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世界気象機関(WMO)年次報告書:気候変動は進行し続けている(2023年4月21日付 WMO プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 23-029-J 2023年05月24日

『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書(The WMO State of the Global Climate report 2022)』は、主要な気候指標である温室効果ガス、気温、海面上昇、海洋熱と海洋酸性化、海氷と氷河に焦点を当てています。また、気候変動と異常気象の影響についても強調しています。

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  • 干ばつ、洪水、熱波が世界の大部分に影響を与え、損失額が増加している
  • 過去8年間の世界の平均気温が最高を記録した
  • 海面上昇と海洋熱が記録的な水準にあり、この傾向は今後何世紀も続くと予想される
  • 南極の海氷域が史上最小にまで減少した
  • 欧州では氷河の融解記録が更新された

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ジュネーブ、2023421日(WMO — 世界気象機関(WMO)の年次報告書によると、山頂から深海に至るまで、気候変動は2022年も世界中でその進行を続けました。干ばつ、洪水、熱波があらゆる大陸のコミュニティーに影響を与え、何十億ドルもの損失をもたらしました。南極の海氷域が史上最少にまで減少し、欧州の氷河のいくつかは、文字通りグラフに収まりきらないほどの勢いで融解しました。

『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書』は、記録的水準にある温室効果ガスが、地上、海洋、大気中で引き起こしている地球規模の変化を明らかにしています。2015年から2022年の世界の気温は、過去3年間のラニーニャ現象による冷却効果があったにもかかわらず、記録上最も温暖な8年間でした。2022年に再び過去最高水準に達した氷河の融解と海面上昇は、今後最大で数千年にわたって続くと考えられます。

「温室効果ガスの排出量が増加を続け、気候変動が続く中、世界中の人々が異常気象と気候現象の深刻な影響を受け続けています。例えば2022年の、東アフリカで続いた干ばつ、パキスタンでの記録的な豪雨、中国とヨーロッパにおける過去に例を見ない熱波によって数千万人が影響を受け、食料供給が不安定化し、集団移住が加速し、数十億ドルの損失と損害が発生しました」WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、このように述べています。

「一方で、国連諸機関の協働が、異常気象と気候現象によって誘発される人道上の影響、とりわけ関連死と経済的損失の軽減に対処する上で、非常に効果があることが証明されました。国連の『すべての人に早期警報システムを』イニシアチブは、地球上のすべての人が早期警報サービスを利用できるよう、現行システムの能力不足を埋めることを目標としています。現在、約100カ国で十分な気象サービスが提供されていません。この野心的な任務を達成するには、観測ネットワークを改善し、早期警報システムと水文・気候サービスの能力に向けて投資をする必要があります」

新たなWMO報告書には、気候変動指標がどのように推移しているかに関する情報を政策立案者に提供するとともに、テクノロジーの発展により再生可能エネルギーへの移行がこれまで以上に安価に、かつ利用しやすくなったのかを示すストーリーマップが付属されています。

報告書は、気候指標に加え、影響についても焦点を当てています。栄養不良の増加が、水文気象学上の危険と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の複合的な影響、さらには長引く紛争と暴力によって、さらに進行しています。

報告書によると、有害な気候および気象関連事象が一年を通じて新たな強制移住をもたらし、年初時点ですでに移住生活を送っていた9,500万人のうち、その多くの人々の状況をさらに悪化させました。

報告書は生態系と環境にもスポットライトを当てており、樹木の開花期や鳥が渡る時期など、自然界で繰り返される事象に気候変動がどう影響しているのかも明らかにしています。

『地球気候の現状に関するWMO報告書』は、2023年の国際マザーアース・デー(4月22日)に先立って発表されました。その主要な所見は、同国際デーに寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長のメッセージと共鳴しています。

「私たちには、手段も知識も解決策もあります。しかし、ペースを上げなければなりません。世界全体の気温の上昇を1.5°Cに抑えるために、より大幅かつ迅速な排出量削減を伴う気候行動を加速させる必要があります。また、特にこの危機に最も寄与していない、最も脆弱な立場に置かれた国々とコミュニティーのために、適応とレジリエンス(強靱性)に向けた投資を大幅に拡大することも必要です」グテーレス事務総長は、このように述べています。

『地球気候の現状に関するWMO報告書』は、EUのコペルニクス気候変動サービスによる『欧州気候の現状に関する報告書(The State of the Climate in Europe)』に続いて発表されています。これは、2020年までのデータを含む、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書を補完するものです。

報告書には、各国の気象水文機関(NMHSs)、世界のデータ分析機関、地域の気候機関、世界気候研究計画(WCRP)、全球大気監視計画(GAW)、全球雪氷圏監視計画(GCW)、欧州中期予報センター(ECMWF)が運営するコペルニクス気候変動サービスなど、数十の専門機関が協力しています。

国連のパートナーには、国連食糧農業機関(FAO)、UNESCO政府間海洋学委員会(UNESCO-IOC)、国際移住機関(IOM)、国連環境計画(UNEP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連防災機関(UNDRR)、世界食糧計画(WFP)などがあります。

主要なメッセージ

気候指標

世界の平均気温は、2022年に、1850-1900年の平均気温を1.15°C(1.02から1.28°C)上回りました。2015-2022年は、1850年に遡る温度計による記録の中で、最も温暖な8年間となりました。2022年は、史上5番目または6番目に暖かい年でした。冷却効果を持つラニーニャ現象が3年連続して発生する「トリプルディップ」(これは過去50年で3回しか起きていない)があったにもかかわらず、こうした結果となりました。

3つの主要な温室効果ガス濃度(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の濃度)は、世界の総計値が入手可能な期間(1984-2021年)において直近の年となる2021年に、観測史上最高値を記録しました。2020-2021年の年間メタン濃度の増加量は過去最高でした。特定地点におけるリアルタイムデータによると、3種類の温室効果ガスのレベルは2022年も上昇し続けています。

基準氷河の平均厚さについては長期の観測データがありますが、2021年10月から2022年10月の間に1.3m以上薄くなりました。この減少幅は過去10年間の平均値をはるかに上回っています。1950-2022年の記録では、氷河の質量が最も減少した10年のうち6年は、2015年以降に集中しています。1970年以来の厚さの累積減少幅は30m近くに達しています。

欧州アルプスでは、冬季の降雪の少なさ、2022年3月のサハラ砂漠からの砂塵の大量飛来、5月から9月初旬の熱波の影響が相まって、氷河融解記録が塗り替えられました。

スイスでは、氷河体積の6%が2021年から2022年の間に、3分の1が2001年から2022年の間に失われました。歴史上初めて、最高高度の観測地点でさえも夏の融解期後に雪が残らず、その結果新たな氷の蓄積がありませんでした。スイスの気象観測気球は、7月25日に5,184mの高度で0°Cを記録しましたが、これは69年間の観測史上で最も高い0°C線であり、0°C線が5,000mを超えたことは過去に一度しかありません。モンブラン山頂でも、過去最高気温が新たに報告されました。

アジア高山地域、北米西部、南米、および北極の一部の氷河でも、相当量の氷河質量の減少が見られます。アイスランドとノルウェー北部では、平年を上回る降水量と比較的低温だった夏の影響により、質量が増加した場所もあります。

IPCCによると、1993-2019年の間に世界中で6,000Gt(ギガトン)を超える氷河の氷が失われました。これは、西ヨーロッパ最大の湖であるレマン湖(ジュネーブ湖とも呼ばれる)75つ分の水量に匹敵します。

グリーンランド氷床では、26年連続で氷河総質量が減少しました。

南極の海氷は、2022年2月25日に記録上最小レベルの192万km2にまで縮小しました。これは、長期(1991-2020年)平均を100万km2近く下回ります。その後も、年末まで海氷面積は平均以下にとどまり、6月と7月には最低を記録しました。

北極の海氷は、夏の融氷期が終わる9月に、月ごとの最小氷域が衛星による記録が始まって以来11番目に低い数字に並びました。

海水熱含有量は、2022年に観測史上最高を記録しました。温室効果ガスによって気候システムに閉じ込められたエネルギーの約90%が海に吸収され、気温のさらなる上昇がいくらか食い止められるものの、これは海洋生態系にリスクをもたらします。海洋温暖化率は過去20年間に特に上昇しました。ラニーニャ現象が続いたにもかかわらず、2022年中に海面の58%で少なくとも1回海洋熱波が発生しました。

全球平均海水面(GMSLは、2022年に上昇し続け、人工衛星高度計による観測データを把握できるようになった1993年から2022年までの期間において、最高値に達しました。GMSLの上昇率は、衛星による観測が始まってから最初の10年間(1993-2002年、2.27mm/年)と直近の10年間(2013-2022年、4.62mm/年)の間で倍増しました。

2005-2019年のGMSL上昇に対しては、氷河、グリーンランド、南極における陸氷の総減少量が36%、海洋温暖化(熱膨張による)が55%寄与しました。陸水の貯水量の変動による影響は10%未満でした。

海洋酸性化:二酸化炭素は、海水と反応して「海洋酸性化」と呼ばれるpHの低下をもたらします。海洋酸性化は生物と生態系サービスを脅かします。IPCC第6次報告書は、「外洋の海面pHは少なくとも2万6,000年間で現在が最も低く、現在のpHの変化率は少なくともそれ以降で前例がないことに、非常に高い確信がある」と結論付けました。

社会経済的な影響と環境に与える負荷

干ばつに襲われた東アフリカ:雨季の降水量が5年連続で平年を下回りました。これは過去40年で最長となる期間です。2023年1月現在、干ばつその他のショックの影響によって東アフリカ全域で推定2,000万人以上が深刻な食料不安に直面しています。

記録破りの豪雨に7月と8月に見舞われたパキスタンでは、大規模な洪水が発生しました。死者は1,700人を超え、3,300万人が被災し、800万人近くが住まいを追われました。。損害と経済的損失の総計は300億米ドルと見られています。7月(平年より181%増)と8月(同243%増)はそれぞれ、その月として国内で観測が始まって以来最も降水量が多くなりました。

前例のない熱波が夏季に欧州を襲いました。一部地域では、猛暑と同時に異常な空気の乾燥にも見舞われました。欧州では、スペイン、ドイツ、英国、フランス、ポルトガルを合わせた猛暑関連の超過死者数が1万5,000人を超えました。

中国では、6月中旬から8月末にかけて国内観測史上最も広範囲で長期にわたる熱波に見舞われ、これまでの夏の最高気温記録を0.5°C超上回りました。また、2022年の夏は、記録上2番目に乾燥した夏となりました。

食料不安:2021年時点で23億人の人々が食料不安に直面し、うち9億2,400万人が深刻な食料不安に見舞われました。予測では、2021年に7億6,790万人(世界人口の9.8%)が栄養不良に陥ったと推計されています。その半数がアジア、3分の1がアフリカに暮らす人々です。

インドとパキスタンでは、2022年のプレモンスーン期の熱波により、作物の収穫量が減少しました。これは、ウクライナでの紛争勃発後にインドが小麦の輸出を禁止し、米の輸出に制限をかけたことも重なり、国際食料市場での主食作物の入手可能性、アクセス、安定供給が脅かされ、すでに主食作物の不足に苦しんでいた国々に高いリスクをもたらしました。

強制移住:ソマリアでは、干ばつが農牧の生計に与えた壊滅的打撃と、その年の飢饉によって120万人近くが国内避難民となり、そのうち6万人超が同時期にエチオピアとケニアに移住しました。ちょうどこの時、ソマリアは干ばつの影響を受けた地域で3万5,000人近い難民と亡命希望者を受け入れていました。エチオピアでは、干ばつに関連する51万2,000人の国内避難民がさらに記録されました。

パキスタンの洪水ではおよそ3,300万人が被災しましたが、うち約80万人は被災地域で受け入れていたアフガン難民でした。10月までに、洪水によって約800万人が国内避難民となり、58万5,000人が救援施設に避難しました。

環境:気候変動は生態系と環境に重大な影響を及ぼします。例えば、北極と南極を除く最大の氷雪貯蔵庫である、チベット高原周辺の特有の高地に焦点を当てた最近のアセスメントでは、地球温暖化によって温帯地域が拡大していることが明らかになりました。

気候変動は、樹木の開花期や鳥が渡る時期など、自然界で繰り返される事象にも影響を与えています。例えば、日本の桜の開花期は西暦801年から記録されており、気候変動と都市開発の影響によって19世紀末以降は早まっています。2021年の満開日は3月26日と、1,200年以上の記録の中で最も早い開花となりました。2022年の開花日は4月1日でした。

生態系のすべての種が同じ気候の影響に反応したり、同じ速度で反応したりする訳ではありません。例えば、50年間におけるヨーロッパの117種の渡り鳥が春に飛来した時期は、樹木の芽吹きや昆虫の飛来といった、鳥の生存にとって重要なその他の春の事象からは次第にずれてきていることがわかっています。こうしたずれは、おそらくいくつかの渡り鳥の種、特にサハラ以南アフリカに避寒する種の個体数が減少したことの要因であると考えられます。

編集者向け注記:

報告書に使用されている情報の出所は、各国の多数の気象水文機関(NMHSs)や関連機関に加え、地域の気候機関、世界気候研究計画(WCRP)、全球大気監視計画(GAW)、全球雪氷圏監視計画(GCW)、EUのコペルニクス気候変動サービス(C3S)です。国連のパートナーには、国連食糧農業機関(FAO)、UNESCO政府間海洋学委員会(UNESCO-IOC)、国際移住機関(IOM)、国連環境計画(UNEP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連防災機関(UNDRR)、世界食糧計画(WFP)などがあります。

WMOは、本報告書を気候状況と気候への影響に関する権威ある典拠とした、WMOの専門家ネットワークによるすべての献身的な努力に感謝します。特に、報告書の主執筆者を務めたジョン・ケネディ氏に謝意を表します。

報告に一貫性を持たせるために、可能な限りWMO気候学標準1991年から2020年をベースライン期間として使用しています。しかしながら、全期間にわたり測定値がなかったり、代表的な統計値の算出にさらに長い期間の測定値を要したりすることから、このベースラインを使用できない指標もあります。

世界の平均気温には、1850年から1900年のベースラインを使用しています。これは、最近のIPCC報告書で産業革命以前の気温の代用として使用されているベースラインであり、パリ協定の目標に関する進捗を把握するのに適しています。

WMOは、HadCRUT.5.0.1.0(英国気象庁)、NOAAGlobalTemp v5(米国)、NASA GISTEMP v4(米国)、Berkeley Earth(米国)、ERA5(欧州中期予報センター:ECMWF)、JRA-55(日本)という、6つの国際気温データセットを使用しています。

世界気象機関は、国連システム内で気象、気候、水に関する権威的な見解を発信する役割を果たしています

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。

Clare Nullis
WMO media officer
Email:cnullis@wmo.int
Tel:41-79-709 13 97

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原文(English)はこちらをご覧ください。