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気候危機と生物多様性の喪失、環境汚染に立ち向かうため、科学に基づいた構想を国連が提示(UN News 記事・日本語訳)

2021年03月31日

2021年2月18日 ― アントニオ・グテーレス国連事務総長は自然環境に関する主要な報告書の発表にあたり、自然の助けがなければ、「私たちは繁栄するどころか、生き延びることさえできない」と述べました。

「あまりにも長い間、私たちは自然を相手に、愚かにも自滅的な闘いを繰り広げてきました。その結果が、連関する3つの環境危機なのです」―アントニオ・グテーレス事務総長は、国連環境計画(UNEP)の報告書『Making Peace with Nature(自然との共存)』に関するオンライン記者会見で、このように述べました。

「生物種としての人類の生存を脅かす」として、気候の攪乱、生物多様性の喪失、環境汚染について指摘した上で、事務総長は、それらの原因を「持続不可能な生産と消費」として詳述しました。

「人類の幸福は、健全な地球環境を保護することで得られる」と、事務総長は述べています。

連関する課題

今回発表されたUNEP報告書によれば、気候と生物多様性、そして環境汚染の危機に対し、世界が団結して立ち向かうことは可能であるが、グテーレス事務総長はこれらの連関する危機には、「社会全体での緊急行動」が必要だと述べました。

さらに、世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約3分の2が家庭と結び付いていることに言及した上で、「人々の選択が重要」だと強調しました。

事務総長は、次のように説明しています。「私たちは、過剰な開発によって陸地や海の環境を悪化させています。大気圏や海洋は、私たちの廃棄物のゴミ捨て場になってしまいました。そしていまだに、各国政府におけるそうした自然資源開発のための支出額は、自然を保護するための支出額よりも多いのです」

3つの緊急事態

報告書によると、過去50年間に世界経済は5倍近くの成長を遂げましたが、それは自然環境を著しく犠牲にした上でのことです。

パンデミックによってCO2排出量が減少したにもかかわらず、このまま地球温暖化が進めば、気温は今世紀中に3°C上昇します。また、すでに環境汚染に関連した病気によって年間でおよそ900万の人が命を落としているのと同時に、100万以上の動植物種が絶滅の危険にさらされています。

グテーレス事務総長は、いくつかの点を強調しています。例えば、気候崩壊によって住む場所を失う人々の80パーセントが女性であること、汚染された水によってさらに180万人が死亡する中でその大部分が子どもたちであること、13億人が貧困層に留まり、およそ7億人が飢餓に苦しむことなどが挙げられます。

「唯一の対処法は、人々と地球の幸福度を高める持続可能な開発」だと事務総長は述べ、炭素の価格を設定すること、化石燃料から自然に優しいソリューションへの転換への補助金の拠出、「自然を破壊または汚染するような農業を支援しないこと」への同意など、各国政府が取れる行動に注意を向けるよう促しました。

「最も肝心なこと」

報告書は、広範囲にわたる変革が自然への投資方法の見直しを要することに留意した上で、政策、意思決定、経済システムに「自然の価値」を取り入れ、とりわけ革新的で持続可能なテクノロジーを育成するべきであることを強く訴えています。

「最も肝心なことは、私たちが自然をどのように捉え、どのように評価するかというその方法論を変える必要があるということです」事務総長はこう続けます。「その恩恵は計り知れないものになるでしょう。新しい意識を持つことで、私たちは、自然を保護し、再生する政策や活動に投資を振り替えることができるのです」


SDGsと自然環境

報告書は連関性について分析し、また、生物多様性の喪失に関する上向き曲線の平坦化を図るとともに環境汚染を抑制しながら、いかに科学と政策決定によって持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成し、カーボンニュートラルな世界を2050年までに推進できるかについて説明しています。

報告書の執筆陣は、貧困の緩和、食料と水の確保、すべての人の健康に対するSDGsを推進するには、環境の悪化を食い止めることが不可欠であると強調しています。グテーレス事務総長は、食料の生産および水・土地・海洋の管理を行う上で「切迫感と熱意」が必要だと強調しました。

「開発途上国は今、さらなる援助を必要としています。そうした支援がなされてこそ、私たちは自然を保護、復元し、2030年までにSDGsを達成するための軌道に戻ることができるのです」事務総長はこう述べ、「これらの課題に対処するための知識と能力が私たちにはある」ことが、報告書に示されていると付け加えました。

例えば、『Making Peace with Nature(自然との共存)』には、持続可能な農業や漁業が、食生活の改善や食品廃棄物の削減と結び付くことで、世界の飢餓や貧困に終止符を打ち、栄養摂取や健康を増進し、そして、より広い陸地と海洋を自然のまま残すのに役立つことが概説されています。

事務総長はこう続けます。「これまでの学びを通して、私たちはそろそろ、自然がSDGsの達成を助けてくれるものであることを理解すべきです。」

幸先の良い一年

今年は、2月第4週に開かれる国連環境総会をはじめとして、気候変動、化学物質、生物多様性、砂漠化、海洋などを主題とする、環境に関する多くの重要な国際会議によって、持続可能性を目指す私たちの歩みが推進されるだろうと、グテーレス事務総長は述べています。

「明日、一つの重要な節目が訪れます。私たちは米国を、気候変動に関するパリ協定に再び迎え入れます」事務総長はこうした動きによって「グローバルな行動が強化される」と述べました。

「バイデン大統領の排出量正味ゼロへのコミットメントは、世界の温室効果ガスの3分の2を生み出している国々が、2050年までにカーボンニュートラルになるという目標を達成しようとしているということを意味します。ただし私たちは、この協調体制を、真にグローバルな、そして変革をもたらすものとしなければなりません」と事務総長は続けます。

もし2050年までのカーボンニュートラルの実現が世界中のすべての国で採択されるのなら、その国際的な協調体制によって気候変動の最悪の影響を回避できるかもしれないのです。

「ただし、一刻の猶予も許されません。気温上昇を1.5°Cまでに抑え、迫り来る影響からの回復力を構築するために私たちに残された時間は、刻々と過ぎているのです」と、事務総長は強調します。

共通ビジョンの採択

報告書は、これまでの思考を変え、環境危機と互角に渡り合える政治的、技術的解決策を見つけることの重要性を強調しています。

「持続可能な経済への道は存在します。再生可能エネルギー、持続可能な食料システム、自然をベースにしたソリューションを原動力とした道です。そして、その道は、自然との調和を考えた包摂的な世界へとつながっています」グテーレス事務総長はこう述べ、「それこそが、私たちがみんなで目指すべきビジョンなのです」と強調しました。

事務総長は、すべての人に対し、この報告書を通じて「私たちと自然との関係を、再評価し、リセットする」よう促しました。

『Making Peace with Nature(自然との共存)』は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による評価、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)による評価、UNEPの各種報告書、COVID-19などの人獣共通感染症の発生に関する新たな知見など、世界的な評価に基づいています。

2020年3月、セーシェルは海洋環境の30%を保護する活動に乗り出した© ICS/Craig Nisbet

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原文(English)はこちらからご覧ください。

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