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G7サミット後の記者会見におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(広島、2023年5月21日)

プレスリリース 23-028-J 2023年05月22日

G7広島サミット出席後、記者会見に臨むアントニオ・グテーレス国連事務総長 ©UN Photo/Ichiro Mae

報道関係者の皆様、こんにちは。

今回のG7サミットのため、再び日本を訪れることができ、大変うれしく思います。

私のG7各国首脳へ向けたメッセージは明確です。世界の至る所で経済状況が不確実さを増している中で、富裕国は世界の半分以上、つまり大多数の国々が深刻な財政危機に苦しんでいる事実を無視するわけにはいきません。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる壊滅的な影響、気候危機、ロシアによるウクライナ侵攻、持続不可能な水準の債務、金利の上昇、そしてインフレは、開発途上国や新興国の経済に大きな打撃を与えています。

貧困や飢餓が増加し、開発は落ち込んでいます。

私の見るところ、開発途上国が直面する問題には、道徳、力関係、実践という3つの側面があります。

1つ目は、道徳的側面です。

現在の世界経済および金融の枠組みには、富裕国に有利な組織的、不公正な偏見が存在しており、これは当然、開発途上国に大きな不満を生んでいます。

COVID-19ワクチンの分配は、非常に不公平なものでした。

パンデミックからの復興には、極端な偏りがありました。富裕国は、財政・金融政策を拡大することでパンデミックの経済的打撃から回復を遂げました。何兆にも及ぶ巨額の資金が費やされたのです。要するに、これらの国々は紙幣を刷って、困難を切り抜けるのに使ったのです。

しかし、開発途上国は、その多くが多額の債務を抱えており、このような施策を取ることができませんでした。もしそうしていれば、その国の通貨は下がってしまったでしょう。

一方で、国際通貨基金(IMF)はパンデミックの間に、特別引出権(SDR)6,500億米ドルを配分しました。合計の人口が7億7,200万人であるG7諸国は2,800億米ドルを受け取りましたが、13億の人口を抱えるアフリカ諸国が受け取ったのは、わずか340億米ドルにすぎません。

この配分は、規則に則って行われたものです。規則どおりに行われてはいますが、道徳的観点からは、規則そのものに根本的な問題があるのです。

世界では、52の国がテクニカル・デフォルトに陥るか、デフォルトのリスクが高い、あるいは、市場での資金調達コストが極端に高いという事態に直面しています。多くの小島嶼開発途上国を含む中所得国は、わずかの例外を除き、譲与に近い条件での融資を受ける要件を満たさず、債務救済にアクセスできていません。

2つ目は、力の側面です。

ブレトンウッズ体制と国連安全保障理事会は、1945年時点の力関係を反映したものです。

それ以来、多くの変化が起こりました。国際金融アーキテクチャは時代遅れで、機能不全に陥っており、不公平なものとなっています。

COVID-19のパンデミックによる経済的ショックとロシアによるウクライナ侵攻に直面し、このアーキテクチャは、グローバルなセーフティーネットとしての中核機能を果たせていません。

今こそ、安全保障理事会とブレトンウッズ体制をともに変革すべき時です。

これは本質的に、今日の世界の現実に沿った形で力を再配分するという問題に他なりません。

3つ目は、実践的側面です。

現在の不公平な世界のルールの下でさえ、開発途上国の経済を支えるためにできること、やらなければならないことは、まだ多くあります。

国連は、債務救済のための効果的枠組みを提供して長期融資や緊急融資を拡大する、「SDG刺激策」を提案しています。

国際金融機関が協力してビジネスモデルとリスクに対するアプローチを変更すれば、巨額の民間資金を妥当なコストで開発途上国向けに提供することができます。そして、巨額の民間資金なしでは、効果的な気候行動も、持続可能な開発目標(SDGs)の実現も不可能なのです。

SDRの大規模な再配分(日本は実施済みで、他国も追随すべきですが)、および国際金融機関を通じたその実行は、持続可能な開発のための融資を何倍にもする効果を持つでしょう。

革新的な金融ツールは、世界中の脆弱な立場に置かれたコミュニティーにおいて、その債務をレジリエンス構築のための気候変動適応策への投資に転換するスワップを可能にするでしょう。

他にも挙げれば、きりがありません。

ですが、報道関係者の皆様、

G7各国は気候行動においても中心的役割を担っています。

現行の政策の下では、私たちは今世紀末までに2.8℃の気温上昇に向かっています。次の5年間の気温は、過去最高を記録することが予想されます。

気候行動は行われてはいますが、不十分であり、今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑える軌道からは明らかに外れています。

私が提唱している「アクセラレーション・アジェンダ」は、その遅れを取り戻すことを目的としています。

アジェンダはG7を構成するすべての国々に対し、2040年にできるだけ近い時期に、そして新興国に対しては2050年にできるだけ近い時期に、排出量正味ゼロを達成するよう求めています。

国連が提唱している「気候連帯協定」はG7各国政府、中央銀行および国際金融機関、そして民間セクターに対し、地球温暖化を1.5℃に抑えるために、今日温室効果ガスの主な排出源となっている新興国を脱炭素化の加速に向けて支援するための財政・技術的リソースを動員するよう求めています。

そのためには、化石燃料の利用を段階的に廃止して再生可能エネルギーへと移行するタイムラインを前倒しなければなりません。

炭素に価格を設定して、化石燃料への補助金を廃止させなければなりません。

先進国が、約束してきた毎年1,000億米ドルの拠出を行うべき時が来ています。

さらに、(COP27開催地の)シャルム・エル・シェイクで合意した「損失と損害基金」を稼働させなければなりません。

報道関係者の皆様、

広島という場所は、人間の精神を証明するものです。私が広島を訪問するのはこれが3度目ですが、訪れる度に強く心を動かされます。

訪問の度に、被爆者の方々の勇気と強靭さに打たれるのです。

国連は、被爆者の方々とともにあります。私たちは、核兵器のない世界を求めることを決してやめません。

日本政府が「ユース非核リーダー基金」設立のために行った寛大な支援に感謝いたします。私たちは、今日の若者がより安全で安心して暮らせる世界の実現に向けて変革をもたらす存在となるように、彼らに投資し、エンパワーメントしなければなりません。

同時に、広島は、国と国が協力し合い、意見の相違を平和的に解決することを怠る時に起こる悲劇を世界に示す象徴です。

多極化した世界で、地政学的分断が深まる中、いずれの国も、国のグループも、数十億の人々が食料、水、教育、医療、雇用といった生活の基本となるものを得るのに苦労しているのを看過することはできません。

今こそ、ここ広島で、グローバルなリーダーシップと連帯を示すべき時なのです。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

記者会見のアーカイブ映像は UN Web TV でご覧いただけます。