本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

ヘイトスピーチを理解する:ヘイトスピーチとその実害

2023年06月16日

ヘイトスピーチとその実害

歴史上、ヘイトスピーチが残虐な犯罪の前兆となり得ることを示す前例が存在しています。

近年、世界で大規模な残虐行為が発生しています。これらの多くでは、ヘイトスピーチが「ジェノサイドを含む残虐な犯罪の前兆」であったことが明らかになっています。憎悪を拡散する目的でソーシャルメディアやデジタル・プラットフォームを利用するのは比較的最近のことですが、政治的利益のために世論を武器として用いるのは、残念ながら目新しいものではありません。歴史が示し続けているように、ヘイトスピーチに偽情報が重なれば、スティグマ(偏見)、差別、そして大規模な暴力へとつながりかねません。

 

ホロコースト

ホロコーストはガス室から始まったのでなく、少数者に対するヘイトスピーチから始まった。

ナチス政権はドイツの独立系メディアを壊滅させる法規制を採択し、それらのメディアを国営のラジオ局や活字メディアに置き換え、ヘイトスピーチ、反ユダヤ的・人種主義的固定観念、偽情報、虚偽を拡散させました。メディアを利用したこのキャンペーンは、残虐な犯罪を常態化する上で大きな役割を果たしました。これにより、ナチス・ドイツとその他の人種主義国家による、約600万のユダヤ人の子どもや男女、そして少なくとも50万のロマとシンティの人々に対する計画的・組織的な迫害およびせん滅計画であるホロコーストを容易にしたのです。ナチス政権とその人種主義的協力者たちは、障害を持つ人々、アフリカ系ドイツ人、LGBTQI+の人々、ポーランド人、ソ連の戦争捕虜、反体制派の人々、エホバの証人の信者の人権を侵害し、それらの人々に残虐な犯罪を行いました。ホロコーストはガス室から始まったのではなく、少数者に対するヘイトスピーチから始まったのです。

 

カンボジアでのジェノサイド

憎悪に満ちた言説によって、民族・宗教的少数者に加え、知識人、反対派、都市住民にも人民の「敵」というレッテルが組織的に貼られた。

1970年代、ポル・ポト派が率いるクメールルージュが、農村部の人口を動員して権力を掌握するための激しいプロパガンダ・キャンペーンを展開しました。憎悪に満ちた言説によって、民族・宗教的少数者のみならず、知識人、反対派、都市住民にも人民の「敵」というレッテルが組織的に貼られたのです。1975年から1979年の間に、クメールルージュによる支配の下で、150万から200万人のカンボジア人が死亡したと推定されています。

 

1994年のルワンダにおけるツチに対するジェノサイド

数十年におよぶヘイトスピーチで、ツチに関して根拠のない噂が広まり、その人間性が奪われ、民族間の緊張が高まった。

ルワンダでは、数十年におよぶヘイトスピーチで、ツチの市民に関して根拠のない噂が広まり、その人間性が奪われ、民族間の緊張が高まりました。そのヘイトスピーチは悪名高きラジオ局Radio Libre des Mille Collinesによるヘイト宣伝放送によって増幅されたもので、多数派のフツを煽り、同国人であるツチ市民を殺害させるに至りました。1994年に起きたジェノサイドでは、3カ月足らずの間に100万人以上が組織的に殺害されたと推定されています。赤ん坊から高齢者にまで至る犠牲者の圧倒的多数はツチでしたが、中には穏健派のフツ、トワの他、ジェノサイドに反対した人々も含まれました。15万から25万人の女性がレイプ被害にあったとも推定されています。

1994年のルワンダにおけるツチに対するジェノサイド:ビデオ映像はこちらから。

 

ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァでのジェノサイド

党が支配するメディアのチャネル全体でナショナリスト的プロパガンダが絶えず行われ、ボスニアのイスラム教徒が悪者扱いされた。

憎悪と偽情報のキャンペーンが、戦争犯罪を煽り、合法化する役割を果たすことは、ボスニア紛争(1992-1995)でも証明されています。セルビア系が多数を占める地域では、党が支配するメディア全体でナショナリスト的プロパガンダが絶えず行われ、ボスニアのイスラム教徒や他のグループが、セルビア系の人々に対して陰謀を企む暴力的な原理主義者である敵として悪者扱いされました。異議を唱える人々の声も封じられました。1995年7月のわずか数日間で、セルビア軍は、ボスニア東部にあるイスラム教徒居留地であり、国連が保護する「安全地帯」であったスレブレニツァの町で、8,000人のボスニア系イスラム教徒の男性や少年を殺害しました。ボスニア紛争では10万人以上が犠牲となり、2万人が行方不明になりました。四半世紀を経た今でも、政治的言説やメディアなどにはヘイトスピーチ戦争犯罪人の賛美、ジェノサイドやその他の残虐な犯罪への否認がまん延しており、「徹底的に過去と向き合って来こなかったという失敗」が際立つ結果となっています。

 

ミャンマーにおけるロヒンギャ難民の危機

少数派のイスラム教徒ロヒンギャを誹謗中傷し、その人間性を奪うような言葉で満ちた、憎悪と誤情報のキャンペーンが展開された。

ミャンマーの少数派のイスラム教徒ロヒンギャを誹謗中傷し、その人間性を奪うような言葉で満ちた憎悪と誤情報のキャンペーンと、2012年から2017年の間にミャンマーで起きた重大な人権侵害との関連が明らかになりました。国連人権理事会が設立したミャンマーにおける独立国際事実調査団は、当局者、政治家、軍指導者、宗教指導者によって主導された広範なヘイト・プロパガンダを記録した報告書を発表しました。報告書では、少数派であるロヒンギャの人々に対して、殺人、レイプ、集団レイプ、拷問、強制移住、その他の重大な人権侵害を含む、組織的な残虐行為が行われたこともわかっています。レイプ被害は数万人にのぼると推定されています。2018年8月時点で、72万5,000人以上ものロヒンギャ難民がバングラデシュへと逃れており、世界最速のペースで進む難民危機が生じています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これまで75年間、ルワンダからボスニア、さらにはカンボジアに至るまで、ヘイトスピーチは、ジェノサイドをはじめとする残虐な犯罪の前兆となってきました」

―アントニオ・グテーレス国連事務総長(2019年6月

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。

ヘイトスピーチとは何か

ヘイトスピーチと言論の自由

関連する問題:よくある質問