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ローマ会議

1998年07月17日

ローマ外交会議、国際刑事裁判所規程を採択

-内容-
●各国の投票理由の説明
●会議議長による説明
●各国の一般声明
●裁判所規程の概要
●一般討議の要点
●国際刑事裁判所設立の背景
●役員、メンバー

 「国際刑事裁判所の設立に関する国連全権外交使節会議」が1998年6月15日-7月17日まで、ローマで開催された。そして同会議は最終日の17日、国際的関心のあるもっとも重大な犯罪を裁く常設国際刑事裁判所の設立を決定した。国際社会は国際法秩序の空隙を埋める大きな一歩を踏み出したのである。対象となる犯罪は、ジェノサイド、人道に対する罪および戦争犯罪であるが、裁判所の管轄権の定義が承認されれば、侵略罪もこれに加わることになる。
 5週間にわたる討議の末、賛成120、反対7、棄権21で裁判所規程が採択された。各国のそれぞれの投票行動を記録に残さないことが米国によって要請された。
 ローマ会議で事務総長代表を務めたハンス・コレル氏は、裁判所規程の採択後に演説を行い、参加者へ事務総長の祝辞を伝えるとともに、事務総長自らが祝賀行事出席のためにローマに向かっていることを明らかにした。会議で集中的に検討された国際刑事裁判所の設立は、国連創設以来50年間の懸案であった。コレル氏は、今日まさに人権法における真の前進が印されたとして、ここ数カ月のうちに、各国が裁判所加盟のために具体的な措置を講ずることに対する期待を表明した。同氏はまた、この過程で非政府機関が演じた重要な役割も認めた。
  最終本会議で演説した数カ国の代表団は、裁判所規程は完璧とは言い難いものの、人類の歴史における大きな一歩であることを強調した。また国際紛争に適用される法規慣例の重大な侵害のリストに核兵器が含まれなかったことについて、憂慮の念を示す向きも見られた。しかし全員が裁判所規程を今後の完成へのたたき台として考えており、各国は柔軟性と妥協の精神に基づき、その立場の違いを克服した。
  裁判所規程の採択直後、同規程および会議最終文書は、国連食糧農業機関の本部で署名のために開放された。127カ国の代表団が最終文書に署名したほか、10カ国が裁判所規程に署名した。翌18日には、カンピドーリオでローマ市長主宰による裁判所規程調印式も行われることになっている。
 インド、ウルグアイ、モーリシャス、フィリピン、ノルウェー、ベルギー、米国、スリランカ、中国および英国の代表は、票決後にそれぞれ投票理由の説明を行った。
 イタリア、オーストリア(欧州連合および協力国を代表)、ベネズエラ、メキシコ、米国、キューバ、トリニダード・トバゴ、スーダン(アラブ諸国グループを代表)、シエラレオネ、日本、エジプト、ボツワナ、アルジェリア、スウェーデン(西欧およびその他諸国グループを代表)、パキスタン、ドイツ、フランス、バングラデシュ、ロシア連邦、アフガニスタン、ベニン、バチカン市国およびアンドラは、閉会に当たって一般声明を行った。
  また赤十字国際委員会、ならびに、国際刑事裁判所のためのNGO連合およびアムネスティー・インターナショナルの代表も発言した。
  本会議での裁判所規程採択に先立ち、ローマ会議全体委員会は、修正案の提出および全体委員会でのその審議を求めるインドおよび米国の試みを退ける、2件の審議却下動議を可決し、裁判所規程を採択した。
 インドによる修正案のうちの一つは、国連安全保障理事会に対し、事態を裁判所に付託したり、国連憲章第VII章の権限によって12カ月間その検討を延期させたりすることを認める規程条項に関するものであった。もう一つの修正案は、国際武力紛争を律する法規慣例の重大な違反と考えられる武器使用のリストに、「大量破壊兵器、すなわち核兵器、化学兵器および生物兵器」という文言を加えるものであった。これについてはノルウェーが、マラウイとチリの支持を受けて審議却下動議を提出し、賛成114、反対16、棄権20で可決された。
  米国による修正案は、裁判所規程の非締約国に対する裁判所の管轄権の問題に関するものであり、裁判所の管轄権はこれを受け入れた国に対してのみ認められるとしていた。これについてもノルウェーが審議却下動議を提出し、スウェーデンとデンマークが賛成、カタールと中国が反対の発言をそれぞれ行った。審議却下動議は賛成113、反対17、棄権25で可決された。
  全体委員会会合の冒頭、ローマ会議準備委員会のアドリアーン・ボス議長(オランダ)が演説を行った。ボス氏は、準備委員会から全体委員会の議長を務めるよう勧められていたが、病気のために立候補を取り下げていた。同氏は全体委員会に対し、健康状態は順調に回復していることを伝えるとともに、人類にとっての希望の証として、裁判所規程をコンセンサスで採択するよう求めた。
 全体委員会のフィリップ・キルシュ議長(カナダ)は、裁判所規程案の提出に当たり、同案は「非常に微妙な均衡」を保つものであり、全体として審議されるべきであるとした。無投票で規程案が採択されたのを受けて、議長は、全体委員会がその任務を達成したと述べた。これは全体委員会にとって最高の瞬間であったが、これが人類にとっても最高の瞬間であったと国際社会が言える日が来ることが期待される。
  ローマ会議には、160カ国、17の政府間機関、14の国連専門機関および基金、ならびに、124の非政府機関が参加した。さらに、474名のジャーナリストが会議の報道を認可された。
  以下、最終本会議の模様に続いて、裁判所規程の概略を示す。

* *** *

投票理由の説明

インド

 裁判所規程は安全保障理事会に対し、国際法違反となる役割を認めている。国連憲章は安保理に対し、国際刑事裁判所設立の権限を与えていない。安保理は裁判所を通じ、審理を妨害し、非締約国を拘束する権限を行使しようとしている。そもそも法を擁護するはずの機関が、確立された国際法を逸脱する規程をもって発足することは、誠に遺憾である。最初の事件を裁く以前から、裁判所は、「条約法に関するウィーン条約」という最初の犠牲者を出すことになる。インドは核保有国として、裁判所規程で使用が禁止される兵器に核兵器を含めるという修正案を提出したが、これは受け入れられなかった。このことはすなわち、全権大使のレベルにおいて、国際社会は核兵器使用が罪ではないと決定したことを意味する。さらに悪いことに、裁判所規程は、戦争犯罪として使用が禁止される兵器のリストに、大量破壊兵器を何ら含めていない。

ウルグアイ

 許容可能性の問題に関するものを含め、ウルグアイが提案した条項は受け入れられなかった。検察官には、十分な抑制の伴わない権限が与えられている。多くの問題について、十分な討議時間が与えられなかった。それでも国際社会は、裁判所規程採択によって歴史的な一歩を踏み出したと言える。

モーリシャス

 新たな理念の再考を含め、会議の成果を過小評価すべきでない。それは野心的なプロセスであった。「ローマへの道」は裁判所規程から始まることを考慮し、モーリシャスはこれに調印する所存である。

フィリピン

 検察官に自発的捜査の権限が与えられることを含め、裁判所規程には国際刑事裁判所設立のために不可欠な要素が含まれている。被害者については、返還、補償金および復帰の規定が設けられている。フィリピンは裁判所規程に賛成票を投じた。

ノルウェー

 問題は、160カ国の見解をどのようにまとめて、世界の目から見て信頼できる裁判所を設立するかということにあった。これに対する答えは、地球的な解決策、すなわち歴史的な妥協である。ノルウェーは、裁判所規程の調印のために必要な措置を講ずる所存である。

ベルギー

 ベルギーは裁判所規程に賛成票を投じた。設立されたばかりの裁判所には、いくつか心配な点もありうる。第111条の2は、裁判所の設立を遅らせかねない厄介な法律概念である。

米国

 米国は、裁判所規程にある司法管轄権の理念と、非締約国に対するその適用を受け入れることができず、規程に反対票を投じた。侵略罪の定義を試みる際には、そのほとんどが個別の行為ではなく、侵略戦争であったという事実を必ず考慮しなければならない。裁判所規程はまた、侵略の発生を判定する上での安全保障理事会の役割を認識しなければならない。国連憲章によれば、安全保障理事会は国際的な平和と安全の維持に責任を負っており、いかなる締約国もその権限を逃れることはできない。
 米国は最終文書の決議「e」を支持しない。裁判所規程の対象にテロ犯罪と薬物犯罪を含めても、これら犯罪との闘いには効果がない。問題は訴追ではなく捜査面にあり、裁判所はこれに適した手段を備えていない。

ブラジル

 ブラジルは裁判所の設立を強く支持する。ブラジルは、柔軟性の精神に基づき、裁判所規程案作成において一定の要素に固執しないことを決定した。しかし裁判所への被告引渡しに関する第87条については、ブラジルの国内法に抵触する懸念がある。またブラジル憲法は無期懲役を禁止している。

イスラエル

 イスラエルは反対せざるを得なかった。もっとも憎み、悲しむべき戦争犯罪のリストに、なぜ被占領地の住民移送を含めなければならなかったのか、理解に苦しむところである。時間的な制約、および、政治と世論の強い圧力により、ローマ会議は、国際条約の草案作成において当然認められる基本的な国家主権の原則を犠牲にして、作業を完了させ、とにかく裁判所規程を作り上げることを優先せざるを得なかった。裁判所がその崇高な設立目標の実現に真に資することを、我が国は引き続き期待する。

スリランカ

 我が国は、国際刑事裁判所設立の重要性を認識しているが、裁判所規定にテロ犯罪が含まれなかったことで、遺憾ながら棄権せざるを得なかった。

中国

 我が国は、公正で効果的な国際刑事裁判所の設立に向けて、多くの積極的な努力を行った。我が国は常に、裁判所が効果的なシステムとして、司法問題に関する国際協力を補完する役割を果たすべきだと考えてきた。裁判所の管轄権については、各国の同意を法的根拠とすべきである。中国は、中核的犯罪について裁判所に認められた普遍的管轄権を容認できない。検察官に自発的な捜査権が与えられたことで、国家主権は一個人の主観的決定に委ねられることになった。この権限を抑制する予審部の規定は不十分である。裁判所規程の採択は、票決ではなく、コンセンサスで行われるべきであった。中国は規程案に反対票を投じた。

トルコ

 トルコは、準備作業からローマ会議まで、一貫して裁判所の設立を支持してきた。しかし裁判所規程が人道に対する罪にテロ犯罪を含めなかったのは残念である。各国に選択的な承諾と拒否を認めるアプローチを考案すべきである。戦争犯罪については、設立される裁判所が、テロ根絶のために必要な行為等、各国の内政問題に何ら関与しないことを定める文言を盛り込むべきであった。またトルコは検察官の自発的捜査権を支持しない。トルコは裁判所規程案の採択に関する投票を棄権した。

シンガポール

 シンガポールは棄権した。常に強力な裁判所を支持してきたが、最後になって、ごく少数の国だけに関係する条項が設けられた。司法管轄権の問題が会議の土壇場になってはじめて持ち出されたのは、実に奇妙なことである。遺憾なことに、化学兵器と生物兵器は不可解にも対象から外された。死刑が含まれなかったこともマイナスの点と言える。しかし当該問題に関する国内司法管轄権がこれによって影響を受けることはない。

英国

 安全保障理事会は、侵略の発生を判定すべきである。テロと薬物密売の問題を裁判所規程に含めるべきか否かについては、決議は今後の決定に何ら影響しないものと理解すべきである。

 

会議議長による宣言

 刑罰に関する作業部会による勧告を受け、議長は、裁判所規程に死刑を含めないことに関する宣言文を読み上げた。宣言は次のように述べている。「裁判所がどのような刑罰を適用すべきかという問題に関する今次会合での審議は、死刑を含めるべきか否かについて国際的コンセンサスが成立していないことを明らかにした。しかし裁判所と国内司法管轄権の補完性の原則によれば、国際刑事裁判所の管轄権に属する犯罪について、各国の国内法に応じて個人の捜査、訴追および懲罰を行う第一義的責任は、各国の国内司法制度にある。このため、裁判所がこの分野における各国の政策に影響を与えられないことは明白と言える。裁判所規程に死刑を含めないことは、死刑に関する各国の法制および慣行に何ら法的効果を及ぼすものでないことに留意すべきである。また、このことが慣習国際法の発展あるいはその他何らかの手段を通じ、重大犯罪について国内制度が科す刑罰の合法性に影響するものと解すべきでもない。」
 ここで本会議は全体委員会の報告に留意した。

 

一般声明

イタリア

 人類の歴史上重要な機関を設立した今次会合を主宰できて誠に光栄である。採択された案文は、裁判所の機能、特に必須の前提条件であるその独立性について、満足できる基盤を提供するものである。武力紛争以外の事態で発生する犯罪も含め、対象とされた犯罪を過小評価することはできない。作業はプラスの結果をもたらした。票決いかんにかかわらず、重大な一歩が踏み出されており、将来の世代は、ここローマで希望の光を見出したと言える。

オーストリア(欧州連合を代表)

 国際社会は、もっとも憎むべき犯罪を抑止し、このような犯罪の不処罰状態を解消する常設国際刑事裁判所を設立しようとする試みにおいて、今や大きな進歩を遂げている。世界にはこのような裁判所が必要である。欧州連合は常に、信頼のできる裁判所の必要性を主張してきており、かかる裁判所の設立規約は、その実効性を確保すべく、一般的に受容可能なものとしなければならない。国内の刑事司法管轄権の行使や、各国の安全保障と主権に関連する問題等、困難で極めて慎重を要する課題が多く解決された。あらゆる当事者がコンセンサス形成のために譲歩を行った。極めて政治的かつ技術的性質を持つ多くの困難な法律問題の解決が必要とされた。すべての任務が達成されたわけではない。裁判所が発足するために十分な数の批准を得ることに加え、国際刑事裁判所準備委員会でさらにその他の文書を作成しなければならない。欧州連合は、この任務の達成に貢献すべく、最大限の努力を行っていく所存である。

ベネズエラ

 裁判所設立の決定を以って、国際社会が直面するもっとも困難な任務の一つが達成された。これは新千年紀に向けた幸先のよいスタートである。裁判所規程は完璧とは言い難いが、バランスの取れたものである。ベネズエラ憲法は死刑と無期懲役を禁止している。

メキシコ

 不処罰状態を解消し、もっとも重大な国際犯罪の実行犯を罰するための作業の一環として、裁判所の創設は十分な正当性を持っている。しかし国際社会がこれを完璧なものとするためには、より一層の作業が必要となる。このため、メキシコは投票を棄権した。事務局が提出した文書には、留保を禁ずる条項が設けられていたが、留保を受け入れたとしても、条約の内容が薄められるわけではない。補完性の定義も明確さを欠いていた。メキシコはまた、核兵器が裁判所規程の対象に含まれなかったことも問題視しており、裁判所規程の第1回再検討会議でこの問題を再び提起するつもりである。拘留国への言及が抹消されたことも遺憾である。問題の複雑性ゆえに、交渉には最大限の透明性が求められた。本会議での票決は、これが不十分であったことを示すものである。メキシコはまた、安全保障理事会への付託条項に関する留保も行った。

米国

 我が国の懸念のいくつかについて取組みがなされなかったことは、極めて遺憾である。米国は、このような犯罪者を裁くことを誓約している。我が国は、事務局および数多くの代表団の不断の努力を多とし、今後協力を行っていけるものと期待する。米国の裁判所規程への貢献がゆるぎないことには変わりがない。

キューバ

 柔軟性と理解の証として、キューバは多数派に加わった。世界は、日常的に繰り返される残虐行為と、これに対処する必要性に対する認識を深めつつある。キューバは、より公正な世界を作り上げるために、このような犯罪に対して、より厳格な対応を望んでいた。キューバは建設的な精神で交渉に参加した。大量破壊兵器が裁判所規程に盛り込まれなかったのは遺憾である。裁判所を安全保障理事会に従属させれば、裁判所の実効性は損なわれるであろう。経済封鎖はせん滅の一形態である。裁判所規程に対する支持は、キューバに対して仕掛けられた不公正な経済戦争との闘争を、いかなる点でも損なうものではない。

トリニダード・トバゴ

 会議に幅広い参加が得られたことは、裁判所設立の機が熟していたことの証左である。トリニダード・トバゴは、後の段階で薬物密売罪を対象とすることを受け入れることで、柔軟性を示した。このプロセスの道を開く責任を果たせたことは、我が国代表団にとって大きな名誉である。死刑が規定されなかったため、トリニダード・トバゴは現時点では裁判所規程に調印せず、最終文書のみに調印し、今後は、死刑を裁判所規程に盛り込み、その管轄権の及ぶ犯罪に薬物密売を含める努力を続けていく所存である。裁判所は、幅広い締約国を得てはじめて、実効性と成功を確保できる。トリニダード・トバゴは、裁判所規程の採択に関する投票を棄権しなければならなかったことを遺憾とする。

スーダン(アラブ諸国グループを代表)

 アラブ諸国は、人類にとって画期的な成果となる偉大な文書を作り上げるという大きな期待を持って、会議に参加した。裁判所は、人道に対する罪を犯した者をすべて裁かなければならない。アラブ諸国はこの文書に満足していない。侵略は「すべての犯罪の母」となる存在であり、侵略への言及のみが含まれたことは遺憾である。核兵器も対象とすべきであった。今後、大量破壊兵器のリストを作成する際には、核兵器を含めなければならない。また検察官は合理的で論理的な統制の下に置かれるべきであり、職権上当然の役割のみを認められるべきではない。裁判所規程は、安全保障理事会の権限を一層増大させる恐れがあるため、アラブ諸国は裁判所規程に総会の役割を盛り込もうとしたが、この希望は打ち砕かれた。留保も認められるべきであった。

シエラレオネ

 シエラレオネは、国際および国内武力紛争における戦争犯罪について選択的拒否の条項が盛り込まれたことを遺憾とするが、裁判所規程が国内武力紛争に対する管轄権を維持したことは極めて喜ばしい。また検察官の自発的捜査権が規定されたことも妥当である。国際社会には、人道に対する罪、ジェノサイド、侵略および戦争犯罪がもはや放置されないというメッセージが送られた。裁判所規程の成功いかんは、各国の協力にかかっており、各国は裁判所規程の早期発効を図るべきである。

日本

 この機会に、これまでの成果と今後の課題をじっくりと考えるべきである。この任務を達成するために、国際社会はさらに多大な努力を重ねなければならない。会議の作業を通じて、日本は各代表団の立場のすりあわせを図ってきた。日本は、裁判所の資金調達に関する自国の提案が最終案文に盛り込まれたことを多とする。裁判所設立に対する政治的なコミットメントの継続は不可欠である。

エジプト

 エジプトは、裁判所の設立を最初に求めた国の一つであり、その準備作業にも参加してきた。犯罪行為の不処罰がはびこる中で、アラブ世界はこのような裁判所を必要としていた。エジプトは、全体として案文を受け入れたが、いくつかの条項については、満足のいく取組みがなされなかった。我が国は、核兵器をはじめとする大量破壊兵器の使用を対象に含める必要性を繰り返し主張するとともに、総会による定義と合致する侵略の定義を望んできた。侵略の判定は、総会の手にも委ねるべきである。検察官は、職権上当然の権利として捜査に着手すべきではない。留保の問題については今後、一般的な宣言を採択すべきである。

ボツワナ

 裁判所規程は明らかに、人類と国連の歴史上画期的な出来事である。ボツワナは、コンセンサスを反映する裁判所規程の採択を支持するとともに、将来の世代がこれを完璧なものとすべきであると考える。各代表団はその文面を吟味し、再検討の際にはその改善を図るべきである。

アルジェリア

 アルジェリアは常にこのような裁判所を望み、その実現に向けた取り組みを行ってきた。その多大な努力にも拘らず、望んだことのすべては達成されなかった。アルジェリアは一部懸念と憂慮を有しているものの、裁判所規程の調印は将来のためになるものと期待している。

スウェーデン(西欧およびその他諸国を代表)

 会議の決定は、一つのメッセージを送った。我々のグループは、イタリア政府の暖かい受入れを大いに多とする。

パキスタン

 パキスタンは、裁判所の設置を強力に支持する。犯罪の不処罰を許さないことは、あらゆる国の責務である。裁判所は、その補完性という基本原則どおり、国内の法制度に代わるものではなく、これを補完するものとなるべきである。国家主権を侵害すべきではない。この点で、裁判所規程には、検察官の自発的捜査権限の問題、および、裁判所に対する安全保障理事会の役割など、懸念すべき条項が含まれている。パキスタンはまた、仮逮捕に関する規定についても大いに問題視している。

ドイツ

 裁判所規程は、設立のための健全な基盤を形成することにより、強力な裁判所を確保するものである。今後、侵略罪を含む憎むべき犯罪は、必ず処罰されることになろう。

フランス

 フランスは、西欧およびその他諸国グループを代表したスウェーデンの声明を支持し、憎むべき犯罪の実行者を処罰する体制を確立するための第1歩を歓迎するとともに、この目的に向かって不断の努力を続ける所存である。フランスは、裁判所規程の実施においても、その役割を継続することになろう。

バングラデシュ

 バングラデシュは、自動的管轄権の原則が貫かれたことを多とするが、大量破壊兵器の問題が会議で取り扱えなかったことを遺憾とする。

ロシア連邦

 異なる法体系を妥協させようとする重要な努力はここに完了した。ロシア連邦が支持できる妥協策が策定されたことに満足している。裁判所規程が票決で採択されたことは遺憾である。侵略に関し、ロシア連邦は、この問題に関する安全保障理事会の権限が影響を受けないものと理解している。

アフガニスタン

 このような裁判所が20年前に存在していれば、アフガニスタンはこれほど多くの侵略者の犠牲にはならなかったであろう。裁判所の設立は大いに歓迎すべきことである。アフガニスタンは裁判所規程に賛成票を投じたが、報復的な裁きが法の支配を達成する唯一の方法ではないと信じている。和解に向けた努力は常に行われなくてはならない。

ベニン

 裁判所規程の採択は歴史的な出来事である。ベニンにとっては、コンセンサスによる採択のほうが望ましかった。奴隷制を含め、数世紀にわたってもっとも憎むべき犯罪の犠牲となってきたアフリカは、裁判所規程の採択を歓迎するであろう。採択された案文は完璧なものではなかった。ベニンは戦争犯罪に関する規定に全面的には満足していない。また裁判所規程によって安全保障理事会に与えられた役割についても憂慮している。安保理が裁判所の審理を妨げることができるのは公正と言えるだろうか。ベニンとしては、裁判所規程の戦争犯罪条項に核兵器を含めることにより、これを正式に禁止することを希望していた。ベニンは裁判所規程の効果的実施に向けて、すべての人々が協力していくことを期待する。

バチカン市国

 会議の前夜、ヨハネ・パウロ二世教皇は、今次会合が歴史的な出来事となる期待を表明した。バチカン市国は会議の成果を歓迎するものである。バチカン市国は、人間の尊厳と家族制度を保護するような国際刑事裁判所を求めていた。これらの原則が裁判所規程前文に反映されたことに満足している。生まれる前の子どもから老人まで、人間の尊厳は決して侵害してはならないものである。

アンドラ

 裁判所規程は「微妙なモザイク」の様相を呈している。アンドラは、長年にわたり、数多くの戦争難民を受け入れている。会議の結果には満足している。

赤十字国際委員会(ICRC)

 ICRCは、実効性のある国際刑事裁判所を重要視した。裁判所規程の成果は極めて大きく、憎むべき犯罪の実行犯がようやく裁かれることになろう。大量破壊兵器を裁判所規程から除外することについては、理解しがたい。裁判所には、実効性を確保する手段を与えるべきである。裁判所の成功の鍵を握るのは、その能力の証明である。重大犯罪人はあくまでも訴追・処罰すべきである。ICRCには、裁判所規程によって設置される準備委員会に助力し、規程の実施を図っていく用意がある。

非政府機関連合

 きょうは重大な日である。裁判所の設立は、画期的な進歩と言える。将来の世代は、国際社会がなぜこれほど長い時間を要したのか、不思議に思うことであろう。裁判所は、数百万人の人々を筆舌に尽くし難い惨禍から救うことになろう。

アムネスティー・インターナショナル

 800の非政府機関が、実効性を持ち、独立した公正な国際刑事裁判所を創設するという共通の目標をめざした。今日、その目標は近づいた。アムネスティー・インターナショナルは、少数の大国が、他国を脅して正義をほしいままにする意図を持ち、犠牲者のための憲章を策定するというより、ありうる犯罪人を裁判から守ることに腐心を続けたことに失望している。明日から、非政府機関連合のメンバーは、裁判所がその真の目的を達成することを確保するために動員されることとなろう。不処罰の解消に専心する国際社会の究極的目標は、裁判所の普遍的管轄権でなければならない。アムネスティー・インターナショナルは、裁判所があらゆる場所のあらゆる被害者の声に応えることを確保すべく、尽力していく所存である。

 

裁判所規程の概要

 裁判所規程の前文は、諸民族を結び付ける「共通の紐帯」と、その文化によって形成された「共有の遺産」に言及し、20世紀中に、数百万人の子どもと男女が「人類の良心に深い衝撃を与えた想像に絶する残虐行為の犠牲者」となったことを想起するとともに、このような由々しき犯罪が世界の平和と安全と福祉を脅かすことを認めている。
 前文はまた、「国際社会全体にとってもっとも重大な犯罪について、不処罰があってはならない」こと、ならびに、国内レベルの措置および国際協力の強化により、その実効的な訴追を確保しなければならないことを確認している。これら犯罪の実行犯の不処罰に終止符を打つことにより、その防止に寄与する決意が示されているほか、国際犯罪の責任者に対し、各国がその刑事司法権を行使する義務が想起されている。
 前文はさらに、現在と将来の世代のために、国連システムとの関連において、「国際社会全体にとってもっとも重大な犯罪について司法管轄権を有する」独立した恒久的国際刑事裁判所を設立することを規定する。裁判所が国内刑事司法管轄権を補完すべきことを強調し、また国際的正義の恒久的な遵守と執行を保証する決意を表明し、会議参加者は、前文に続く裁判所規程本文に合意した。

 裁判所の設立に関する第1部は、規程に言及されるとおり、国際的関心のあるもっとも重大な罪を犯した者に対して、司法管轄権を行使する権限を有し、国内刑事司法管轄権を補完する常設機関として、国際刑事裁判所の設置を定めている。
 規程によれば、国際刑事裁判所は、締約国会議によって承認され、裁判所長が代表して締結する協定を通じて、国連との関係を結ぶことになっている。
 裁判所の本部はハーグに設置するが、適宜その他の場所でも審理を行えることを規定している。
 また裁判所が国際法上の人格を有し、いずれの締約国の領域においても、また、特別の合意により、その他いずれの国家の領域においても、その機能および権限を行使できることを明言している。

 第2部は、管轄権、許容可能性および適用される法律に関するものである。
 裁判所の管轄権に入る犯罪に関し、裁判所規程は、裁判所の管轄権が、国際社会全体にとってもっとも重大な犯罪に限られることを規定する。裁判所規程によれば、裁判所の管轄権が及ぶのは、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪および侵略罪である。
 条文はさらに付け加えて、「侵略罪の定義を定め、裁判所がこれに関して管轄権を行使する条件を規定する第110条および第111条による条項が採択されれば、裁判所は侵略罪についても管轄権を行使するものとする。かかる条項は、国連憲章の関連条項と一貫性を保つものとする」と規定している。
 裁判所規程の関連では、上記の犯罪は次のように定義される。
  「ジェノサイド」とは、全体的あるいは部分的に、国民、民族、種族あるいは宗教集団をそれ自体壊滅させる目的を持って実行された、以下のいずれかの行為を指す。

  • 当該集団構成員の殺害
  • 当該集団構成員に対し、重大な身体的あるいは精神的危害を加えること
  • 当該集団に対して、全体的あるいは部分的に、その物理的破壊をもたらすこと を計算した生活条件を執拗に押し付けること
  • 当該集団内の出生の妨害をもくろむ措置を課すこと
  • 当該集団の子どもを強制的に別の集団に移すこと
  • 「人道に対する罪」とは、いずれかの一般市民に向けられた広範な、あるいは、 体系的攻撃の一環として、この攻撃を知りながら実行された以下のいずれか の行為を指す。
  • 殺害
  • せん滅
  • 奴隷化
  • 住民の追放あるいは強制移転
  • 国際法の基本原則に違反する、投獄あるいはその他身体的自由の著しい剥奪
  • 拷問
  • レイプ
  • 性的奴隷化
  • 強制売春
  • 強制妊娠
  • 強制断種あるいはその他同様に重大な性的暴力
  • 国際法の下で普遍的に禁じられている、政治、人種、国民、民族、文化、宗教、ジェンダーあるいはその他の理由による、いずれかの同一視できる集団に対する迫害で、本項に言及するいずれかの行為、あるいは、裁判所の管轄権に属するいずれかの犯罪と関連するもの
  • 人物の強制失踪
  • アパルトヘイト罪
  • 意図的に重大な苦痛、あるいは、精神あるいは身体の健康に重大な害を及ぼす、同様な性質のその他の非人間的行為

この条項ではさらに、以下のような語の定義も行われている。

  • 「せん滅」には、食糧および医薬品へのアクセス剥奪等、住民一部の壊滅を計 算した生活条件の意図的強制が含まれる。
  • 「住民の追放あるいは強制移転」とは、国際法が許す理由のない、合法的所在場所からの排除あるいはその他の強制行為が関係する人々の強制的移動を指す。
  • 「強制妊娠」とは、いずれかの住民の民族構成に影響を与えるか、国際法のその他の由々しき侵害を意図した、強制的に妊娠させられた女性の不法監禁を指す。この定義は、いずれの場合にも、妊娠に関する国内法に影響を与えるとは解されないものとする。
  • 「人物の強制失踪」とは、ある国家あるいは政治組織による、または、その認可、支持あるいは黙認による、人物の逮捕、拘禁あるいは拉致に続いて、長期にわたってこれら人物を法の保護の埒外に置くことを目的に、自由剥奪の事実認定、または、当該人物の命運あるいは行方に関する情報提供を拒否することを指す。

 最後の細目では、「本設立規約の関連において、『ジェンダー』という語は、社会的文脈における男女両性を指すものと理解される。『ジェンダー』という語は、上記以外のいかなる意味も持たない」と規定されている。
 戦争犯罪に関する条文によれば、裁判所は、特に計画あるいは政策の一環として、あるいは、大規模な戦争犯罪の一環として実行された場合、戦争犯罪に関する司法管轄権を持つことになっている。
 裁判所規程において、「戦争犯罪」は次の意味を持っている。

  1. 1949年8月12日のジュネーブ条約の由々しき違反、すなわち、意図的な殺害および人質を取ること等、当該ジュネーブ条約の規定で保護される人物あるいは財産に対する、裁判所設立規約に掲げられた一連の行為のいずれか。
  2. 一般市民それ自体、あるいは、直接に戦闘に関わっていない個々の市民に対して、意図的に攻撃を仕掛けること、ならびに、占領勢力による、自国の一般市民の占領地への直接的あるいは間接的な移転、または、占領地域住民の全部あるいは一部の同地域内外への追放あるいは移転等の行為を含む、国際法の確立された枠組において国際武力紛争に適用される法律および慣習のその他重大な侵害。

    また、こうした重大な侵害としては、以下の行為が掲げられている。

    • 毒物あるいは有毒兵器を使用すること
    • 核心部を完全に覆わないか、刻み目を施した硬い外包を持つ弾丸等、人体に入り、容易に拡散あるいは偏平化する弾丸を用いること
    • 過剰な損傷あるいは不必要な苦痛を与える性質を持つか、武力紛争の国際法に反して本来無差別的な特質を有する兵器、投射物および物質、ならびに、戦争手段を用いること。但しこの場合、当該兵器が包括的禁止の対象となり、かつ、裁判所規程の関連条項に従った修正により、本件規約の付属に含まれていることを条件とする。
    • レイプ、性的奴隷化、強制売春、本件規約に定義する強制妊娠、強制断種、あるいは、ジュネーブ条約の重大な違反ともなるその他の性的暴力の罪を犯すこと
  3. 国際的性格を持たない武力紛争の場合、1949年8月12日のジュネーブ4条約共通第3条の重大な違反、すなわち、武器を放棄した兵士、および、病気、負傷、拘禁あるいはその他何らかの事由で戦線を離脱した者を含む、戦闘行為に積極的に参加していない者に対して行われた行為。

     細目によれば、これらの規定は、国際的性格を持たない武力紛争に適用されるのみであり、騒擾、散発的な暴力行為あるいは同様の性質を持つその他の行為等、国内的な混乱および緊張状態には適用されない。

  4. 15歳未満の子どもを軍隊、あるいは、これを積極的に戦闘に参加させるために利用する武装集団に徴発・徴用することを含め、確立された国際法の枠組において、国際的性格を持たない武力紛争に適用される法規慣例のその他重大な違反。

 犯罪要素に関する条文によれば、かかる要素は、裁判所規程における関連条項の解釈および適用について、裁判所を助けるべきものとされている。犯罪要素は、締約国会議構成国の三分の二の多数決によって採択されることになる。犯罪要素の修正は、いずれかの締約国、絶対過半数の判事、および、検察官が提案できる。
 別の規定によれば、裁判所規程のこの部分については、いかなる文言も、規程との関連外において、何らかの方法で既存あるいは成立しつつある国際法の原則を制限あるいは害するものと解されないことになっている。
 条文はまた、裁判所が、規程発効後に犯された罪だけについて管轄権を有することを強調している。規程発効後に締約国となった国については、当該国について規程が発効した後に犯された罪についてのみ、裁判所は管轄権を持ちうる。但し、当該国が規程の他の条項に従ってその旨の宣言を行った場合には、この限りでない。
 司法管轄権行使の前提条件に関する条文によれば、各国は、裁判所規程の締約国となることにより、その条項で触れられている犯罪について、裁判所の管轄権を受け入れることになる。ある事態が締約国によって検察官に付託された場合、あるいは、検察官が自発的捜査権を発動した場合、裁判所は、以下の国のいずれかが規程締約国となっているか、あるいは、下記の項に従って裁判所の管轄権を受け入れていれば、その司法管轄権を行使できる。

  • 問題となる作為あるいは不作為が発生した国、または、当該犯罪が船舶あるいは航空機上で発生した場合、その船舶あるいは航空機の登録国
  • 捜査あるいは訴追対象の人物が国籍を有する国

これを規定する項の文面は次のようになっている。「2項により、本規程の締約国でない国の承認が必要となる場合、当該国は、書記に宣言を提出することにより、問題となる犯罪について裁判所の管轄権行使を受け入れることができる。受入れを行った国は、第9部に従い、遅滞あるいは例外なく、裁判所と協力するものとする。」
 裁判所規程は、次の場合、その規定に従い、第2部に掲げる犯罪について、裁判所が管轄権を行使できることを定めている。

  • かかる罪のいずれかが犯されたと見られる事態が、ある締約国によって検察 官に付託されている。
  • かかる罪のいずれかが犯されたと見られる事態が、国連憲章第Ⅶ章に従って 行動する安全保障理事会によって、検察官に付託されている。
  • 検察官が、かかる犯罪について捜査を開始している。

 他の規定によれば、締約国は検察官に対し、裁判所の管轄権に属するいずれかの罪が犯されたと見られる事態を付託し、いずれかの特定人物がかかる犯罪のかどで裁かれるべきか否かを判定するため、検察官に当該事態の捜査を要請できる。
 検察官は、裁判所の管轄権に属する犯罪に関する情報に基づき、自らの発意で捜査を開始できる。検察官は、受け取った情報の重大さを分析することになっており、各国、国連機関、政府間あるいは非政府機関、また同人が適切と判断するその他信頼できる情報源から、追加的情報を求め、裁判所内で書面あるいは口頭での証言を得ることができる。検察官は、捜査を進める合理的な根拠ありと結論する場合、これを支持する収集資料を添えて、予審部に捜査許可の要請を提出することになる。被害者は、手続・証拠規則に従い、予審部に代表を送ることができる。
 予審部は、捜査許可要請および添付資料を審査した結果、捜査を進める合理的な根拠があり、かつ、当該事件が裁判所の管轄権に属すると見られると判断する場合、捜査の開始を許可することになっているが、この許可は、以後のある事件に対する管轄権および許容可能性に関する裁判所の判定に影響を与えるものではない。
 予審部が捜査を許可しなかったとしても、検察官は、同じ事態に関する新たな事実あるいは証拠に基づき、再度要請を提出することができる。検察官は、上述の予備的審査の結果、提出された情報が捜査の合理的根拠を構成しないと結論する場合、情報提供者にその旨通知することになっている。この場合も、検察官は、新たな事実あるいは証拠に鑑み、同じ事態に関して提出された情報をさらに検討できる。
  捜査あるいは訴追の延期に関する条文は、「安全保障理事会が、国連憲章第Ⅶ章によって採択された決議により、裁判所にその旨要請した場合、裁判所規程による捜査あるいは起訴は、その後13カ月間、開始あるいは進展しないものとし、安保理は、この要請を、同じ条件において更新できる」としている。
 許容可能性の問題に関する規定によれば、裁判所は次の場合、事件が許容不可能である旨判定することになっている。

  • 当該事件が司法管轄権を有する国による捜査あるいは訴追の対象となっている。但し、当該国が捜査あるいは起訴を行う真の意志あるいは能力を有していない場合は、この限りでない。
  • 当該事件が司法管轄権を有する国による捜査対象となっており、かつ、同国が該当する人物を起訴しない旨決定している。但し、この決定が、当該国が起訴を行う意志あるいは能力を持っていないことから生じている場合は、この限りでない。
  • 該当する人物が、同じ告訴の対象となる行為について、既に裁判を受けており、かつ、裁判所による審理が、裁判所規程のその他の規定によって認められていない。
  • 当該事件が、裁判所による更なる行動を正当化するほど重大ではない。

 同条は続けて、特定の事件における意志の欠如を判定するため、裁判所は、国際法によって認められる適正手続原則の考慮を検討する旨規定している。また特定事件における能力の欠如を判定するため、裁判所は、国内司法制度の全面的あるいは本質的崩壊、または、適用不能によって、当該国が、被告あるいは必要な証拠および証言を入手できないのか、または、その他の事態で裁判手続を実行できないのかを検討することになっている。
 許容可能性に関する予備決定については、7項からなる条文に規定されている。これによれば、ある事態が裁判所に付託され、かつ、検察官が捜査を開始する合理的な根拠ありと判定したか、検察官が自らの発意で捜査を開始する場合、検察官は、すべての締約国、および、入手できる情報からして、該当する犯罪について通常管轄権を行使すると見られる国に対し、その旨通報することになっている。このような通報は秘密裏に行うこともできるほか、検察官は、人物の保護、証拠隠滅あるいは逃亡の防止に必要と判断する場合、各国に提供する情報の範囲を制限することができる。
 裁判所の管轄権、あるいは、ある事件の許容可能性に対する異議に関する条文は、裁判所が、付託されたいずれの事件についても、自らが管轄権を有するという十分な確信を得なければならないことを規定する。事件の許容可能性に対する異議、あるいは、裁判所の管轄権に対する異議を唱えられるのは、被告、または、逮捕令状あるいは召喚状の対象となった者、ある事件の管轄権を有する国で、当該事件について捜査あるいは起訴を行っている最中であるか、これを既に行っているもの、および、管轄権の承認が必要とされる国である。
  一事不再理に関する条項は、「本規程に規定されるところを除き、いかなる者も、同人が既に裁判所による有罪あるいは無罪判決の対象となった犯罪の基礎をなす行為について、再び裁判所の裁きを受けないものとする」と規定している。また、いかなる者も、同人が既に裁判所による有罪あるいは無罪判決の対象となった、規程に言及する犯罪について、別の裁判所で裁きを受けないことになっている。
 さらに別の裁判所で裁かれた者は、同一の行為について、裁判所による裁きを受けないことになっている。但し、この別の裁判所における司法手続が、次のようなものであった場合は、この限りでない。

  1. 裁判所の管轄権に属する犯罪に関する刑事責任から、当該人物を保護する目的を持っている。
  2. その他の理由で、国際法によって認められた適正手続の基準に従った独立性と中立性が確保されておらず、このため、当該人物を裁くという意図にそぐわない形で行われている。

 適用される法律に関する条文によれば、裁判所はまず、裁判所規程とその手続・証拠規則を適用し、次に、該当する条約、および、武力紛争に関する国際法の確立された原則を含む国際法の原理および原則を適用するものとされている。これらが適用できない場合、通常であれば当該犯罪について管轄権を行使する国の国内法を含め、全世界の諸法体系に属する国内法から裁判所が導出した一般原則が適用されるが、この場合、かかる原則が、裁判所設立規約、ならびに、国際法および国際的に承認された規範・基準と矛盾しないことが条件になる。
 条文はさらに、「本条による法律の適用および解釈は、国際的に承認された人権に矛盾せず、ジェンダー、年齢、人種、皮膚の色、言語、宗教あるいは信条、政治あるいはその他の意見、国民的、民族的あるいは社会的出自、富、出生、その他の地位等を理由とする差別を含まないものでなければならない」と規定している。

 

 第3部は、刑法の一般原則に関するもので、裁判所規程の要素となる一般的刑法規定を含んでいる。ここでは、いくつかの国際法文書で認められる合法性の基本原則(罪法定主義)が取り扱われているが、これによれば、ある行為が処罰できるのは、その実行以前に当該行為が処罰対象とされている場合のみである。条文はさらに、「犯罪の定義は、厳格に解釈し、類推によって拡大されないものとする」ことを規定している。曖昧な場合には、捜査、起訴あるいは有罪判決の対象となる者に有利な解釈が行われることになっている。刑法定主義に関する関連条項によれば、裁判所によって有罪判決を受けた者は、裁判所規程に定める刑によってのみ、処罰することができる。
 裁判所規程は、個人的刑事責任の不遡及を規定し、「いかなる者も、裁判所規程の発効以前の行為について、規程による刑事責任を問われないものとする」としている。最終的な判決以前に、ある事件に適用される法律が変更された場合、捜査、起訴あるいは有罪判決の対象となる者に有利な法律が適用されることになる。
  自然人に対する裁判所の管轄権については、個人的刑事責任に関する条項で取り扱われている。これによれば、ある個人が裁判所の管轄権に属する罪を犯したか、かかる罪の実行を命令、要請あるいは誘発したか、犯罪の実行を幇助、教唆あるいはその他の形で援助したか、または、他者のジェノサイド実行を直接的かつ公にけしかけること等を含め、共通の目的を持つ集団によるこれら犯罪の実行あるいは未遂にその他の形で寄与した場合、同人はこれについて刑事責任を問われ、処罰されることになる。同条は最後に、「個人的刑事責任に関する本規程のいかなる規定も、国際法による国家の責任に影響しないものとする」と述べている。
 これに関連する条項によれば、罪を犯したとされる時点で18歳未満の者については、裁判所は管轄権を持たないことになっている。
  条文は、裁判所規程が、公的能力の区別なく、あらゆる者に同様に適用されることを明言する。国家元首あるいは政府首脳、政府あるいは議会の構成員、公選議員あるいは公務員としての公的能力は、いかなる場合にも、裁判所規程による個人の刑事責任を免除することも、減刑の事由を構成することもない。国内法によるものか、国際法によるものかを問わず、ある個人の公的能力に付随しうる免責特権あるいは特別の手続規則は、かかる個人に対する裁判所の管轄権行使を妨げるものではない。
 この問題については、司令官およびその他の上官の責任に関する条文でも、さらに取り上げられている。これによれば、軍司令官、あるいは、事実上の軍司令官の役割を果たす者は、自らの実効的指令および支配に属する軍が裁判所の管轄権に属する罪を犯した場合、これについての刑事責任を負うことになる。同様に、軍がかかる罪を犯しているか、犯そうとしていることを知っていたか、知るべき立場にいた軍司令官およびその他の者、ならびに、この立場にありながら、こうした犯罪の実行を防止あるいは抑止するか、この問題を権限ある当局に付託し、その捜査および訴追を求めるために、権限内のあらゆる必要かつ合理的な措置を講じなかった者についても、責任が問われることになる。さらに上官が自らの実効的権限および支配に属する部下に対する適切な支配権行使を怠った結果として、かかる部下が裁判所の管轄権に属する罪を犯した場合、上官はその刑事責任を問われることになる。
  裁判所規程は出訴期限法の不適用を規定し、裁判所の管轄権に属する罪を犯した者は、重要な犯罪要素が意図と認識を持って実行された場合にのみ、その責任を問われ、処罰の対象となることを定めている。
 刑事責任を免れる理由としては、精神病あるいは精神障害、および、自らの行為の不法性あるいは性質を評価する能力、または、法の要件に沿うように自らの行為を統制する能力を破壊する酩酊状態があげられる。この後者については、ある者が、酩酊の結果、裁判所の管轄権に属する犯罪を構成する行為に及ぶ可能性が高いことを知っていたか、その危険性を無視したような状態で、自発的に酩酊状態となった場合、刑事責任は免除されないことになっている。その他の理由には、自己防衛あるいは他者の防衛、ならびに、戦争犯罪の場合、人の生存に不可欠であるか、軍事任務の達成に不可欠である財産の防衛が含まれる。さらに差し迫った死の脅威、または、継続的あるいは差し迫った重大な身体的被害の脅威に起因する強迫観念によって引き起こされた行為も、刑事犯罪の対象から外される。
 事実の錯誤については、当該犯罪の要件となる精神的要素を否定する場合にのみ、刑事責任を免れる理由とされる。ある特定の行為が裁判所の管轄権に属する犯罪であるか否かに関する法律の錯誤は、刑事責任を免れる理由とはならないが、かかる犯罪の要件となる精神的要素、あるいは、上官の命令および法律の規定に関する条文で規定された精神的要素が否定される場合は、この限りでない。
 この条文によれば、政府あるいは上官の命令に従った者によって裁判所の管轄権に属する罪が犯されたという事実は、それが軍事的なものかであるか否かを問わず、同人の刑事責任を免除する理由とはならない。しかし、この規定には、同人が問題となる政府あるいは上官の命令に従う法的義務を負っていた場合、同人が命令の違法性を知らなかった場合、および、命令の違法性が明白でなかった場合という例外が設けられている。同条はさらに、「本条の関連において、ジェノサイドあるいは人道に対する罪を犯す命令は、明白に違法である」と規定している。

 

  第4部は、裁判所の構成と運営に関する規定であり、これにより、国際刑事裁判所は裁判所長室、控訴審部、法廷部および予審部、検事局、ならびに、書記局から構成される。
 すべての判事は、裁判所の正規メンバーとして選任され、任期の開始当初から、その任務に専念することとなっている。裁判所長室を構成する判事は、選任と同時に任務に専念しなければならない。裁判所長室は、裁判所の作業量に基づき、その構成員との協議を経て、残りの判事がどの程度裁判所内で勤務しなければならないかを時宜に応じて決定できる。常時裁判所に勤務することを要求されない判事に関する金銭的取極は、俸給、手当および諸経費に関する条文に従って行われることになる。
 裁判所規程が規定する18名の判事は、自国において最高の司法職に任命されるのに必要な資格を満たし、高い倫理観、中立性および一貫性を有する者の中から選ばれる。
  資格に関し、裁判所判事の候補者は、刑法および刑事手続について確立した能力を有し、かつ、裁判官、検察官、弁護士あるいはその他同様の職務において、刑事司法関連の必要な経験を持っているか、または、国際人道法、人権法等、国際法の関連分野における確立した能力と、裁判所の司法作業に関連する専門的司法職での幅広い経験を兼ね備えていなければならない。裁判所判事候補者の指名は、いずれの裁判所規程締約国も行うことができるが、その際には、候補者がどのように資格要件を満たしているかに関し、必要な詳細事項を記した陳述書を添付しなければならない。
 さらに条文は、締約国会議が適宜、候補者指名に関する諮問委員会の設立を決定できる旨規定している。諮問委員会の構成および権限は、締約国会議が定めることになっている。さらに選出の手続についても詳しく規定されており、例えば、判事の選出は、この目的で招集される締約国会議の会合において、秘密投票で行われることになっている。判事の選任は、三分の二以上の締約国が出席・投票することを条件に、最多得票数によって行われる。同じ国籍を持つ者2名が、同時に判事になることはできない。
 また選任に際しては、世界の主要な法体系の包摂、衡平な地理的代表、および、公正な性別構成を考慮すべきことになっている。締約国はさらに、女性あるいは子どもに対する暴力等、特定の問題に関する専門的司法知識を備えた判事を含める必要性も、考慮しなければならない。
判事の任期は9年間で、再選は認められない。初回の選任時には、くじ引きによって、3年、6年および9年の任期を有する判事がそれぞれ三分の一ずつ選ばれる。3年の任期で選ばれた判事には、その後9年の任期で再選の資格が与えられる。法廷部あるいは控訴審部に配属となった判事は、当該部署で審理の始まっている事件がある場合、これが終了するまでその職に留まることになっている。
  裁判所長室に関する条文は、裁判所長および第一・第二副裁判所長が、判事の絶対多数決で選出されることを規定する。この3名の任期はいずれも3年間、あるいは、それぞれの判事としての任期切れまでの、いずれか短いほうとなる。再選は1回だけ認められる。裁判所長および第一・第二副裁判所長から構成される裁判所長室は、検事局を除き、裁判所全体の適切な運営に責任を有する。
 裁判所判事は、独立してその役割を遂行し、その司法的役割に支障を来したり、その独立性に対する信頼に影響したりする可能性の高い活動には関与できない。常時裁判所での勤務を要求される判事は、その他の職務あるいは職業に就くことができない。
  検事局については、9項からなる条文が設けられているが、これによれば、検事局は、裁判所の独立した機関として、独自の活動を行うことになっている。検事局の構成員は、外部からの指示を求めることも、これに基づいて活動することもできない。
  検事局の長を務める検察官は、人事、施設およびその他の資源を含め、検事局の管理および運営に対して完全な権限を有する。検察官は、1名あるいは複数の副検察官の補佐を受けることになるが、この副検察官は、裁判所規程が検察官に要求するいずれの行為も代行する資格を有する。検察官および副検察官は、異なった国籍を持つものとし、裁判所に常時勤務しなければならない。また高い倫理観を持ち、刑事事件の訴追あるいは審理について高い能力と広範な実務経験を兼ね備え、かつ、裁判所の実務言語の少なくとも一つについて優れた知識を有し、これに堪能であることも要求される。
 検察官は、秘密投票により、締約国会議構成国の絶対過半数を得て選出される。副検察官は、検察官が提示する候補者リストの中から、同様の方法で選出されるが、その際検察官は、空席である各々の副検察官のポストについて、3名の候補者を指名しなければならない。検察官と副検察官の任期は9年で、再選は認められないが、選任の際にこれより短い任期が決定された場合は、この限りでない。検察官も副検察官も、専門的性質を持つその他の職業に就くことができない。検察官は、性的暴力および子どもに対する暴力等、特定問題について専門の司法知識を有するアドバイザーを任命することになっている。
 書記局は、裁判所全体の運営担当責任者である書記を長とし、裁判所の運営および役務の非司法的側面に責任を有する。書記は、裁判所長の権限の下に、その役割を遂行する。裁判所判事は、締約国会議による勧告があれば、これを考慮した上で、秘密投票の絶対過半数によって書記を選出する。書記は常勤職員であり、任期は5年、1回だけ再選が可能である。
  書記は、書記局内に被害者・証人班を設け、検事局と協議の上、証人、裁判所に出廷する被害者、および、かかる証人の証言によって危険にさらされるその他の者を対象に、保護措置、安全確保、カウンセリングおよびその他適切な援助を提供することになっている。同班には、性的暴力罪に関連するトラウマを含め、トラウマに関する専門知識を持った職員が配属される。
  職員に関する4項から成る条文によれば、裁判所は、例外的な事態において、締約国、政府間機関あるいは非政府機関が、いずれかの裁判所部局の作業を援助するために無償で提供する職員の専門知識を利用できる。このような申し出があった場合、検察官は、検事局を代表してこれを受け入れることができる。無償で提供される職員は、締約国会議が設定する指針にしたがって配属されることになっている。

  第4部の残りの部分では、裁判所運営のその他の側面が取り扱われており、俸給、手当および諸経費に関する条文も含まれている。
 裁判所の公用語は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語およびスペイン語であるが、実務言語は英語とフランス語である。実務言語としてその他の公用語の使用が必要となるケースについては、手続・証拠規則が定めることになっている。
 手続・証拠規則は、締約国会議構成国の三分の二の多数決による採択を経て、発効することになる。規則の修正を提案できるのは、締約国、絶対過半数の裁判所判事あるいは検察官であり、締約国会議構成国の三分の二の過半数による採択を以って発効する。裁判所規程と手続・証拠規則の間に抵触が生じた場合には、裁判所規程が優越する。

 

 第5部は捜査と起訴に関するものである。検察官の発意による捜査開始等の問題を規定するとともに、検察官は、何時においても、新たな事実あるいは情報に基づき、捜査あるいは起訴を開始するか否かに関する決定を見直すことができる。
 その他、捜査に関する検察官の責務および権限の問題についても取り扱われている。例えば、検察官は、司法手続のいかなる段階においても、守秘を条件として、かつ、新たな証拠を提出する目的のみを持って入手した情報を開示しないことに同意するが、情報提供者が開示に同意する場合は、この限りでない。
  捜査中の人物の権利についても取り扱われている。例えば、裁判所規程による捜査を受ける者は、自らを有罪としたり、罪を自白したりすることを強制されず、また、同人が完全に理解し、話せる言語以外の言語で尋問された場合には、有能な通訳の援助と、公正性の要件を充足するために必要な翻訳を、無償で得ることができる。
 また特別な捜査の機会に関する予審部の役割についても、その機能および権限とともに規定されている。例えば、裁判所規程の一定の条項による決定を行うためには、予審部判事の過半数の賛同が必要である。その他の場合には、予審部の判事1名が単独でこの役割を果たすことができる。予審部はまた、ある締約国が、協力要請を実行する能力のある当局あるいは司法制度の要素を欠いているために、明らかに協力要請を実行できないと判定する場合、検察官に対し、第9部による協力を確保せずに、同国領土内で特定の捜査活動を行うことを認可できる。
 その他、第5部で取り扱われている問題としては、予審部による逮捕令状あるいは召喚状の発行、拘留国における逮捕手続、裁判所における当初の司法手続、および、開廷前の罪状確認が挙げられる。

  第6部は裁判に関するものであり、「別途決定される場合を除き、裁判は裁判所所在地で開かれるものとする」と規定している。また被告は裁判に出席しなければならない。法廷部は、裁判が「公正かつ迅速」であり、被告の権利の十分な尊重と、被害者および証人の保護に対する十分な考慮を持って行われることを保証するものとされている。
  条文はさらに、「適用される法律にしたがって裁判所が有罪と判決するまで、何人も無罪と推定されるものとする」ことを規定し、被告の有罪を立証する責任は検察官の側にあることを付け加えている。裁判所は、被告の有罪を合理的疑いの余地なく確証しなければ、被告に有罪判決を下すことはできない。
 また、いかなる罪状を判定する場合にも、被告は、裁判所規程の規定による公聴会と、中立の立場で行われる公正な審理を受ける権利を有する。条文は、被害者および証人の安全、身体的・精神的福祉、尊厳およびプライバシーを保護するために、裁判所が適切な措置を取らなければならないことを強調している。証言の前に、各々の証人は、手続・証拠規則に従い、同人の行う証言が真実であることを宣誓しなければならない。
  ある条項は、ある国の情報あるいは資料の開示について、当該国が自国の安全保障上の利益を損なうものと考える場合について規定している。これによれば、自国の情報あるいは資料が、司法手続のいずれかの段階で開示される可能性が高く、かつ、この開示が自国の安全保障上の利益を損なうものと考える国は、裁判所規程の下での問題解決を図るために、介入を行う権利を持っている。
 決定に関する要件によれば、法廷部の判事は全員、裁判の各段階に出席し、その討議全体に参加しなければならない。法廷部の判事で継続的参加ができない者がいる場合、裁判所長室は、ケース・バイ・ケースで適宜、この判事に代わって裁判の各段階に出席する1名あるいは複数の交替判事を指名することができる。
 別の条項によれば、裁判所は、返還、補償金および復帰を含め、被害者に対する、あるいは、被害者に関する賠償の原則を定めることになっている。これに基づき、裁判所は、要請、あるいは、例外的事態における自らの動議のどちらかによる決定を行い、その根拠を示した上で、被害者に対する、あるいは、被害者に関する損害、損失および権利侵害の範囲と程度を判定できる。裁判所は、返還、補償金および復帰を含め、被害者に対する、あるいは、これに関する適切な賠償を定めた命令を、有罪判決を受けた者に直接発することができる。適切な場合、裁判所は、裁判所規程の他の場所で規定する信託基金を通じて、賠償の支払いを行う命令を発することができる。
 刑の宣告に関する条文は、「有罪判決の場合、法廷部は、科すべき適切な刑の宣告を検討するとともに、裁判中に得られた、刑の宣告に関連する証言および証拠品を考慮する」と規定する。同条は加えて、刑の宣告は、可能な場合常に、被告の面前で公に行われるべきことを定めている。

  第7部は刑罰に関するものである。適用される刑罰について、条文は、裁判所が、裁判所規程に規定する犯罪で有罪判決を受けた者に対し、「30年以内の特定年数の懲役、あるいは、犯罪の極度の重大性、および、被告の個人的事態によって正当化される場合、無期懲役」のいずれかを科すことができると規定している。
 懲役に加えて、裁判所は、「手続・証拠規則に定める判断基準による罰金、ならびに、善意の第三者の権利を毀損しない範囲の、当該犯罪から直接的あるいは間接的に生じた利益、財産および資産の没収」を命令できる。
 宣告される刑の判定に関する条文によれば、複数の犯罪で有罪判決を受けた者について、裁判所は、各々の犯罪に関する刑と、合計の懲役期間を定める合算刑の宣告を行うものとされている。裁判所規程は、締約国会議の決定により、裁判所の管轄権に属する犯罪の被害者およびその家族のために、信託基金の設立を規定する。裁判所は、罰金や没収を通じて集められた現金その他の財産を、信託基金に移転することを命令できる。この信託基金は、締約国会議が定める判断基準にしたがって管理されることになっている。

 

 控訴および修正に関する第8部は、かかる事態に関する詳細を規定する5項から成っている。無罪の決定、有罪判決あるいは刑の宣告に対する控訴を定める条項によれば、検察官は、手続上の瑕疵、事実の瑕疵、あるいは、法律の瑕疵のいずれかの理由に基づいて、控訴を行うことができる。有罪判決を受けた者、あるいは、同人を代理する場合の検察官は、上記の理由に加えて「司法手続あるいは決定の公正性あるいは信頼性に影響するその他いずれかの理由」も援用できる。第8部はまた、被害者、有罪判決を受けた者、または、裁判所規程にしたがった命令によって悪影響を受けた善意の財産所有者を法律上代表する者が、手続・証拠規則の規定により、該当する賠償命令に対する控訴を行える旨規定している。「違法な逮捕あるいは拘禁の被害を受けた者は、強制力を伴った補償金請求権を有するものとする」と条文は定めている。

 第9部は、国際協力と司法援助に関するものであり、裁判所の管轄権に属する犯罪の捜査および訴追について、締約国が裁判所に全面的に協力するという一般義務に関する規定から成っている。
 協力要請に関する一般規定の中で、裁判所規程は、「裁判所は、締約国に協力を要請する権限を持つものとする。この要請は、外交経路、あるいは、各締約国が批准、受入れ、承認あるいは加入時に指定しうるその他の適切な経路を通じ、伝達されるものとする」と定めている。裁判所は、締約国でないいかなる国に対しても、当該国とのアドホック取極、協定あるいはその他適切な根拠に基づき、援助を求めることができる。加えて、締約国でない国が、裁判所との間でアドホック取極あるいは協定を結びながら、かかる取極あるいは協定に基づく要請への協力を怠った場合、裁判所は、締約国会議にその旨を通報できる。
 さらに締約国が裁判所による協力要請の遵守を怠ったために、裁判所が規程に定める機能および権限を遂行できなくなった場合、裁判所は、その旨の認定を行い、この問題を締約国会議に付託できる。
 裁判所に対する人物引渡しの問題に関し、裁判所は、当該人物が潜んでいると見られる国に対し、要請の根拠となる資料を添えて、その逮捕および引渡しを求める要請書を送付し、当該人物の逮捕および引渡しに関する同国の協力を要請することになっている。締約国は、「第9部の規定、および、国内法による手続にしたがい」逮捕あるいは引渡し要請を遵守するものとされている。締約国が引渡し要請を拒否できるのは、問題となる犯罪について裁判所の管轄権を受け入れていない場合のみである。引渡し要請が拒否された場合、要請を受けた国は裁判所に対し、その拒否の理由を迅速に通報するものとされている。
 要請の競合に関する規定によれば、裁判所からある人物の引渡し要請を受けた締約国は、裁判所の引渡し要請の理由となった犯罪の根拠を構成する行為と同一の行為について、同一人物の引渡し要請を他国からも受けている場合、その旨を裁判所と要請国に通報すべきことになっている。
 別の条文によれば、逮捕および引渡しの要請は、書面で行われることになっている。さらに別の条文は、緊急の場合、裁判所は、引渡し要請書と要請の根拠となる資料の提出まで、当該人物の仮逮捕を要請できることを規定している。
 裁判所規程は、その他の協力形態につき、締約国が、同規程および国内法の手続にしたがい、捜査あるいは訴追に関連していくつかの種類の協力を求める裁判所の要請に応えなければならないことを規定している。裁判所は、締約国でない国からの援助要請を認めることができる。
 別の規定によれば、裁判所は、被要請国に対し、当該国に関する国際法上の義務、あるいは、第三国の人物あるいは財産の外交特権に違反する行為を要求するような引渡し要請あるいは援助要請に対応してはならない。但し、裁判所が最初に、外交特権の放棄について当該第三国から協力を得られた場合は、この限りでない。
 同条のさらに別の規定は、裁判所に対して、被要請国が、ある国の者を引き渡すためには当該国の同意が必要であるとする国際協定による義務に矛盾した行動をとらなければならなくなるような引渡し要請に対応することを禁じている。但し、裁判所が最初に、引渡しの同意について出身国からの協力を得られた場合は、この限りでない。

  第10部は執行を取り扱っている。懲役刑の執行に関する各国の役割について、条文は、裁判所に対して受刑者受入れの意志を示した国のリストから、裁判所が指定した国において、懲役刑が執行されることを定めている。この指定を行う裁量権を行使する際、裁判所は、受刑者の見解、その国籍、および、犯罪あるいは受刑者の状況に関連するその他の要因等を考慮するものとされている。受刑国の指定がない場合、懲役刑の執行は、裁判所所在地(「受入国」)が提供する刑務所で行われることになる。
 さらに、懲役刑の宣告は締約国を拘束し、いかなる場合にも締約国はこれを変更できないことも規定されている。控訴あるいは変更の申請があった場合、これに関する決定権は裁判所のみに属する。刑の執行国は、受刑者によるかかる申請の提出を妨げてはならない。
 別の条文は、懲役刑の執行が、裁判所による監督の対象となり、囚人の待遇を律する国際条約の一般的に認められた基準を満たすべきことを強調している。受刑者と裁判所の間の通信は、妨害なく秘密厳守で行われるものとされている。
 裁判所規程は、「受刑者が脱獄し、刑の執行国から逃亡した場合、当該国は、裁判所との協議を経た上で、現行の二国間あるいは多国間取極にしたがい、当該人物の逃亡先の国から、同人の引渡しを求めるか、裁判所が同人の引渡しを求めることを要請できる。裁判所は、当該人物をそれまでの受刑国、あるいは、裁判所が指定する別の国に移送することを指示できる」と規定している。
 別の条文によれば、刑の執行国は、裁判所の宣告した刑期の満了まで、受刑者を釈放できない。減刑については、該当する人物からの聴取を行った上で、裁判所のみがこれを決定することができる。刑期の三分の二を終えたか、終身刑の場合25年の刑期を終えた受刑者について、裁判所は刑の再審理を行い、減刑すべきかいなかを決定するものとされている。それより前にこの再審理を行うことはできない。

 

  第11部は、締約国会議を設置する1ヵ条からなっているが、これによれば、裁判所規程あるいは最終文書に署名したその他の国は、オブザーバーとして、これに参加できる。
 その他、締約国会議の機能としては、準備委員会の勧告を検討・採択すること、裁判所の運営について、裁判所長室、検察官および書記の管理監督を行うこと、裁判所の予算案を審議・決定すること、判事数の変更いかんを決定すること、ならびに、非協力に関する問題が生じた場合、これを検討することがあげられる。
 締約国会議には、議長1名、副議長2名、および、会議が3年の任期で選出するメンバー18名からなる事務局が置かれることになっているが、ここでは、世界の主要な法体系がすべて代表されるものとされている。裁判所長、検察官および書記、あるいは、その代表は、締約国会議と事務局の会合に参加できる。締約国会議は年1回、裁判所の所在地あるいは国連本部で会合を開くほか、必要な事態が生じた場合には、特別会期を開くことになっている。
  同条は続けて、各締約国が会議で1票の投票権を持つことを規定しているが、コンセンサスによる決定を達成するよう、あらゆる努力が行われることになっている。コンセンサスが得られない場合、裁判所規程に別途規定しない限り、実質事項に関する決定は、締約国の過半数を定足数として、出席かつ投票する国の三分の二の多数決により承認され、手続事項に関する決定は、出席かつ投票する締約国の単純過半数により下されることになっている。
  裁判所費用の分担金を滞納している締約国は、その滞納額が過去丸2年間の分担金額以上に達した場合、締約国会議および事務局における投票権を失うものとされている。但し、締約国会議は、支払いの不履行が締約国にとってなす術のない事態から生じていることを確証する場合、当該国の会議および事務局での投票を許可することができる。

 資金調達に関する第12部は、6ヵ条からなっている。その規定によれば、別途特定的に定める場合を除き、事務局および補助機関を含め、裁判所と締約国会議の会合に関連するすべての財政事項は、裁判所規程、および、締約国会議が採択する財務規則を以って律することになっている。事務局および補助機関を含め、裁判所と締約国会議の諸経費は、裁判所の資金から支払われるものとされている。
 裁判所と締約国の経費を賄う資金源は、締約国によって拠出される分担金、および、安全保障理事会からの付託によって生じる経費に関し、総会の承認を受けて国連が提供する資金と規定されている。さらに条文によれば、裁判所は、締約国会議が採択する妥当な判断基準に従い、追加的資金として、政府、国際機関、個人、法人およびその他の主体からの自発的拠出金を受け取り、これを利用することができる。
 締約国の分担金は、国連がその通常予算用に採択し、基礎となる原則に従って調整される分担率表に基づき合意された分担率表に従い、決定されることになっている。裁判所の記録、帳簿および勘定は毎年、その財務諸表を含め、独立した監査官による会計監査を受けるものとされている。

  第13部には「最終条項」というタイトルが付いている。紛争解決に関する条文で、裁判所規程は、「裁判所の司法機能に関して紛争が発生した場合、裁判所の決定を以ってこれを解決するものとする」と規定している。その解釈あるいは適用に関し、複数の締約国間に別の紛争が生じ、発生から3カ月以内に話合いで解決できない場合、この問題は締約国会議に付託されることになる。締約国会議は、自身で紛争の解決を図るか、国際司法裁判所への付託を含め、紛争解決のさらなる手段に関する勧告を行うことができる。
 修正に関し、条文は、裁判所規程の発効から7年が満了した時点で、どの締約国も修正案を提出できることを定めている。修正案文は国連事務総長に提出し、事務総長はすぐにこれを全締約国に回覧しなければならない。この通報期日から3カ月後以降に開催される最初の締約国会議は、出席かつ投票する国の多数決により、修正案を検討するか否かを決定することとされている。締約国会議は、直接に修正案を討議するか、問題の性格により必要となる場合には、再検討会議を招集することができる。
 別の条文は、裁判所規程の再検討の問題を取り扱い、その発効から7年後に、国連事務総長が、修正案を検討するための再検討会議を招集すべきことを定めている。このような再検討の対象には、裁判所の管轄権に属する犯罪リスト等が含まれうる。再検討会議には、締約国会議参加国が同じ条件で参加できる。その後はいかなる時点でも、締約国の要請があった場合、国連事務総長は、締約国過半数による承認を受け、再検討会議を招集することになっている。
 移行規定に関する条文は、管轄権受諾の問題に関し、裁判所規程の締約国となった国は、当該国に対する規約発効から7年までの間、同国の国民により、あるいは、同国の領域内で罪が犯されたとされる場合、裁判所規程に定義する戦争犯罪に対する裁判所の管轄権を受諾しない旨宣言できることを規定している。同条による宣言は、何時でも撤回することができる。
  裁判所規程は7月17日、ローマの国連食糧農業機関本部で、あらゆる国による署名のために開放される。その後は10月17日まで、ローマのイタリア外務省で署名が可能である。それ以降2000年12月31日まで、裁判所規程は国連本部で引き続き署名のために開放される。
 最終条項はさらに、裁判所規程の発効期日を、60番目の批准書、受入書、承認書あるいは加入書が国連事務総長に寄託された日から60日後以降に始まる月の1日目と定めている。
 裁判所規程によれば、締約国は、国連事務総長宛の通告書により、規程から脱退できる。脱退は、通知書受領の日から1年後に発効することになるが、通知書がこれ以降の期日を定めている場合は、この限りでない。

 

  裁判所規程には、ローマ会議の最終文書が付属している。この最終文書には、会議が国連総会から委託された権限を含む、会議招集に至る経緯、参加者リスト、会議の役員、および、ローマ国際刑事裁判所規程の採択に至る議事手続が記述されている。
 最終文書には5つの決議が付属している。

  • 第1の決議により、会議は、準備委員会の作業のたたき台となった裁判所規程の原案作成への国際法委員会の顕著な貢献に対して、深い感謝の意を示した。
  • 第2の決議により、会議は、国際刑事裁判所設立準備委員会の参加者、および、同委員会のアドリアーン・ボス議長(オランダ)の顕著で懸命な作業、コミットメントおよび専心に対して、敬意を表した。
  • 第3の決議は、ローマ会議の開催に必要な手はずを整え、寛大な受入を行い、 会議作業の完成に貢献したイタリアの国民および政府に対し、会議の深い謝意を表した。
  • 第4の決議は、会議の作業運営における経験、巧みな努力および英知を以って、その成功に大きく貢献した、ローマ会議のジョバンニ・コンソ議長(イタリア)、全体委員会のフィリップ・キルシュ議長(カナダ)および起草委員会のシェリフ・バシウーニ議長(エジプト)に対し、会議の感謝の意を表明した。
  • 第5の決議により、会議は、国際刑事裁判所準備委員会の設置を決定した。国連事務総長は、可及的速やかな委員会の招集を要請されたが、具体的な期日については、国連総会が決定することになっている。

さらに、この決議によれば、準備委員会は会議最終文書の署名国、および、その議事への参加を招請されたその他の国から構成される。準備委員会は、議長その他の役員を第1回目の会合で選出し、手続規則を採択し、作業プログラムの決定を行うことになっている。準備委員会に対しては、以下の案文を含め、裁判所の設立および活動開始に関する実際的取極のための提案作成が依頼されている。

  • 犯罪要素および手続・証拠規則(最優先)
  • 裁判所と国連の間の関係取極
  • 裁判所と受入国(ハーグ、裁判所所在地)の間で話し合われる本部協定を律する
  • 基本原理
  • 財務規則
  • 裁判所の特権および免除に関する協定
  • 初年度予算
  • 締約国会議の手続規則

決議によれば、準備委員会の存続期間は、第1回締約国会議の終了までである。委員会は、すべての委任事項に関する報告書を作成し、これを第1回締約国会議に提出することになっている。準備委員会は、国連本部で会合を行う予定であるが、国連事務総長はこれに対し、国連総会の承認を得た上で、必要とされる事務局サービスを提供するよう要請されている。

 

一般討議の要点

 ローマ会議は6月15日、コフィー・アナン国連事務総長によって開会され、4日間にわたって、国際刑事裁判所の設立に関する150件の一般声明が行われた。
 開会に当たって演説を行ったイタリアのオスカル・ルイギ・スカルファーロ大統領は、裁判所が、被告と国際社会全体の権利を保証すべきことを強調した。アナン国連事務総長は会議に対し、「便宜ではなく正義の手段」となり、「強者に対して弱者を保護」できなければならない、強力で独立した国際刑事裁判所の創設に二の足を踏まないよう促した。ローマ会議議長は、国際裁判所の設立が犯罪実行者に対し、刑事責任の免除はなく、何人も法に従わなければならないという、疑う余地のないメッセージを送るものになろうと述べた。
 会議が抱える任務の歴史的重要性を強調する向きもあった。急速に近づきつつある新千年紀と、歴史家たちが「20世紀の精神分裂」について考える根拠となるであろう成果と失敗についても、多く言及された。ローマ会議は、人類の経験上もっとも暗い側面に対峙し、これを打破する具体的な措置を講じるための歴史的な機会であった。
 本会議では、ニュルンベルク戦争犯罪法廷のベンジャミン・B.フェレンツ元検察官が発言を行い、裁判所の管轄権から侵略罪を除外することは、「最大の国際犯罪」の責任者に不処罰を認めることに等しいと明言した。フェレンツ氏はさらに、ニュルンベルク以降、侵略戦争が国家の権利ではなく、国際犯罪であることに疑いの余地はなくなっていると付け加えた。ニュルンベルク裁判の後に、侵略罪を裁判所の管轄権から外すことになれば、ローマ会議は退歩を意味することになろうという指摘も多く見られた。
 裁判所を独立、公正、中立、効果的かつ幅広い包含力を有する国際刑事司法機関とし、政治その他の影響から守るべきことについては、広範な合意が得られた。また、裁判所を政治闘争の道具や、他国の内政干渉の手段とすべきでないことも強調された。
  常任理事国を含め、裁判所と安全保障理事会の関係について触れる向きも多かった。中国は、かかる関係を取り扱う上で、実際的で慎重な態度を求めた。米国は、安全保障理事会と競合するのではなく、これと協調し、かつ、国連から財政・運営面で独立した国際刑事裁判所の設置を求めた。
  旧ユーゴスラビアおよびルワンダに関する法廷で第一首席検察官を務めたリチャード・ゴールドストーン判事は、安全保障理事会であるか締約国であるかに関わらず、裁判所あるいはその検察官が政治的主体の支配下に置かれることになれば、国際刑事裁判所への信頼はなくなり、国際司法は重大な打撃を被るだろうと明言した。同判事はまた、このような支配を求める試みが成功すれば、裁判所をそもそも設立すべきか否かについて、重大な疑念を抱かざるを得ないとした。
 本会議では、核兵器、対人地雷、目潰しレーザー兵器およびその他の大量破壊兵器が、不必要な苦痛を与える、あるいは、本質的に無差別的な戦争手段であるとの理由で、その使用あるいは使用の威嚇を、裁判所の戦争犯罪の定義に含めるべきだとする声も出された。この指摘によると、これらを対象外とすれば、裁判所は、誰かが毒矢あるいはダムダム弾で一般市民を殺害した場合には管轄権を有するが、同じ人物が核兵器で十万人の市民を焼き尽くしたとしても何ら行動はとれないという、「馬鹿げた」結果が生じることになる。
 4日間の討議を通じて、ローマ会議は、過去と決別し、不処罰を終焉させよという、国際社会の一致した要求を聞き取った。多く指摘されたとおり、正義なしに平和はありえないのである。

 

国際刑事裁判所設立の背景

  国際刑事裁判所は、ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、国際社会にとってもっとも重大な罪を犯した個人を捜査し、これを裁く権限を備えた、恒久的裁判所として意図されている。
 恒久的裁判所のアイデアは、第一次世界大戦後における国際法廷設置の試みに端を発している。この試みは成功しなかったが、第二次大戦後に設置されたニュルンベルクと東京の戦争犯罪法廷は、恒久的裁判所創設の努力のたたき台となった。国連で最初にこの問題が検討されたのは、1948年の「ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約」が採択されたときである。この構想はその後長年にわたり、意見の相違によって事実上、それ以上の発展を妨げられた。
 1992年、国連総会は国際法委員会に対し、国際刑事裁判所規程案を作成するよう指示した。安全保障理事会が旧ユーゴスラビアとルワンダに関する国際刑事法廷をそれぞれ1993年と1994年に設置したことにより、世論の関心は一層高まった。
 総会は1994年12月、国際法委員会による規程最終案を審査するために、全加盟国および専門機関メンバーからなるアドホック委員会を設置した。1995年12月、総会は、「国際法委員会が作成した規程案から生じる重大な実質上および運営上の問題をさらに検討し…、全権大使会議による検討に向けた次なるステップとして、国際司法裁判所に関する幅広く受容可能な総合的条約案文を作成する観点から、案文の起草を行う」準備委員会を設立した。
 準備委員会の第1会期は、1996年3月から4月にかけて、第2会期は同年8月、それぞれ国連本部で開かれた。国連総会は同年12月、準備委員会の活動期限を更新し、全権大使会議の開催を1998年と定めた。1997年2月に準備委員会第3会期がニューヨークで開催された後、第4会期が同年8月、第5会期が同年12月、最後の第6会期が今年3月-4月にそれぞれ招集された。
 準備委員会は、国際社会にとって最も重大な罪を犯した者を裁く権限を有し、国内刑事管轄権に対して補完的な役割を果たすべき、恒久的な法廷の創設に関する法律規定13部116条からなる国際刑事裁判所規程案を提出し、会議の検討を仰いだが、そこには見解の不一致を示すカッコが1、500以上も付されていた。

 

役員、メンバー

 会議の議長はジョバンニ・コンソ氏(イタリア)が務めた。副議長は、アルジェリア、ブルキナファソ、ケニア、マラウイ、ナイジェリア、ガボン、エジプト、タンザニア連合共和国、日本、サモア、中国、インド、パキスタン、バングラデシュ、イラン、ネパール、ラトビア、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、ロシア連邦、スロバキア、コスタリカ、チリ、コロンビア、トリニダード・トバゴ、ウルグアイ、オーストリア、フランス、ドイツ、スウェーデン、英国および米国が務めた。
 会議の全体委員会議長は、フィリップ・キルシュ氏(カナダ)が務めた。パキソ・モチョチョコ(レソト)、シルビア・フェルナンデス・デグルメンディ(アルゼンチン)およびコンスタンチン・ビルジル・イバン(ルーマニア)の各氏が副議長を、長嶺安政氏(日本)が報告官をそれぞれ務めた。
  会議の起草委員会議長は、シェリフ・バシウーニ氏(エジプト)が務めた。その他、カメルーン、中国、ドミニカ共和国、フランス、ドイツ、ガーナ、インド、ジャマイカ、レバノン、メキシコ、モロッコ、フィリピン、ポーランド、韓国、ロシア連邦、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スーダン、スイス、シリア、米国、英国およびベネズエラが起草委員会のメンバーとなった。
  会議での国連事務総長代表は、ハンス・コレル法務担当事務次長兼国連法律顧問が務めた。
  会議は、すべての国連加盟国、専門機関のメンバー、および、国際原子力機関のメンバーに開放された。