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潘基文(パン・ギムン)国連事務総長講演 -東北大学シンポジウム「震災の教訓を未来に紡ぐ」 (2015年3月15日、仙台)

プレスリリース 15-026-J 2015年03月15日

このような活気にあふれた集いでお話しする機会を頂けたことを、心から感謝いたします。

少しだけ日本語でご挨拶させていただきます。

皆様にお会いできて光栄です。ありがとうございます。

東北大学は、私が数年前に立ち上げたイニシアティブ「国連アカデミック・インパクト」の貴重なメンバーです。

大学の施設は、4年前の東日本大震災で大きな被害を受けました。私は被災者の方々、特にお亡くなりになった学生3人の家族や友人、指導教官の方々に心からお悔やみを申し上げます。

皆様はこの悲劇を受け、100件を超える復興プロジェクトを立ち上げました。私は特に、災害統計グローバルセンター創設に関する東北大学の多数の国連機関との協力に感謝しています。私はこの価値あるセンターが、新たなグローバル災害リスク削減枠組みに関する進捗状況の監視に役立つものと期待しています。また、将来の持続可能な開発目標の実現に向けた経過を追うこともできるでしょう。

私は、東北地方の目覚ましい復興努力をすべて歓迎します。国連は皆様の味方です。

日本の力強い復興を応援しています。

国際社会も国連も応援しています。頑張ってください。

私は4年前、この地で、家を失った多くの被災者を収容する避難所を訪問しました。

私は拙い日本語で、多くの被災者の方々とお話しました。私はいつも、こう言いました。

「国連は日本を応援しています。頑張ってください。」

被災者の方々はすべて、私が日本語で応援の言葉をかけることを喜んでくれました。私はこの4年間、しなやかな復元力をそなえ、勇敢で、復興を決意した多くの人々とお会いした時の感動的な経験を思い起こしています。

私は、津波で浸水し、大きな被害を受けた美しい街仙台が、完全に復興を果たした姿を目にし、喜びを感じるとともに、勇気づけられています。皆様の力強い支援と強靭性を称賛します。

皆様、

私は震災後、福島南高校を訪問しました。

そして、3つの意味深い贈り物を頂きました。

1つ目は「こけし」でした。皆様もご存じのとおり、これは東北地方の温泉地に伝わる伝統的な人形です。

人々は癒しを求め、温泉に入ります。ですから、私はこけしが癒しを象徴するものと考えました。

2番目の贈り物は「赤べこ」。赤い牛の人形でした。私は、この地域の赤牛が昔から、特に働き者の家畜として知られていることを承知しています。ですから、私はこの贈り物を、レジリエンスと勤勉の象徴として受け取りました。

3つ目の贈り物は工芸品ではなく、しかも形ある物でさえありませんでした。それは希望でした。私は高校生に鼓舞されたのです。

まだ若い生徒たちは、恐ろしい悲劇を経験していました。中には、両親や友人、家を失った生徒もいました。そして全員が、安心感さえ失っていたのです。

私は、世界が福島の人々と連帯していることを示そうと思いました。しかし生徒たちは、自分たちが世界と連帯していることを示すことで、私を驚かせたのです。

私は生徒たちが、私や国連に援助を求めるものとばかり思っていました。しかし、生徒たちは支援や援助物資を求めるどころか、世界の人々がこのような悲劇に遭わないようにするために、国連とどのように協力できるのかと質問してきたのです。

私は本当に驚くと同時に、鼓舞されました。そして、心から感動しました。東北の人々は真のグローバル市民です。これこそまさに、日本の人々の誠の精神であり、尊厳であるといえます。

そして、日本政府は国際舞台でリーダーの役割を果たしています。日本が国連防災世界会議を受け入れるのは、これが3回目になります。1994年の横浜を皮切りに、10年後には神戸、そしてさらに10年後に仙台で会議が開催されています。過去30年間に、最大級の防災国際会議を3度も受け入れた国が他にあるでしょうか。私は日本の人々に深く感謝しています。

福島南高校の生徒と同様、日本はその悲劇的経験を世界への支援に活かしています。私は昨日、災害リスク削減のために40億ドルの拠出と、約4万人の訓練という極めて寛大な支援を表明した安倍晋三総理に、改めて拍手を送ります。これは極めて寛大な支援です。日本は困難にもかかわらず、強力なグローバル・リーダーシップを発揮しているのです。私は、安倍総理のグローバルなビジョンとリーダーシップに、心から拍手を送ります。

皆様、

私は訪問先で、瓦礫が新たな構造物の建設に用いられている様子を目にしました。

私はこのことから、私たちが災害の痛ましい教訓をすべて、よりよい未来に向けた新たな政策へと変えてゆかねばならないことを改めて学びました。

ここで私がお話している間も、南太平洋の小さな島国バヌアツの人々は、サイクロン・パムの直撃で犠牲となった家族を弔っています。私は昨日、自国の状況を知らないまま防災会議に出席していたバヌアツ大統領にお会いしました。

バヌアツを襲ったこのサイクロンもまた、国際社会が自然災害に対して必要な準備態勢を整えることに対する認識と、その緊急性を高めました。

私たちが自然災害を防ぐことはできません。それは神の意志だからです。しかし、私たちは少なくとも、災害リスクを最小限に抑えるための備えを整えることができます。私たちは災害リスクを削減できるのです。それこそが、仙台会議の主目的です。

国連には、今回の災害を含め、あらゆる災害の被災者を支援する用意があります。そして私はすでに、国連の専門家と援助要員数人の派遣を指示しました。これら要員は、バヌアツの人々に対する支援の結集に向け、必要なあらゆる措置を講じる予定です。

しかし私たちは、災害後にあわてて対応するよりも、災害発生前に損害を防止することを望んでいます。

私はけさ、仙台市長をはじめ、仙台会議に参加する国際社会のその他市長数名と、充実した朝食会を開きました。上下両院の国会議員の姿もありました。私たちは経験を交換、共有しました。

私は参加者に、陰で地道に働いている人は多いものの、私たちが何らかの準備を整えたり、災害リスク削減措置に投資を行ったりする場合には、誰もこうした人々に注意を払わないことを伝えました。しかし私は、彼らこそが本物の英雄だと思っています。

私たちはたくさんの英雄を目にしてきました。津波に襲われたり、大火事が生じたり、何かが起きた後は、まさに英雄らしく振る舞う英雄が常に何人かいます。しかし、私たちにこのような英雄は必要ありません。

私たちがもっと欲しいのは、準備ができる英雄です。

毎年、60億ドルを災害リスク削減に割り当てれば、2030年までに最大で3,600億ドルを節約することができます。きょう、私たちが防災に1ドルを投資すれば、7ドルの利益が生まれます。しかし、私たちは通常、何かが起きた後に7ドルを支払う傾向にあります。つまり、私たちは毎年、3,000億ドルの損失を被っていることになります。この3,000億ドルの一部だけでも投資していれば、その全額が賄われていた可能性もあるのです。

災害発生後の再建は、よりよい開発モデルへと移行できるチャンスであるともいえます。

災害リスクを開発に統合することによって、私たちは人命と生活を守れるのです。

このプロセスは複雑です。どの省庁も、どの県もこれを独力で進めることはできません。災害リスクは大統領や首相、閣僚、知事、市長から市民社会のリーダー、実業界のリーダーに至るまで、あらゆる人にとっての課題です。私は全員が力を合わせるべきだと考えています。私たちには、あらゆる人の連帯と支援が必要なのです。

強靭な復興とは、将来の災害による最悪の損害から社会を守ることを指します。

使われる金銭は費用ではなく、貴重な投資です。

全世界で人道ニーズが高まっています。気候変動はリスクを増幅しています。災害リスク削減は、気候変動対策の最前線です。

私たちは人間、特に高齢者や子ども、女性、障害者その他、社会的弱者を最優先に考える包括的アプローチを必要としています。

仙台での防災会議が成功を収めれば、この歴史的な年が最良のスタートを切ることになります。事実、2015年という年は極めて重要な年であり、将来に向けた出発の年と呼んでも差し支えありません。

なぜでしょうか。それは、私たちに2つの重要課題があるからです。その1つは、ポスト2015開発アジェンダを作り上げることです。私たちはミレニアム開発目標(MDGs)で顕著な成果を上げました。これは12月末で期限を迎えます。ですから、私たちは今、一連の持続可能な開発目標を伴う持続可能な開発アジェンダを策定しているところです。これは国際社会にとって極めて重要な優先課題です。

第2に、私たちは今年12月までに、普遍的で極めて有意義な、しかも強力で野心的な気候変動協定に合意し、これを採択せねばなりません。

成果の上がる、効率的で効果的な災害リスク軽減メカニズムは、これら2つの優先課題の克服に役立つことでしょう。

私が必死で求めている持続可能性が、仙台から始まると申し上げているのも、このためです。

教官の方々、

皆様、

私はこれから、仙台市内の被災地をいくつか訪れ、再建と復興への取り組みを視察します。また、現地の人々とお話しできることを楽しみにしています。

私は、日本が世界と教訓を共有していることを高く評価します。そして皆様には、こうした価値あるグローバル市民とグローバルな連帯の精神を引き続き示すよう、お願いしたいと思います。

日本は国連の重要な一員です。そしてまた、国連は日本にとっても大事です。

ありがとうございます。

原文を読む→http://www.un.org/press/en/2015/sgsm16593.doc.htm

東北大学で講演する潘基文事務総長 UN Photo/Eskinder Debebe