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太平洋諸島フォーラムにおけるアントニオ・グテーレス事務総長挨拶(スバ/フィジー、2019年5月14日)

プレスリリース 19-034-J 2019年06月06日

フィジーで開催された太平洋諸島フォーラムで、記者会見を行うグテーレス事務総長。左は同フォーラム議長を務めるナウルのワンガ大統領©UN Photo/Mark Garten

各国首脳の方々、
事務局長、
皆様、

太平洋諸島フォーラム議長として、この重要な時期に私たちを招集してくださったナウルのワンガ大統領に感謝します。

また、私たちの2つの機関による協力強化に努めてきた太平洋諸島フォーラムのメグ・テイラー事務局長にも謝意を表します。

国連事務総長として初めて、太平洋地域を訪問できたことを嬉しく思います。

私は昨日、3月の恐ろしいモスク襲撃事件を受け、私の連帯感を表明するため、(ニュージーランドの)クライストチャーチを訪れました。この悲劇に対し、太平洋地域の皆様からは、不寛容や宗教的差別に取り組むことの重要性を訴える、賞賛すべき強い声が上がりました。

太平洋諸島フォーラムが示しているとおり、きわめて強力な文化と伝統に根差した多様性は、強みでありこそすれ、決して弱みではありません。

国連と太平洋諸島フォーラムは、国際的アジェンダ全体を通じて密接なパートナーとなっており、その証拠として私たちは、皆様の平和構築に向けた取り組み、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施など、多くの点で支援を提供する一方で、問題の規模や孤立、資源の稀少性が提起する大きな課題も、十分に認識しています。

しかし、私はきょう、皆様の地域と私たちの世界にとって根本的な2つの課題に焦点を絞りたいと思います。第1に、気候変動による影響の深刻化、そして第2に、世界の海洋に対する脅威の増大です。

皆様、

皆様もよくご存じのとおり、太平洋地域は気候変動の矢面に立たされています。

つまり皆様は、気候変動との闘いにおいても、私たちの重要な仲間なのです。

私はこれから数日間、ツバルとバヌアツも訪問することになっています。

今回の訪問の目的は、気候変動が地域に及ぼしている圧力を現地で確認し、ここフィジーやその他の国で、コミュニティーがレジリエンスを高めるために取り組んでいる対策について学ぶことにあります。

皆さんが適応に臨む決意と、適応策を策定する必要性に対しては、国際的な支援をさらに強化する必要があります。気候変動は私たちの対策を上回るスピードで進んでいるからです。

全世界の温室効果ガス排出量は記録的な水準に達し、頭打ちの兆候はまったく見られていません。

過去4年間は記録上、最も暑い年となりました。

グリーンランドと南極では、氷の融解が加速しており、何ら対策を打たなければ、2100年までに海水面は1m上昇するものと見られています。

ここ太平洋のいくつかの国では、海水面の上昇が世界平均の4倍に達し、一部の島民の生存を脅かすようになっています。

最近の熱帯サイクロン「ジータ」、「ジョジー」、「ケニ」、さらには域内の火山噴火や地震によって生じた被害は、その他の異常気象とともに、この地域の脆弱性を余すところなく表しています。

気候変動は、さらにリスクを悪化させます。

すでに、水と作物に対する塩害は、食料の安全保障を脅かしています。

公衆衛生に対する影響も深刻になってきました。

気候変動が国際の平和と安全にとって明らかな危険となることは、皆様が昨年、採択した「ボイ宣言」でも確認されています。

気候変動と安全保障の関連性に対する認識はますます高まっています。

太平洋では、この関連性が特に強くなっています。

私は最近、この関連性に起因する多くの課題に取り組む一連の国連によるイニシアティブを調整するためのタスクフォースを任命しました。私は、皆様の声に耳を傾け、皆様の分析や提案にも十分に配慮していくつもりです。

軍事戦略家たちは、気候変動が世界各地で、資源や人々の大規模や移動にまつわる緊張状態を高める可能性をしっかりと感じ取っています。

沿岸部や劣化した内陸部に住めなくなった人々は、その他の場所に安全とよりよい生活を求めることになるからです。

2016年には、118の国と地域で2,400万人以上が、自然災害によって故郷を離れることを余儀なくされましたが、この数は紛争による避難民の数の3倍に上ります。

私は、太平洋諸島のコミュニティーが、現在の困難と将来の危険に積極的に対応していることを知っています。

皆様は、適応の長い歴史と伝統的な生態学的知識を活用しています。

現状を打破しようとしています。

そして、グローバルな気候交渉にも先頭に立って取り組んでいます。

私は昨年、ポーランドのカトヴィツェで開かれた気候会議で、1.5°Cの地球温暖化の影響を対象とした気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書を支持する皆様のリーダーシップを目の当たりにしました。皆様の取り組みは、このターゲットを私たちの目標の中心に据えておくうえで、大きな効果を上げました。

しかも、皆様のアドボカシーがなければ、政治指導者たちは気候変動に起因する「損失と損害」に取り組む必要性を認識しなかったことでしょう。

国連は、皆様の気候変動対策を支援し、皆様の文化や存在自体をリスクにさらしているトレンドを逆転させることを強く決意しています。

私はこの理由から、フランス、ジャマイカ、カタールに対し、開発途上国の緩和と適応への取り組みをともに支援するため、2020年から年間1,000億米ドルの資金を拠出するという目標の達成に向け、国際社会を率先して動員するよう要請しました。

また、緑の気候基金を補填するだけでなく、特に小島嶼国との関連で、その活動をさらに拡充することが非常に重要な理由も、ここにあります。

皆様、

気候変動は、太平洋地域の経済と伝統にとって欠かせない海洋の健全性にとっても、脅威となっています。

海水温の上昇と酸性化が進んでいることで、サンゴの白化や生物多様性の喪失が起きているからです。

1.5°Cの地球温暖化でも、熱帯礁に深刻な被害が生じることになりますが、温暖化が2°C以上となれば、海洋生物と人間の両方に壊滅的な影響が及ぶでしょう。食料の安全保障は損なわれ、経済成長にも影響が出るからです。

不幸なことに、海洋は別の方面からの攻撃にもさらされています。

いくつかの海域では、乱獲によって漁業資源が枯渇しかけています。

酸欠海域と呼ばれる、酸素の欠乏によって生物が住めなくなっている海中砂漠は、その広さにおいても、数においても、急激に拡大しています。数十年のうちに絶滅する可能性のある生物種も多くあります。

汚染は海洋を毒物やごみで満たしています。

毎年800万トンを超える有害なプラスチックごみが、海に流れ着いています。

ある最近の調査によると、劇的な変化がない限り、2050年までに、海中には魚の重さを超えるプラスチックが存在することにもなりかねません。

多くの国はやっと重い腰を上げ、リサイクルの取り組みや使い捨てプラスチック禁止などの対策を取り始めています。私たちはこれが全世界で実践されるよう、奨励しなければなりません。

しかし、私たちにもっと必要なのは、海洋・沿岸生態系に持続不可能なレベルのストレスを与えている工業、漁業、運輸業、鉱業、そして観光業からの相反する需要に取り組むことです。

ここでも、太平洋諸国はチャンスを活かしました。

皆様のリーダーシップは「持続可能な開発のために海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」という、持続可能な開発目標(SDGs)ゴール14の採択を確保するうえで、欠かせない役割を果たしました。

私の海洋担当特使を務めるフィジーのピーター・トムソン氏は、SDGsと、国連海洋会議で加盟国が採択した「行動の呼びかけ」を含め、同会議の成果の実施を促進しています。

私は、2020年の国連海洋会議がリスボンで開催されることを嬉しく思います。海との特別な関係の中で育った者として、私はこの会議が、海という不可欠な資源の健全性改善に向けて世界を導くことに貢献できるよう、全力を尽くしていきます。

皆様、

気候変動と海の健全性という、複雑に絡み合った課題に取り組むためには、スマートで広範囲に及ぶステップを踏む必要があります。

そのためには、パリ協定や2030アジェンダと整合し、海洋法条約のようなツールを十分に活用する行動が要求されます。

私たちには、青写真と枠組みと計画があります。私たちに必要なのは切迫感と政治的意志、そして野心です。

私はこのことに留意しつつ、9月にニューヨークで気候行動サミットを開催します。

このサミットは、2020年までに温室効果ガス排出量の増加をストップし、そのうえで今世紀半ばまでに正味でゼロ・エミッションを達成すべく、排出量を劇的に削減できるよう、各国がその約束のスケールを拡大するための機会となります。

私はサミットに、気候変動対策がもたらす恩恵と、どうすれば誰もがその恩恵を得られるのかを実証してもらいたいと思っています。

私たちは、その他の小島嶼国とともに、太平洋地域の国々が適応、レジリエンス、資金、早期警報などについて抱いている懸念を強調することを約束します。

サミットでは、エネルギーやモビリティ、農業、海洋などの主要部門における取り組みが披露されることでしょう。

また、化石燃料に対する補助金に終止符を打ち、再生可能エネルギーや電気自動車、温暖化防止に貢献する実践へとシフトする必要性も重視されるでしょう。

私たちの取り組みには、排出の実質コストを反映するカーボンプライシングとともに、石炭火力発電所の閉鎖を加速し、その新規建設計画を停止し、公正で包摂的かつ収益性のある変革を確保できるよう、これらの雇用をより健全な代替的選択肢に置き換えることも含めるべきです。

私が太平洋から、全世界の政府に向けて送るメッセージは明快です。

第1に、課税を給与から炭素へとシフトさせましょう、つまり、人間ではなく汚染に課税しましょう。

第2に、化石燃料への補助金を廃止しましょう。納税者の資金を、ハリケーンを促進したり、干ばつや熱波を広げたり、氷河を融かしたり、サンゴを白化させたりするために用いるべきではありません。

第3に、2020年までに、新規の石炭火力発電所を建設しないようにしましょう。私たちに必要なのはグレー・エコノミー(灰色経済)ではなく、グリーン・エコノミー(緑の経済)だからです。

私はまた、気候変動関連のあらゆる決定における性別の多様性の大切さも強調するつもりです。気候変動は特に女性に大きな影響を与えるからです。例えば、食用作物の塩害が増えれば、妊婦や新生児の健康に影響が及びます。

予防と対応における女性の役割に関する思考回路を変えることなく、気候変動対策を成功させることはできません。

私たちがきょう学んだとおり、若者の参加も同じく欠かせません。

皆様、

太平洋地域が引き続きリーダーシップを発揮することは欠かせません。

気候行動サミットのほか、9月のハイレベル週間にニューヨークで実施される4つの大がかりな会合でも、持続可能な開発は中心的議題となります。

私たちは、SDGs達成に向けた進捗状況を審査し、ハイレベルの関心をユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に向け、私たちの目標の達成に向け、いかにして資金を動員すべきかを考えていきます。

この関連で、「小島嶼開発途上国に関するサモア・パスウェー」の中間レベル審査は、特別の重要性を帯びてきます。私は自分の能力で可能な限り、皆様の持続可能な開発が活気に満ちた現実となるよう、国際社会の連帯と支援の動員に全力を尽くしていきます。

私たちが2030アジェンダと気候変動に関するパリ協定の全面実施に努める中で、これは大きな転機となることでしょう。

皆様の強力な関与に期待しています。

「青の大陸(Blue Continent)」というビジョンを推進するという皆様の決意は、すでに国連で太平洋地域の存在感を高めています。

私たちが未来に取り組む中で、皆さんの声は引き続き、世界的な交渉で欠かせない役割を担い続けることでしょう。

皆様の経験は、脅威の緊急性を物語っています。

太平洋地域には、正々堂々と意見を述べられる独自の道徳的権限があります。

今度は世界がそれを聞く番です。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。