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国連、世界社会情勢報告2005を発表
「不平等が生み出す苦境」に警鐘

プレスリリース 05/074-J 2005年09月06日

~世界の格差は10年でさらに拡大~

「近年では、まれに見る成長と生活水準の向上を遂げる国々がある一方で、多くの国々では貧困が深く根を下ろし、格差がますます拡大している」。国連は新たな報告書で、このように発表しました。

2005年8月25日に発表された『世界社会情勢報告2005:不平等が生み出す苦境(Report on the World Social Situation 2005: The Inequality Predicament)』は、世界中で不平等が存続、拡大していることについて警鐘を鳴らしています。報告書の焦点は、フォーマル経済とインフォーマル経済の分化、熟練労働者と非熟練労働者との間で深まる溝、健康、教育、および、社会、経済、政治への参加機会に関する格差拡大などに置かれています。

コフィー・アナン国連事務総長は、次のように述べています。「この報告書は、今日の社会開発に影響する極めて深刻な課題を詳しく取り扱うことで、世界の安全と繁栄をさらに高め、人々が基本的人権と自由をよりよく享受できるようにするための決定的行動の指針となれる可能性があります。その中で、不平等が生み出す苦境の克服は欠かせない要素といえます。」

報告書は、経済成長で開発問題が解決できるとする従来のアプローチを離れて、成長と所得創出に努めるだけでは、貧困の「世襲」を十分に把握することも、これに取り組むこともできないばかりか、富を少数の人々に集中させ、多くの人々の貧困をさらに深刻化させかねないと指摘しています。事実、これまでの10年間には、多くの地域で高度経済成長が見られたにもかかわらず、世界の不平等はさらに進んでいるのです。

「国内的、国際的な不平等という課題に取り組まなければ、開発を前進させることはできない」と語るのは、経済社会問題を担当するホセ・アントニオ・オカンポ国連事務次長です。オカンポ氏によれば、「この報告書はまさに絶好のタイミングで発表されました。ミレニアム開発目標(MDGs)達成の期限を2015年に控えた今こそ、すべての人々にとっての開発、安全保障、人権を促進するために、格差縮小という目標を私たちの戦略に取り入れなければならないからです。」

『世界社会情勢報告2005:不平等が生み出す苦境』は、次のような指摘を行っています。

  • グローバル化に伴い、各国の国内でも、また、各国の間でも不平等が進んでいる。このような不平等は就職、雇用の安全、賃金など、多くの分野で悪影響をもたらしている。しかし、自由化や規制緩和の政策が具体的にこのような動向とどうかかわっているかについては、依然として議論が続いている。
  • 多くの国々では失業者が多く、特に若者の失業率が高い。若者は成人に比べ、失業する確率が2倍から3倍高く、現状では全世界の失業者1億8,600万人のうち47%を占めるに至っている。ほとんどの労働市場には、若年層の求職者を吸収する能力がない。各国が新社会人をフォーマル経済に統合できないことにより、インフォーマル経済の急拡大から国内の情勢不安に至るまで、深刻な影響が生じている。
  • 働きながらも貧困から抜け出せない人々が数百万人いる。つまり、全世界の労働者のうち、ほぼ4分の1は、自分自身と家族が1日1ドルという貧困の境界線を越えられるだけの賃金を得ていない。こうした「勤労貧民」の大多数は、非農業部門のインフォーマル労働者だ。労働市場の変化とグローバル競争の激化は特に開発途上国で、インフォーマル経済の肥大化のほか、賃金、諸手当、労働条件の悪化も助長している。
  • 多くの国々では1980年代半ば以降、実質最低賃金が低下し、最高所得が急上昇した結果、特に熟練労働者と非熟練労働者との間で賃金格差が広がっている。中国とインドでは、所得の急増が見られるが、格差は相変わらず大きい。先進国では、特にカナダ、英国、米国で所得格差が広がりを見せている。
  • いくつかの点で進展は見られるものの、健康と教育面での不平等も、特に各国国内で広がっている。格差が最も大きくなっているのは、サハラ以南アフリカとアジアの一部だ。特にアフリカとその他地域との間では、平均寿命の格差が広がっているが、HIV/エイズの蔓延がこれに追い打ちをかけている。予防接種、母子保健、栄養、教育の面でも格差が大きい。教育面での男女格差は縮小しつつも、根強く残っている。このような状況は、人的資本の危機を助長し、持続的な貧困削減を脅かしている。
  • 暴力も不平等に根ざすことが多い。経済的・政治的不平等の拡大を放置すれば、国内、国際双方の平和と安全にとって危険である。このような不平等、特に政権、土地、その他の資産をめぐる闘争は社会を崩壊させ、紛争や暴力へとつながる。報告書では、このような暴力の発現形態として、戦争、子ども兵士の徴用、家庭内暴力と性暴力を取り上げている。
  • 先住民や障害者、高齢者、若者は、自分たちの福祉に影響する政策決定に関与できていない。これら集団は古くから差別を受けているが、依然として基本的人権を否定されることが多い。政治過程から排除されることもしばしばある。

『世界社会情勢報告2005』は、こうした調査結果に基づき、以下の勧告を行っています。

  • 世界経済開放の恩恵をより公平に分配することを主眼としつつ、グローバリゼーションに起因する全世界的な格差に取り組むこと。これを容易にするために、国際開発課題の決定プロセスへのあらゆる国々と人々の民主的参加を促進すべきである。
  • 民主主義と法の支配を促進するとともに、疎外された集団を社会に統合するための特別な取り組みを行うこと。この取り組みには政治的な意志が伴わなければならない。
  • グローバルな紛争と暴力を防ぐために、資源や機会へのアクセスの不平等緩和に関心を向けること。
  • 社会保障プログラムを提供し、フォーマル経済とインフォーマル経済の連関を改善することにより、インフォーマル経済の諸条件を向上させること。
  • 若年層を雇用政策・プログラムの焦点としながら、生産的でディーセントな(まともな、人間らしい)雇用機会を拡大させること。ディーセントな雇用により、職を確保し、法の下で十分な報酬や諸手当、保護を受けられる者は、自分たちの問題について発言し、社会にもさらに積極的に参加できるようになる。

グローバルな不平等を是正し、1995年にコペンハーゲンで行われた社会サミットで合意された社会開発の包括的ビジョンを追求することに関心が向けられなければ、不平等の悪循環が永続化し、ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた取り組みは無に帰すだろう、と報告書は警告しています。

詳しくは、下記にお問い合わせください。
Roberto Guimaraes
Department of Economic and Social Affairs
電話:(917) 367-1352
Eメール:guimaraesr@un.org