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「パンデミックがメディアを消滅させる機会となってはならない」:国連事務総長(UN News 記事・日本語訳)

2021年05月21日

東欧のモルドバ共和国で開かれたイベントに参加するジャーナリストたち© UNICEF Moldova

2021年4月28日 - アントニオ・グテーレス事務総長は本日、国連主催のイベントで世界の公益メディアの多くが財政危機に直面していることは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の危険な副作用だと語り、メディア業界への支援の増強を呼びかけました。

 

新聞社だけでも昨年、世界全体で推計300億ドルも売上減となっていることから、事務総長は「パンデミックが『メディア消滅』をもたらす機会となりうる危惧する人がいるほどだ」と警鐘を鳴らしています。

事前収録によるメッセージの中で、事務総長は次のように述べています。「こうした事態を放置するわけにはいきません。独立した、事実に基づく報道は、グローバルな公益にとって極めて重要であり、より安全で健全な、そしてよりグリーンな(環境に配慮した)未来を築くために、不可欠です」

「インフォデミック」の脅威

グテーレス事務総長は、とりわけ低・中所得国の独立報道機関の未来を守るため、新たに設立された「International Fund for Public Interest Media(公益メディアのための国際基金)」への支援を、各国政府に呼びかけています。

28日に開かれた同イベントは、5月3日の「世界報道自由デー」に先立って、国連グローバル・コミュニケーション局(DGC)が慈善団体 Luminate と共催し、事実に基づくCOVID-19関連情報を共有することを目的とした国連のイニシアティブ「Verified(ベリファイド/検証済み)」が後援しました。グローバル・コミュニケーションを担当するメリッサ・フレミング国連事務次長が司会を務めました。

信頼できる情報へのアクセスは、基本的人権であるだけでなく、人々の生死を左右する問題であることが、今回のパンデミックで明らかになりました。こうした中、国連は感染拡大と共に増加した、パンデミックに関するデマや偽情報、ヘイトスピーチへの対策に取り組んでいます。

ガーナのコジョ・オポン=ンクルマ情報大臣は、「インフォデミック」が経済的苦境に立たされたメディアを、さらなる窮地に追い込んでいると参加者に訴えました。

「偽情報をでっち上げ、それを拡散する人々が存在します。一方で、メディアは収入減に苦しんでいるため、社会が必要とするジャーナリズムの専門性は損なわれる傾向にあります。これらが複合されることで、また特にこうして誤った情報や捏造されたニュースが繰り返し報道され始めると、メディアの信頼性が脅かされるのです」と同大臣は述べています。

給与カット、レイオフ、メンタルヘルスへの影響

米国を拠点とするインターナショナル・センター・フォー・ジャーナリスツ(ICFJ)とコロンビア大学が、英語を使うジャーナリストやメディア関係者1,400人(125カ国)を対象に調査を行い、その結果からもパンデミックによってメディアが苦しい状況に立たされている事実が見えてきます。

メディアは広告費を主な収入源としていますが、広告売上が50~75%減ったと回答した人は、調査対象全体の40%以上にも上りました。その結果、「人々が情報を最も必要としている時期に」給与はカットされ、スタッフのレイオフが断行された、とICFJのジョイス・バーナサン会長は述べています。

こうした“スナップショット”は、パンデミックがジャーナリストたちに、いかに精神面での影響を与えているかも明らかにしました。

職務を遂行する上で最大の困難は心理的・精神的な影響だ、と答えたジャーナリストは、回答者の約70%に上りました。また約3分の1は、防護具を与えられたことがないと答えています。別の調査では、女性ジャーナリストたちが「恐怖を覚えるような」攻撃を受けたと報告していたことが明らかにになりました。

リヨン(フランス)3月19日、ロックダウン3日目。3歳の愛娘ヴィオレットの傍で、番組(Euronews)のためにテレワークを行うジャーナリストのアン=リース© UNICEF/Bruno Amsellem/Divergence

危機に瀕している民主主義

経済が徐々にニューノーマルに落ち着いていくと同時に、広告収入も戻ってくるだろうとバーナサン氏は期待を示します。それでも世界中の公益メディアが活力を取り戻するほどは回復できないのではないかと懸念を示しいます。というのも、そこにはより大きな問題が潜んでいるからです。

「危機に瀕しているのは、ジャーナリズムだけではありません。民主主義の未来そのものが、危機に瀕しているのです」とバーナサン氏は訴えます。

数々の受賞歴を持つフィリピン人ジャーナリスト、マリア・レッサ氏もこの考えを支持し、ジャーナリズムの「使命」は、かつてないほど重要性を増していると述べています。今ではほとんどの人が Facebook などのソーシャルメディアから情報を得ていますが、こうしたソーシャルメディアは「事実にバイアスをかけている」と憂慮します。

今年度の国連世界報道自由賞を受賞しているレッサ氏は「事実を手に入れていなければ、私たちは現実を共有できないのです」と語ります。「100万回語られた嘘は事実になってしまいます。事実なしに、真実を手にすることはできません。そして真実がなければ、信頼も生まれないのです」

破壊と革新

ジャーナリズムの現在のビジネスモデルはほぼ「死に体」にあります。広告が Facebook をはじめとしたテクノロジー巨大企業に奪われつつある現状において、公益メディアは生き残るために「テクノロジーを駆使できるようにならなくてはなりません」とレッサ氏は強調します。

コロンビア出身のジャーナリスト、マリア・テレサ・ロンデロス氏もまた、現在のような「破壊」の時代は、メディア業界も実験的な試みやイノベーションに果敢に取り組むべきであり、そのためには資金が必要だと訴えます。

「しかし実験には失敗がつきものであり、コストが発生します」と同氏は続けます。「もしジャーナリズムがそのために必要な資金を非常に大きな規模で受けられれば、テクノロジーを活用して、今までにない質の高さで調査報道や、人的ネットワークの構築、読者や視聴者とのつながりの強化を実現できます」

イベントで司会を務めるメリッサ・フレミング国連事務次長(グローバル・コミュニケーション担当)

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原文(English)はこちらをご覧ください。