器を開発したり、手に入れようとしたりする誘惑に駆られるその他すべての国々に、極めて強いメッセージを送ることになります。私たちは世界中で不拡散体制を強化することになるでしょう。
 
 安保理は決議1441で、イラクのこれ以上の重大な義務違反、あるいは、イラクによる査察活動の何らかの妨害が報告された場合、直ちに理事会を開くことを決定しました。安保理はまた、この関連において、その義務に引き続き違反した場合に深刻な結果に直面するであろうとの警告をイラクに繰り返し行ってきたことも想起しました。
 
 したがって、イラクがこの最後のチャンスを活かさず、反抗的な態度をとりつづけるならば、安保理は査察官の調査結果に基づいて、再び厳しい選択をせざるを得なくなります。この選択は1990年のものに比べ、より複雑、そして恐らくより決定的なものとなるでしょう。その時、安保理はその責任を全うしなければならないのです。
 
 私の経験では、理事国が共同歩調を取ったとき、安保理は常に最善かつもっとも効果的にその責任を果たしています。安保理は断固とした、思慮深い、しかも粘り強いやり方で取組みを進めるべきです。その措置は安保理の理事国のみならず、一般市民からも、強固で、実効的で、信頼性があり、合理的と見なされるものでなくてはなりません。
 
 決議1441の採択に見られたように、安保理が団結すれば、その影響力は大きくなり、目標を達成できる可能性も高くなります。その目標とは、これまで苦しみつづけてきたイラク国民を完全に国際社会へと呼び戻す包括的な解決策でなければなりません。
 
 外交の成功とは、自らの支持基盤を最大限に広げることです。現状では、それは特に平和と安全の分野において、安全保障理事会の権威を強め、世界秩序をしっかりと守ることを意味します。
 
 このことは重要です。なぜなら、イラクでの出来事は真空地帯での出来事ではないからです。それは良くも悪くも、米国、そして世界全体にとって極めて重要な他の問題に影響を与えます。例えば、私たちが国際テロとの闘いを繰り広げる環境は、大きな影響を受けることになるでしょう。
 
 イラクに関するコンセンサスが広がればそれだけ、私たちは再び結束し、皆さまが今朝もお聞きになったような世界中で起こっている他の激しい紛争に対しても、効果的に対処できる可能性は高まります。アフガニスタン安定化への取組みは言うまでもなく、イスラエル、パレスチナからコンゴ、コートジボワールまで、これらの紛争は気づかれないままに惨禍をもたらしています。私たちはすぐにでも、これに関心を寄せる必要があります。
 
 さらにその他にも、より幅広い国際的な課題があります。世界の指導者たちは2000年のミレニアム・サミット開催中に国連に参集し、これらの課題を明らかにしました。
 
 そこで採択された「ミレニアム宣言」は、平和、安全および軍縮だけでなく、特にアフリカでの開発と貧困の根絶、私たちに共通の環境の保全、HIV/エイズ対策、男女平等な、特に女子の教育の促進、難民と避難民への援助、ならびに、人権、民主主義およびよい統治の擁護についても、明確な目標を設定しました。
 
 21世紀の国連の役割は、イラクだけでなく、これら「ミレニアム目標」実現の成功いかんによってこそ評価されるのです。
 
 私たちはすべて、国連が自らの課題を他者に押し付けようとする別個の主体でも外部の主体でもないことを理解する必要があります。国連は私たち、つまり皆様と私自身なのです。このグローバル同盟を構成する191カ国にはすべて、なし得る貢献があります。その中でも、あなた方の国、米国はもっとも強大であるだけでなく、1945年の国連創設においても、また、それ以降の国連の集団的行動においても指導的な役割を果たしてきたのです。
 
 米国の強い指導力が、粘り強い外交的な説得と連合構築を通じて行使されれば、国連は成功を収められます。これは米国にとっても成功といえます。国連が結束し、不和ではなく、集団的行動の基盤として機能したとき、それは米国を含むあらゆる加盟国にとって、もっとも有用な存在となるのです。
 
 私はここにお集まりのすべてのアメリカ人、特に、地域での長い奉仕活動の伝統を有するこの偉大な大学の学生である皆様に対し、このことを心に留めるようお願いしたいと思います。皆様の中には、進路の選択を控えている方々も多いことでしょう。皆様の多くが公務に就かれることと思います。収入は多くないかもしれませんが、幸せで心満ち足りることでしょう。しかし、どのような職業を選択しようとも、私は皆様すべてが、公共に奉仕することを望んでいるものと期待しています。どうか、自国だけでなく、人類というすべての仲間たち、特に、他の大陸で貧しく惨めな生活を送りながら、欠乏と恐怖のない暮らしを待ち望んでいる人々の福祉のためにも貢献してください。

国連創設75周年
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