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朝鮮民主主義人民共和国における人権状況

プレスリリース 05/089-J 2005年10月24日

国連人権委員会は決議2004/13により、朝鮮民主主義人民共和国の政府および国民と直接の接触を確立し、同国における人権状況に関する調査と報告を行う特別報告者の任命を決定しました。2004年7月、ウィティット・ムンタボーン氏が特別報告者に任命されました。この報告は同決議にしたがって提出されたものです。

*なお、本資料は報告のうち、要旨、関係国訪問<日本>および勧告を抜粋して訳したものです。


第60会期A/60/306
暫定議題*検討項目73(c)
人権状況および特別報告者・代表による報告

配布:一般
2005年8月29日

朝鮮民主主義人民共和国における人権状況

事務総長メモ
事務総長はここに、国連人権委員会特別報告者ウィティット・ムンタボーン氏から提出された朝鮮民主主義人民共和国の人権状況に関する報告書を総会メンバーに提出する。本報告書は人権委決議2005/11に従って提出されたものである。

要旨
国連人権委員会は決議2004/13により、朝鮮民主主義人民共和国の政府および国民と直接の接触を確立し、同国における人権状況に関する調査と報告を行う特別報告者の任命を決定した。2004年7月、ウィティット・ムンタボーン氏が特別報告者に任命された。決議2005/11により、特別報告者の任期は1年延長された。この報告は同決議に従って提出されたものである。

現状は次のようにまとめることができる。まず、建設的側面について見ると、朝鮮民主主義人民共和国は4つの主要人権条約、すなわち「市民的、政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約」、「児童の権利に関する条約」および「女性に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条約」の締約国である。また、これらの条約に基づき、各種の報告を担当の監視委員会に提出している。第2に、朝鮮民主主義人民共和国はさまざまな国連機関と協力してきた。2005年には、国連児童基金とともに「国家子ども健康デー」を初めて発足させ、およそ200万人の子どもがビタミンA補給などの保健サービスを受けられるようにした。第3に、朝鮮民主主義人民共和国は多くの国々と同様、人権の推進と保護に貢献しうる法律・運営面でのインフラをある程度備えている。第4に、同国は近年、特に法律の分野でいくつかの改革を実施した。2004年には、国際的な罪刑法定主義(法律で定められなければ犯罪とはならない)原則に沿うよう、刑法が改正された。第5に、同国では経済自由化の実験をはじめ、いくつかの面で改善が見られるものの、経済・社会情勢は相変わらず不安の種となっている。

今後取り組むべき重要課題は多岐に及ぶ。具体的には、食糧確保の権利と生存権、人身の安全、人間的処遇、非差別および司法アクセスに対する権利、出国にかかわった人々の移動の自由、庇護および保護に対する権利、達成可能な最高の健康水準を得る権利と教育を受ける権利、自決/政治参加、情報アクセス、表現/信条/言論、結社および宗教の自由に対する権利、ならびに、女性と子どもをはじめとする特定者/集団の権利があげられる。本報告では、これらの問題を詳しく検討した。日本とモンゴルについては、朝鮮民主主義人民共和国の人権状況による影響を評価するため、国別調査団が訪問したが、これについても簡潔に報告されている。

結論を言えば、同国ではここ数十年にわたり、いくつか建設的な動きが見られるものの、同国の人権状況にはさまざまな矛盾や違反が見られ、しかも中には言語道断といえるものもある。よって、人権侵害を防ぎ、被害者を救済するため、直ちに行動する必要がある。本報告書の終わりには、同国政府とその他国際社会メンバーのそれぞれに向けた各種勧告を盛り込んだ。

特別報告者は、朝鮮民主主義人民共和国における人権状況に関し、国連人権委員会に対する第1回報告書(E/CN.4/2005/34)で当初の所見を示したが、本報告書はこれに基づくものである。

 

IV. 関係国訪問

A. 日本

43. 私は、2005年2月24日から3月4日にかけて日本を訪問し、朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致疑惑をはじめ、朝鮮民主主義人民共和国における人権状況が日本に及ぼす影響について調査した。1970年代と1980年代を中心に過去数十年間、多くの日本人が朝鮮民主主義人民共和国の工作員に拉致された。2002年には、日本と朝鮮民主主義人民共和国との初の首脳会談が平壌で開かれた。この席上、朝鮮民主主義人民共和国は多くの拉致事件にかかわったことを認め、これを謝罪した。両国はまた、今後の関係の基盤として「日朝平壌宣言」を採択した。そのパラグラフ3は、下記のような基礎を定めている。

「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。」

44. これに続き、2004年には2回目の首脳会談が開かれた。朝鮮民主主義人民共和国はこの席上、行方不明となっている拉致被害者の消息を確認するため、徹底調査を再度行うことを約束した。日朝双方は実務レベルでの協議を継続した。
45. 不透明な点が数多く残っているが、これについては、建設的対話とそのフォローアップを基盤とした満足のゆく取り組みが必要である。私が訪問した際、日本は15人が朝鮮民主主義人民共和国によって拉致されたとした。2005年4月21日、日本政府はさらに1人の日本人男性が朝鮮民主主義人民共和国に拉致されたと主張した。そのうち5人は日本に帰国している。残りの10人について、朝鮮民主主義人民共和国は、拉致されたのは8人だけだとし、他の2人は同国に入国していないと主張した。朝鮮民主主義人民共和国はまた、この8人はすでに死亡しており、うち2人の遺骨は2002年と2004年に日本に返還済みだとしている。
46. 日本は、これらの遺骨が本人のものでないとしている。朝鮮民主主義人民共和国が拉致した男性のものとされた遺骨は、2002年と2004年に日本に返還され、法医学鑑定に付された。その結果、2002年に返還された遺骨は本人のものではなく、2004年に返還された遺骨も本人以外の4人のものと判明した。朝鮮民主主義人民共和国によって拉致された女性(朝鮮民主主義人民共和国側はこの女性が同国内で自殺したとしている)の遺骨とされるものは、2004年に返還されたが、これについても同年中、日本で多くの法医学鑑定が行われた。その結果、遺骨は本人のものでないことが判明した。朝鮮民主主義人民共和国はその後、拉致問題は解決済みとして、これに関する日本との交渉を再開しないとの回答を行った。さらに2005年2月、朝鮮民主主義人民共和国は鑑定結果に関する日本の主張に反論し、遺骨を同国に返還するよう要求した。
47. 上記8人が死亡したとされる状況、および、朝鮮民主主義人民共和国が関知しないとする2人に関する状況については、依然として疑問な点が多く、はっきりしていない。拉致事件のうち数件については、強制的あるいは非自発的失踪に関するワーキンググループ(Working Group on Enforced or Involuntary Disappearances)で取り上げられ、引き続き審議中である。
48. 日本国内には拉致被害者家族をはじめ、朝鮮民主主義人民共和国によって拉致された多くの日本人がまだ同国で生存していると見る向きが多い。被害者を直ちに日本に帰国させるべきだ、というのがその気持ちである。日本に返還された遺骨が拉致被害者本人のものではないと判明したことは、大きな反響を呼んでおり、状況の解明を求め、朝鮮民主主義人民共和国の責任を厳しく問う世論が盛り上がっている。一部には誠意ある対応を引き出すため、厳しい措置を求める動きがある。また、朝鮮民主主義人民共和国が拉致した日本人は、上記の15人よりはるかに多いのではないかとする向きもある
49. その一方で、拉致問題は日本にとって極めて重要だが、朝鮮民主主義人民共和国の核放棄に関する多国間協議をはじめ、人権に影響するその他の重大課題にも取り組めるよう、バランスのとれたアプローチが必要だとする声もある。北東アジアの人権、平和、安全に相互関連性があることは明らかだ。また、朝鮮半島にまつわる過去の歴史的経緯に触れ、これに関する各当事者の説明責任という問題を提起する向きもあった。私はこれに関し、両国間の首脳会議で示された精神、特に2002年の首脳会談において、フォローアップ措置の合意に加え、双方が過去の過ちについて謝罪したことを歓迎する。
50. 拉致(「強制的失踪」)は国内法でも国際法でも全般的に禁止されていることを想起すべきである。このような行為があれば、生存権や人身の安全に対する権利などの人権が侵害されることになる。「世界人権宣言」や「市民的、政治的権利に関する国際規約」などの主要な国際人権条約は、拉致に対する人身保護の基準となる。しかも重要なことに、拉致や強制的失踪の問題を具体的に取り扱った国連文書もある。総会は1992年、決議47/133により「すべての人々の強制的失踪からの保護に関する宣言」を採択した。この宣言は拉致を防止し、被害者を救済するため、多くの措置を要求している。これには拉致を防止および停止するために各国が講じるべき有効な法的措置などが含まれているが、具体的には、拉致行為を犯罪とすること、犯人を裁きにかけること、自由を奪われた者の消息を突き止める手段として、迅速かつ実効的な司法救済を行うこと、釈放の確実な検証を可能にする形で被害者を釈放することがあげられる。犯人が犠牲者の消息を隠し続け、事実がうやむやにされている限り、拉致犯罪は継続すると見なされる。宣言はまた、犠牲者とその家族の痛手や、裁きを求める声にも特に留意している。
訪日に関する勧告
51.

私は、この問題について深い懸念を表明するとともに、人道上の呼びかけとして、5つの重要なメッセージを伝えることとしたい。

  • 責任:朝鮮民主主義人民共和国に対し、同国内で拉致被害者が生存しており、これらの被害者を直ちにかつ安全に日本に帰国させるべきだとの日本の主張に対し、実効的かつ迅速に対応するよう呼びかける。
  • 透明性:朝鮮民主主義人民共和国に対し、同国が死亡したとする日本人拉致被害者の真相を信頼できる形で客観的に検証し、その不明な点や矛盾を解明するとともに、同国がほかにも日本人を拉致していないかどうかを確認するよう呼びかける。
  • 家族の再会:朝鮮民主主義人民共和国に対し、特に拉致被害者について、家族の再会と帰国を尊重、保証するよう呼びかける。
  • 説明責任:朝鮮民主主義人民共和国に対し、その矛盾を改めるとともに、拉致責任者を裁きにかけることを含め、拉致被害者が司法にアクセスし、拉致責任者からの実効的かつ迅速な補償を求められるようにするよう呼びかける。
  • 持続可能性:朝鮮民主主義人民共和国に対し、日本との対話と協力を再開、維持し、同国による日本人拉致問題の平和的解決、この問題の満足できる決着の確保、および、拉致事件の再発防止に努めるよう呼びかける
52. 上記のメッセージは、国際法と国際人権枠組みに基づいて人権を包括的に推進、保護する必要性を反映し、両国の二国間対話と連携を通じた問題の建設的解決を支援するための国際的連帯への呼びかけに照らして考えるべきである。

V. 勧告

68. 振り返ってみると、朝鮮民主主義人民共和国ではここ数十年間にわたり、いくつか建設的な動きが見られるものの、同国の人権状況にはさまざまな矛盾や違反が見られ、しかも中には言語道断といえるものもある。よって、人権侵害を防ぎ、被害者を救済するため、直ちに行動する必要がある。朝鮮民主主義人民共和国での人権の推進と保護を図るため、特別報告者は、委員会に対する同人の報告に含まれる勧告を改めて繰り返す。勧告の緊急性は高いが、すべてを網羅しているわけではない。

(a)朝鮮民主主義人民共和国は、

  1. 自らが締約国となっている4つの人権条約を含め、国際的人権基準を守り、これら条約によって設立された監視委員会の勧告に従うとともに、その他関連条約にも加入し、これを実施すべきである。
  2. これら基準と相いれない法律や慣行を改めるべきである。
  3. 民主主義、平和、持続可能な開発および非軍事化とともに人権を尊重し、あらゆるレベルでの政策決定と実施への市民社会の関与を拡大すべきである。
  4. 独立の透明な司法府、被告/拘禁者の保護、司法アクセスと市民社会の参加、ならびに、国家人権委員会あるいはこれに相当する実質的な非政府組織および活発な独立メディアの確立を通じたものを含めた、権力乱用に対する抑制と均衡の促進をはじめとする法の支配を尊重すべきである。
  5. 司法行政を改革し、特に行刑システムの改善、死刑、体刑および強制労働の廃止、ならびに、予防拘禁、行政拘禁および政治犯の拘禁の取りやめを図るべきである。
  6. 出国の根本的原因に取り組み、帰国した場合を含め、出国者の訴追や迫害を防ぎ、出国者や密航者、人身売買被害者を人間的に処遇し、帰還民の社会への再統合を援助するとともに、許可なく移動した者を罰することなく、移動の自由権を保証すべきである。
  7. 迅速かつ実効的なプロセスを通じ、外国人拉致に関連するものを含め、犯罪被害者の救済を図るべきである。
  8. ジェンダーと子どもに配慮し、批判的な分析を促進する積極的な人権教育プログラムを通じ、法執行機関と一般市民が人権を擁護する能力を高めるべきである。
  9. おそらくは、国民の幅広い参加で策定された国家人権行動計画という形で、法執行機関とその他当局に人権を尊重させる明確な指令を発するべきである。
  10. 食糧を含む人道援助が、アクセスの妨害なしに、また、透明な監視と説明責任を伴って、対象者に届くようにすべきである。
  11. 特別報告者およびその他の機関に対し適宜、朝鮮民主主義人民共和国の訪問を招請し、人権の現状確認と改革の勧告を行わせるべきである。
  12. 人権を推進、擁護する活動を支援するため適宜、国連人権高等弁務官事務所などの機関に技術援助を要請すべきである。

(b)国際社会のその他メンバーは、

  1. 朝鮮民主主義人民共和国が建設的に上記の勧告に従うよう、影響力を行使すべきである。
  2. ノンルフールマンの原則や少なくとも一時的な庇護/保護の提供を含め、朝鮮民主主義人民共和国からの難民およびその他出国者の保護を確保するとともに、庇護申請者の生命を危険にさらす二国間協定およびその他の取り決めを破棄すべきである。
  3. 密航者を減らすため、その出身国との間で秩序ある安全な移住経路を促進するとともに、密航と人身売買を取り締まる一方で、被害者を人間的に取り扱うための国際協力を推進すべきである。
  4. 第一庇護国内での定住、第三国への移住、および、十分なフォローアップを伴った安全で自発的な帰国を含め、難民援助の長期的解決に必要な空間を提供するとともに、難民と移住者の受け入れ責任共有に関する国際的連帯を強化すべきである。
  5. 透明な監視と説明責任を伴い、人道援助機関による支障のないアクセスによって、援助が対象者に確実に届くようにすること。