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第75回国連総会でのアントニオ・グテーレス国連事務総長演説 (ニューヨーク、2020年9月22日)

プレスリリース 20-070-J 2020年09月30日

©UN Photo

議長、各国代表の皆様、

世界が混乱する中で、この総会議場は最も奇妙な様相を呈しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)は、私たちの年次会合の姿を跡形もなく変えてしまったからです。

しかし、それによって総会は、これまでになく重要な存在となっています。

私は1月の総会演説で、私たちの中に「四騎士」、すなわち、私たちの共通の未来を危うくする4つの脅威があることに触れました。

第1に、ここ数年で最も高まっている世界的な戦略地政学上の緊張状態。

第2に、私たちの存亡にかかわる気候危機。

第3に、世界的な不信の高まりと拡大。

そして第4に、デジタル世界の負の側面です。

しかし、そこには第5の騎士も潜んでいました。

COVID-19のパンデミックは1月以来、全世界を駆け抜け、他の4人の騎士と合流して、それぞれの勢力をさらに強めています。

来る日も来る日も、犠牲者の数は残酷にも増大を続け、家族は悲しみ、社会は停滞し、すでに不安定な足場に立っていた私たちの世界の支柱は、ますますぐらついています。

私たちは前代未聞の健康危機、世界大恐慌以来最大の経済的大惨事と失業、そして人権に対する新しく危険な脅威に同時に直面しているのです。

COVID-19は、世界の脆さを露呈させました。

不平等の高まり、巨大な気候危機、社会的な分断の拡大、腐敗の蔓延などです。

このパンデミックは、こうした不公正に付け込み、最弱な立場に置かれた人々を食い物にし、数十年分の前進を帳消しにしてしまいました。

貧困は30年ぶりに増大しています。

人間開発の指標は悪化しています。

私たちは持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた道から大きく外れています。

その一方で、核不拡散の取り組みは、静かに後退しています。そして私たちは、サイバー空間をはじめ、危険が出現している領域で対策を怠っています。

人々は傷ついています。

地球は燃えています。

私たちの世界は苦闘し、逼迫しながら、真のリーダーシップと行動を求めています。

各国代表の皆様、

私たちは、国連創設の時と同じような状況に直面しています。

75年前、国連をつくった人々は、パンデミックや世界恐慌、ジェノサイド、世界戦争を生き抜いていました。

不和の代償と結束の価値も知っていました。

そして、人間を中心に据えた先見性に富む対策を講じ、これが国連憲章にも体現されています。

私たちは今、1945年を追体験しているのです。

このパンデミックは、私たちが目にしてきたどの危機とも違います。

しかし、私たちは今後、形を変えながらも、同じような危機を何度も目にすることになるでしょう。

COVID-19は単なる警鐘ではなく、来るべき激動の世界に向けた舞台稽古でもあります。

私たちは、顕微鏡でしか見えないほど小さなウイルスが、世界を混乱に陥れたことを認識しつつ、謙虚な姿勢で前進を遂げなければなりません。

私たちは結束しなければなりません。すでに見てきたように、それぞれの国がそれぞれの方向に進めば、ウイルスもあらゆる方向に散らばります。

私たちは連帯して行動しなければなりません。この課題への対処能力が最も低い国々に対する支援は、あまりにも少なすぎます。

そして私たちは、科学を指針とし、現実を根拠としなければなりません。

ポピュリズムとナショナリズムは失敗しています。

ウイルスの抑え込みにこうした手法を用いたことで、状況が明らかに悪化したケースも多く見られます。

リーダーシップと権力が切り離されてしまっていることがあまりにも多くなっています。

素晴らしいリーダーシップの事例は見られますが、権力が伴わないことが多々あります。

権力に必要なリーダーシップが伴うとは限らないからです。

相互に関連し合う世界で、連帯こそが利己心に適うのだという単純な真実を認識すべき時が来ています。

私たちがこの事実を把握できなければ、誰もが敗者になります。

各国代表の皆様、

パンデミックが広がる中で、私はグローバル停戦を求めました。

そしてきょう、私は年末までにグローバル停戦を実現できるよう、国際社会にさらなる努力をお願いしたいと思います。

その期限までに残された時間は、ちょうど100日です。

パンデミックの最中の紛争で勝者となるのは、ウイルス以外の何者でもありません。

私の当初の呼びかけに対しては、180の加盟国のほか、宗教指導者や市民社会ネットワークなどからも支持が表明されました。

カメルーンからコロンビア、さらにはフィリピンその他に至るまで、多くの武装勢力も、約束が守られていないケースがあるとはいえ、呼びかけに応じて停戦を発表しました。

深い不信感や妨害者、何年にもわたって激化してきた戦闘の重荷など、そこには大きな障害が横たわっています。

しかし、私たちが希望を持てる理由もあります。

・ スーダン共和国では、政府と武装勢力間で新たな和平合意が成立し、特にダルフール地域や南コルドファン州、青ナイル州で暮らす人々にとって、新しい時代が訪れました。

・ アフガニスタンでは、数年にわたる努力が実り、画期的な和平交渉が始まりました。恒久的かつ包括的な停戦の実現方法についても、これから話し合われる予定です。女性や若者、紛争被害者が有意義な形で参加する包摂的な和平プロセスは、持続可能な解決に向けて最も期待が持てる手段です。

中には、停戦が過去よりも長く続いたり、停戦がなかったとしても、戦闘が小康状態になっていたりするケースも見られます。

・ シリアでは、イドリブの停戦がほぼ守られています。9年を超える紛争と大きな苦痛を経て、私たちが次回の憲法委員会の開催に努める中で、私は改めて、国内全土での戦闘行為の中止を訴えます。

・ 中東については、ガザで比較的平穏な状態が続き、ヨルダン川西岸被占領地区の一部併合が少なくとも当面は延期されていますが、私はイスラエルとパレスチナのリーダーに対し、関連の国連決議や国際法、二国間協定に沿った2国家共存の解決策を実現できる有意義な交渉を再開するよう、強く促します。

・ リビアでは、戦闘が下火になっているものの、安全保障理事会決議に真っ向から反する大がかりな傭兵増員と兵器増強が見られ、対立が再び激化するリスクが依然として高まっています。私たちは全員、実効的な停戦合意と、リビア当事者間の政治会談の実現に向けて連携を図らなければなりません。

・ ウクライナでは、最新の停戦合意が守られているものの、三者連絡グループとノルマンディー4カ国方式に基づき、ミンスク合意の実施に向けて、残る安全保障上、政治上の課題で進展を図ることが欠かせません。

・ 中央アフリカ共和国では、昨年の和平交渉成立が、暴力の大幅な減少に貢献しました。国連平和維持活動のもとで、国際社会の支援も受けながら、間近に迫った選挙と和平合意の実施継続に関する対話が国内で行われています。

・ そして南スーダンでは、コミュニティー間の暴力急増という不穏な動きが見られるものの、国連平和維持活動は和平合意の監視と実施に関する支援を提供している中で、2つの主要当事者間での停戦は概ね守られています。

また、激しい紛争が続いている場所でも、私たちは諦めずに平和を追求していきます。

・ 私たちはイエメンで、国内全土での停戦、経済的・人道的信頼醸成措置、政治プロセスの再開を盛り込んだ共同声明に関する合意を成立させるため、当事者の話し合いを実現すべく全力を注いでいます。

各国代表の皆様、

テロ集団が特に活発な場所では、平和に対する障害の克服がはるかに難しくなるでしょう。

サヘル・チャド湖地域では、パンデミックが健康、社会経済、政治、人道面で重なり合う複雑な影響を及ぼしています。

私は特に、テロ集団と暴力的過激主義的集団が、パンデミックを利用することを懸念しています。

また、私たちは戦争の劇的な人道コストも忘れてはなりません。

パンデミックが紛争や混乱と相まって、食料の安定確保に決定的な打撃を与えている場所も多くあります。

コンゴ民主共和国や南スーダン、さらにはイエメンでは、何百万もの人々が飢饉のリスクに直面しています。

今こそ、平和と和解に向けた支援の一層の推進を図るべきです。

そこで私は、安全保障理事会を中心に、今年末までにグローバルな停戦を実現すべく、国際的な取り組みを一段と強めるよう、呼びかけます。

先ほども申し上げたとおり、その期限まであと100日を残すのみであり、時計の針は刻々と動いています。

世界がすべての「熱戦」を止めるためには、グローバルな停戦が必要です。同時に私たちは、新たな冷戦を避けるために、あらゆる手を尽くさなければなりません。

私たちは、極めて危険な方向に進んでいます。私たちの世界は、2つの経済大国がそれぞれ独自の貿易・金融ルールと、インターネットや人工知能の能力を持ち、地球を二分するという「大断裂」の未来を許容できません。

技術的、経済的な分裂が戦略地政学的、軍事的分裂につながるリスクは避けられません。私たちはどんなことがあっても、それを避けなければならないのです。

各国代表の皆様、

パンデミックという全方位的な難事を前に、国連は包括的な対応を実施に移しました。

国連システムは世界保健機関(WHO)を中心として、特に開発途上地域の各国政府に対し、命を守り、ウイルスの蔓延を抑えるための支援を行っています。

私たちのグローバル・サプライチェーンは、130を超える国々に対する個人用防護具やその他医療物資の提供を支援しています。

私たちは「グローバル人道対応計画」を通じ、難民や国内避難民を含め、最も脆弱な立場に置かれた国と人々に救命援助を行っています。

私たちは、国連システム全体で開発緊急事態に対応する態勢を取り、国連国別チームを活性化するとともに、政府を支援するための政策ガイダンスも迅速に発表しました。

「Verified(ベリファイド/検証済み)」キャンペーンでは、多くの国で民主主義の基盤を揺るがしているオンラインのデマという有毒ウイルスへの対策を図っています。

私たちは、グローバル公共財としての治療と療法の推進に努めるとともに、どこでも物理的にも価格的にも入手可能な「人々のためのワクチン」開発に向けた取り組みを支援しています。

しかし、自国民だけがワクチンを手に入れられるよう、裏取引をしている国があることも報じられています。

このような「ワクチンナショナリズム」は不正だけでなく、自滅にもつながります。

誰もが安全でない限り、誰も安全でないことは、周知の事実だからです。

同様に、パンデミックが広がる中では、経済も立ち行かなくなります。

私たちは当初から、グローバル経済の10%に相当する大規模な救済策を求めてきました。

先進国は自国の社会に対し、巨額の救済を行ってきました。その余裕があるからです。

しかし私たちは、開発途上地域が財政破綻や貧困の悪化、債務危機に陥らないようにする必要もあります。

私たちには、悪循環を避けるための共同の取り組みが必要です。

今日から1週間後に、私たちはCOVID-19時代とその後における開発資金に関する会議に世界のリーダーを集め、解決策を探ります。

また、私たちはすべての取り組みで、女性と女児を特に重視しています。

人類の半数は、COVID-19がもたらす社会的、経済的影響の矢面に立たされています。

失業者が最も多い部門では、女性の労働者がより大きな割合を占めています。

女性はパンデミックによって生じた無給の育児や介護の大半を担っています。

しかも、女性が頼りにできる経済的資源も少なくなっています。賃金が低く、社会保障へのアクセスも限られているからです。

同時に、学校が閉鎖され、児童婚が増える中で、何百万人もの少女が教育と将来の機会を失っています。

私たちが直ちに行動を起こさなければ、ジェンダーの平等は数十年も逆戻りしかねません。

私たちはまた、家庭内暴力から性的虐待、インターネット上でのハラスメント、さらには殺害に至るまで、恐ろしい勢いで増えている女性と女児に対する暴力も撲滅しなければなりません。

女性に対して、隠れた戦いが仕掛けられているからです。

これを予防し、終止符を打つためには、私たちが他の形態の戦争行為に対処するために費やしているものと同じ労力と資源を投入する必要があります。

当面の対応に加え、より良い未来を実現できるよう、今から復興への取り組みに着手しなければなりません。

復興は、私たちが経済や社会を根本的に考え直すチャンスにもなります。

私たちには、国連憲章、世界人権宣言、持続可能な開発のための2030アジェンダ、そしてパリ協定という青写真があります。

復興でレジリエンスを構築することが必要です。

そのためには、各国レベルでの「新しい社会契約」と、国際レベルでの「新しいグローバルな取極め」が必要となります。

「新しい社会契約」の本質は、包摂的で持続可能な社会を構築することにあります。

包摂的という言葉には、社会的一体性に投資し、あらゆる形態の排除や差別、人種主義に終止符を打つという意味があります。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジやユニバーサル・ベーシック・インカムの可能性を含め、新世代の社会的保護を確立するという意味もあります。

エンパワーメントを可能にし、平等化を図るための現代の2大要素として、すべての人に教育へのアクセスを提供し、デジタル技術を活用するという意味もあります。

個人も法人も、あらゆる者が公正な負担を行う税制という意味もあります。

私が今年初め、ジュネーブで発表した「人権のための行動呼びかけ」に沿い、私たちのあらゆる活動の中心に人権を据えるという意味もあります。

女性と女児の権利と機会の平等も意味します。

このパンデミックは、女性のリーダーシップの有効性を、これまで以上にはっきりと実証しています。

北京会議から25年を経た今の世代の女児が、その無限の野心と潜在能力を発揮できるようにしなければなりません。

各国代表の皆様、

持続可能な「新しい社会契約」には、再生可能エネルギーへの移行を遂げ、2050年までに正味ゼロ・エミッションを達成するという意味があります。

私はすべての国に対し、国内経済の救済、再建、リセットを図る中で、気候変動を抑える6つの対策を検討するよう呼びかけています。

第1に、私たちの社会のレジリエンスを高め、公正な移行を確保すること。

第2に、グリーン・ジョブと持続可能な成長を生み出すこと。

第3に、工業や航空業、海運業の救済は、パリ協定の目標への整合を条件とすること。

第4に、化石燃料への補助金を打ち切ること。

第5に、あらゆる財務・政策決定過程において気候リスクに配慮すること。

そして第6に、誰一人取り残さないよう、ともに力を合わせること。

しかし、真の意味で脆弱性やリスクを減らし、共通の問題をより効果的に解決するためには、国際レベルでこれに対応する「新しいグローバル取極め」が必要となります。

「新しいグローバル取極め」の本質は、世界的な政治・経済システムが不可欠なグローバル公共財を届けられるようにすることにあります。

現在、これはまったく実現できていません。

ガバナンス構造と倫理枠組みには、巨大なギャップがあります。

こうしたギャップを埋めるため、私たちは力や富、機会の幅広く公正な共有を確保する必要があります。

「新しいグローバル取極め」は、あらゆる人の権利と尊厳、自然とのバランスを保った暮らし、私たちの将来の世代に対する責任に基づき、公正なグローバリゼーションに根ざすものとしなければなりません。

私たちは、持続可能な開発の諸原則をあらゆる意思決定に統合し、資源の流れを環境に配慮したもの、持続可能なもの、公正なものへとシフトさせる必要があります。

グローバル金融システムも、この方向へと進まなければなりません。

貿易は自由かつ公正なものとし、開発途上地域の競争条件を不利にしている歪んだ補助金や障壁を廃止することも必要です。

また、「新しいグローバル取極め」では、グローバルな権力構造の歴史的な不公正にも取り組まなければなりません。

創設から70年以上を経過した多国間機関は、一部の国に不当に大きな権力を与え、開発途上地域をはじめとする他の国々の声を抑えるのではなく、全世界のあらゆる人々をより公平に代表できるよう、改良を図る必要があります。

私たちは新たな官僚的制度を必要としていません。

私たちに必要なのは、絶えず革新を続け、人々のためになり、地球を守る多国間システムです。

21世紀のマルチラテラリズムは、開発銀行から地域機関、貿易同盟に至るまで、部門と地域を越えて、グローバル機関を結びつけるネットワーク型としなければなりません。

21世紀のマルチラテラリズムは、市民社会、地域と都市、企業、財団、学術・科学機関の能力を活用しながら、関与の輪を拡大することで、包摂的なものにもしなければなりません。

そうすることで、私たちは21世紀の試練に耐えうる効果的なマルチラテラリズムを確保できるのです。

全世界の友人の皆様、

私たちは以前の状態に戻ったり、国という殻に閉じこもったりすることで、この危機に対応することはできません。

今日の脆弱性や課題を克服するためには、国際協力を縮小するのではなくさらに拡大すること、多国間機関から脱退するのではなくさらに強化すること、そして、無法な競争という混沌ではなくより良いグローバル・ガバナンスが必要です。

このパンデミックは世界の様相を一変させましたが、この大変動からは、新しいものを作り出せる空間が生まれています。

これまで不可能とみなされてきた構想が突然、議論の遡上に上がっています。

大規模な行動はもはや、気が遠くなるほど困難なものと考えられていません。わずか数カ月で数十億人が、働き方や消費の仕方、移動、そして人とのかかわりあい方を根本的に変えているからです。

経済の救済に何兆ドルもの資金が投入される中で、大規模な資金調達も突如として可能なことが判明しました。

国連創設75周年記念の一環として、総会は私に対し、将来に向けた私たちの共通のアジェンダについて報告するよう促しました。

私たち全員が深い熟考のプロセスに関われる機会を与えられたことを歓迎します。

私は来年、報告する際に、私たちが共有の目標を達成できる方法に関する分析と勧告を提示します。

国連の歴史全体を通じ、私たちが成し遂げた成果から着想を得ようではありませんか。

世界各地で見られる正義と尊厳を求める運動に、肯定的に応えていこうではありませんか。

そして、五騎士に打ち勝ち、私たちが必要とする平和で包摂的、かつ持続可能な世界を築こうではありませんか。

パンデミックは、私たちが下す選択こそが重要だということを教えてくれました。

私たちが未来へと目を向ける中で、賢明な選択をしようではありませんか。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

「国連の活動に関する事務総長報告(2020年)」はこちらをご覧ください(英語)