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グローバル・コミュニケーション担当事務次長による寄稿(日本語訳):「気候変動による惨禍を回避するための残り時間はあとわずか。生き残るには蔓延する偽情報への対処が不可欠」

2023年06月12日

メリッサ・フレミング
グローバル・コミュニケーション担当事務次長

イタリアの風力発電所 ©UN Photo/Roberta Politi

2023年3月18日

昨年の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、「気候危機の最前線に立たされている人々の声に耳を傾けている」という、切望されてきた政治的シグナルを発信しました。脆弱な立場に置かれた国々に対し、気候ショックによって被る損失と損害を補償する基金を設立するという決定は、正義の実現に向けた重要な一歩です。

しかし、なすべきことは山積しています。私たちは、排出量を緊急かつ劇的に削減しなければなりません。国際社会は、パリ協定の目標達成に向けた軌道から大きく外れています。達成できなければ惨禍が待っています。壊滅的な異常気象の被災者と頻度は、年々増加しています。それでもなお、行動を遅らせようとする人たちがいるのです。

住み続けられる地球を求める私たちの闘いの中心には、“情報戦”という、無視すれば命の危険を伴う闘いがあります。気候変動に関する嘘の拡散と、それに伴う無関心は、他のあらゆる取り組みを弱体化させます。人類が生き残るためには、気候行動への関心を逸らして気候行動を遅らせようとする人たちから、支配権を奪わねばなりません。

国連のコミュニケーターは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による統合報告書で示された知見を人々にわかりやすい情報へと言い換える作業に携わります。気候変動に関する最新の知識に基づく気候危機対策の選択肢を提示するとともに、気候変動のメカニズムと原因から、気候変動の影響とリスクや気候危機の解決策に至るまで、かみ砕いて伝えます。私たちは、科学を積極的に歪めようとする抜け目のない偽情報アクターに対抗すべく取り組んでいます。

気候変動に関する嘘は、今に始まったことではありません。化石燃料産業側による否定論は数十年に及び、気候科学だけでなく、事実全般に対する信頼さえ損なってきました。あなたがこの文章を読んでいる今も、悪意あるアクターは、ソーシャルメディア上で休むことなく活動し、気候緊急事態とその解決策に対して疑念の種を蒔いているのです。

最近の動向は、気候の「非活動家」たちを勢い付かせています。メディアのモニターをしている人々は、イーロン・マスク氏がツイッター社を買収して以降、気候変動に関する偽情報を含め、ありとあらゆる憎悪と嘘の勢いが増していると言います。ツイッター側は、買収以降も自社のモデレーションポリシーや慣行に変更はないと主張していますが、アナリストによれば、大規模な人員削減や退職が、悪行や虚偽の情報の爆発的な増加につながりました。

昨年11月のCOP27期間中には、気候変動は詐欺や捏造であるという陰謀論が急増しました。ハッシュタグ「#climatescam」(気候詐欺)の使用件数は、2022年上半期の月あたり2,700件未満から、7月には8万件、12月には19万3,000件近くまで激増しました。このハッシュタグは、いまだに「climate」(気候)の検索結果の上位3項目に入っています。

今年に入り、行動反対を唱える上で、人類が引き起こした温暖化を真っ向から否定する説は大幅に減ったようです。極端な洪水、干ばつ、熱波、森林火災の頻発により、気候が変わりつつあることを否定するのはますます困難になってきました。その代わり、気候行動を可能な限り遅らせることが目的となってきています。

ジャンクサイエンス(疑似科学)、責任のなすり合い、活動家に対する個人攻撃といった遅延のナラティブ(物語)が、ソーシャルメディアを介して毎日数千万人に押し付けられています。今やこうした語りかけが広く普及し、気候に関する議論に強固に根付き、私たちの注意を危険から逸らし、行動呼びかけを曖昧にさせ、かき消そうとしているのです。

私たちは、気候変動に伴う最悪の結果を回避するために、直ちに行動を起こさなければなりません。人々には、事実を知る権利があります。特効薬こそありませんが、当たり前で簡単な方法から始めようではありませんか。

ソーシャルメディア企業には大きな力と行為主体性があり、果たすべき重要な役割があります。一部のプラットフォームでは、気候危機に関する有害な虚偽情報の拡散を防ぐルールをすでに強化していますが、その実施には極めて大きなばらつきがあります。この状況は、直ちに変えねばなりませんし、変えられるのです。

気候変動を否定することで利益を得ている人たちは、依然として余りに多く存在しています。排出量正味ゼロの目標を弱体化させたり、世界は引き続き化石燃料を燃やす必要があると主張したりする虚偽広告や誤解を招く広告が、あらゆるソーシャルメディア・チャンネルで確認できます。

「偽情報に反対する気候行動連合(CAAD)」の最近の分析によると、COP27の準備期間とその開催期間中にかけて、化石燃料部門に関連する団体が支払ったそうした有料広告の額は、メタ社だけでも約400万米ドルに上りました。

デジタルプラットフォームは、気候緊急事態が捏造であると主張する広告や、気候科学を歪めている広告から得ているすべての収益を放棄すべきです。大規模な悲劇が毎日のように起きている中、気候変動に関する偽情報から収益を得るということは、気候危機に加担しているのも同然です。気候変動を歪曲することが、利益につながってはなりません。

対策を強化すべきは、巨大テクノロジー企業だけではありません。すべての当事者が、グリーンウォッシング(見せかけだけの環境配慮)から直ちに手を引かねばなりません。PR会社や広告代理店は、化石燃料企業が自社イメージをグリーンウォッシングするのを手伝うことを拒否し、代わりにその創造力をもって、再生可能エネルギーへの移行を促進すべきです。

しかし、私たちの行動呼びかけは、それだけとどまりません。すべてのソーシャルメディアユーザーには変化をもたらす力があります。普段からファクトチェックを行い、安全な場合には勇気を出して虚偽を指摘するのと同様に、オンラインで共有する前に立ち止まってみるというシンプルな行動でも、嘘の拡散を大幅に抑えられるのです。

現在、偽情報について報道する人々が、偽情報キャンペーンを調査し、そのアクターや拡散方法を白日の下にさらしつつあります。編集者は、偽情報に関する報道を定期的に取り上げるべきです。

アルゴリズムの設計においては、嘘よりも事実を増幅するよう学習させることができます。

そして、気候行動を推進する私たちは、科学を伝達すべく一層努力しなければなりません。私たちは、今直面している脅威と私たちを救える解決策に関する共通の理解を形成している科学的証拠に対する信頼を回復するよう、コミュニケーションを図らなければなりません。

世界の排出量を45%削減し、パリ協定の目標を維持するため、私たちには一刻の猶予もありません。気候変動に関する偽情報に、その進展を妨げさせるわけにはいかないのです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。