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アントニオ・グテーレス国連事務総長によるネルソン・マンデラ記念講演: 「不平等というパンデミックへの取り組み: 新時代のための新しい社会契約」 (ニューヨーク、2020年7月18日)

プレスリリース 20-060-J 2020年09月09日

©UN Photo/Eskinder Debebe

親愛なる友人の方々、シリル・ラマポーザ大統領、各国代表の方々、来賓の方々、皆様、

皆様とともに、卓越したグローバル・リーダーであり、弁護士であり、模範的な人物でもあったネルソン・マンデラ氏の功績を称えられることは、大きな名誉です。

私は、この機会を与えてくださったネルソン・マンデラ財団に感謝するとともに、マンデラ氏の遺志を継ぐための活動を賞賛したいと思います。また、今週ジンジ・マンデラ大使を失ったご遺族の方々や、南アフリカの政府と国民の皆様に、深い哀悼の意を表します。故人の魂が安らかな眠りにつかれることをお祈り申し上げます。

私は、生前のネルソン・マンデラ氏に数度にわたってお会いするという幸運に恵まれました。マンデラ氏の言葉と行動の一つひとつに表れた英知と決意、思いやりを、私は決して忘れることができません。

昨年8月、私はマンデラ氏が収容されていたロベン島の独房を見学しました。私はその中に立ち、鉄格子から外を眺めて、その強靭な精神と計り知れない勇気を実感し、改めて謙虚な気持ちになりました。ネルソン・マンデラ氏はロベン島の18年を含め、計27年もの時間を刑務所で過ごしました。しかしマンデラ氏は決して、この経験によって自分自身とその一生が決定づけられることを許しませんでした。

ネルソン・マンデラ氏は、自分を投獄した人間を越える立場を獲得し、最終的には何百万人もの南アフリカ人の解放に寄与して、全世界に感動を与えるとともに、現代を象徴する人物になりました。

マンデラ氏は、最近の数十年の間に危機的な規模に達し、私たちの未来にますます大きな脅威を与えるようになった不平等と闘うことに、その一生を捧げました。

私はきょう、マディバ(マンデラ氏の愛称)の誕生日にあたり、何層にも重なって鎖のように連なる不平等が、私たちの経済や社会を破壊する前に、どのような取り組みを行っていけるのかについて、お話ししたいと思います。

友人の皆様、

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、この不平等を白日の下にさらしています。

世界は混乱し、経済は急速に冷え込んでいます。

私たちはごく小さなウイルスによって、立ち上がれないほどの打撃を受けているのです。

COVID-19の世界的大流行(パンデミック)は、私たちの世界の脆さを露呈させました。

不十分な医療制度、社会的保護の欠如、構造的な不平等、環境破壊、気候危機など、私たちが数十年にわたって無視してきたリスクを表面化させたのです。

貧困の根絶と不平等の縮小で前進を遂げていた地域が、わずか数カ月のうちに丸ごと、何年も前の状況に逆戻りしてしまいました。

新型コロナウイルスは、貧困層や高齢者、障害者、持病がある人々をはじめ、社会的に最も弱い人々に最も大きなリスクを突き付けています。

対策の最前線に立っている医療従事者は、南アフリカだけでも4,000人以上がウイルスに感染しています。私はこうした人々に敬意を表します。

国によっては、民間病院だけでなく、企業や個人までもが、あらゆる人が緊急に必要とする貴重な資材を買いだめしているケースも見られます。これも不平等の悲劇的な例と言えるでしょう。

コロナ禍による経済的な低迷は、インフォーマル経済や中小企業で働く人々のほか、女性をはじめ、育児や介護の責任を担う人々に影響しています。

私たちは、第二次世界大戦以来最悪の世界的景気後退と、1870年以来最も広範な所得崩壊に直面しています。

極度の貧困に陥る人がさらに1億人増えるおそれがあります。歴史的な規模の飢饉が生じるかもしれません。

COVID-19は、私たちが構築した社会の脆い骨格に生じた亀裂を映し出すX線のような存在です。

あらゆる場所で、誤謬や虚偽が明るみに出ています。

自由市場がすべての人に医療を届けられるという嘘。

無給の育児や介護は仕事ではないという虚構。

私たちが暮らす世界に人種差別はないという妄想。

そして、私たちはすべて同じボートに乗っているという神話。

事実、私たちは同じ海の上を漂っているとしても、スーパーヨットに乗る者もいれば、流れてきた瓦礫にしがみついている者もいるのです。

友人の皆様、

不平等は、私たちの時代を決定づけています。

世界人口の70%を超える人々は、所得と資産の不平等が拡大しつつある国に暮らしています。世界で最も豊かな26人は、世界人口の半数に等しい資産を保有しています。

しかし、所得や賃金、資産だけが不平等の尺度ではありません。人々が一生のうちに得られるチャンスは、ジェンダーや家庭的・民族的背景、人種、障害の有無や、その他の要因によって左右されるからです。

世代を越えて、数多くの不平等が交差し、お互いを補強しています。何百万人もの生活や期待はほとんど、生まれた時の状況によって決まってしまうのです。

不平等はこうして、あらゆる人の人間開発に悪影響を及ぼします。その結果は、私たち全員の身に降りかかっています。

不平等の大きさは、経済不安や腐敗、金融危機、犯罪の増加、身体と心の劣悪な健康状態とも関連づけられます。

特に先住民や移民、難民など、あらゆる少数者をはじめ、多くの人々にとっては、差別や虐待、司法へのアクセス欠如が不平等の決定的原因となっています。

だからこそ、不平等への取り組みは歴史全体を通じ、社会的正義や労働者の権利、ジェンダーの平等を実現するための原動力となってきたのです。

国連は、食料や医療、水と衛生、教育、ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)が、余裕のある人にだけ売られる商品ではなく、私たち全員が当然に手にできる人権であるというビジョンを掲げ、その実現を約束しています。

私たちは毎日、あらゆる場所で、不平等の縮小に努めています。

このビジョンの重要性は、75年前から変わっていません。

それは、健全な地球で平和と豊かさを実現するため、私たちが合意した青写真である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中心にも組み込まれています。持続可能な開発目標(SDGs)の目標10は「人や国の不平等をなくそう」と訴えています。

友人の皆様、

COVID-19のパンデミックが生じる前から、世界では、不平等が一生のチャンスや機会を損なっていることを多くの人が理解していました。

そこに、不均衡な世界の姿を見ていたのです。

こうした人々は、自分たちが取り残されていると感じていました。

そして、経済政策が資源を数少ない特権者へと貢いでいることも知っていました。

あらゆる大陸で、何百万もの人々が街頭に出て、声を上げました。

不平等の大きさと拡大は、その共通の原因でした。

最近の2つの社会運動で示された怒りは、現状への幻滅を反映しています。

単になすべきことをなそうとしている女性たちが男性の権力者から暴力を受けているという、ジェンダー不平等の中でも最悪の部類に属する事例に、女性たちが各地で抗議の声を上げています。

ジョージ・フロイド氏の殺害を受け、米国から全世界に広がった反人種差別運動は、人々がうんざりしていることを示すもう一つの兆候です。

皮膚の色を理由に、人々を犯罪者として扱う不平等や差別は、もう許せないという声。

そして、人々の基本的人権を拒絶する構造的な人種差別と組織的な不正は、もうたくさんだという声を上げたのです。

こうしたムーブメントは、私たちの世界ではびこる不平等の歴史的根源として、植民地主義と家父長制の2つを指し示しています。

私の出身である欧州をはじめとする先進国は暴力と強制を通じ、何世紀にもわたって開発途上国の多くを植民地として支配しました。

大西洋横断奴隷貿易と、ここ南アフリカでのアパルトヘイト体制という巨悪を含め、植民地主義は国内的、国際的に大きな不平等を作り出しました。

第二次世界大戦後、国連は平等と人間の尊厳を核とする新たな世界的コンセンサスに基づいて創設されました。

すると、世界を非植民地化の波が襲いました。

しかし、私たちは自らを欺いてはなりません。

植民地主義の遺産は、今も色濃く残っています。

そのことは経済的、社会的な不平等、ヘイトクライムや排外主義の台頭、制度化された人種差別と白人至上主義に見て取ることができます。

それはグローバルな貿易システムにも表れています。植民地化されていた国の経済は、原材料やローテク製品への特化を強いられるリスクが高く、これによって新たな形態の植民地主義が生まれています。

それは世界的な力関係にも見られます。

アフリカは二重の意味で犠牲者です。第一に、植民地プロジェクトの標的となりました。そして第二に、アフリカ諸国は、そのほとんどが独立を勝ち取る以前の第二次世界大戦直後に創設された国際機関で、十分に代表されていません。

もう70年以上も前に勝利を収めた国々は、国際関係における力関係を変えるために必要な改革の検討を拒んできました。国連安全保障理事会とブレトンウッズ体制の意思決定機関の構成と表決権は、その何よりの証拠です。

不平等は頂上にあるグローバル機関から始まっています。不平等への取り組みは、その改革からスタートさせなければなりません。

また、私たちの世界で不平等のもう一つの大きな根源となっている要素も忘れてはなりません。それは数千年にわたって続く家父長制です。

私たちは、男性が支配する文化を持ち、男性が支配する世界で暮らしています。

世界中の女性が、単に女性であるという理由だけで、男性よりも厳しい生活を強いられています。不平等と差別は常態化しています。女性の殺害を含む女性への暴力は、感染症のように蔓延しています。

女性は全世界で依然として、政府高官や企業役員のポストから排除されています。世界のリーダーの中で、女性は10人に1人もいません。

ジェンダーの不平等が誰にとっても不利益となるのは、私たちがそれによって、人類全体の知性と経験の恩恵を受けられなくなっているからです。

この理由から、私は誇り高いフェミニストとして、ジェンダーの平等を最優先課題としてきましたが、国連高官のレベルでは、男女同数がすでに達成されています。私は各方面のリーダーに対し、この例に倣うよう強く訴えています。

そして私は、南アフリカのシヤ・コリシ氏が国連・欧州連合スポットライト・イニシアチブの新たなグローバル・チャンピオンとなったことを発表でき、嬉しく思います。その役割は、女性と女児に対する暴力という世界的な惨劇との闘いに、他の男性も参画させることにあります。

友人の皆様、

この数十年間で、新たな緊張や動きが生まれています。

グローバリゼーションと技術的変化は実際、所得と豊かさの大幅な向上に貢献しました。
10億を超える人々が、極度の貧困を脱しています。

しかし、貿易拡大と技術進歩は、かつてない所得分配のシフトも助長しています。

1980年から2016年にかけ、世界で最も豊かな1%の人々は、累積的な所得増大分のうち27%を手にしました。

一方、未熟練労働者は最新技術の導入や生産の海外移転、労働団体の衰退による打撃をまともに受けています。

租税減免や租税回避、脱税は依然として広く行われ、法人税率も引き下げられています。

これによって、社会的保護や教育、医療など、不平等を縮小できるサービス自体に投資できる資金が少なくなっているのです。

また、新世代の不平等は所得と資産の範囲を超え、今日の世界で成功するために必要な知識や技能にも及んでいます。

大きな格差は人が生まれる前から始まり、人々の一生を決めてしまうのです。そして、人々の早死も運命づけられてしまいます。

人間開発が非常に高いレベルに到達している国々では、20歳の若者の50%以上が高等教育を受けています。人間開発のレベルが低い国々では、その割合が3%にすぎません。

また、人間開発のレベルが低い国々で20年前に生まれた子どもたちの約17%はすでに死亡しているという、さらに衝撃的な事実もあります。

友人の皆様、

将来に目を向ければ、2つの大転換が21世紀の世界の姿を決めていくことになるでしょう。それは気候危機とデジタルトランスフォーメーションです。この両方が、不平等をさらに拡大するおそれがあります。

現在、技術とイノベーションの拠点で起きていることの中には、大きな不安の種がいくつかあります。

男性が圧倒的に支配するテクノロジー産業は、世界のノウハウや見識の半分を使えていないばかりではありません。ジェンダー差別や人種差別をさらに悪化させかねないアルゴリズムも用いています。

このデジタル格差が、識字から医療、都市部から農村部、幼稚園から大学に至るまで、社会的・経済的な格差をさらに強固なものにしているのです。

2019年の時点で、先進国では約87%の人々がインターネットを利用していますが、後発開発途上国では、その割合がわずか19%にすぎません。

私たちの世界は、スピードの差によって2つに分かれてしまうおそれがあります。

同時に、気候変動の加速は2050年までに、栄養不良やマラリアその他の疾病、移住、異常気象により、何百万もの人々に影響を及ぼすと見られています。

これは世代間の平等と正義にとって、深刻な脅威となります。現在、気候変動に抗議する若者たちは、不平等に対する闘いの最前線に立っているのです。

気候変動で最も大きな影響を受けるのは、地球温暖化への寄与度が最も小さい国々です。

グリーン経済は、新たな豊かさと雇用の源泉となるでしょう。しかし、特に産業空洞化が進む世界のラストベルト地域では、職を失う人も出てくることを忘れてはなりません。

私たちが気候変動対策だけでなく、気候正義も求めている理由はここにあります。

政治指導者は高い野心を持ち、企業はその視野を広くし、世界中の人々が声を上げなければなりません。

改善策はあります。私たちはそれを採用せねばなりません。

友人の皆様、

現在の大きな不平等には、明らかな腐食作用があります。

私たちは時々、経済成長という満ち潮によって、すべてのボートが持ち上げられるのだという話を耳にします。

しかし、現実を見れば、不平等の高まりによって、すべてのボートが沈んでいることが分かります。

制度やリーダーに対する信頼は揺らいでいます。1990年代初頭以来、全世界の投票率は平均で10%も低下しています。

社会から隔絶されていると感じる人々は他者、特に見かけや行動が違う人々に自分たちの不幸の原因を擦り付ける主張に流れやすくなります。

しかし、ポピュリズムやナショナリズム、過激主義、人種主義、悪者探しはコミュニティーの内外で、そして国々や民族、宗教の間で、新たな不平等や分裂を作り出すだけです。

友人の皆様、

COVID-19は人類の悲劇であると同時に、一世代に一度の機会ももたらしています。

それは、より平等で持続可能な世界へと復興を遂げる機会です。

コロナ禍、そしてこれに先行する幅広い不満への対応は、すべての人に平等な機会を提供し、すべての人の権利と自由を尊重する新しい社会契約と新しいグローバルな取極めに基づくものとしなければなりません。

持続可能な開発のための2030アジェンダ、パリ協定、アディスアベバ行動アジェンダという、まさにコロナ禍が暴露し、付け込んだ弱点に取り組む合意が掲げる目標を達成できる道は、それ以外にないのです。

新しい社会契約により、それぞれの社会で若者は尊厳を持って暮らし、女性は男性と同じ将来の見通しと機会を手にし、あらゆる病人や弱者、少数者は守られるようになるでしょう。

それを実現し、平等を達成する要素として、教育とデジタル技術を大いに活用せねばなりません。

ネルソン・マンデラ氏の言葉を借りれば「教育とは、世界を変革するために用いることのできる最も強力な武器である」ということです。いつものことながら、ネルソン・マンデラ氏の先見力には驚かされます。

政府は、幼児学習から生涯教育に至るまで、平等なアクセスを優先課題としなければなりません。

神経科学によると、就学前教育は個人の生活を変え、コミュニティーや社会に巨大な恩恵をもたらします。

したがって、最富裕層の子どもが最貧層の子どもよりも就学前教育を受ける可能性が7倍高ければ、不平等が世代を越えて続くことは何の驚きでもありません。

すべての人に質の高い教育を届けるためには、2030年までに低・中所得国の教育費を年間3兆ドルへと、2倍以上に増やす必要があります。

そうすれば1世代のうちに、低・中所得国の子どもが全員、あらゆるレベルで質の高い教育を受けられるようになるかもしれません。

それは可能です。私たちは、その決定を下しさえすればよいのです。

また、技術が私たちの世界を変容させていく中で、事実や技能を学ぶだけでは不十分です。政府はデジタル・リテラシーやインフラへの投資を優先させる必要があります。

新たな技能をいかにして学び、適応させ、身に着けるかを学ぶことは欠かせません。

デジタル革命と人工知能は、仕事のあり方や、仕事と余暇その他の活動との関係を、場合によっては今の時点で想像もできないような形で変えていくでしょう。

先月、国連で発足した「デジタル協力のためのロードマップ」は、2030年までに残る40億人をインターネットにつなげることにより、インクルーシブで持続可能なデジタルの未来というビジョンを実現しようとしています。

同じく国連が立ち上げた「ギガ(Giga)」は、全世界のあらゆる学校をオンライン化するという野心的なプロジェクトです。

技術はCOVID-19からの復興と、SDGsの達成を一気に加速することができます。

友人の皆様、

人々と制度、リーダーとの間の溝の拡大は、私たち全員を脅かしています。

人々は、誰のためにもなる社会と経済のシステムを求めています。人権と基本的自由の尊重を望んでいます。そして、自分たちの生活に影響する決定に発言力を求めています。

政府と人々、市民社会、企業その他の間で結ばれる新たな社会契約には、すべての人の権利平等と機会均等に基づき、雇用や持続可能な開発、社会的保護を盛り込まなければなりません。

労働市場政策を労使代表間の建設的な対話と組み合わせれば、賃金と労働条件をともに改善できます。

労働者の代表は、グリーン経済への移行を含め、技術と構造変革によって雇用に生じた課題を管理するためにも欠かせません。

労働運動には、不平等と闘い、すべての人の権利と尊厳の実現を図るという誇らしい歴史があります。

インフォーマル部門を徐々に社会的保護の枠組みに統合することも欠かせません。

激動の世界には、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジやユニバーサル・ベーシックインカムの可能性を含め、新たなセーフティーネットを伴う新世代の社会的保護政策も必要になります。

最低限の社会的保護を確立し、教育や医療、インターネットを含む公共サービスへの慢性的な投資不足を逆転させることが欠かせません。

しかし、根深い不平等に対処するには、それだけでは不十分です。

私たちには、社会的な諸規範によって強められているジェンダー、人種または民族の歴史的不平等に取り組み、これを正すための差別是正プログラムや焦点を絞った政策が必要です。

新しい社会契約には、税制が果たすべき役割もあります。個人か法人かにかかわらず、あらゆる人が公正な負担をしなければなりません。

国によっては、人脈に恵まれた富裕層が国や同胞から大きな恩恵を受けていることを認識する税を導入する余地があります。

政府はまた、課税基盤を給与から炭素へとシフトさせるべきです。

人々ではなく、炭素に課税すれば、生産と雇用が増える一方で、排出量は削減されることになるでしょう。

私たちは、不平等の原因であるとともに、結果でもある腐敗の悪循環を断たねばなりません。腐敗は、社会的保護に利用できる資金を削減し、枯渇させるとともに、社会的規範と法の支配を弱体化させるからです。

腐敗対策には説明責任が必要です。説明責任の最大の保証となるのは、自由で独立したメディアや、健全な議論を促すソーシャルメディア・プラットフォームを含む活力ある市民社会です。

友人の皆様、

現実を直視しましょう。世界的な政治・経済システムは、公衆衛生や気候変動対策、持続可能な開発、平和といったグローバル公共財を提供できていません。

COVID-19のパンデミックは、利己心と共通の利益の間にある悲劇的な断絶と、ガバナンス構造や倫理枠組みの巨大なギャップを明らかにしました。

これらのギャップを埋め、新しい社会契約を可能にするためには、力と資産、機会が国際レベルでより幅広く、公正に共有されるようにするための新しいグローバルな取極めが必要です。

新たなグローバル・ガバナンス・モデルは、グローバルな諸制度への全面的かつインクルーシブで平等な参加に基づくものとせねばなりません。

それがなければ、私たちはさらに大きな不平等と連帯の欠如に直面することになります。それはちょうど、私たちが今、COVID-19のパンデミックに対する断片的なグローバル対応で見ている光景と同じです。

コロナ禍に直面した先進国は、自国の存続に多額の投資を行っています。しかしその一方で、この危険な時期全体を通じ、開発途上地域への支援に必要となる十分な支援は提供できていません。

この現状を変えるための最善の手段は、公正なグローバリゼーション、あらゆる人の権利と尊厳、自然とのバランスを保った暮らし、将来の世代の権利への配慮、そして経済ではなく、人間的尺度で測った成功に基づく新しいグローバルな取極めです。

国連創設75周年にまつわる全世界的な協議プロセスでは、人々が自分たちの利益となるグローバル・ガバナンス・システムを望んでいることが明らかになりました。

開発途上地域は、世界的な意思決定でさらに大きな発言力を持たなければなりません。

私たちには、開発途上国がグローバル・バリューチェーンの上流へと移動できるような、さらにインクルーシブで均衡のとれた多国間貿易システムも必要です。

不正な資金の流れやマネー・ローンダリング、脱税を防がなければなりません。タックスヘイブン(租税回避地)に終止符を打つための世界的コンセンサスが必要です。

私たちは、持続可能な開発の原則を金融政策決定に統合するよう努めなければなりません。金融市場を全面的なパートナーとしながら、資金の流れを環境や倫理を破壊する経済から、持続可能で公平なグリーン経済へとシフトさせねばならないのです。

債務構造の改革と、低利の貸付へのアクセスによって、各国が同じ方向に投資を誘導できる財政的余地も作り出さねばなりません。

友人の皆様、

ネルソン・マンデラ氏は「我が国の人々の意識に、自分たちがお互いのために、また、他者の存在があるゆえに、その他者を通じて、この世界で生かされているのだという、人間としての連帯感を改めて植え付けることが、私たちの時代の課題の一つだ」と語っていました。

COVID-19のパンデミックは、このメッセージをこれまでになく意味深いものにしています。

私たちは互いに帰属し合う存在です。

連帯しなければ、崩れ去ってしまいます。

今も人種の平等を求めるデモの中に、ヘイトスピーチに反対するキャンペーンの中に、そして、自分たちの権利を求めるとともに将来の世代のために立ち上がる人々の闘争の中に、私たちは新しいムーブメントの息吹を見て取ることができます。

このムーブメントは、不平等と分断を拒むとともに、平和と地球、正義、すべての人の人権を守る政策の実現に向け、若者や市民社会、民間セクター、都市、地域、その他の人々を結束させています。

グローバル・リーダーたちが決定を下すべき時が来ました。

私たちは混沌や分断、不平等に屈することになるのでしょうか。

それとも、過去の過ちを正し、あらゆる人の利益となるように、ともに前進を遂げることになるのでしょうか。

私たちはその分岐点に立っています。私たちは、自分たちがどちらの道を歩もうとしているのかを知っているはずです。

ありがとうございました。

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