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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)統合報告書の発表記者会見に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長ビデオ・メッセージ(2023年3月20日)

プレスリリース 23-016-J 2023年03月27日

友人の皆様、

人類は薄氷の上を歩いています。しかもその氷は急速に溶けつつあります。

本日発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書に詳述されているように、この200年間の地球温暖化は、ほぼすべてが人類によって引き起こされたものです。

過去半世紀の気温上昇率は、2,000年間で最も高くなっています。

二酸化炭素の濃度は、少なくとも200万年間で最高です。

気候の時限爆弾が時を刻んでいます。

しかし、本日のIPCC報告書は、気候の時限爆弾の信管を抜くための教本です。

人類が生き残るためのガイドです。

報告書が示すように、気温上昇を1.5℃に抑えることは実現可能なのです。

しかしそのためには、気候行動において飛躍的な前進を遂げる必要があります。

この報告書は、あらゆる国や部門が、あらゆる時間枠において極めて速やかに気候変動対策を講じるよう、行動を求める呼びかけです。

つまり、私たちの世界は、あらゆる対策をあらゆる場所で一斉に講じるよう、あらゆる方面において気候行動を必要としているのです。

私は、G20に「気候連帯協定」を提案してきました。同協定では、すべての主要排出国が排出削減に向けて一層努力するとともに、1.5℃目標を維持するための共通の取り組みにおいて、富裕国が財政的・技術的資源を動員して新興国を支援することになっています。

本日、私は全員の力を合わせた「アクセラレーション・アジェンダ」を通じて、この気候連帯協定を実現する取り組みを強化する計画を提案します。

この計画は、2050年までに世界の排出量正味ゼロを達成するために、締約国が自国の排出量正味ゼロの期限を早める措置を直ちに行うことから始まります。これは、各国の異なる事情を考慮して、共通でありながらもそれぞれに異なる責任と各国の能力に基づくとする原則に沿って行われるものです。

具体的には、先進国の指導者は、2040年にできるだけ近い時期に排出量正味ゼロを実現することを約束しなければなりません。2040年は、あらゆる先進国が守ることを目指すべき期限なのです。

これは達成可能です。すでに2035年を目標に設定した先進国もあります。

新興国の指導者は、2050年にできるだけ近い時期に排出量正味ゼロを実現することを約束しなければなりません。2050年は、あらゆる新興国が守ることを目指すべき期限です。

多くの新興国が、すでに2050年の期限を守ることを約束しています。

今こそ、すべてのG20諸国が共同の取り組みの下に結集し、2050年までにカーボンニュートラルを実現するため、官民セクターを通じて各国の資源や科学技術力、安価で確かなテクノロジーを集約させる時です。

すべての国が、解決策の一部にならなければなりません。

他国に先に行動を起こすよう求めていては、人類(の利益)が置き去りにされることを確実にするだけです。

アクセラレーション・アジェンダは、他にも多くの行動を呼びかけています。

具体的には、次のとおりです。

経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、その他すべての国々は2040年までに、新たな石炭使用を停止して段階的に廃止すること。

全世界で、官民による石炭に向けたあらゆる資金拠出に終止符を打つこと。

すべての先進国は2035年までに、その他すべての国々は2040年までに、排出量正味ゼロの発電を確保すること。

国際エネルギー機関(IEA)の調査結果と一貫性を持ち、新たな石油・ガスに向けたあらゆる認可や資金拠出を停止すること。

既存の石油・ガス備蓄の増加を止めること。

補助金の対象を、化石燃料から公正なエネルギー移行に変更すること。

2050年に世界の排出量を正味ゼロにするという目標に沿って、既存の石油・ガス生産の世界的な段階的削減を達成すること。

私は、これらの行動と一貫性を持ち、投資家を呼び込めるエネルギー移行計画を策定するよう、各国政府に要請します。

私はまた、すべての石油・ガス企業が解決策の一部となるよう、それらすべての企業の最高経営責任者(CEO)たちに呼びかけます。

彼らは、私が設置した「非国家主体の排出量正味ゼロ・コミットメントに関するハイレベル専門家グループ」による提言に沿った、信頼できる、包括的で詳細な移行計画を提示すべきです。

これらの計画では、2025年と2030年における実際の排出削減量と、化石燃料を段階的に削減して再生可能エネルギーを拡大するビジネスモデル変革の取り組みを明確に説明しなければなりません。

こうした加速化は一部の部門ですでに始まっているものの、投資家たちは今、非常に明確なシグナルを必要としています。

そして各国政府は、その一層の取り組みをビジネスリーダーたちが支援する確証を必要としていますが、各国政府もまた、それを可能にする政策・規制環境を整備しなければなりません。

海運、航空、鉄鋼、セメント、アルミニウム、農業などのあらゆる部門が、2050年までの排出量正味ゼロについて、その実現に至るまでの中間目標を含めた明確な計画を定め、それに向かっていかなければなりません。

同時に、このグローバルな目標実現に貢献できる確かなイノベーションに投資する機会を捉える必要があります。

また私たちは、どれも自分たちが引き起こしたものではない多くの危機の最前線に立たされている人々に、気候正義をもたらす取り組みを加速しなければなりません。

これは、次の活動によって実現できます。

最も脆弱な立場に置かれたコミュニティーを守り、適応や「損失と損害」のための資金と能力を拡大する。

多国間開発銀行が、助成金と譲許的融資を増額し、民間ファイナンスを全面的に動員できるようにする改革を推進する。

コペンハーゲン、パリ、グラスゴーで行われた財政コミットメントを実現する。

今年、「緑の気候基金」の増資を行い、2025年より前に適応ファイナンスを倍増させるロードマップを策定する。

自然災害に対する早期警報システムを4年以内に整備して、あらゆる人々を守る。

今年、損失と損害に関する新たな基金を創設する。

これらの重要な問題のいずれも、対応を待つ期間が長いほど、実現がより困難になります。

あと9カ月足らずで、パリ協定では初となる世界的な実績評価のために指導者たちが気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に結集します。

また指導者たちはそこにおいて、2025年に期限を迎える国ごとの気候計画、すなわち「自国が決定する貢献(NDC)」の次のサイクルを準備するプロセスを開始します。

これらの新たな気候計画は、過去10年、現在、そして次の10年に必要とされる加速化を反映したものでなければなりません。

私は、あらゆる温室効果ガスを対象とする、2035年と2040年の絶対的な排出量削減目標を明示した、野心的で経済全体にわたる新たなNDCに、すべてのG20諸国の指導者がCOP28の閉幕までにコミットすることを期待します。

移行は、経済全体を対象としなければなりません。

中途半端な誓約ではうまくいきません。

私は、9月にニューヨークで開催される「気候野心サミット」に、アクセラレーション・アジェンダの「ファースト・ムーバー」(先行者)を迎えられるよう期待しています。

私は、IPCCが事実に基づき、科学に根差した形で気候混乱を脱する方法を示してくれたことに改めて感謝します。

気候変動という課題を解決する準備は、これまでになく整っています。しかし、私たちは今すぐ、超高速のスピードで気候行動に取りかからなければなりません。

私たちには一刻の猶予もありません。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

【関連記事】緊急の気候行動により、すべての人々が住み続けられる未来を(2023年3月20日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)