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第59回国連総会における
コフィー・アナン国連事務総長演説
(ニューヨーク、2004年9月21日)

プレスリリース 04/087-J 2004年09月23日

議長
来賓の方々
皆様

これほど多くの国々からハイレベルの代表にご参加をいただき、うれしく思います。これはひとえに、皆様が4年前のミレニアム宣言で述べられたとおり、今日のような困難な時代において、国連は「人類という家族になくてはならない共通の家」だというご理解の賜物と存じています。

まさに今日の世界はこれまで以上に、共通の問題に対する共通の解決策を模索する効果的な仕組みを必要としています。これは国連の創設目的に他なりません。これを十分に活用できなければ、何らかのさらに効果的な手段を探せばよいというのは、全くの妄想に過ぎません。

来年の今頃、皆様はミレニアム宣言実施の進捗状況を審査されているはずです。そのときまでに皆様には、年内に発表予定の「脅威・挑戦・変革に関するハイレベル・パネル」の報告書をたたき台として、宣言の対象となっている問題全体に関し、大胆な決定を下す準備ができているものと期待しています。

1年前にも申し上げたとおり、私たちは一つの分岐点にさしかかっています。世界各国の政治指導者である皆様が、どの道を選ぶかについて合意できなければ、歴史が代わりに決定を下すことになり、各国民は仕方なくその運命を受け入れざるを得ません。

私にはきょうここで、その決定を前もって判断するつもりはありません。しかし、皆様に対しては、各国内でも世界でも、こうした決定を下すうえで従うべき重要な枠組みがあることを改めて申し上げたいと思います。その枠組みとは法の支配に他なりません。

「人治ではなく法治を」という理念は、文明と同時に生まれたといっても過言ではないでしょう。この演壇に程近い通路にもレプリカが飾られているハムラビ法典は3,000年以上も前に、現在のイラクで制定されたものです。

今から考えれば、ハムラビ法典には信じられないほど厳しい規定が多くあります。しかし、そこには当時から現代に至るまで、完全に実施されることはまれであるものの、ほとんどすべての人間社会で認識されてきた正義の原則が刻み込まれているのです。

貧しい人々に法の保護を与えること。

強者を抑制し、弱者を抑圧できないようにすること。

法律は公に制定し、すべての人々に知らせること。

この法典は、勝った者が正しいのではなく、正しい者が勝つという秩序を作り上げようとする人類の懸命な努力の歴史において、画期的な存在だったのです。きょうお集まりになった代表の方々の多くは、それぞれの国でこの単純な理念を体現する基本的文書を堂々と示すことができるはずです。そして皆様の国連もまた、同じ理念に立脚しています。

しかし、今日では世界各地で法の支配が危機に瀕しています。私たちは基本的な法律が公然と無視される様を繰り返し目の当たりにしています。こうして踏みにじられているのは、罪のない人々、民間人、そして子どもをはじめとする弱者の尊重を命じる規定なのです。

特に目立つ悪質な例を少しだけご紹介します。

イラクでは民間人が平然と殺害されているだけでなく、援助活動員やジャーナリストなどの非戦闘員が人質に取られ、野蛮この上ない殺され方をしています。またその一方で、イラク人受刑者に対する卑劣な虐待も明るみに出ました。

ダルフールでは、住民が根こそぎ強制退去を命じられ、家が破壊される中、レイプが意図的戦略として横行しています。

ウガンダ北部では、子どもたちが手足を切り取られたり、言語道断の残虐行為に駆り出されたりしています。

ベスランでは、子どもたちが人質に取られ、惨殺される事件が発生しました。

イスラエルでは、子どもを含む民間人がパレスチナ人による自爆攻撃の意図的な標的とされています。一方のパレスチナでは、住宅が破壊され、土地が強制収用され、イスラエルの度を越えた武力攻撃によって民間人に死傷者が出ています。

そして世界中で、ユダヤ人やイスラム教徒、そして自分たちとは異質と見なすあらゆる者に対する憎悪を煽り立てる宣伝活動により、このような蛮行への傾斜を強める人々が続出しているのです。

皆様

主張自体がいかに正当であろうとも、このような行為を許すことはできません。それは私たちすべてにとって恥ずべきことです。このような行為の広がりは、私たちが全体として法を堅持できていないこと、そして同胞たちに法の尊重を説得できていないことを如実に表しています。法の尊重を回復するために、私たちにはあらゆる努力を行う義務があるのです。

そのためにはまず、法の上に立つ者はなく、法の保護を受けなくてよい者もいないという原則からスタートしなければなりません。国内で法の支配を標榜する国は、国外でもそれを尊重しなければなりません。また、他国に法の支配を主張する国は、国内でもそれを守らなければなりません。

そうです。法の支配は国内から始まるのです。しかし、これがなかなか実現できない場所も多く残っています。憎悪や腐敗、暴力、そして疎外が野放しの状態になっています。弱者には有効な救済手段がない一方で、強者は法を思うままに操り、権力の維持と富の蓄積を図っています。テロとの戦いは必要であっても、それによって市民の自由が不必要に制限されることさえあります。

国際舞台では、強弱大小を問わずすべての国家が、他国も従うことを確信できる公正なルールの枠組みを必要としています。幸いなことに、このような枠組みは現実に存在します。貿易からテロリズム、さらには海洋法から大量破壊兵器に至るまで、各国は強固な規範と法律の体系を築き上げました。それは国連がもっとも誇るべき成果の一つといえましょう。

それでも、この枠組みには欠点や弱点が多くあります。適用に一貫性がなかったり、恣意的な運用がなされたりすることがあまりにも多くなっています。法体系を実効的な法制度にするための強制力も欠けています。

安全保障理事会など、実際に強制力がある場合でも、これが必ずしも公正あるいは効果的に行使されていないと感じている向きも多いのです。国連人権委員会などの場で、法の支配がもっとも真剣に提唱されても、提唱国が自らそれを実践しているとは限りません。

正当性を議論しようとする者は、まず自分でそれを体現しなければなりません。そして、国際法を援用しようとする者は、自らそれに従わなければならないのです。

国内で法が尊重されるかどうかは、すべての人々がその策定と実施に発言権を持っているかどうかにかかっています。それは国際社会でも同じことです。疎外されたと感じる国があってはなりません。すべての国々が国際法を自分たちのものとして意識し、正当な国益を保護してくれるものとして実感しなければなりません。

法の支配を単なる理念として考えるのでは不十分です。法を実践し、生活の隅々にまで浸透させなければなりません。

私たちが大量破壊兵器の拡散、そして利用の可能性から自らを守ろうとするのなら、検証規定を含め、軍縮条約の強化と実施を図ることに優る手段はありません。

どのようなテロ防衛にも欠かせない要素として、テロリストに資金と安全な隠れ家を与えないようにするためには、法の適用を確保する以外に方法はありません。

紛争で破壊された社会を再生しようとすれば、法の支配とその中立公正な適用への信頼を回復すること以外に道はありません。

中東、イラク、そして全世界での長期的紛争解決に向けた基盤として、安全保障理事会決議を含めた法律に優るものはありません。

そして、罪のない一般市民をジェノサイドや人道に対する罪、戦争犯罪から守るという私たちの責任を果たそうとするのなら、国際法の厳守が欠かせないのです。私が5年前、総会で警告したとおり、国家主権を言い訳にこの役割を歪めたり、責任逃れをしたりすれば、私たちは早々に歴史の厳しい裁きを受けることになるでしょう。

安全保障理事会は私に対し、ダルフールでの人権侵害の報告を調査し、ジェノサイド行為があったかどうかの判定を下す国際委員会の任命を要請しました。私は早速、これに応じるつもりです。しかし、これで手を休めてはなりません。そうしている間にも、ダルフール情勢は風雲急を告げているのです。法的な定義はどうであれ、そこで起きている事態はどんな人間の良心にも衝撃を与えるはずです。

アフリカ連合は、監視員と保護軍をダルフールに派遣し、その責任を担うという勇気ある決断を下しただけでなく、先頭に立って政治的解決を模索しています。こうした取り組みだけでも、恒久的な安全を保障できる可能性がありますが、周知のとおり、この生まれたばかりの連合には多くの制約もあります。私たちはできる限りの支援を行う必要があります。この問題をアフリカ人だけの問題として片付けてはなりません。犠牲になるのは人間であり、犠牲者の人権は私たちすべてにとって侵すべからざるものです。私たちにはすべて、あらゆる手を尽くす義務があるのです。それも、今すぐにです。

皆様

私は先月、安全保障理事会に対し、紛争中と紛争後の社会における法の支配と暫定司法の強化に向けた国連の活動を、任期中の優先課題にすると約束しました。

同様に、私は皆様全員に対し、国内と国外双方で法の支配を強めるため、一層の取り組みを行うよう求めたいと思います。私たちは、皆様の交渉により出来上がった民間人保護に関する条約の署名式を開くことになっています。この機会を利用して条約に署名され、さらに自国へお帰りになってからも、これを全面的かつ誠実に履行されるよう、ここにご出席の皆様すべてにお願いします。また、今会期中に私が提示する予定の国連職員の安全確保に関する措置についても、皆様の全面的な支持を切にお願いいたします。危険を覚悟で自らの意志で同胞たちの援助に努めるこれら非戦闘員は、尊敬だけでなく、皆様からの保護にも値する存在なのです。

暴力と不正の犠牲者たちは世界中で、私たちが約束を果たすのを待ち望んでいます。私たちの言葉に行動が伴わないことも、自分たちを保護すべき法律が適用されていないことも、これらの人々はたちどころに見抜くことでしょう。

法の支配を回復し、これを世界中に広めることは可能だと私は信じています。しかし結局のところ、それは法の精神が私たちの意識にどれだけ根付いているかによるのです。人類に語り尽くせない悲しみをもたらした戦争の廃墟を基盤に創られたのが、この国連です。今日、私たちはもう一度、共通の良心に立ち戻り、十分に責任を果たしているかどうかを見極めなければなりません。

皆様

法の支配確立への懸命な取り組みは古くから続いています。どの世代にも果たすべき役割があります。万人に自由を保障できるのは、この取り組みを置いて他にありません。

私たちの世代だけが、この努力を怠ることはできないのです。

ご清聴ありがとうございました。