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第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)に向けて:強まる日本とアフリカの絆 ― アフリカの変革への支援に本腰を入れる日本

2016年06月02日

筆者:キングスリー・イゴボル
『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』 2016年4月号に掲載

多くのアフリカ人にとって、日本は経済的、技術的能力で高い評価を受けている国です。ナイジェリアのラゴス在住のジョンソン・オバルイーさんは、日本の話を聞くといつも世界的に有名な自動車メーカー、トヨタを思い出すと言います。ケニアのナイロビ在住のガーナ人、クウェシ・オベングさんの頭に浮かぶのは技術です。リベリアのモンロビアで世界銀行のコンサルタントを務めるビージョージ・クーパーさんは、日本を「かつての世界的経済大国」と捉えています。

しかし、アフリカ人に日本とアフリカの関係について聞いてみると、状況は違います。「それについては、本を読んで調べてみないと分かりません」とクーパーさんは言います。「日本からトヨタを輸入していると思います」とオバルイーさん。オベングさんは「アフリカの熱帯病の研究について支援してくれている」と言います。

安倍晋三総理大臣が2013年、アフリカの開発プロジェクトに対し、5年間で320億ドルに上る支援を発表したばかりであることを考えても、日本・アフリカ関係全般に関するこのような乏しい知識は、現地の実態をほとんど反映していません。

安倍総理によるこの発表以前、日本の対アフリカ援助は目立たぬ存在で、注目を浴びることはほとんどありませんでした。例えば、米国の『フォーブス』誌によると、日本の対アフリカ直接投資(FDI)は2000年の7億5,800万ドルから、2014年には105億ドルへと伸びていますが、このことを知る人は多くありません。事実、日本は2000年に中国に取って代わられるまで、アフリカにとってアジアで最大の経済パートナーだったのです。

先駆的な取り組み

日本は1993年、国連開発計画(UNDP)や国連アフリカ担当特別顧問室(OSAA)との連携で、「アフリカ開発会議(TICAD)」を発足させることにより、アジアの国々が直接にアフリカのリーダーと接触する先駆的な取り組みを開始しました。これに続き、中国は2000年に「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」を立ち上げる一方、インドもこれに倣い、2010年にインド・アフリカ・ビジネスフォーラム(IBF)を設けました。これら会合にはアフリカのリーダーの大半のほか、投資家や開発専門家も多く参加して、国際貿易交渉を行うとともに、投資家や政府開発援助(ODA)を誘致する機会にもなってきました。

日本は8月の第6回TICADを初めてアフリカのケニアで開催する(第5回までの会議はいずれも日本で開催)ことを決定しましたが、これによって日本・アフリカ関係にグローバルな関心が集まるのは必至と見られます。安倍総理は2013年、コートジボワール、エチオピア、モザンビークを訪問しましたが、これは日本の指導者のアフリカ訪問という意味では2005年以降初であり、同じく日本の指導者のフランス語圏訪問としては史上初のことでした。これによって、特に日本企業にとってのアフリカでの投資機会が一躍、脚光を浴びることになりました。

総理の訪問は、日本のアフリカに対する戦略的な意図と政策について、厳しい視線が注がれることになりました。米国を拠点とする地政学的インテリジェンス企業のStratforは、このアフリカへの投資熱を、「2011年の震災と原発停止を受けて、経済成長の課題がさらに緊急性を帯びる」中で、日本が「資源不安」に直面しているという点から説明しています。

引く手あまた

アフリカの未開発の資源とレジリエンスの高い経済は、投資家にとって強い魅力となっています。世界銀行によると、アフリカのGDP成長率は過去10年で平均5%を記録し、また、その経済は2007~2008年のグローバル金融危機に対してレジリエンスを示しました。アフリカは「もはや援助対象ではなく、成長のためのパートナーだ」という見解を安倍総理が表明したのも、このような背景があるからです。

投資家の信頼が高まる中で、対アフリカ累積FDIの金額は2000年以来4倍に増え、約4,700億ドルに達しています。その様子はまるで、美しい娘が全世界の投資家から求婚を受けているかのようです。

とはいえ、アフリカの経済成長によって、国際的な行動条件が微妙な変化を迫られたという雰囲気もあります。『フォーブス』誌によると、中国とインドはこれまでのような単なるODAの供与よりも、道路や橋、鉄道の建設、その他の営利活動に力を入れるようになっています。大きな注目を浴びることが多いインフラ整備プロジェクトはしばしば、相互の建設的な関係を示す証拠として宣伝できるというのが、その合理的根拠です。

一方、米国メリーランド州ボルチモアに本拠を置くジョンズ・ホプキンス大学グローバル企業・新興市場理事会のハリー・G・ブロードマン理事長は、中国やインドとは異なり、日本のアフリカに対する資金の流れが依然として「民間セクターによる商業ベースの投資よりも、開発援助が中心となっている」と指摘しています。

日本の競争優位

安倍総理はモザンビークで、同国北部からマラウイへと続くナカラ回廊地域の開発に向け、5億7,000万ドルのODA供与を発表しました。このプロジェクトには、マラウイにおける道路改修と、マラウイ・モザンビーク間、マラウイ・ザンビア間の計2カ所の国境検問所設置が含まれています。

Stratforによると、一次産品価格の不安定性により、アフリカの開発途上諸国は日本の支援を必要としています。しかし、ブロードマン氏は、ナカラ回廊などのプロジェクトに価値があるとはいっても、「それは日本が従来型のアフリカ援助アプローチから脱却できていないことを示す証拠」だと論じています。

ブロードマン氏の批判は、日本のアフリカとの関係に対する幾分とも現実主義的なアプローチを軽視しています。外務省は、総理がアフリカに対して「日本を真のパートナーとして選択する」よう望んでいるのは、アフリカが「日本からの援助だけでなく、人材を大事にし、創意工夫を重んじる日本企業の組織文化」を必要としているからだと指摘しています。

日本の競争優位がその高品質の製品にあることについては、ブロードマン氏も認めています。さらに、輸送、発電、流通、さらには建設機器や機械の製造などの分野で、アフリカに得るものがあるとしたうえで、日本企業には「ノウハウ共有と技術移転の面で定評がある」と付け加えています。

安倍総理は、エチオピアのアディスアベバでのアフリカ連合(AU)に対する演説で、あるアフリカのリーダーから「働くことの意味、そして働くことの楽しさについて教訓を与えてくれるのは、日本の企業だけだ」という話を聞いたことに触れました。このリーダーはさらに「アフリカに来る日本企業は例外なく、この種の経営哲学も持ち込んでいる」と述べたうえで、この哲学とは、「企業は各個人の能力を高めることにより、創意工夫を引き出すことをめざす」ということだ、と説明したということです。

安倍総理の語り口は、日本が質の高いプロジェクトと知識の移転を通じ、アフリカの転換を支援することに熱意を抱いていることを改めて示しています。総理の演説は、ODAとエンパワーメントを組み合わせた戦略も示唆しています。アフリカ人に日本国内の大学58校の大学院で学ぶ機会を提供する「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」は、日本のアフリカ向け人材育成プログラムのひとつです。その第1陣となるアフリカ人学生156人は、2015年9月から学位プログラムに取りかかっています。安倍総理は9月、国連総会に出席するためにニューヨークを訪れた際に「私たちは我が国の巨大で優秀な技術を活用し、アフリカ諸国の転換を支援したいと思っています」と述べています。

ブロードマン氏は、アフリカと日本の関係は一方通行にはなりえないと述べ、双方にチャンスがあることを示唆しています。石油(2月中旬時点で1バレル26ドル)その他の一次産品価格が急落し、中国経済の減速で対アフリカFDIが頭打ちとなりかねない中で、日本企業には待望の活動の余地が生まれています。ブロードマン氏も「アフリカの石油に対するアクセスが拡大すれば、日本が利益を得ることは間違いないだろう」と述べています。つまり、日本にとっては、ラテンアメリカから銅を買う代わりに、これをザンビアから調達することも可能になるのです。

北村経夫・経済産業大臣政務官は、日本が対外投資に慎重なアプローチを取っていることを認めています。南アフリカのオンライン紙『メール・アンド・ガーディアン』は、北村政務官が「日本企業が投資先を決めるのには時間がかかるが、途中で断念することはない」と語ったことを伝えています。一方、ロイター通信によると、ガボンのアカガ・ンバ鉱山・産業・観光大臣は、中国が一時産品価格の下落を活用しているのに対し、「日本人はまだ従来の段階にとどまっており、多額の投資さえスタートさせていない」と語っています。

総理のアフリカ訪問には、日本企業のトップ約20人も同行しました。米国の『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、「日本は経済的な競争相手である中国の動きをにらみながら、自動車や発電所、発電機を売り、燃料その他の原材料を買える新たな海外市場を物色中だ」と伝えています。

経済を超えて

その間も、南スーダンのジュバでは、日本から派遣された数百人の平和維持要員が、国連のPKO活動に不可欠な工兵・兵站支援を提供しています。南スーダンと、国連の物流拠点があるウガンダのエンテベに機材と物資を空輸する際の日本の支援は、平和維持活動の必須要素とみなされています。このアジアの大国は、エチオピアその他の地域関係国とも積極的に連携し、南スーダンにおける戦闘行為の収束に取り組んでいます。

日本はさらに、アフリカでの紛争解決と災害緩和への取り組みに3億2,000万ドルの拠出を予定しています。そのうち2,500万ドルは、南スーダン危機の平和的解決の促進に用いられます。安倍総理はエチオピア訪問中に「我が国としては、エチオピア等の近隣国による調停が不可欠であり、これを支援すべきだと思います」と語りました。

文化とスポーツの絆も強まっています。2020年の東京オリンピックに先立ち、日本は「スポーツ・フォー・トゥモロー」プログラムを実施し、アフリカからの若者の参加を募っています。

日本とアフリカが第6回TICADサミットに向けた準備を進める中で、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は、アフリカがこの機会を活用して「私たち自身の成長イニシアティブを披露するとともに、協力、貿易、投資について日本が活用できる機会も示してゆく」と述べています。

安倍総理の約束どおり、日本がアフリカの変革を加速できれば、日本とアフリカの関係に関するアフリカ人の知識に多少なりとも改善がみられるかもしれません。

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『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』は、国連広報局アフリカ・セクションが発行する情報プログラム。アフリカ社会が直面する主要な経済的・社会的課題について、最新情報と分析をお伝えします。
http://www.un.org/africarenewal/

 

カメルーンで日本製の耕耘機を試運転する江藤拓・農林水産副大臣(当時) 写真:日本政府提供