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コフィー・アナン国連事務総長
第58回国連総会での演説
(ニューヨーク、2003年9月23日)

プレスリリース 03/106-J 2003年10月14日

過去12カ月は、共通の問題や課題に集団で立ち向かうことを信ずる私たちにとって、非常につらい日々でした。
多くの国において、またもテロリズムが罪のない人々に死や苦しみをもたらし、中東とアフリカでは、暴力がエスカレートしたのです。

朝鮮半島やその他の場所で、核拡散の脅威が世界に不吉な影を投げかけました。

そして、わずか1カ月前、バグダッドで国連そのものが残忍で計画的な暴力の対象となり、国際社会は非常にすぐれた人材を何人も失いました。昨日もまた攻撃がなされ、イラク警察の迅速な行動のおかげで大惨事になるのはかろうじて食い止められましたが、警察官の1人が命を失いました。

私はこの勇敢な警察官の家族に心からお悔やみを申し上げます。2名のイラク人国連職員を含め、負傷した19名のことも気にかかります。全員が1日も早く回復されますようお祈りいたします。私たちは、罪なき市民であるか兵士であるかにかかわりなく、この戦争で命を落とし、あるいは負傷したすべての人々に祈りを捧げなければなりません。また、皆さんもきっと同じだと思いますが、イラク統治評議会のメンバーであるアキラ・アル・ハシミ博士の命を奪おうとした残酷な襲撃も非常に残念に思います。博士の全快を祈ります。

国連総会にご列席の皆さん、皆さんが国連なのです。バグダッドの国連現地本部で攻撃を受けて死亡し、負傷した職員は皆さんの職員です。皆さんが彼らに、苦しんでいるイラクの人々を支援し、イラクが主権を回復するのを手伝うよう命じたのです。

これからは、イラクだけではなく国連が関与するすべての場所で、国連職員の安全を守るもっと効果的な手段を講じなければなりません。私は、法、政治、財政を含むすべての面で皆さんが支援してくださるものと期待しています。

同時に、私は、イラクでの活動の成功を非常に重視していることを改めて確認しておきたいと思います。ここ数ヶ月の出来事をどのように捉えるにしても、私たちすべてにとって、イラクが安定した民主的な国になること、自国内にも近隣諸国との間にも平和を築き、地域の安定に貢献する国となることが重要です。

国連システムは、安全保障の問題を考慮した上で、イラクに満足のいく成果をもたらすために、完全に役割を果たす覚悟があります。そして、健全で存続可能な方針に基づいて、国際社会全体が力を合わせる国際的な努力として、その役割を果たす覚悟があります。共同体として、首尾一貫した、実行可能な方針を構築するために余分な時間と忍耐力が必要ならば、私もそのために尽力します。これこそ今日、我々が直面する差し迫った危機のすべてに対して、私たちが取るべきアプローチなのです。

3年前、皆さんがミレニアム・サミットのためにここにお集まりになったとき、私たちは世界の連帯と集団安全保障のビジョンを共有し、ミレニアム宣言の形で表明しました。

しかし、最近の出来事はこのコンセンサスを揺るがすものです。

私たちはみな、立ち向かわなければならない新しい脅威の存在を知っています。いえ、それはこれまであった脅威が、新たな、危険な組み合わせになったというべきなのかもしれません。新しい形のテロリズム、大量破壊兵器の拡散という脅威です。

しかし、こうした脅威が世界の平和と安全保障にとって大きな問題であるのは自明のことだと考える人がいる一方で、内戦に用いられる小火器、あるいは極貧の持続、社会間およびその内部での所得の格差、感染症の拡大、気候変動、環境の悪化といった、いわゆる「ソフトな脅威」のほうが、むしろ差し迫った危険だと感じる人もいます。

実際は、私たちに選択の余地はありません。新しいものであれ古いものであれ、「ハード」であれ「ソフト」であれ、国連はこうしたすべての脅威と課題に立ち向かわなければなりません。国連は、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成をはじめとして、開発と貧困撲滅を目指す闘い、人類共有の環境を守る闘い、人権、民主主義、すぐれた統治を達成する闘いに全力で取り組まなければならないのです。

実は、こうした闘いはすべて互いに関連しています。私たちは今はっきりと、何百万人もの人々が容赦のない抑圧と、はなはだしい困窮に耐えている世界は、最も恵まれた人々にとってさえ、決して安全でないことに気づいています。

しかし、テロリズムや大量破壊兵器といった「ハード」な脅威は現実のものであり、無視することができません。

バリ、ボンベイ、ナイロビ、カサブランカで見るように、テロリズムは豊かな国だけの問題だというわけではありません。

大量破壊兵器は、西側や北の国々だけを脅かしているわけではありません。イランやイラクのハラブジャの人々が体験していることです。

私たちの意見の不一致は、こうした脅威への対応方法であるように思われます。

国連という組織が創設されて以来、加盟国は一般に、集団安全保障と国連憲章に基づくシステムを用い、封じ込めと抑止を通して、平和への脅威に対処しようとしてきました。

国連憲章第51条は、いかなる国も攻撃されたときには、固有の自衛権を持つと規定しています。しかし今までは、国際平和と安全保障に対する広範な脅威に対処するために、国家が自衛を超えて軍事力の行使を決定した場合、その国家は、国連だけが与えることができる正当性が必要だと理解されてきました。

ところが今、大量破壊兵器で「武装した攻撃」はいつでも、警告なく、秘密組織によって開始されうるため、こうした理解はもはや通用しないと考える国が出てきました。

こうした国は、そのような攻撃が行われるのを待つべきではなく、加盟国には先制的に武力行使する権利と義務があると主張しています。他国の領土においてさえ、また攻撃に用いられる兵器システムがまだ開発中であるときでさえ、先制攻撃ができるというのです。

この主張によると、各国は、安全保障理事会が同意するまで待つ義務がなく、単独で行動したり、その場限りの連合を組んだりする権利があるということになります。

この論理は、過去58年間、不完全とはいえ世界の平和と安定を保つ基礎となってきた原則に対する根本的な挑戦です。

私が懸念するのは、このような考え方が採用されたならば、それが先例となり、正当な理由の有無にかかわらず、一方的かつ法を逸脱した武力行使の増大を招くことになるのではないかということです。

しかし、単独行動主義を糾弾するだけでは十分ではありません。一部の国を単独行動主義に駆り立てているのは、そうした国々に、自分たちが特に危険な状況にあると感じさせている各種の問題なのですから、私たちがそうした問題に正面から向き合う必要があります。こうした問題に集団的な行動を通じて効果的に対処することができ、また実際に対処していくことを私たちが示さなければなりません。

ご列席の皆さん、私たちは今、岐路に立たされています。これは国連が創設された1945年と同じくらい重要な岐路かもしれません。

当時、フランクリン・D.ルーズベルト大統領に率いられ、その影響を受けた先見の明ある指導者たちは、20世紀の後半を前半と異なるものにすると決意しました。彼らは、人類が生きていく世界は1つしかなく、この世界の問題に慎重に対処しない限り、すべての人類が死に絶えてしまうということを悟りました。

そこで、彼らは、国際的な行動に適用される規則を作成するとともに、世界の人々が共通の利益と幸福のために力を合わせることができるよう、国連を中心とする組織のネットワークを創設しました。

今、私たちは、当時合意されたこの基礎に立って進み続けることが可能なのか、それとも根本的な変更が必要なのかを決定しなければなりません。

そして、私たちに利用できる規則と手段の適切性と有効性について、しりごみすることなく疑問を投げかけていく必要があります。
こうした手段の中で何より重要なのは、安全保障理事会(安保理)です。

ミレニアム宣言の実施状況に関して私が最近発表した報告書において、私は安保理が各国および世論の信頼を取り戻すことが急務であると注意を喚起しました。安保理は、最も困難な問題に効果的に対処する能力を示すことによって、そしてまた国際社会全体、および今日の地政学的現実をいっそう幅広く代表することによって、信頼を取り戻す必要があります。

安保理は、各国がそれぞれ認知した脅威に対して「先制的に」武力行使する可能性にどう対応するのか、熟慮する必要があります。

安保理の理事国は、ある種の脅威、たとえば大量破壊兵器で武装したテロリスト集団などに対処する威圧的な手段を早期に承認する基準について、協議を始める必要があるでしょう。

また、依然として、大量虐殺やその他の大規模な人権侵害――私が1999年にこの演壇で提起した問題――に対応する最良の方法について真剣に議論することも必要です。今年もまた、この種の出来事、コンゴ民主共和国とリベリアで起きているような出来事に対する私たちの集団的対応は、ためらいがちで、しかも迅速とはいえませんでした。

安保理の構成に関しては、10年以上にわたって総会の議題となっています。ほとんどすべての加盟国が安保理を拡大することに合意していますが、その詳細については合意ができていません。

私は謹んで皆さんに申し上げます。それぞれの国民の目から見て合意に達するのが難しいからといって、皆さんが合意できない言い訳にはなりません。特に途上国において、安保理の決定にこれまで以上の重要性を持たせたいと考えるならば、安保理の構成国に関する問題を早急に解決する必要があります。

しかし、強化が必要なのは安保理だけではありません。ご存知のように、私は事務局の効率化に全力を尽くしています。本総会も私の努力を支援してくださるものと期待しています。

実のところ、私は報告書において、総会自体も強化する必要があると論じました。また、経済社会理事会の役割、ならびにブレトン・ウッズ機関との関係を含め、経済・社会の問題における国連全体の役割を再考し、再活性化することが必要だと論じました。

さらに、信託統治理事会の役割さえ、近年国連に与えられている新しいタイプの責任に鑑みて再検討する余地があるのではないかと提案しました。

つまり、私は、根本的な方針の問題、およびそれを強化するために必要な構造的な変革の問題を真剣に考慮する機が熟したと考えているのです。

歴史は厳しい審判者です。私たちがこの時期を逃したならば、歴史は私たちを許してくれないでしょう。

私自身の活動としては、傑出したメンバーによるハイレベル諮問委員会を設置し、次の4項目を付託したいと考えています。

第1に、平和と安全保障を脅かす現在の課題について詳しく検討すること。

第2に、こうした課題に対処する上で集団的行動がなしうる貢献について考察すること。

第3に、国連の主要機関の機能、およびそれらの関係について見直すこと。

第4に、国連の組織とプロセスの改革を通して、国連を強化する方法を提言すること。

この諮問委員会は、平和と安全保障に対する脅威に主眼をおくことになるでしょう。しかし、他の世界的な問題も、こうした脅威に影響を及ぼす、またはそれらに関連している限り、詳しく検討する必要があります。

私は、来年の総会で私が皆さんに勧告できるようにするため、来年の総会が始まる前に私に検討結果を報告するよう、この諮問委員会に求めるつもりです。しかし、必要とされる断固とした明確な決定をするのは、ほかならぬ皆さんです。

こうした決定には広範に及ぶ機構改革が含まれることになるでしょう。是非そうあってほしいと願っています。

しかし、機構改革だけでは十分ではありません。最も完全な手段でさえ、人がそれを上手に利用しなければ失敗するのです。

国連はけっして完全な手段ではありません。しかし、貴い手段です。私は皆さんに、これを改革する方法、そして何より創設者たちの意図 ― 後の世代を戦争の苦難から救い、基本的人権への信念を再確認し、正義と法の規則の基本的な条件を確立し直し、社会の進歩を促し、より大きな自由が確保された、よりよい生活水準を促進すること ― に沿ってこれを利用する方法について、合意の道を探るよう強く求めます。

世界は変化したかもしれません。しかし、こうした目的は今なお意義も緊急性も失っていません。私たちは常に、これらの目的を視野の中にしっかりと据えておかなければならないのです。