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「ラルフ・バンチは崇高な理想を掲げた20世紀最高の平和主義者」
コフィー・アナン国連事務総長、国連本部の記念式典で挨拶

プレスリリース 03/093-J 2003年09月10日

コフィー・アナン事務総長は8月7日、ニューヨークで行われたラルフ・バンチ生誕100周年国連切手発行記念式典であいさつし、次のように述べました。

郵便切手は、世界中を旅することで、通信と教育の手段となるだけでなく、人々に喜びをもたらします。それゆえ、国際協力の隠れたメッセンジャーとして、大きな力を備えているといえます。きょう、国連郵政部が(UNPA)が発行する切手は、私の生涯の英雄でありながら、今日ではほとんど知られていない人物を世界に知らしめることになります。その人物とは、きょう生誕100周年を迎えるラルフ・バンチです。

記念切手はバンチの尊厳と人間性を見事に示しています。この点で私は制作者に敬意を表します。しかし、小さな平面的な描写で、20世紀に燦然と輝くこの歴史的人物の豊かで複雑な特徴を完全に示すことなど、到底できないでしょう。

ラルフ・バンチは、国連憲章の共同起草者、非植民地化の提唱者として、国連の創設に立ち会いました。そして、国連平和維持活動の基礎を築き上げました。また、創設当初の数十年間に国連が取り組んだ重要問題のそれぞれに、深く関わりました。

あたかもそれでは物足りないかのように、バンチは米国の公民権運動でも指導的な役割を果たしたほか、政治学、特に異民族の関係において先駆的な学者としても、高い評価を得ました。

ラルフ・バンチは、独立した国際公務員が必要であることを固く信じていました。ですから国連職員は、どこで活動していようとも、また、それに気付いているかどうかに関係なく、ラルフ・バンチの遺志を継いでいるのです。私が国連で働き始めたのは、バンチが退職を間近に控えた時期でした。バンチの数え切れない輝かしい功績は、私たちに畏怖の念を抱かせると同時に、目標にもなっていたことを、私は今でも覚えています。

きょうのバンチ生誕100周年記念事業は、彼を思い出し、彼の築いた遺産と英知を新たな世代に引き継いでいく良い機会です。それはまた、彼が生きていたとしたら、現在の人間の劇的な状況と、彼自身がその半生を捧げた国際機関の歴史的転機をどのように考えただろうかということに思いを馳せる時でもあります。

平和維持活動と紛争対応の改善に向けた私たちの取り組みに、彼はおそらく満足することでしょう。それでも、この小さな一歩を踏み出すまでに長い時間がかかってしまったということに失望するでしょうし、この変革実現のために、さらなるジェノサイドが発生してしまったという事実に愕然とすることでしょう。

バンチはきっと、平和と発展と自由の関係が広く認識されるようになったことを喜ぶでしょう。しかしこの点でも、時間がかかりすぎたこと、そして、貧困の常態化と人間の苦悩という形で大きな代償が払われたことに、苛立ちを覚えることでしょう。

バンチはどこから見ても、忍耐強い人でした。それは平和的手段で紛争を解決すべく、最後まであらゆる手段を尽くすことを決意した、注意深い交渉者に似つかわしい姿でした。しかし、彼の胸中には、人類、特に抑圧された人々やよりどころがなく希望を失った人々が直面する多くの問題を緊急に解決せねばならないという、熱い理想が秘められていました。

1950年のノーベル平和賞受賞にあたり、バンチは、人間が平和的に共存できないでいることに対する切実な不安を訴えました。彼は胸に残る数少ない言葉で、国連の使命を見事に要約したのです。バンチによれば、国連が存在しているのは「単に平和を守るためだけでなく、暴力的な動乱なしに変革、時には急進的な変革を可能にするためでもあります。国連にとって、現状維持が至上命令ということはありえません。」この言葉は当時だけでなく、今日にも当てはまるのではないでしょうか。

私たち全員がきょう、この精神を再び呼び起こすべきです。無策と無関心という眠りから世界を目覚めさせる努力を続ける中で、私たちはバンチに倣い、あらゆる人々にとってより安全でよりよい世界を実現するために、一人ひとりが何をできるかを考えてみるべきでしょう。平和、共存、そしてお互いの尊重に向け、このように日々たゆまぬ努力を続けることこそが、生命の力、平和の擁護者、そして発想の源としてのラルフ・バンチの存在に報いる最善の方法といえましょう。