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国連報告書が世界に「警告」:100万種の生物が絶滅の危機に

2019年05月10日

201956 人間が自然に与える影響に関する痛烈な報告書によると、今後数十年で、およそ100万種の生物が絶滅するおそれがあります。国連の生物多様性に関する専門家はきょう、抜本的な対策を取らない限り、地球の資源保全に向けた現在の取り組みは失敗に帰す公算が高いと述べました。

オードレー・アズレー国連教育科学文化機関(UNESCO)事務局長は、パリで開かれたグローバル評価報告書(2005年以来初の報告書)の発表にあたり、その調査結果は世界への「警告」にあたると発言しました。

「この歴史的報告書の採択を受け、これからは誰も、自分は知らなかったとは言えなくなるでしょう。私たちはもはや、生物多様性を破壊し続けることができなくなったのです。それは将来の世代に対する私たちの責任でもあります」事務局長はこのように述べました。

アズレー事務局長は、生物多様性 ― 同種内、異種間、そして生態系の多様性 ― の普遍的重要性を強調し、その保護は「気候変動対策と同様、きわめて重要」だと語りました。

UNESCO本部での採択に向け、130カ国を超える政府代表団に提示されたこの報告書は、50カ国以上の専門家400人による調査を取りまとめたものですが、その調整はボンを拠点とする「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)が担当しました。

この調査報告書は、自然と生態系の現状や、自然があらゆる人間活動を支えている様子について広範な知見を提供すると共に、持続可能な開発目標SDGs)や愛知生物多様性目標、気候変動に関するパリ協定など、主要な国際目標に関する進捗状況についても論じています。

報告書はまた、過去50年間に「未曽有の」生物多様性と生態系の変動をもたらした5つの主因についても検討し、これらを具体的に、陸と海の利用の変化、生物の直接的な搾取、気候変動、汚染、外来種の侵入と特定しています。

4種に1種の生物が絶滅の危機に

危機にさらされた動植物に関し、調査報告書は、人間活動が「以前にも増して、生物種を脅かしている」としていますが、この調査結果は、動植物群全体の約25%が脆弱な状態にあるという事実に基づいています。

こうした事実は、約100万種の動植物が「絶滅の危機に瀕しており、その多くは生物多様性の損失をもたらしている主な要因の影響を減らす対策が取られなければ、今後数十年以内に絶滅しかねない」ことを示唆しています。

対策を取らない限り、世界的な生物種絶滅のペースは「さらに加速」しかねませんが、報告書は、このペースがすでに「過去1,000万年の平均と比べて、少なくとも数十倍から数百倍に早まっている」としています。

報告書の指摘によると、先住民や地域社会によるローカルな取り組みが数多く行われてはいるものの、2016年までに、食料や農業に用いられている家畜哺乳類6,190種のうち、およそ9%に相当する559種が絶滅し、さらに1,000種以上が絶滅の脅威にさらされています。

長期的には作物の安定確保にも脅威

さらに報告書は、長期的な食料の安定確保に必要な作物の近縁野生種が「実効的な保護」を欠く一方、家畜となっている哺乳類と鳥類の近縁野生種の状況も「悪化」していると断言しています。

同時に、栽培作物や作物の近縁野生種、家畜種の多様性の減少は、将来的に気候変動や害虫、病原体への農業の抵抗力が低下する公算が高いことも意味します。

報告書では「ほとんどの場所の人々には、かつてないほど大量の食料やエネルギー、物資が供給されている一方で、将来的に自然がこのような寄与を続けられる能力はますます損なわれている」と述べたうえで、「人間全体が依存する生物圏が…人類史上例を見ない速さで減退している」と付け加えています。

海洋汚染は「1980年以来10倍」に

汚染の問題に関しては、世界的なトレンドにばらつきがみられるものの、報告書によると、いくつかの地域では大気、水質、土壌汚染が悪化を続けています。報告書は「特に海洋のプラスチック汚染は1980年以来、10倍に増大し、少なくとも267種の生物が影響を受けている」としています。その中にはウミガメの86%、海鳥の44%、海洋哺乳類の43%が含まれています。

IPBESは声明を発表し、「The 2019 Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services(生物多様性と生態系サービスに関するグローバル評価報告書2019)」がこの種の報告書としては初めて、先住民と地域住民の知識や問題、優先課題を検討、包摂していることを明らかにするとともに、その使命が、生物多様性の持続可能な利用、長期的な人間の福祉、持続可能な開発に向けた政策立案の強化にあることを指摘しました。

ロバート・ワトソンIPBES議長は次のように断言します。「生物種、生態系、そして遺伝的多様性の損失はすでに、人間の福祉にとってグローバルかつ世代を超えた脅威となっています。人間に対する自然のかけがえのない貢献を保護することは、今後数十年間を決定づける課題となるでしょう。しかし、最善の知識とエビデンスに基づいて初めて、あらゆるレベルの政策、取り組み、対策が、成果を上げることができるのです」

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原文(English)はこちらをご覧ください。