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「新たな平和への課題」に関する政策概要の発表に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2023年7月20日)

プレスリリース 23-041-J 2023年08月03日

各国代表の方々、皆様、来賓の方々、

私は本日、「新たな平和への課題」と題する政策概要を皆様の前で発表できることを嬉しく思います。これは、『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』の提言を詳説する一連の政策概要で最新のものです。

私たちは、新しい時代を迎えようとしています。

冷戦後の時代は過ぎ去り、私たちは新たな世界秩序と多極化世界に向かって進んでいます。

「新たな平和への課題」に関する政策概要では、過渡期にある世界のために、国際法に基づく平和と安全を求める多国間の取り組みについて、私のビジョンを概説しています。

この新しい時代はすでに、ここ数十年で最も高レベルの地政学的緊張と大国間競争によって特徴付けられています。

多くの加盟国は、多国間システムが機能しているのかについて、ますます懐疑的な見方を強めています。

国際法違反は、ますます常態化しています。

ダブル・スタンダードや果たされていないコミットメントに対して、強く、そして時に正当な不満が広がり、協力は弱体化しています。

同時に世界は、緊急かつ団結した行動を直ちに必要とする、新たな増大する脅威に直面しています。

紛争はますます複雑化し、致命的になり、解決が困難なものとなっています。昨年、紛争に関連した死者の数は、この約30年で最多となりました。

核戦争の可能性に対する懸念が再燃しています。

潜在性を持つ新たな潜在的な紛争領域や戦争兵器が、人類が自滅し得る状況を新しく創り出しています。

不平等は国内でも国家間でも拡大しつつあり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって悪化しています。

人権は女性の権利に対する悪質な反発も含め、世界中で攻撃を受けています。

公的機関への不信が高まり、排除や疎外がそれをあおっています。

テロ行為は世界的な惨害として残り続けています。

気候緊急事態が資源獲得競争を激化させ、緊張を高めています。

そして、ロシアによるウクライナ侵攻がこうした課題への対処をさらに困難にしています。

すべての国が国連憲章の下でその義務を果たせば、平和に対する権利は保証されるでしょう。

しかし、各国がその誓約を破るなら、誰にとっても不安定な世界が生まれます。

国連憲章や国際法、地域安全保障アーキテクチャー、核軍縮や緊張緩和という、まさにマルチラテラリズム(多国間主義)と集団安全保障体制の原則が問われています。

グローバルな協力の枠組みは、この新しい世界情勢に追いついていません。

国連創設75周年記念宣言は私に対して、世界的な脅威を考慮し、それらに対処するための具体的な提言を策定するよう求めました。

「新たな平和への課題」に関する政策概要は、これらの多くの課題が相互に関連するものであるとの認識に立って、広範かつ野心的な一連の提言を示すものです。

これは、国連憲章ならびに安定した世界にとって礎である信頼、連帯、普遍性という中核的な原理を枠組みとして作成されました。

この政策概要は、平和のための行動と持続可能な開発目標(SDGs)とを結び付けるという私のコミットメントの一部でもあります。2030アジェンダに定めたビジョンを私たちが達成できれば、私たちの世界はさらに平和で安全で、より持続可能なものとなるでしょう。

各国代表の方々、

「新たな平和への課題」では、5つの優先領域における12の一連の具体的な行動を提案しています。それらの優先事項について、簡潔に説明します。

第一に、戦略リスクと地政学的分断へ対処によりグローバル・レベルで予防を強化する、強力な措置が必要です。

核軍縮や核軍備管理体制が損なわれ、核不拡散に異議が申し立てられ、核武装の質的競争が進行しています。

核兵器がもたらす人類存亡のリスクを軽減することが喫緊の優先事項ですが、それだけでは不十分です。私たちは、私たちができるあらゆることを行い、核兵器を廃絶し、このリスクを排除しなければなりません。

そのため、この政策概要では、加盟国に対して、核兵器のない世界の追求にあらためて緊急に取り組み、核兵器の使用と拡散に反対する世界的規範を強化するよう呼びかけています。

核兵器が完全に廃絶されるまでの間、核保有国は、決してそれらを使用しないことを誓わなければなりません。

また、分断の進行や、異なる貿易ルール、サプライチェーン、通貨、インターネットを持つ地政学的ブロックが出現する恐れに対し、予防外交をグローバル・レベルで強化することも必要です。

この政策概要は、すべての国に対して、特に国家間で意見が対立している時こそ外交を優先し、全面的な地政学的競争において人々が巻き添え被害を受けないよう、私の周旋を十分に活用して溝を埋めるよう呼びかけています。

唯一の真に普遍的なプラットフォームである国連が、こうした取り組みの中心になければなりません。

また、この政策概要は、グローバル・レベルで加盟国の間の信頼を再構築し、外交を支えることのできる、地域安全保障アーキテクチャーに向けた投資も呼びかけています。

各国代表の方々、

第二に、この政策概要は、すべての国の、すべての人に、いかなる時にも適応される、紛争と暴力を予防し、平和を維持するためのビジョンを示しています。

この政策概要は、あらゆる形態の暴力に対処し、調停に重点を置き、社会の結束を促し、持続可能な開発、気候行動、そして平和の間のつながりを優先し、すべての人権 ― 市民的権利、政治的権利、経済的権利、社会的権利、文化的権利 ― を完全に尊重することに根差した、予防のためのパラダイムを呼びかけています。

これには、平和の連続体を包括的に見ること、そして根本的な原因を特定して戦争の種が芽生えるのを防ぐ全体的なアプローチが必要です。

半分以上ものSDGターゲットの前進が停滞もしくは逆転していることが、世界の平和と安全に深刻な影響を及ぼしています。紛争の影響を受けている国々がSDGsにおいて最も後れを取っているのは、偶然などではありません。

私たちは、予防と持続可能な開発は相互に依存し、相互に補強し合うものであることを認識して、2030アジェンダの実施を加速させなければなりません。

教育とヘルスケアへのアクセスは、社会契約と人間の安全保障を強化する発展のための、確かな道筋です。

この政策概要はまた、平和と安全におけるものも含め、性差に基づく力関係を全面的に変革することも呼びかけています。

漸進主義では、女性、平和、安全保障の課題が達成されることはありません。

各国政府は、意思決定における女性の有意義な参加とリーダーシップを確保し、女性に対するあらゆる形態の暴力を根絶し、女性の権利を擁護するために、クオータ制の導入といった的を絞った段階措置を講じなければなりません。

「新たな平和への課題」ではまた、加盟国に対し、軍事費を減らし、非人道的兵器や無差別攻撃兵器を禁止することも呼びかけています。

各国代表の方々、

第三の優先領域は、今日の紛争の現実を認めた上で、平和活動に向けたアプローチを更新することです。

国連の平和維持活動は、多国間主義を象徴する活動であり、貢献するすべての人が、私たちの集団安全保障に直接関与できるようにしています。

その活動は、停戦の維持と民間人の暴力からの保護を手助けし、紛争当事者が和平交渉のテーブルに戻るよう支援することで、数百万人の命を救うことに貢献してきました。

しかし、複雑な国内、地政学的、または国境をまたがる要因に起因する長期にわたる未解決の紛争や、マンデートと資源の間の不釣り合いが絶えないことから、その限界が露呈しています。

平和維持活動は、維持すべき平和がないところでは成功しません。

また、政治的解決策を中心とした、安全保障理事会からの明確で、優先順位付けされた、現実的なマンデートでなければ、目標を達成することはできません。

ミッションには、十分な資源とともに、すべての当事者が積極的かつ継続的に関与する、安全保障理事会の全面的な政治的支援が不可欠です。

政策概要は、国連平和維持活動の将来像について、適切な出口戦略を備えた、機動的で適応可能なモデルに移行することを視野に入れながら、真剣かつ幅広い関係者と振り返ることを呼びかけています。

多くの場合、非国家的武装集団、犯罪組織、テロリスト、便乗者が関わる、紛争の断片化が生じており、多国籍の平和執行、対テロ作戦、対暴動作戦の必要性が高まっています。

政策概要では、加盟国に対してこの必要性を認識するよう求めるとともに、安全保障理事会に対しては、地域および准地域組織による平和執行行動を許可するよう呼びかけています。

この行動は、国連憲章、国際人道法および国際人権法に完全に沿ったものでなければならず、平和を進展させるための包摂的な政治的努力に裏打ちされたものでなければなりません。

アフリカほど、この新世代の平和執行ミッションを必要としている大陸はありません。

テロ集団を含め、国境をまたがって活動する非国家武装集団が増えたことで、アフリカ大陸のいくつもの地域で、深刻な脅威が高まっています。

したがって「新たな平和への課題」では、国連憲章第7章と第8章に基づく国連安全保障理事会のマンデートを受け、分担金を通じたものも含む資金提供が保証されたアフリカのパートナーたちが主導する、平和執行ミッションとテロ対策活動に対する私の呼びかけを、改めて強調しています。

これに関する決定は、すでに期限を過ぎて遅れています。

「新たな平和への課題」は、加盟国が今日の世界に合わせて多国間平和活動を更新するプロセスを開始する、極めて重要な機会です。

各国代表の方々、

第四の優先領域は、新興領域や新興テクノロジーの武器化を防ぎ、責任あるイノベーションを促進することです。

人工知能(AI)から新たな生物学的リスクに至るまで、新しいテクノロジーとそれらの間の複雑な相互作用は、現在の統治枠組みをはるかに超える新たな脅威を数多く生み出しています。

国際法がサイバー空間に適用されることは広く合意されているものの、紛争のサイバー的な側面に関するものを含めて、どのように適用するかはいまだ明確になっていません。

「新たな平和への課題」に関する政策概要では、加盟国がサイバー空間や宇宙空間に広がる敵対行為に取り組むための、詳細な提言を示しています。

公共サービスや社会機能に不可欠なインフラは、悪意あるサイバー活動には立ち入りさせないことを宣言していなければなりません。

政策概要はまた、加盟国に対して、人の制御なしに機能する自律型致死兵器システムを禁止する、法的拘束力のある文書を2026年までに採択するよう呼びかけています。

政策概要では、AIの平和と安全への影響を低減する、新たな国家戦略の必要性を強調しています。また、産業、市民社会、その他部門のステークホルダーの関与を確保しつつ、AIの軍事利用に関する規範、規則、原則を策定するための、多国間プロセスを呼びかけています。

私は、持続可能な開発を加速させるAIの利点を生かしながら、AIがもたらす平和と安全に対するリスクを低減させる新たな世界規模の組織の設立を検討する、いくつかの加盟国や業界専門家、科学界からの要請を歓迎します。

議論に情報を提供するため、私は、グローバルなAIガバナンスに関する選択肢を説明するためにハイレベル諮問機関を招集し、その報告を年末までに受ける予定です。

各国代表の方々、

第五の優先領域は、集団安全保障の仕組みを更新して、その正当性と有効性を取り戻すことです。

世界は、今日の地政学的な現実を代表する集団安全保障体制と、世界平和に対するさまざまな地域による貢献を必要としています。

「新たな平和への課題」は、この極めて重要な問題に対処する一世一代の機会を提供するものです。

政策概要では、安全保障理事会に対し、同理事会をさらに公正で代表性のあるものとするために緊急に変革することと、その手続きの民主化を提言しています。

また、国連総会の再活性化と軍縮機関の改革を提案しています。

さらに、平和構築委員会の役割の強化も提案しています。

特に安全保障理事会は、平和活動のマンデートの平和構築の側面に関して、同委員会の助言をさらに体系的に求めていく必要があります。

グローバル・レベルの予防においては、国際金融アーキテクチャーに組み込まれた不公正と不平等を是正する取り組みも必要であり、これについてはこれに特化した政策概要で取り上げています。

各国代表の方々、

私の発言を終える前に、『私たちの共通の課題』の提言を詳説する、残る二つの政策概要について、簡単に触れたいと思います。

教育変革に関する政策概要では、この急激に変化する世界に向けて、個人や社会が新しいスキル、能力、考え方をよりよく身に付けられるように、教育制度の見直しを提案します。

その中核となるのは、包括的な生涯学習システム、何をどう学ぶかの見直し、そしてグローバル公共財としての教育にすべての人々がアクセスできるようにする国際協力の拡大を基盤として、すべての国で真の学習社会を創り上げるための呼びかけです。

「国連2.0」に関する政策概要では、2030アジェンダを加速させる力を加盟国にもたらすために最先端のスキルやアプローチを活用する、現代のニーズに即して変革された国連に対する私のビジョンを提示します。

私たちは、データ、デジタル・イノベーション、戦略的な先見性、行動科学といった、21世紀において不可欠な分野に、専門知識を移行させるつもりです。

私たちはまた、創造性、敏捷性、地理的多様性、ジェンダー平等、若者のエンパワーメントに向けた支援を拡大し、より前向きで包摂的な文化を国連全体で醸成していきます。

一連の政策概要の目的は、来年開催される「未来サミット」に向けた準備における皆様の討議を支援することです。

同サミットは、以下の状況において私たちが直面する、深刻なリスクと重要な機会に対処する好機です。

そして、新たな課題に立ち向かいながら、果たされていないコミットメントを実現するときです。

さらに、グローバルなシステムや枠組みを更新し、これらを今日や明日の課題に適合させる「未来のための協定」によって、互いの信頼と多国間行動における信頼を取り戻すときとなるでしょう。

私は、新たな課題に重点を置き、多国間システムに存在するギャップを埋める、明確で、合理的で、包括的なサミットの対象範囲に、皆様が合意されるよう要請します。

各国代表の方々、

平和は、国連の活動の原動力です。

今日の平和に対する新たな脅威によって、新たな要求が生まれています。「新たな平和への課題」に関するこの政策概要は、そうした要求に応えようとする私たちの試みです。

私は、加盟国がこれについて討議し、私たちの提言に参画するよう求めます。

国連はこれまで、幅広い提携と効果的な外交のプラットフォームとして、その結集力を幾度となく示してきました。極めて重大な脅威に対して一致団結した行動を取るために、深刻な意見の相違を乗り越えてきました。

国連という組織は多国間主義にとって中心であり、今後もそうあり続けなければなりません。

ひび割れて、問題を抱えたこの世界において、すべての国が関与する国連の普遍的制度を維持するのは、各国の責務です。

分断と破壊に私たちが飲み込まれてから行動するのでは遅いのです。

今こそが、行動すべき時なのです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。