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この人に聞く:包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)を率いるラッシーナ・ゼルボ事務局長

2016年09月15日

核実験:禁止条約は採択から20年の今も未発効

2016年8月31日 – 国連総会によって20年前に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、未だ発効していません。そのためには未批准の特定8カ国による批准が必要です。

具体的には、中国、エジプト、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)、インド、イラン、イスラエル、パキスタンおよび米国の8カ国です。

ラッシーナ・ゼルボ氏は2013年に包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のトップに就任して以来、CTBTの発効に向けて尽力しています。

また、CTBTの遵守状況を監視する最重要拠点としてのCTBTOの地位強化にも努めています。

CTBTOのグローバル監視ネットワークは90%が完成し、最も遠く立ち入りが不可能な陸域と海域を含む約300カ所にモニタリング施設が展開されています。監視ネットワークでは地震、水中音響、可聴下音、放射性核種の4種類のデータを把握します。このシステムはDPRKが発表した4回の核実験をすべて検知しています。

ラッシーナ・ゼルボ氏は8月31日、「核実験に反対する国際デー」を記念する国連総会の非公式会合に出席するため、ニューヨークを訪れました。

この会合の傍ら、ゼルボ事務局長はUN News Centreとのインタビューに応じ、CTBTOによる監視の成果について語るとともに、署名開始から20年を経過した今も、CTBTが発効していないという事実につき、遺憾の意を表しました。

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“包括的核実験禁止条約は、不拡散プロセスの鍵を握る要素です。この重要要素を確保し、核兵器のない世界を目指すためのバックボーンとして活用しようではありませんか”

UN News Centre:今年は包括的核実験禁止条約の採択20周年にあたります。CTBTO事務総長に就任されてからの3年間を含む過去20年間に、どのような成果が得られたのでしょうか。

ラッシーナ・ゼルボ:この20年間の成果については、政治的側面と技術的側面の両方からお話ししたいと思います。政治的には、ほぼ普遍的な承認が得られたと思っています。すでに183カ国が条約に署名しています。今後数週間で、条約批准国の数は164カ国、さらに場合によっては166カ国にまで増える可能性があります。これはほぼ普遍的と言えるでしょう。国際社会の90%以上が、核実験に決然たるノーを突き付けているのです。これは政治的な成果です。しかし、残りの8カ国が条約を批准せず、その発効を妨げることで、言うなれば国際社会を人質に取っているという事実によって、この政治的成果に暗い影が付きまとっています。私たちの問題はここにあります。私たちには状況を打開するための具体的行動、そして政治的意志が必要です。

仏領ポリネシアにおける核実験©Photo: OTICE

仏領ポリネシアにおける核実験©Photo: OTICE

技術的に見れば、私たちはすべてを成し遂げたと思います。すでに実効的な国際監視システムが導入されています。完成度はまだ92%ですが、私たちは国際監視システムが92%の完成度でも、システム設計当初の期待を上回る出来になっていることを立証しています。私たちの現地査察能力はうまく機能しています。その証明として、私たちが昨年、ヨルダンで開催した演習には、中東を含む全世界の国々から関係者が参加しました。イスラエルやイラン、ヨルダン、エジプトの人々が、核実験禁止条約の国際監視システムの技術的能力と検証体制を構築するために協力したのです。

これらが今までの成果です。政治的問題が少し残る中での成功と言えます。では、これからどうすればよいのでしょうか。技術的成功の中で、政治的行動と政治的意志が不足しているのが現状です。過去3年間の私たちの活動を、促進活動と呼びたくはありません。なぜなら、促進の段階は過ぎているからです。20年が経過して、なお促進の話をしているようでは、今まで何もしてこなかったということになります。ですから、それは促進というよりも、核実験という問題に対する関心をつなぎ止め、可能な限り最高のレベルでCTBTに対する意識を高めることで、国際社会や私たちのリーダーが、条約発効の緊急性を理解できるようにする、ということです。それが私たちの現在の活動です。

    

UN News Centreのインタビューに応じるラッシーナ・ゼルボ包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)事務局長©Credit: United Nations

UN News Centre:核実験禁止を求める決議案を安全保障理事会に提出するという米国の構想については、どうお考えですか。

ラッシーナ・ゼルボ:オバマ政権からの安保理決議案の提出は、メディアで取り沙汰されている話です。私たちは安保理決議について、良い評価も悪い評価もいろいろと聞いています。しかし、私はこの条約の目的に資する機関の責任者として、条約発効という課題を前進させ、実現に近づけるものであれば、何でも歓迎します。この決議が背景となって、残る8カ国が批准に向けて歩を進めるようになるのでしょうか。そうなるかもしれませんが、実際のところは分かりません。この決議はこれら8カ国の批准プロセスを停止したり、回避させたりするのでしょうか。そうは思いません。オバマ大統領が安保理決議をコンセンサスで採択することに成功したとしても、上院が包括的核実験禁止条約について助言や同意を与えることを妨げることにはならないでしょう。これは議会の責任であり、米国の内政に関わることだからです。決議は国際社会が採択するのに対し、批准は議会での助言や同意、大統領に対する助言や同意が絡む各国の責任事項です。そのことに矛盾があるとは思いません。これが私の決議に関する個人的見解です。決議が助けになる可能性もあります。もしそうであれば、私たちはありがたくそれを受けることにします。

カザフスタンのセミパラチンスク旧核実験場。写真:ONU/Eskinder Debebe

カザフスタンのセミパラチンスク旧核実験場。写真:ONU/Eskinder Debebe

UN News Centre:次回の核不拡散条約(NPT)再検討会議は20175月にスタートします。核兵器のない世界を作ろうという国際社会の意志について、楽観的にお考えですか。

ラッシーナ・ゼルボ:まず、昨年の結末についてお話しします。最終的に合意文書は採択されなかったものの、昨年のNPT再検討会議でコンセンサスが成立した問題もありました。基本的には、それがCTBTでした。CTBTは合意が得られる問題なのです。まず合意が得られる問題に注力し、それを土台として現時点で極めて困難な問題へと話を進めていくという決定を国際社会が下すのであれば、今後の動きを楽観視できると思います。直ちに核兵器のない世界を実現することは可能でしょうか。私もそれを望んではいますが、それよりも先に、簡単に手の届く成果があります。つまり、CTBTの批准と発効は、不拡散プロセスの鍵を握る要素です。この重要要素を確保し、核兵器のない世界を目指すためのバックボーンとして活用しようではありませんか。私としては、国際社会が「核実験に決然たるノー」を突き付けることに合意できない限り、核兵器のない世界の実現は難しいと考えています。私たち全員が、この目標に向け貢献する必要があります。私たちが生きている間に、それは実現しないかもしれませんが、大事なのは、将来の世代にどのような期待をつなぐか、ということなのです。その道義的責任は、私たち全員にあると考えています。

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ラッシーナ・ゼルボ包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会事務局長©UN Photo/Eskinder Debebe