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グローバル・コミュニケーション担当事務次長による寄稿(日本語訳):「嘘が平和を壊すとき」

2023年06月12日

メリッサ・フレミング
グローバル・コミュニケーション担当事務次長

レバノンで活動する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)平和維持部隊© UN Photo/Pasqual Gorriz

2023年3月1日

国連平和維持要員は今日、近年経験したことのない大きな危険に直面しています。彼らは銃や爆発物だけでなく、偽情報にも立ち向かわなければならないからです。憎悪と嘘は、戦争で用いられる武器としてますます多用されつつあります。そしてそれらは、従来のミサイルに劣らず、致命的なものとなり得るのです。

私は偽情報という言葉を、意図的な嘘、つまり害を加える意図をもって流布される虚言という意味で用いています。根拠のない噂というものは、大きな権力や影響力を持つ人々が繰り返し使用するときは特に、制度に対する人々の信頼を急速に損なうものとなり得ます。熱狂的な状況になれば、根拠のない噂は、容易に暴力の火付け役となります

そして多くの場合、この類の活動の最終目標が暴力なのです。国連特別報告者のアイリーン・カーン氏が発表した、紛争時の偽情報に関する報告書によると、悪者はソーシャルメディアのプラットフォームを利用して「混乱をまき散らし、憎悪を育て、暴力を扇動し、紛争を長引かせるために情報を武器に」しようとするのです。

世界中の平和維持要員にとって、こうしたかく乱効果を持つ嘘が破壊的であることが明らかになってきています。暴力を防ぎ、市民を保護するという要員たちの仕事が、このような嘘によって、より困難で危険なものとなっているのです。さらに、平和維持要員自身が、ますます攻撃の対象になりつつあります。

コンゴ民主共和国(DRC)を例に挙げましょう。昨年7月、国連平和維持部隊のコンゴからの早期撤退を求める攻撃的な偽情報キャンペーンの最中に、悲劇は起きました。発端、オンラインで広まった根拠のない主張でした。やがて、憎悪は現実世界へと波及しました。

平和維持部隊のリーダーたちが殺害の脅迫を受けました。スタッフの私的な住所がウェブ上の至る所に投稿され、数週間もの間、自由に移動することができませんでした。国連の施設には火が放たれ、火炎瓶が投げられ、オフィスが荒らされました。抗議デモが暴徒化し、3人の平和維持要員と多数の市民が殺害されのです

同様のことは、他の地域でも起こっています。マリでは最近、平和維持要員たちが武装集団と通じていると主張する偽の手紙がFacebookに投稿され、コミュニティーを激怒させました。この手紙が拡散され、国内メディアがこぞって取り上げ、人々の雰囲気は急速に敵意へと一変しました。

地元住民たちは、パトロール中の平和維持要員に敵対し、その動きを妨害するとともに、要員たちが一般市民への暴力の阻止や調査を行おうとしていた地域への立ち入りも拒否しました。平和維持要員たちも、攻撃されてしまったのです。DRCでの状況と同様に、部隊全体の安全を損ない、脅かしたのは、オンラインで拡散された嘘でした。

これらは単発的な事例ではありません。最近の調査では、国連平和維持要員の44%が誤情報や偽情報によって任務に重大な支障を来たしていると答えています。また、これに近い割合の平和維持要員が、誤情報や偽情報によって現地での安全性に深刻な影響が生じていると言います。そして、かく乱を目的とする偽情報キャンペーンがより広い社会に与える影響については、言うまでもありません。

マリの都市ガオで街路をパトロールする国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)の警察官たち©UN Photo/Marco Dormino

私たちは、暴力的な言葉がオンラインで拡散され、古くから存在している憎悪を再燃させるのを何度も目の当たりにしています。エチオピアでは、北部ティグレ州での紛争をあおり立てています。かつて紛争状態にあったバルカン諸国の地域では、大量虐殺の否定や戦争犯罪者の賛美が急増しています。

そして、私たちは嘘がウクライナでの戦争をあおっている様子を見ています。そこでは相対立するナラティブ(語り口)が、紛争とその起源について、あるいは直近の残虐行為はどちら側に責任があるのかについて、あるいは関連する食料危機について、疑惑の種をまいています。一方で、ウクライナ近隣諸国では、悪者が難民に関する嘘を広めています。

こうした事態を放置しておくことはできません。偽情報は安全と平和を損ない、平和維持要員の任務の遂行を妨げています。停戦と政治的解決を損ない、人権侵害の調査を妨げています。私たちはその脅威を認識し、偽情報と闘う方法を見出ださねばなりません。

国連は、世界各地での平和維持活動に影響を及ぼす偽情報を監視し、これらに対抗する取り組みを行っています。昨夏、国連安全保障理事会は、平和維持活動における戦略コミュニケーションの役割をハイレベル討論会で討議する初めての会合を開きました

しかし、解決策は複雑です。ソーシャルメディア運営企業と各国政府には果たすべき大きな役割があり、それはメッセージを発信する私たちも同様です。正確で信頼でき、人を中心に据えた物語を語ることで、嘘を取り除き、国連が奉仕するコミュニティーからの信頼と支持を築くことができるのです。

物語を力強く語ることは、証拠や検証済みデータをより多くの人々に示すのに役立ちます。その結果として、理解が深まり、対話の扉が開かれるでしょう。平和維持要員とコミュニティー間の双方向の対話によって、平和維持活動が信頼を築き説明責任を果たすことができるのです。それは、必要に応じてあらゆる不正行為を認めて一掃することを意味します。

こうした対話こそが鍵です。私たちは、虚言に反論する最良の方法の一つは、今も変わらず対面によるコミュニケーションであると知っています。平和維持要員たちが定期的に対話集会を開いてコミュニティーの懸念に耳を傾け、どうすればコミュニティーにより良く奉仕できるかを学ぼうとしている理由は、ここにあります。直接訪問するのが困難な紛争地域に暮らす膨大な数の人々に対しても、平和維持活動ミッションは事実と平和を促進する国連ラジオの番組を通して働きかけを行っています。最近の調査では、例えば南スーダンでは、人口の83%がラジオからニュースを受け取っていることが分かりました。

とは言え、より大局に目を向けることも大切です。かく乱を意図する偽情報は、情報を巡る広範な争いの一端に過ぎません。有害な嘘は、パンデミック対策気候変動において極めて重要な前進を損なうものでもあるのです。一つ明らかなことは、この闘いは今後も続くということです。その闘いを、より良い世界を目指す私たちの闘いの中心に据えるべきなのです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。