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*事務総長報告『私たちの共通の課題』 国際協力の将来:「大局観に立つとき」グテーレス事務総長が要請(UN News 記事・日本語訳)

2021年09月30日

©UN Photo/Mark Gargen

国連は昨年、創設75周年を迎えました。これを機に、組織の将来について内部で大きな議論が行われ、第二次世界大戦後の創設当初のコンセンサスとは異なる新たな方向性が打ち出されました。国連事務総長が9月10日に発表した画期的な新たな報告書『私たちの共通の課題』には、その方向性を反映した、グローバル協力の将来に関する事務総長自身のビジョンが提示されています。

*報告書の概要(日本語訳)はこちらをご覧ください。

 

グテーレス事務総長は9月10日の総会の会合で同報告書を発表し、発言の冒頭では、いま非常に大きなストレスにさらされているとした世界の危険な状況を冷徹に概観し、世界の未来は「深刻な不安と気候の大混乱」に陥る危険があると警鐘を鳴らしました。

事務総長は次のように強調しています。「気候危機から自然との自滅的な戦争、生物多様性の崩壊に至るまで、私たちのグローバルな対応はあまりに不十分で、遅きに失しています。不平等が放置されて社会の結束が弱体化し、私たち全員に影響を与える脆弱性が生じています。テクノロジーは、その予期せぬ結果から私たちを守るガードレールがないまま進展しています」

事務総長はさらに、幅広く行われた協議の内容が同報告書に反映されたことや、意見の聞き取りによってマルチラテラリズム(多国間主義)の強化が世界の危機に対処する方法であると国連が結論付けるに至った点について説明しました。

ブレークダウン(崩壊)か、それともブレークスルー(突破)か

ハリケーン・マシューが上陸したポルトープランス(ハイチ)で(資料映像)© UN Photo/Igor Rugwiza

同報告書には、2つの対照的な未来が提示されています。1つはブレークダウン(崩壊)と絶え間ない危機に見舞われる未来、もう一つはより環境に配慮した、より安全な、ブレークスルー(突破)が備わった未来です。

破滅的なシナリオには、豊かな国々がワクチンを貯め込むことによって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が次々に変異し、保健制度が崩壊した世界が描かれています。

そのような未来の地球は、気温の上昇と異常気象により生息不可能な場所となり、100万種が絶滅の危機に瀕します。

その上、人権が侵害され続け、大量の失業と所得の喪失が発生し、拡大する抗議活動や不安は暴力的に抑圧されます。

他方、私たちは反対の方向に進むことによって、ワクチンを公平に分配し、持続可能な復興につなげ、グローバル経済をより持続可能でよりレジリエント(強靱)な、そしてより包摂的なものに改革することもできます。

同報告書によると、経済を脱炭素化することによって、世界全体の気温上昇を抑え、気候変動から大きな影響を受ける国々を支え、将来世代のために生態系を保全することができます。

こうしたアプローチをとることで、マルチラテラリズムの新たな時代の到来をもたらします。各国は協力してグローバルな課題を解決し、国際システムは緊急事態に直面したあらゆる人々を守るために迅速に働き、国連は信頼できる協業のプラットフォームとして世界中で認められることでしょう。

目標と解決策

COVID-19のパンデミックのさなか、バングラデシュでの食料配給(資料映像)©UNDP/Fahad Kaizer

脆弱な立場に置かれた集団を保護することの重要性は、ジェンダー平等と“誰一人取り残さない”ことに対する、社会的保護の強化とジェンダー・パリティー(男女比同率)の推進を含むコミットメントにおいて認識されています。

より持続可能なグローバル経済を、最も貧しい人々を支援し、公正な国際貿易システムをさらに進めることにより確保することが目標に据えられています。

気候行動が特筆され、気温上昇を産業革命以前の水準と比べて1.5℃に抑えること、2050年までの炭素排出量正味ゼロの達成、化石燃料への補助金の打ち切り、食料システムの変革、開発途上国への支援パッケージという目標がコミットされています。

また報告書は、COVID-19のパンデミックにより引き起こされた進行中の健康危機に言及し、500億ドル規模のワクチン接種計画、ワクチン生産量を少なくとも倍増させること、2022年上半期にワクチンが世界人口の少なくとも70%に行き渡るようにすることを呼びかけています。

未来に関するサミット

ウガンダをはじめ世界中の人々が、COVID-19のパンデミック下においてデジタルツールを利用している© World Bank/Arne Hoel

これらの目標を達成するために、事務総長は、「私たちの未来のあり方と、そのような未来を確保するために私たちができることについて新たなグローバル・コンセンサスを築く」ための未来に関するサミットを提言しています。

同サミットでは、「新たな平和への課題」を提示し、平和構築へのさらなる投資、地域紛争予防支援、核兵器、サイバー戦争などの戦略的リスクの軽減、さらには宇宙空間を平和かつ持続可能に利用するための対話によって、平和と安全保障という長年の課題に取り組みます。

オンライン上での人権の適用も同サミットやグローバル・デジタル・コンパクトで取り上げ、新たなテクノロジーを世の中のためになる力とします。その他の議題には、宇宙空間の平和的で持続可能な利用や、将来の災禍と危機の管理などが挙げられています。

グテーレス事務総長は、同サミットでは、今日のより複雑なグローバル・ガバナンスの背景を考慮すべきであり、私たちは、より包摂的でネットワーク化されたマルチラテラリズムによってこの複雑な状況を乗り越え、効果的な解決策を提供することを目標とすべきであると述べました。

未来に関するサミットに加えて、同報告書は、より持続可能で、包摂的、かつレジリエントなグローバル経済の構築を目指した、G20メンバーと経済社会理事会(ECOSOC)、国際金融機関の長、および国連事務総長の間の国家元首・政府首脳レベルによる、隔年開催のハイレベル会合を提案しています。

同報告書はまた、各国政府、多国間機関、民間セクター、市民社会間のより良いパートナーシップ、グローバルな健康安全保障を強化してグローバルな危機により良く備えるための緊急プラットフォームも呼びかけています。

その一例が、各国政府、学界、市民社会、民間セクターなどのパートナーと協力してメガトレンドと壊滅的なリスクに関する定期報告を発行するフューチャーズ・ラボ(Futures Lab)の創設です。

さらに、教育、技能訓練と生涯学習に関する対策が提案されており、その中には、学習の危機に対処し世界で18億人の若者の機会と希望を広げるための教育変革サミット(Transforming Education Summit、2022年開催予定)、あらゆる人々の人権と尊厳に基づく平和で安心な社会を構築するための国際的な取り組みを調整するグローバル社会サミット(Global Social Summit、2025年開催予定)などが対策として提案されています。

これらの会議は、各国が自国の市民に基本的サービスと社会的保護を提供できるようにする、包摂的で持続可能な政策を実現する取り組みを調整するものです。グテーレス事務総長は「各国政府が、市民への奉仕と債務の返済という二択を迫られるようなことは二度とあってはなりません」と述べました。

国連のアップグレード

国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)で地域を巡回する、コートジボワールから派遣された平和維持部隊@MINUSMA

同報告書は、アップグレードすべき機関の一つは当然ながら国連自身であり、より参加型で協議に基づくアプローチを採り、2028年までの男女比同率の実現、事務総長科学諮問委員会の再設置、年齢やジェンダー、多様性を考慮しつつ人々を国連システムの中核に据える政策によってアップグレードするべきであると指摘しています。

国連関連のその他の提案は、政治プロセスへの若者の参加を改善することと若年失業率の是正です。同報告書は、今後100年間に生まれる人々の利益を重視するために将来世代に関する特使を任命することと、国連の取り組み全体にわたって若者との関わりを強化するために国連ユース・オフィスを新設することを提言しています。

国連は、行動の10年-すなわち、2030年までに持続可能でより公平な未来を実現するという約束を果たす上で実質的に前進するための10年-に乗り出しており、マルチラテラリズムをそのプロセスの中核に据えることにより、世界をより良い方向に作り直す機会となります。

しかし、「ブレークダウン・シナリオ」が示すように、効果的に協力しなければ、地球と生命そのものにまで、重大で不可逆的な損害を与えるおそれがあります。グテーレス事務総長は、国連総会に向けたスピーチにおいて、「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」は、連帯、つまり「私たちはお互いに強く結びついており、いかに強力なコミュニティーや国でも単独で課題を解決することは不可能であることを認識した協力の原則」で推進されるものであることを強調しました。

『私たちの共通の課題』の背景

• 国連創設75周年をグローバルな保健緊急事態のさなかに迎えたことで、マルチラテラリズム的思考の重要性が浮き彫りになっています。2020年にはCOVID-19のパンデミックが発生しましたが、それは、国境に配慮しないもう一つの喫緊の課題である気候危機への懸念が高まっている最中でのことでした。

• 2020年の初め、人々にとっての優先課題と国際協力が未来にどのように影響し得るかという予想を聴き取るための1年間にわたるグローバルな国連のイニシアチブに150万人が参加しました。

• 参加者は期待と懸念を共有し、より透明性のある包摂的な国連の実現を呼びかけ、気候変動と環境問題が最も重大なグローバルな長期課題であるとみなしました。

• 『私たちの共通の課題』は、そのイニシアチブの調査結果とともに、ソート・リーダー(各分野の第一人者)、The Eldersなどの賢人集団、外交官、その他のパートナーの意見を踏まえ、提案と解決策、行動のアイデアを提示し、国連の今後25年を見据えています。

• 同報告書は、今日の世界をより良く反映するために国連の基礎を再編する必要があることを認識しながら、国連の核となる価値観を再確認することを呼びかけています。

• 同報告書はまた、行動を取る緊急の必要性も認めています。気候危機はすべての人命の生存にかかわる危機をもたらしていますが、これは国際社会が人間活動によって引き起こされた地球温暖化の加速に終止符を打ち、すでに生じた自然破壊に適応するために国境を越えて効果的に協力することではじめて解決することができます。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

報告書の概要(日本語訳)はこちらをご覧ください。

報告書(全文)へのリンク:
https://www.un.org/en/common-agenda-report[別窓]

Our Common Agenda ウェブサイト(国連本部)へのリンク:
https://www.un.org/en/un75/common-agenda[別窓]