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第74回国連総会でのアントニオ・グテーレス国連事務総長演説 (ニューヨーク、2019年9月24日)

プレスリリース 19-088-J 2019年10月04日

©UN Photo/Cia Pak

国連憲章は「人々を第一に」という明快なメッセージを送っています。

憲章の冒頭にある「われら人民」という言葉は、人々を私たちの活動の中心に据えねばならないという戒めです。

毎日、そしてどこでも。

不安と夢を持つ人々を。

挫折と希望を抱える人々を。

そして何よりも、権利を持つ人々を。

こうした権利は、好意で与えたり撤回したりするものではありません。

単に人間であることで、当然に持ち合わせているものです。

私は任期の前半を通じ、金色に輝く会議室ではなく、それぞれが暮らし、働き、そして夢を見る場で全世界の人々にお会いするという幸運に恵まれました。

そして私は、その声に耳を傾けました。

南太平洋では、海面上昇によって暮らしが押し流されてしまうのではないかと危惧する家族のお話を聞きました…。

中東には、学校と家に戻ることを夢見る若い難民がいました…。

コンゴ民主共和国の北キブ州には、生活の再建に苦労するエボラ生存者の姿がありました…。

平等と機会を求める女性がいました…。

あらゆる信仰と伝統を持つ人々から、自分が何者であるかという理由そのものによって苦しむ様子も聞きました。

他にもたくさんの人々の声を聞きました。

私たちは不穏な世界に暮らしています。

極めて多くの人々が、踏みつけられ、道をふさがれ、取り残されるのではないかという恐怖を感じています。

機械は多くの人の仕事を奪っています。人身取引犯はその尊厳を奪っています。民衆扇動家はその権利を奪っています。軍閥指導者はその命を奪っています。そして、化石燃料はその未来を奪っています。

それでも、人々は私たちをこの議場に結集させている精神と思想を信じています。

国連を信じているのです。

しかし、それは私たちを信じてくれているということなのでしょうか。

私たちがリーダーとして、人々を第一に考えると信じているのでしょうか。

というのも、われらリーダーは、われら人民に奉仕せねばならないからです。

人々には、平和に暮らす権利があります。

1年前、私はこの場で、私たちの世界の混沌と混乱の中で、希望の風が吹いていることをお話ししました。

それ以来、こうした気流のいくつかは、期待できる方向へと進み続けました。

多くの予測に反し、マダガスカルやモルディブ、コンゴ民主共和国をはじめとする国々では、選挙が平和的に実施されました。

ギリシャと北マケドニア共和国は、国名にまつわる数十年来の紛争を解決しました。

スーダンの政治対話と中央アフリカ共和国の和平プロセスは、新たな希望をもたらしています。

そしてシリアでは、安全保障理事会決議2254に沿い、悲劇から脱出するための政治的な道のりに向けて、待望の一歩が踏み出されたばかりです。

私がきのう発表したとおり、信頼性とバランスを備えたシリア人による、シリア人主導型の憲法委員会設置に関し、すべての(関係)当事者の合意が成立したからです。

私の特使は、政府側と反政府側との最後の詰めを終え、ダマスカスを発ったところです。国連は数週間後、ジュネーブで憲法委員会を開催できることを楽しみにしています。

しかし、皆様、

世界全体を見渡せば、紛争がなかなか終わらず、テロが蔓延し、新たな軍拡競争のリスクが高まっていることが分かります。

しばしば安全保障理事会決議に反し、外部からの介入が行われていることで、和平プロセスは困難を極めています。

また、イエメンからリビア、さらにはアフガニスタンやその他の国に至るまで、多くの情勢が未解決のままとなっています。

一方的な行為の連続で、イスラエルとパレスチナの2国共存型の解決策が葬り去られるおそれがあります。

ベネズエラでは、400万人が国外に脱出し、世界最大級に数えられる避難民が出ています。

南アジアでは、対話を通じて対立を解決する必要があるにもかかわらず、緊張が高まっています。

そして何よりも、私たちは湾岸地域での武力紛争という、世界に耐えがたい影響を及ぼす恐ろしい可能性に直面しています。サウジアラビアの石油施設に対する最近の攻撃は、到底許すことができません。

わずかな誤算が大きな対立に発展しかねない中で、私たちは理性と自制を求め、あらゆる力を尽くさねばなりません。

私は、中東地域のあらゆる国がお互いの内政に干渉することなく、相互の尊重と協力という状況の中で共存できる未来を望んでいます。同様に、共同包括行動計画に基づく核不拡散の進展を守ることがまだ可能だという期待もあります。

私は国連事務総長に就任したその日から、予防と調停、そして平和に向けた外交の活性化により、私たちが抱える危機に取り組むことを強調してきました。

全世界で平和を持続させるための投資を強化することにより、私たちがどれだけの命を救えるか、考えてみてください。

世界で最も大きな問題を抱えた地域のいくつかで、約10万人の国連平和維持要員が民間人を守り、平和を推進しています。

「PKOのための行動」イニシアティブを通じ、私たちは自らの効果と効率を高めるとともに、兵員・警察官提供国や受入国、さらにはアフリカ連合や欧州連合などの地域機関とのパートナーシップを更新しています。

私はまた、全世界で人々の苦痛を和らげている人道援助要員の活動も誇りとしています。国際救援物資全体の半分は、国連を通じて配給され、数百万人が保護や食料、医薬品、避難所、水やその他の救命援助を受けられるようになっています。

今年だけでも、残虐な攻撃やその他の事態により、私たちは80人以上の平和維持要員や人道要員をはじめとする人材を失いましたが、これらの人々はいずれも、国連のもとで他者の生活をより良くしようと努める中で、命を落としています。私はこれら要員の労をねぎらうとともに、その犠牲を讃えます。

私たちはテロ対策アーキテクチャを強化するとともに、人権を尊重しながら、暴力的過激主義に対処し、根本的原因に取り組むための新たな戦略を定めました。

そして私は、世界の平和を前進させるため、新たな軍縮アジェンダを提示しています。

まず短期的には「新START」条約の延長が必要です。私たちは、弾道ミサイルによって高まった脅威に取り組まねばなりません。そして、2020年の核不拡散条約再検討会議の成功を確保しなければなりません。

朝鮮半島情勢は不安定な状態が続いています。私は米国大統領と朝鮮民主主義人民共和国指導者による新たな首脳会談に向けた取り組みを全面的に支持します。

また、世界的な勢力関係が移行し、機能不全に陥っている現在、まだ大きくはないものの、実質的なリスクの兆しも見えています。

私は「大分断」の可能性を危惧しています。それは世界が2陣営に分かれ、地球上の2つの経済大国が2つの別個の競合する世界を作り上げ、それぞれが支配的な通貨、貿易、金融ルールと、独自のインターネットや人工知能能力、さらには独自のゼロサム型の地政学的、軍事的戦略を備える状況を指します。

私たちは大分断を回避し、普遍的システム、すなわち国際法が普遍的に尊重される普遍的な経済と、強力な多国間制度を伴う多極的世界を維持すべく、可能な限りあらゆる力を尽くさねばなりません。

人々には、あらゆる点で安全を保障される権利があります。

人権を擁護するための措置はいずれも、持続可能な開発と平和の実現に役立ちます。

21世紀の私たちは、それぞれの人間の心に響き、すべての権利を包含するビジョンをもって、人権を捉えねばなりません。

それは経済的、社会的、文化的、政治的、市民的なあらゆる権利です。

経済的、社会的、文化的権利を無視したり、蔑ろにしたりすることは誤りです。

しかし、これらの権利だけで、自由を求める人々の声に応えられると考えることも、同じく見当違いです。

人権は普遍的で不可分です。その中でえり好みをして、一部を優遇しながら、その他の権利を軽視することはできません。

人々には、幸福と尊厳ある生活水準を得る権利があります。

それは健康、住宅、そして食料のある暮らしです。

社会保障と持続可能な環境も必要です。

単に学ぶことではなく、学び方を学び、将来に備えるための教育も必要です。

そして、特に若者にはディーセント・ジョブ(働きがいのある人間らしい仕事)も必要です。

こうした権利は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に通底しています。

それはまた、紛争を解決する最善のツールの一つでもあります。

しかし、私たちに目標達成の目途は立っていません。

不平等は爆発的に拡大しています。

私たちのグローバル経済は、巨大な所得の流れを生み出していますが、こうして生まれた豊かさは、ごく少数のエリートが独り占めしています。

今日の世界では依然として、人間としての尊厳を十分に認められながら満ち足りた人生を送れる可能性が、その人の生まれつきの能力よりも、生まれた時の状況によって決まってしまうという、悲しい事実があります。

本日の持続可能な開発目標サミットと、26日の資金に関する対話は、デジタル協力に関するハイレベル・パネルがその報告書で提言したように、テクノロジーとイノベーションの将来性を活用するなどして、野心を高めるための機会となります。

昨日の気候行動サミットでも強調されたとおり、私たちは気候緊急事態との競争に敗れつつありますが、今すぐにやり方を変えれば、このレースに勝つことは可能です。

私たちが使う言葉にも適応が必要です。かつて「気候変動」と呼ばれていたものは、今まさに「気候危機」へと進展しており…、かつて「地球温暖化」と呼ばれていたものは「地球過熱」と呼んだほうが正確な状況となっています。

私たちは、これまでになかったような気温や容赦のない暴風雨、動かぬ科学的証拠を目の当たりにしているのです。

10日前、私はバハマで、ハリケーン・ドリアンによってもたらされた荒廃を目にしました。

この影響は、科学がこれから到来すると予測していることの単なる序章にすぎません。

しかし、他にも到来が見込まれるものがあります。それは解決策です。

まだペースは不十分ながら、世界は化石燃料からグリーン経済がもたらす機会へと、正しい方向に動きを転換しています。

気候行動サミットでは、温室効果ガス排出量を劇的に削減し、気温上昇を1.5˚Cに抑え、2050年までにカーボンニュートラルを達成するために普及させる必要のある解決策がいくつか披露されました。

しかし、それはまだ実現できていません。

私たちが気候変動に打ち勝つためには、この勢いを借りて、はるかに多くの対策を講じなければなりません。

人々には、あらゆる国が擁護を約束している基本的自由を享受する権利があります。

それでも現在、私たちは数十年かけて達成してきた前進が制限され、逆転し、誤解され、疑問視されるという重大な局面を迎えています。

国際人道法違反に関するものを含め、不処罰が広がりを見せています。

新たな形態の権威主義が台頭しています。

シビック・スペースが狭まっています。

環境活動家や人権擁護者、ジャーナリストやその他の人々が攻撃の対象になっています。

そして、監視システムは1日ごとに、1クリックごとに、カメラ1台ごとに、その触手を伸ばし、プライバシーや個人生活を侵食しています。

こうした風穴は、国や企業の行動を律するルールの崩壊以外にも広がっています。

そして、さらに深いレベルにまで展開し、私たちに共通の人間性という紐帯を切り裂いています。

記録的な数の難民や国内避難民が流入する一方で、連帯が逃げ出しています。

難民の家族が引き裂かれ、庇護を求める権利が粉々に打ち砕かれる中で、私たちは国境だけでなく、人間の心も閉じられてしまう様子を目にしています。

私たちは、国際難民保護体制の完全性を再び確立し、難民に関するグローバル・コンパクトで定める責任分担の約束を果たさねばなりません。

私たちはまた、昨年12月に採択された史上初の移住に関するグローバル・コンパクトの画期的な採択を土台に、さらに取り組みを進めねばなりません。

そのためには、安全で秩序ある正規移住を強化し、弱者を食い物にして豊かになっている人身取引者や犯罪者に対処せねばなりません。

すべての移民の人権を尊重しなければならないのです。

全世界で、疎外と不信が武器として用いられています。

不安はいま最も人気のあるブランドです。

だからこそ私は、2つのイニシアティブを立ち上げました。

その一つは、国連システム全体のヘイトスピーチ対策戦略です。

そして第二に、宗教的施設を守り、宗教の自由権を擁護するための取り組みを支援する行動計画です。

宗教的、民族的その他の少数者は、その人権を全面的に享受しなければなりません。

そのためには、社会的一体性に多額の投資を行うとともに、そのアイデンティティーが尊重され、社会全体の一員として扱われているという実感を、さまざまなコミュニティーが持てるようにせねばなりません。

弾圧や分断を主張する人々に、私は多様性が豊かさであり、決して脅威にはならないと申し上げます。

21世紀のあらゆる人々が、そのアイデンティティーや信条、または性的指向を理由に迫害されることがあってはなりません。

私たちはまた、脆弱かつ社会で疎外された人々の権利も確保しなければなりません。

私は今年、初の国連障害者包摂戦略を立ち上げました。

しかしもちろん、世界で最も広がっている差別の発現形態は、女性と女児という、人類の半数に影響するものです。

ジェンダーの平等は権力の問題であることを忘れてはなりません。

そして権力は依然として、圧倒的に男性の掌中にあります。議会から役員室、さらには今週の国連の議場や廊下、会議室の様子を見ても、このことは歴然としています。

私たちがこのバランスを変えられるのは、女性の権利と代表を私たちに共通の目標に据えた時です。

私はこの理由から、国連で地域間のバランスに加え、ジェンダーの平等も確保すべく努めてきました。現時点で、私の上級管理グループと、国別レベルで国連の活動を指導する人員について、男女同数が達成されています。

私たちが国連のあらゆるレベルでのジェンダーの平等と、全世界での女性と女児の全面的な平等を達成するまで、私は手を緩めません。

そのためには、女性の権利への抵抗に対する抵抗を続けねばなりません。

また、テロ攻撃や過激派のイデオロギー、そして残虐な犯罪の間に見られる、実行犯の暴力的なまでの女性嫌いという厄介な共通性を非難せねばなりません。

さらに、機会の拡大に向けた私たちの取り組みも強化しなければなりません。

このままの傾向が続けば、経済的エンパワーメントの格差を埋めるのに、2世紀がかかってしまいます。

私の孫娘たちに、その孫のまた孫の代になるまで、平等の実現を待たねばならないと言い放つような世界を受け入れるわけにはいかないのです。

私たちがこの死活的に重要な作業やその他の業務をすべて続ける中で、私は国連をより実効的にするための野心的な改革をスタートさせました。私は皆様に対し、私たちの組織の財政基盤を充実させるようお願いしたいと思います。

分裂を深める世界で、私たちには強い国連が必要です。

国連創設75周年にあたる来年は、私たちに共通のプロジェクトを刷新するうえで、極めて大切な時期になります。

私たちが直面する問題は、現実のものです。

しかし、期待もまた現実です。

私たちは、人々に奉仕しようと努める中、人々から元気をもらうこともできます。

これまで2年半の間、私が一緒に時を過ごした人々の中には、プログラミングを学んでいるアフリカの少女たちがいました…。

将来のために、若者に新たなスキルを身につけさせている教員がいました…。

多くの分野でイノベーションを重ね、世界をグリーン経済へと導いている起業家たちがいました。

こうした人々をはじめ、その他さらに多くの人々が、私たちが望む未来の構築に手を貸しています。

その夢と人権を常に、私たちの試金石としなければなりません。

私たちは奉仕するためにここにいます。

私たちは、共通の利益を実現しながら、私たちが共有する人間性と価値を擁護するために、ここにいるのです。

このビジョンは、国連の創設者たちを結び付けました。

今の分断の時代に、私たちはこの精神と再びつながらねばなりません。

信頼を回復し、希望を立て直し、一緒に前進しようではありませんか。

ありがとうございました。

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