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「平和構築と持続的な平和:複雑な課題に対するレジリエンスを高めるための人々への投資」に関する安全保障理事会公開討論における アミーナ・J・モハメッド国連副事務総長発言(ニューヨーク、2023年1月26日)

プレスリリース 23-019-J 2023年04月07日

議長、

まず、今回の討論を主催してくださった日本に対し、感謝の意を表します。

平和は、国連の中核的な使命であり、私たちの存在意義です。

この使命が今、重大な脅威にさらされています。

人々の安全・安心感はほぼすべての国で低くなっており、世界の7人に6人が不安の念にさいなまれています。

世界は、第二次世界大戦以降最も多くの暴力的紛争に直面しています。

人類の4分の1にあたる20億人が、紛争の影響を受ける場所で暮らしています。このことが、紛争地帯では直接的に、そして間接的にも、貧困や食料不安を増し、教育や医療へのアクセスが低下することによって、極めて深刻な人的苦難をもたらしています。そして、人々が自身の可能性を発揮して社会に貢献する能力に対して、厳しい制約を課しているのです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前でさえ、紛争の影響を受けている国々は、持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みにおいて、後れを取っていました。予測では、2030年には世界の極貧層の80%以上が、脆弱で紛争の影響を受ける国で暮らしているとされています。つまり、紛争と貧困は相互に深く絡み合っているのです。パンデミックはこの悲惨な状況に追い打ちをかけました。

ウクライナでの戦争は、ウクライナの何百万もの人々の生活を破壊しています。また、世界的な食料危機、エネルギー危機、金融危機を、特に世界で最も脆弱な立場に置かれた人々や国の間で深刻化させています。

アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を使えば、世界は「歴史の重要な転換点」に立っています。持続可能な平和の実現に向けた国連の取り組みを見直すことが、絶対に必要なのです。

議長、

持続的な平和への道は一つしかありません。私たちの時代の危機に抗する平和です。

それは、持続可能な開発の道です。

誰一人取り残さない包摂的で持続可能な開発は、それ自体が不可欠です。

また、それは人類にとって究極的な予防手段でもあります。

不安の連鎖を断ち、脆弱性と人道支援のニーズの根底にある要因に対処できる、唯一の信頼できる手段なのです。

開発への投資、人々への投資、人間の安全保障への投資、私たちが共有する繁栄への投資は、平和への投資でもあります。

しかし、近年の私たちの投資は、はるかに不足しています。

持続可能な開発のための2030アジェンダの達成期限への中間点が近づく中、私たちは、現在の進捗が軌道から大きく外れている状況を目の当たりにしています。

COVID-19のパンデミックが始まって以降、さらに2億人を超える人々が貧困に陥りました。

さらに8億2,000万人が、母親、父親、子どもなど家族が、飢えに苦しんでいます。

より多くの女性と女児がその権利を踏みにじられ、公的な場からは排除され、私的な場のみに抑えられています。

グローバルな金融システムは開発途上国に不利に働いており、各国経済は少数のエリートにとっては機能しているものの、大多数の市民のためには役立っていません。

これらの課題は、単に開発の問題だけに留まりません。私たちの平和的共存をも脅かすのです。

開発の不足は不満を招きます。制度を腐敗させ、敵意と不寛容を蔓延させています。

私たちの時代の開発ニーズに応えられなければ、未来のための平和を確保することはできません。

生物多様性の喪失、気候変動、汚染という地球の三重の危機は、私たちの環境を脅かすだけではありません。私たちの社会に亀裂を生じさせ、社会的結束をむしばみ、不安定をもたらす破壊的な力を解き放つ恐れもあるのです。

平和の構築と持続的な平和に関する今回の討議をはじめるにあたり、私は、現在と将来の世代のために平和を確保する上で、持続可能な開発が果たす基本的な役割について考えていただくよう求めたいと思います。

議長、

包摂的で持続可能な開発という基盤の上に平和を築き、それを持続させていくための、4つの見解を理事会に示したいと考えます。

第一に、平和の実現に向けた国連の取り組みは、平和とその道筋についての共通理解に基づくものでなければなりません。

SDGサミットと未来サミットの準備の下で2023年に行われる事務総長報告『私たちの共通の課題』のフォローアップ協議は、平和への道筋についての共通理解をさらに深める重要な機会となります。

「新たな平和への課題(New Agenda for Peace)」は、加盟国がいかにこれらの課題に一丸となって取り組むことができるか、そして国連創設75周年に寄せられた宣言での公約「平和を促進し紛争を予防する」をいかに履行するかに関する共通のビジョンをまとめるまたとない機会です。

平和、持続可能な開発、気候変動対策、食料安全保障を関連付け、紛争の予防を包括的に理解することで、紛争の予防と平和構築は「新たな平和への課題」の中心的な議題になります。

「新たな平和への課題」のねらいは、各国の紛争の予防と平和構築の優先施策を支援する追加的な方法を見極め、国際社会の支援を国主導の暴力削減イニシアチブへと振り向けることです。

包括的な紛争の予防に焦点を当てた、人を中心としたイニシアチブ。

人間の安全保障という中核的概念に基づき、既存のリスクと新形態のリスクに対処できる、よりレジリエント(強靭)な社会の構築を目指すイニシアチブ。

すべての加盟国がリスクにさらされているのだということを強調させてください。どの国も孤立して存在しているわけではないのです。すべての政府が不満に対処し、暴力を防止するための措置を講じる用意をしなければなりません。

インクルージョン(包摂性)も「新たな平和への課題」の中心的な議題です。私たちは、包摂的なプロセスが効果的であり、持続的な平和をもたらす可能性が高いことを知っています。

インクルージョンには、すべての構成員とコミュニティー、特に伝統的に軽視されてきた人々が、平和と安全のプロセスだけでなく、国の社会、経済、政治の場に有意義に参加することが含まれます。

それは、「新たな平和への課題」において人権が極めて重要であることを可能な限り広い意味で認識し、確実にしていくことにつながります。

議長、

第二の指摘は、インクルージョンに投資することは正しいだけでなく、賢明でもあるということです。

インクルージョンは、市民の支持を増やして正当性を高めることにつながります。また、社会のレジリエンス(強靭性)を高め、暴力的紛争の主要なリスク因子である構造的不平等に対処します。

とりわけ、インクルージョンとは、根本的なジェンダー不平等に取り組むことを意味します。

私は、アフガニスタンでこれらのメッセージを事実上の当局に伝え、帰国したところです。

排除と抑圧に基づく社会は、決して繁栄することはありません。

女性と女児の権利が踏みにじられる社会は、とても社会とは呼べません。

女性が政治と経済に全面的に参加すれば、社会はより成功しやすくなります。女性の権利が無視されているところに、持続的な平和を築くことはできません。

世界的に見ると、インクルージョンはいくらか進展していますが、その進展はいまだ、あまりに遅すぎます。

女性は、依然として、地方、国、地域、および国際的な意思決定の場から総じて締め出されています。

グテーレス事務総長は、女性、平和、安全に関する最新の報告書の中で、世界では今、ここ30年ほどで勝ち得た女性の権利に揺り戻しが生じていると警告しました。

近年、政治フォーラムや和平プロセスを代表する女性の割合が低下しています。軍事費が増大する一方、女性の人権団体に対する資金提供は減少しています。

平和を構築し持続させるためには、この悪循環を断ち切り、女性の権利の侵食を食い止め、ジェンダー平等を確保するための変革が必要です。

安全保障理事会決議2250で認識されているように、若者も世界規模で平和、安全、安定を推進する重要な役割を果たしています。このため、若者の平和構築への参画に特化した地域的・国家的枠組みの確立を、平和に関わるすべての人々が支援する必要があります。

若者、平和、そして安全を、特別政治ミッションと平和維持活動のマンデートに、さらに広く反映すべきです。また、若者が主導する市民社会や若い平和構築者が参画するためのプラットフォームとして、若者、平和、安全に特化した年次公開討論の開催を検討することも理事会に希望します。

紛争の予防と解決に向けた取り組みは、女性と若者のリーダーシップが関与し、その優先事項を反映した包摂的なプロセスを通じて形づくられる必要があります。

女性や若者を含むすべての平和構築者を、その取り組みに起因する報復や攻撃から守ることが極めて重要です。

議長、

第三の指摘は、平和構築アーキテクチャーの重要性、特に安全保障理事会が平和構築委員会の役割や助言をどうすればよりよく活用できるかを探る必要性に関するものです。

平和構築委員会は、平和と安全の脅威に対する極めて重要なパートナーシップを築き団結した対応を取ることで、理事会の取り組みを有意に補完しています。

平和構築委員会からは、テーマ別・分野横断的な重要課題に対する助言がますます増えています。同委員会はさらに、中央アフリカ共和国、コロンビア、大湖地域、西アフリカおよびサヘル地域を含む国や地域における、国別・地域別の平和構築の必要性も強調しています。

私は、平和構築委員会の比較優位性を生かし、重要な紛争の予防と平和構築の視点を理事会の取り組みにさらに正面から取り入れるよう、理事会に要請します。

議長、

最後となる第四の指摘は、世界中で持続可能な平和を促進するための私たちの集団的な取り組みが成功するかどうかは、平和構築への適正な投資にかかっていることです。

私は、平和構築の資金調達に関する決議が、2022年9月の国連総会において全会一致で採択されたことに勇気づけられています。この決議は、平和を持続させるために、紛争の予防と平和構築の取り組みに対する政治的な、運用上の、そして財政的な投資を増やす必要性を強調するものです。

この決議はまた、現地のイニシアチブや現地レベルで活動するステークホルダーに投資する必要性も強調しています。これは社会のレジリエンスを構築する上で欠かせません。

私は、平和構築基金への分担金の検討を経たものも含め、平和構築に向けた持続的で、適正かつ予測可能な資金調達を実現するための国連加盟国のコミットメントを称賛します。

事務総長が主導する平和構築基金は、より広範な国連システムとのパートナーシップや各国当局との協力により、平和構築と紛争の予防に投資する国連の主要な手段であり続けています。私たちは多くの危機に直面していますが、そのためにこうした中核的な取り組みから資金が他に向かうことを許すことはできません。

本日の討論に期待しています。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。