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国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始

2019年04月30日

2019325ジーンズ1本を作るためには、約7,500リットルの水が必要になりますが、これは平均的な人が7年かけて飲む水の量に相当します。しかもそれは、最近の環境研究の結果として判明した多くの驚くべき事実の一つにすぎません。このような調査結果から分かるのは、ファッションの流行を追うことには、プライスタグ(価格)をはるかに上回るコストがかかるということです。

環境に有害な影響を与えている産業として、私たちの頭に最初に浮かぶのは製造業、エネルギー、輸送、さらには食品生産といった業界です。しかし、国連貿易開発会議(UNCTAD)では、ファッション業界が世界で第2位の汚染産業とみなされています。

UNCTADによると、ファッション業界は毎年、930億立方メートルという、500万人のニーズを満たすのに十分な水を使用し、約50万トンものマイクロファイバー(石油300万バレルに相当)を海洋に投棄しています。

炭素排出量を見ても、ファッション業界は国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い量を排出しています。

この業界で支配的なビジネスモデルは「ファストファッション」、すなわち低価格で品揃えを目まぐるしく変えることで、消費者に衣服の頻繁な買い替えと廃棄を促すものになっています。国連を含め、多くの専門家は、このトレンドこそ、社会や経済、環境に多くの悪影響を引き起こしていることへの責任があると見ています。事実、衣料品の生産量は2000年から2014年までの間に2倍に増えており、できる限り倫理的で持続可能な衣料品の生産を確保することが、きわめて重要となっています。

持続可能性を高めるイノベーション

こうした厳しい統計データがある中、ファッションの生産者と消費者はますます、この業界が変わる必要があるという考え方に目覚めてきています。大型量販店を含め、数多くの企業は、持続可能性の原則を事業戦略に取り入れるようになりました。具体的には、衣料品回収制度を導入したグローバルな衣料品販売チェーンのH&M(エイチアンドエム)、中古衣料リサイクル・プログラムに加わっているジーンズメーカーのGuess(ゲス)、再生ボトルのポリエステルを用いてジャケットを生産しているアウトドア衣料メーカーのPatagonia(パタゴニア)などの例が挙げられます。

より規模の小さい企業も、ファッションと環境の関係を変えることに貢献し、持続可能性をビジネスモデル全体に組み込むようになってきました。

その一つ、スイスの企業Freitag(フライターグ)は、トラックの防水シートやシートベルトのアップサイクルで、かばんやリュックサックを作っています。また、Indosole(インドソール)は廃棄タイヤから靴を作り、カナダの衣料品メーカーNovel Supplyは、顧客が着られなくなった衣服を返却できる「テイクバック制度」を導入し、自社で再利用やリサイクルを行えるようにしています。

Novel Supplyの設立者Kaya Dorey(カーヤ・ドーリー)氏は、環境に優しい素材を使用し、製造工程で生じた廃棄物の問題に対する解決策を見出すという生産モデルの創造に向けた試みを評価され、国連で最高の環境表彰にあたる「ヤング・チャンピオン・オブ・ザ・アース」賞を授与されました。

ドーリー氏は動画で、自社生産工程の各要素が、無駄や環境被害を最低限に抑えることにどう活かされているのかを説明しています。

ファッション業界の「浄化」における国連の役割

「これまでどおりのアプローチを続ければ、業界からの温室効果ガス排出量は、2030年までに50%近く増大すると見られます」 エリサ・トンダ国連環境計画消費生産課長

 環境も社会も破壊しかねないようなファッション業界の実践を変え、ファッションショーを世界の生態系改善を目指す場として活用するため、10の国連機関は3月、ナイロビで開催された2019年国連環境総会で、UN Alliance for Sustainable Fashion持続可能なファッションのための国連アライアンス)を立ち上げました。

アライアンスの立ち上げに携わった10の国連機関の1つ、国連環境計画(UNEP)のElisa Tonda(エリサ・トンダ)消費生産課長は、今回の取り組みの緊急性を次のように説明しています。「グローバルな衣料品と履物の生産は、世界の温室効果ガス排出量の8%を生み出しており、製造部門がアジアに集中する中で、この業界は主として無煙炭や天然ガスで作られた電気や熱を利用しています。これまでどおりのアプローチを続ければ、業界からの温室効果ガス排出量は、2030年までに50%近く増大すると見られます」

インフルエンサーの力

英国のアーティストで環境活動家でもあるElle L氏は、アライアンスの発足式に参加し、UN Newsに対して、ファストファッションが持続可能性に対する最大の障壁だという見方に同意すると述べました。「買わせるための圧力は本当に強く、過剰生産と過剰消費に歯止めをかけられるブレーキもありません。ラベリングを改善して、自分たちが何を買っているのかを人々が把握できるようにしたり、深刻な環境被害の原因となり、マイクロプラスチック危機も助長している合成繊維に税金をかけたり、これを禁止したり、さらには過剰生産と過剰消費に関する思考回路を変えたりすることが必要です」

特に最近の10年間ではますます、ソーシャルメディアの「インフルエンサー」たちが事実上、ファストファッションの悪影響を可視化するようなメッセージを広めています。ケニアを拠点に活動するファッションとライフスタイル関連のブロガーで、受賞歴もあるLucia Musau(ルシア・ムサウ)氏は、その一人です。

UN Newsは、国連環境総会で持続可能なファッションに関する話し合いに参加していたルシアさんにお会いしました。ルシアさん自身も、時間が経つにつれ、自分の発言力が徐々に大きくなり、人々にトレンドに関するアドバイスをしたり、何を買うかについて影響力を及ぼしたりするようになったことを実感しています。

「グローバル市民として、私たちには果たすべき大きな役割があります。私たちは、自分が消費するファッションについて、ますます意識を高めています。単に流行っているからという理由だけで、何でも買えるような時代は終わったんです。もしケニアのデザイナーにプロモートを依頼されたとしたら、私は正確に知りたいですね、どうやってその服を作ったかっていうことを」こう語るルシアさんは、今回の国連アライアンスも支援しています。

ルシアさんは「消費者が意識を高める中で、業界はそのニーズに適応せざるを得なくなるでしょう」と付け加えました。

LESS IS MORE ― 少ない方がより多くを得られる

一部の小売業者は、業界が環境に及ぼす有害な影響を和らげようとする運動を起こしているものの、究極的に、ファッションを本当の意味で持続可能にできる方法は、使い捨て型の文化に終止符を打つことしかありません。

Future.Fashion.Now/VEPSI: 「国連持続可能なファッションに関するアライアンス」の発足式に参加したケニアのインフルエンサー兼モデルのルルシア・ムサウ氏

McKinseyの2019年「The State of Fashion Report(ファッションの現状)」報告書によると、平均的な人が買う衣料品の数は15年前よりも60%増えている一方で、買ったものを手元に置いておく期間は半分に減っています。

UNEPは、衣料品の手入れの改善やリサイクリング、「テイクバック」プログラムなどの行動を通じ、消費のあり方の変革を促進すれば、大きなインパクトが生じる可能性があり、単に同じ衣料品を使う期間を2倍に伸ばすだけでも、ファッション業界の温室効果ガス排出量は半減するかもしれないと述べています。

しかし、これを実現させるためには、小売業者と消費者の双方が「資源の投入、生産、廃 棄(take、 make、 dispose)」モデルを拒み、ファッションに関する限り、少ないほうがより地球のためになるという合意を形成しなければなりません。

ファッション業界の環境への影響

  • 1本のジーンズの生産には、2,000ガロンの水が必要です。
  • ファッション業界は毎年、500万人の生存を可能にする9,300億立法メートルの水を使っています。
  • ファッション業界は全世界の廃水の20%を作り出しています。
  • 衣料品と履物の製造は、全世界の温室効果ガス排出量の8%を占めています。
  • 毎秒、ごみ収集車1台分に相当する繊維が埋め立てに使われたり、焼却されたりしています。
  • 2000年から2014年にかけ、衣料品の生産量は倍増しています。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

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