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グローバル・コミュニケーション担当事務次長による寄稿:「最も必要とされる時代に、危機に瀕するジャーナリズム」

2021年06月29日

メリッサ・フレミング
グローバル・コミュニケーション担当事務次長

私は毎朝、コーヒーを飲みながらニュースをチェックします。心躍ることだとは決して言えません。順調なときもそうですが、現在のような暗然たる日々の中ではなおさらです。しかし、仕事柄、世界で起きている出来事を何も知らず、心穏やかに過ごすということが私には許されないのです。仕事に必要な情報を得るとともに、その内容をより豊かなものにするため、世界中の何百万の人たちと同様に、私は良質なジャーナリズムに頼っています。

ニュースサイトのチェックは朝のルーティン

でも、信頼できる情報ソースがある日突然なくなってしまったら、私たちはどこから情報を得たらよいのでしょうか。たとえば今、このパンデミックのさなかに報道機関からの情報が完全に遮断されたとします。ソーシャルメディアのフィードを見るとして、信頼に足る、かつ、命を守るのにも役立つ最新情報の共有を誰に頼ればよいのでしょうか。おそらく極めて早い段階で、深く霧に覆われて先が見えないような状況に陥るのではないでしょうか。

これは決して大げさな話ではありません。私たちが行動しなければ、そうしたことは現実に起こります。このことに気付いている人はほとんどいないかもしれませんが、パンデミックにより、公益メディアは今、消滅の危機に瀕しています。公益のためのジャーナリズム、つまり公共の福祉と人々の安全に深く関与するジャーナリズムが、世界中のほぼすべての国で、深刻な状況に陥っているのです。

皮肉なことに、こうした事態は、私たちがかつてないほど正確な情報を求めているさなかで進行しています。危機が生じると、人はそれまでには見たことのない勢いでニュースに注目します。ロイタージャーナリズム研究所の調査によると、パンデミックの初期に、ニュースサイトへのアクセス数が急増しました。自分たちのコミュニティーを襲う新型ウイルスについての情報を人々が一斉に入手したがったからです。

しかし、インターネットの時代において、アクセス数の増加は、報道機関の収益増を必ずしももたらすわけではありません。実際にパンデミックに襲われるよりもはるか以前から、読者・視聴者のエンゲージメントは高まっているにもかかわらず、メディアの収益は落ち込み続けています。そのような中でロックダウン(都市封鎖)が実施されたため、広告収入はさらに大きな打撃を受けました。2020年に行われた上記調査によれば、世界の新聞業界の減収は300億ドルに及んでいます。

メディア業界のこうした惨状から、パンデミックがメディアの消滅の引き金になると懸念する声が上がっています。高所得国であるか低所得国であるかを問わず、あらゆる国のメディアが報道の部局を閉鎖し、人員を削減し、その結果、ニュースの空白地帯が生まれています。こうして生まれる報道の空白地帯の広がりが、嘘や陰謀論、偽情報を増大・拡散させるのに最適な環境を創出しています。

現在も拡散を続けるインフォデミックと闘っている人々は、前述のような兆候から、もはや一刻の猶予も許されない状況にあるということに気づかなければなりません。偽情報は世界中で、何百万もの人々の健康を危険にさらしています。それはCOVID-19のワクチン接種を阻害するだけでなく、壊滅的災害を引き起こす気候変動を食い止める活動をも妨げているからです。この闘いにおいて、公益メディアは最良の対抗手段の一つであり、それを失うことは絶対避けなければなりません。

究極のところ、嘘や陰謀論を暴くことは、メディアにとって最も重要な仕事だと多くのジャーナリストが考えています。昨年インターナショナル・センター・フォー・ジャーナリスツ(ICFJ)が行ったアンケート調査において、回答者の80%以上が、少なくとも週に1度は、仕事上で偽情報を目にすると回答しています。4人に1人は、1日に複数回、偽情報を目にすると答えました。

良質なジャーナリズムの仕事は、単なるファクトチェックに留まりません。統計データの背景にある人間の物語を伝え、また、危険な嘘や陰謀論を駆逐する威力で、複雑な情報を人々が自分事として感じられるストーリーとして描き出すのです。そうすることによって、ジャーナリストはインフォデミックとの闘いの最前線に身を置くことになります。実際、彼らに向けられた脅迫、暴力、威嚇の件数は急増しています。

『世界報道自由デー』に先立ち、私が司会を務めた国連主催の討論会では、この困難な時代を公益メディアが生き残るためにグローバルな機関や組織が果たす役割に関する議論が行われました。メディア業界の経営基盤立て直しに向けた、年間10億ドルの資金提供を目指す基金『公益メディアのための国際基金』(”International Fund for Public Interest Media”)の設立計画が最も重要な議題でした。

この基金は、慈善団体 Luminate が寄付者や市民社会、民間企業などの協力のもと発案したものです。特に低・中所得国の公益メディアが将来も存続できるよう、持続可能で長期的な資金提供を目的としています。

この困難な時代を迎え、私たちが改めて気づいたことは、信頼できる報道は贅沢品ではなく、不可欠な公共財であるということです。私たちが朝のコーヒーを飲む時に接するニュースを提供する人々は、この恐ろしいパンデミックから強く立ち上がるために、助けを必要としています。今後何が起ころうとも、そしてどれほど悲惨なニュースを目にしようとも、私たちは公益メディアが果たしている役割をもう少し高く評価しなければなりません。

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原文(English)はこちらをご覧ください。