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国連アカデミック・インパクト参加大学に聞く 東北大学編②

2013年01月21日

被災後1カ月という早い段階から「災害復興新生研究機構」を立ち上げ、一丸となってプロジェクトを推進している東北大学。これに加え、大学教職員が自主的に取り組む復興支援プロジェクト「復興アクション100+」も実施されています。シリーズ第2回は、津波塩害農地復興のための「菜の花プロジェクトとバイオマス資源地域循環」について、中井裕・農学研究科副研究科長にお話を伺いました。

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現場から乖離した概念は、絵に描いた餅以上に役に立たない」という思いを中井裕先生が抱いたのは、東日本大震災直後に深刻な被害を受けた宮城県女川町にある農学部のフィールドセンターを訪れた時でした。

こうした中井先生と同じように強い思いを持った農業、森林、畜産、海洋など幅広い専門家たちが集結し、震災からわずか10日あまりの3月23日、「食・農・村の復興支援プロジェクト」が東北大学大学院農学研究科によって発足しました。国連広報センターは、その復興支援プロジェクトの中で植物育種、土壌、栽培、資源リサイクル、農村計画の専門家が進める「津波塩害農地復興のための菜の花プロジェクト」(以下、「菜の花プロジェクト」)を視察し、プロジェクト・リーダーを務める中井先生と学生の方からお話を伺いました。菜の花による農業・農家の復興とエコ・エネルギー生産を目指すこのプロジェクトは、科学技術振興機構(JST)の支援も受けるなど内外から高い評価を得ています。

東日本大震災に伴う津波は、地域の農業に大きな傷跡を残しました。宮城県で見てみると、農地の11%、仙台市では2,700ha(約4割)が被害にあったのです。大学は市内の水田の被災状況の調査をする中、ある結論に達しました。「被災した農家が自らのプライドと将来への希望をもって暮らすためには、農業を継続しながら農地復旧を進めるのが好ましい」通常、塩害を受けた田畑の復旧には、多額の費用をかけて土壌洗浄等による塩分の除去または他から土を持ってきて客土が行われます。しかし、塩害に強いアブラナ科作物を用いて、それぞれの農地の被災状況に合わせた復旧を行うのが好ましいのではという考えが生まれたのです。これが、「菜の花プロジェクト」の始まりです。

菜の花という選択に行きついたのは、実は他に訳があります。東北大学には世界唯一のアブラナ科作物の配付を行っている「ジーン・バンク」があり、50年以上にわたり世界各地から集めたアブラナが遺伝子資源として保存されているからです。すなわち、ジーン・バンクは、菜の花の多様な種子の宝庫なのです。

「これは単に塩害の解決方法としてのプロジェクトではなく、エネルギー生産、食料生産、そして農家の経営再生まで視野に入れた循環型社会の構築を目指すものです」と中井先生は目を輝かせながら熱く語ります。具体的には、食用の菜の花を栽培・販売し、それからなたね油を搾り、バイオディーゼル(生物由来の油や、各種廃食用油から作られる軽油代替燃料の総称)を作るというものです。

宮城県や仙台市の地元企業や東京の企業の協力を得て、「菜の花プロジェクト」によって産学連携が花開いています。「例えば、なたね油から作るバイオマスによって発電されたエネルギーを蓄電してEV(電気自動車)ステーションをつくり、自動車に供給することができます。バイオマスを使ったEVステーションはまだ存在していないので、東北大学が行っていければと思っています」と、将来の構想は膨らみます。

「震災があった東北地方では、このようなバイオマスの地産地消によって地域の活性化を狙うことが重要です。地域が活性することで、この地に人々をつなぎとめておくことができるからです」。今後、東北での事例を海外に紹介することを視野に入れる中井先生。実際、インドの研究者もこのプロジェクトに参加し、塩害に強い品種について研究を進めています。

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東北大学農学研究科の中井 裕 副研究科長。先端農学研究センター長を務め、津波塩害農地復興のための「菜の花プロジェクト」を率いる
塩害に強いアブラナ科作物を用いた菜の花プロジェクト。2012年5月には一面に菜の花畑が広がった©Michiaki Omura
世界唯一のアブラナ科作物の配布を行っている東北大学の「ジーン・バンク」。植物育種学の専門家である北柴大泰准教授によると、現在、約800系統が遺伝子資源として保存されているという
収穫した菜種のタネを搾油機にかけて油と搾りかすに分ける。搾った油は食用のほかキャンドルにも加工されている©Michiaki Omura
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