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国連ピース・メッセンジャー ジェーン・グドール博士からのメッセージ「私たち全員が行動を」(UN Chronicle 記事・日本語訳 )

2021年05月24日

笑顔いっぱいで走る生徒たち(バングラデシュ農村部のクルナ県ダコペ村で)© Md. Nafiul Hasan Nasim

*この記事は、国連創設75周年を迎えるあたり、国連ピース・メッセンジャーを務めるジェーン・グドール博士が、国連グローバル・コミュニケーション局の発行する『UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)』に寄せた記事の日本語訳です。

 

2020年10月23日

私たちは激動の時代を生きています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)は、多くの苦しみをもたらし、多くの人の命を奪い、世界経済を混乱させていますが、ほとんどの国はまだウイルスとの闘いのさなかにあります。しかも、私たちの未来には気候危機という、はるかに恐ろしい脅威が控えています。残念なことに、私たちは自然や動物に暴力をふるうことによって、自らこのような悪夢を招いてしまったのです。

私たちは農業、工業、そして家庭からの廃棄物で、森林を破壊し、空気や土地、そして私たちの海を含めて水を汚してきました。私たちはダムや道路のほか、数限りないショッピングモールを建設しています。私たちが化石燃料に依存していることで、大気中にはかつてないほどの大量の二酸化炭素が排出され、これが太陽の熱を取り込んで逃がさない温室効果ガスの大部分となっています。地球の温暖化で、あらゆるところで天候のパターンが変わってきています。南極と北極の氷は解け、海面が上昇しているほか、甚大な被害をもたらすハリケーンや台風、竜巻、洪水、干ばつ、山火事が頻発し、その破壊力を増しています。

集約農業は化学農薬と肥料で環境を汚染しているだけでなく、穀物を栽培するために野生生物の住処を破壊しています。農業に向かない場所での灌漑は、大きな地下水脈を枯渇させています。野菜よりも動物性タンパク質を摂取するために、大量の水が使われています。工場式農場で飼育されている何十億頭もの家畜から発生するメタンも、主要な温室効果ガスとなっています。しかも、工場式農場に加え、アジアの野生生物市場やアフリカのブッシュミート(野生生物の肉)市場、食料や医薬品としての取引や、珍しい動物をペットとして飼うことを目的に全世界で行われている動物とその部位の密売はすべて、病原体が動物から人間へと伝染するのに理想的な条件を作り出しています。そしてこれが、HIV/エイズやエボラ、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、COVID-19といった人獣共通感染症(ヒトと動物がともにかかる病気)を生み出す原因となりかねないのです。

私たちが、COVID-19パンデミックからの復興を果たし、従来通りの生活に戻っていく中で、母なる自然を酷使し、その限りある天然資源を奪い続ければ、自分たちもいつしか、かつてないスピードで絶滅している動物や植物の仲間入りをしかねないことに気づく人々は、ますます増えています。私たちがその一員として依存している自然界を尊重しなければ、私たち自身の生存が危うくなってしまうのです。

では、どうすれば大惨事を回避することができるのでしょうか。

私たちは貧困を軽減しなければなりません。なぜなら貧しい人々は、食料を育てたり、木炭を売ってお金を稼いだりするために、最後の木まで切り倒さざるを得ないからです。都市部の貧しい人たちに、自分たちの買うものが環境を破壊していないかどうか、あるいは、それが安いのは、子どもの奴隷労働や不当に低い賃金のせいなのではないか、を考えている余裕などありません。生き残るだけで精一杯だからです。

のどの渇きを癒そうとする子ども(パキスタンのグジャラート市で)© Asim Ijaz

貧困の状況にない私たちは、持続不可能で物欲に支配されたライフスタイルを改めなければなりません。私たちには、倫理的に正しい選択をしたり、「私が今していることは、地球や将来の世代の健康にどう影響するのか」を問いかけたりすることができるからです。

私たちは、人口と家畜の増大という問題について、公に議論すべきです。地球上の人口は現在、約72億人に達し、地球の限りある天然資源を、自然が補充できるよりも速いスピードで私たちが消費している場所もすでにあります。2050年までに、世界人口はおよそ95億人に達すると見られています。そして私たちが人々を貧困から救っていけば、救われた人々は当然のことながら、私たちの送っている魅力的な、しかし残念ながら持続不可能なライフスタイルをまねようとするでしょう。

私たちは自然界との新たな関係を築き、多くの雇用を生む新しい「グリーン」経済の実現に努めなければなりません。さもなければ、人々の間の紛争は悪化してしまいます。淡水の供給量が減る中で、人々はすでに水利権を求めて争いを始めているほか、気候難民が加わることで武力紛争を逃れる数百万人という数がさらに膨れ上がることになります。

チャンスさえ与えれば、自然の回復力が発揮されると私は信じています。私がタンザニアでチンパンジーの研究を始めた1960年には、小さな(35平方キロメートルの)ゴンベ国立公園は、赤道アフリカを横切って広がる森林帯のごく一部でした。1990年までに、ゴンベははげ山に囲まれた小さな森の島と化しました。人間の数を環境が支えきれなくなり、しかも住民は貧しく、他の場所で食料を買えなかったからです。住民はより多くの食物を育てたり、木炭を作ったりするために、最も険しい斜面に生えている木々さえも伐採せざるを得なくなり、その過程で浸食や地すべりが発生しました。私は、人々が環境を破壊しないで生計を立てる方法を見つけない限り、チンパンジーを守ることは期待できないと悟ったのです。そこで、ジェーン・グドール・インスティテュートでは「Tacare(タカリ)」という、総合的な地域主導型保全活動を開始しました。この活動では、生産力が落ちた農地の回復に加えて、パーマカルチャー(永続可能な農業・文化)や水管理プロジェクト、保健・教育施設の改善、女児に高等教育進学のチャンスを与えるための奨学金、住民が環境的に持続可能なプロジェクトを立ち上げるための少額融資プログラムを実施しています。また、タンザニアで生き残っているチンパンジーのほとんどが暮らす村の保安林を住民が監視・保護できるよう、スマートフォンの使い方に関する研修会も行っています。環境保護は単に野生生物だけでなく、自分たちの未来も守ることにつながることを知った地域住民は、私たちのパートナーとして保全活動を行うようになりました。今ではゴンベの周辺に、はげ山はなくなりました。絶滅の危機に瀕していた動物たちに、もう一度チャンスが与えられたのです。このようなプロジェクトは全世界に広がっています。

夏の異常高温により、アラスカ・フィヨルドの氷河から剥がれ落ちる大きな氷塊(2019年)© Shumaila Bhatti

人間が持つ並外れた知力のことも忘れてはなりません。科学者たちは、私たちがもっと自然と調和して暮らせるよう、驚くような最新技術を発明しています。そして、私たち一人ひとりが、人間が環境に及ぼす影響を減らすための方法を模索しています。

そして最後に、私たちは若者がこの問題を理解し、行動を起こすための能力を与えられたときに発揮するエネルギーやコミットメント、熱意を目の当たりにしています。ジェーン・グドール・インスティテュートの若者向け環境・人道プログラム「Roots & Shoots(ルーツ&シューツ)」では、幼稚園から大学までの若いメンバーを対象に、人間と動物、そして環境にとって世界を少しでも良い場所にするため、自分たちのプロジェクトを選べるようにしています。人間、動物、環境は、すべてお互いにつながっているからです。こうした動きは現在、同じ価値観で展開されている他の若者向けプログラムと連携しながら、65カ国以上で実施されています。このプログラムは1991年に始まっているため、当初のメンバーの多くはもう大人になり、中には政策を決める立場にある人もいます。

若者は校庭で有機栽培を行ったり、パーマカルチャーや再生農業について学んだり、リサイクルや再利用を進めたり、ゴミを集めたり、野生動物やその部位の不正取引に対する認識を広めたりするようになりました。捨てられた動物や救出された動物の保護施設、貧しい人々のための無料食堂などでボランティアをする人もいます。また、自然災害の被災者を支援するため、募金活動を行っている若者もいます。年長のメンバーは年少の子どもたちに対し、環境保護の大切さや、動物が単なる物ではなく、感覚を持った存在であり、恐怖や絶望、苦痛を感じられる個体であることを教えています。

ウガンダのブウィンディ原生国立公園に生息する野生のオス(シルバーバック)ゴリラ© Joe Shelly

野菜中心の食事がトレンド(流行)となりつつあることは、心強い限りです。人間と環境の健康に良いだけでなく、感覚を持つ数百万個体の動物が受けている、恐ろしく大きな苦痛を和らげられるからです。

持続可能な方法で作られた製品を求める消費者の圧力に対応するため、従来の慣行を変えている企業も多くあります。大企業にはしばしば、政府の政策に影響を及ぼす力があります。

全世界で数百万人が何百万本もの木を植え、森林やその他の生息地の保護と回復に努めています。

ここで紹介した活動はいずれも、野心的な「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に反映されています。このアジェンダに含まれる17の持続可能な開発目標(SDGs)の中には、現在と将来の世代のために、地球とその野生生物や資源を維持するための真剣かつ実用的な目標も盛り込まれています。世界的なCOVID-19パンデミックと不安の中で国連が創設75周年を迎える中で、私たち全員が連帯感と希望を新たにするよう求められているのです。

世界の子どもと若者は、希望の恩恵をただ黙って受け取るのではなく、これを積極的に求めるアンバサダー(大使)の役割を果たすことも多くなっています。国連は今、健全で平和な地球を目指す75年間の活動を振り返る新たな写真展を、オンラインでも開催中ですが、そこには生命とその回復力、そして素晴らしい若者たちが果たす役割が生き生きと写し出されています。この記事でも、その中の作品をいくつか紹介しています。私たちの未来に期待感を持ちたいという方には、この写真展をどのような形でもご覧になるようお勧めします。

その最も大事なメッセージはおそらく、私たちの一人ひとりが、より良い世界をつくるために毎日、何らかの役割を果たせるのだということではないでしょうか。

この記事でご紹介した写真は、国連創設75周年記念の一環として、モバイルアプリのAgoraが主催した世界的フォトコンテスト、#TheWorldWeWant(私たちの望む世界)への応募作品です。

UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)は、公式記録ではなく、国連の高官や、国連システム以外の著名な寄稿者が意見を述べる場であるため、ここで表明された意見は必ずしも、国連の立場を示すものではありません。同様に、地図や記事に示されている領域や名称、呼称は、国連による承認を受けて使われているとは限りません。

執筆者について

ジェーン・グドール

ジェーン・グドール氏は動物行動学者・環境問題専門家で、大英帝国勲章第2位を受勲しています。また、ジェーン・グドール・インスティテュートの設立者、国連ピース・メッセンジャーでもあります。

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原文(English)はこちらをご覧ください。