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参考資料
淡水:実地の活動

プレスリリース 03/017-J 2003年03月05日

飲料にしたり、入浴したり、料理をしたり、掃除をしたり、食物を育てたり、エンジンに燃料を供給したり、生態系を支えたり ―― 水は生活にとって欠かせないものです。しかし、水はすべての人々にとって簡単に手に入るわけではありません。世界でもっとも貧しい人々の中には、水を一杯飲んだり、スープを一杯作ったりするだけのために、暗いうちに起き、時には何キロも歩いて、バケツ一杯の水を汲みに行かなければならない人々もいます。10億人を超える人々が、このような苦労をともにしています。安全な水が簡単に手に入らないため、貧しい人々、特に女性と少女は、水汲みに多くの時間を費やすのです。場所によっては、汚染と環境破壊により、水不足と水質悪化が同時に進行しています。水の供給と衛生施設の不備により、水関連の罹病率は高くなり、経済発展の選択肢は制限され、政治的緊張や内紛が起こります。つまり、水がなければ、成長は止まってしまうのです。
 
 持続可能な開発において、水は死活的に重要な役割を果たすことに対する認識は高まっているものの、競合する需要を満足させるためには、調整の取れた行動と多額の資金が必要です。政府、国際機関、地域社会、市民社会および全世界の企業は、ニーズに応えるため、革新的なプロジェクトに乗り出しており、このような障害が克服できることを立証しています。問題はしばしば、外部の支援と現地での参加をうまく組み合わせて資金とノウハウを生み出し、こうした取組みを軌道に乗せるには、どのようにしたらよいかという点にあります。国連は、政策の指針、技術的助言、および、得られた教訓を共有できる場を提供するだけでなく、これらプロジェクトの多くで重要なパートナーとなっています。以下では、実地での活動の一部をご紹介します。
 
雨水集水:ケニアにおける女性のエンパワーメント
 マサイ族の女性たちは画期的な新しい干ばつ対策イニシアチブに参加しています。これは清潔で安全な水を探し、十分に集めるための時間を大幅に短縮できるようにするものです。このプロジェクトは、特別の安価な容器を用いたり、「地中皿」と呼ばれる小さな貯水池を掘ったりして、雨水を集めるものです。これにより女性たちは、何キロもの道のりを歩くことなく、新鮮で汚れていない水をその戸口で手に入れることができます。
 
 このプロジェクトは、スウェーデン政府が資金提供する国際的イニシアチブの一環として発足しました。その実施は、国連環境計画(UNEP)に代わってプロジェクトを開発したアースケア・アフリカが担当しています。ネパール、インドおよびブータン、それに太平洋の島嶼国トンガでも同様のプロジェクトが実施されています。
 現在までに、52万リットル以上の雨水を集水できる施設がケニア国内の3カ所に設置されました。小貯水池周辺の土壌は水分を含み、小規模作物栽培に理想的な条件にあるため、将来的にはこのプロジェクトから家庭菜園ができる可能性もあります。
 プロジェクトはまた、土地所有制の大変革が、マサイ族のような遊牧民の生活様式に影響を与えていることも浮き彫りにしています。カジアド地区では従来、マサイ族を中心とする住民が主に牧草地として土地を利用し、牧畜を営んできました。しかし、現在では土地が個人あるいはグループ所有の区画に分けられています。このような土地所有制の変革によって、地域住民は生活様式の多様化を強いられ、地域での安定的な水供給への圧力が高まっています。
よりよい灌漑法を求めて:バングラデシュからザンビアまで
 バングラデシュには、世界でもっとも貧しい人々が多く暮らしており、その資源は大きな圧力を受けています。1980年代前半、バングラデシュでは、数千人の農民がペダル型ポンプを利用して小さな家庭菜園の灌漑を始めました。このポンプは、足踏み式で井戸、浅い地下水層あるいは地表から水を汲み上げる単純ながら精巧な装置で、これによって、重いバケツを引きずって水を運ぶ必要はなくなりました。
 
 国連食糧農業機関(FAO)は、ペダル型ポンプを現地の条件に適応させ、かつ、現地で生産できるようにすれば、この技術がアフリカの農民をも助けることができると確信しました。国際農業開発基金(IFAD)の協力と非政府組織「国際開発エンタープライズ」からの援助により、ザンビアの地元メーカーは1996年、このポンプの生産・販売の訓練を受けました。小売業者のネットワークはすぐに全国に広がり、1,000台を超えるポンプが75ドルから125ドルで販売されました。ブルキナファソ、マラウイ、セネガルおよびタンザニア連合共和国でも、地元メーカーとの間で同様の事業がスタートしています。
 
水と農業:いくつかの事実

  • 利用できる淡水全体のほぼ70%は農業に利用されています。
  • 世界の農民による地下水の過剰な汲み上げは、自然の涵養率を少なくとも年間1,600億立方メートルを上回っています。
  • 農作物の生産には大量の水が必要です。1キロの米を生産するのに1~3立方メートル、1トンの穀物を生産するのに1,000トンの水が使われます。
  • 所得が増えるにつれて、人々は豚肉、鶏肉、牛肉および卵を多く消費するようになるため、飼料としてさらに多くの穀物が必要になります。1キロの豚肉を生産するのに穀物4キロ、1キロの鶏肉を生産するのに2キロの穀物がそれぞれ必要です。必要な穀物の量が増えれば、必要な水の量も増えます。

官民の資金で西アフリカの村落に水を
 総額ほぼ4,100万ドルの「西アフリカ水イニシアチブ」は、官民協力により、ガーナ、マリおよびニジェールの農村に飲料水と衛生施設の提供を図るものです。このイニシアチブは、コンラッド・N・ヒルトン財団(7年間で1,800万ドルを拠出)、USAID、ワールド・ビジョン、ユニセフ、ウォーターエイド、ライオンズクラブ国際財団、砂漠研究所、ウィンロック・インターナショナル、コーネル大学国際食糧農業開発研究所および世界塩素会議によるパートナーシップとなっています。
 
 これらのパートナーは2008年までにガーナ、マリおよびニジェールの少なくとも800カ所に井戸、100カ所に代替的給水施設、それに9,000カ所に便所を設置する予定で、これによる裨益人口は50万人を超えます。さらに、数千人の成人、子どもおよび教員が、安全な衛生習慣に関する教育を受けることになっています。
 
揚子江の洪水防止
 1998年、全長6,300キロでアジア最長の大河、揚子江で大規模な洪水が発生しました。その被害面積は2,578万平方キロメートルに及び、3,656人が死亡しました。この洪水により、570万軒の家屋が押し流され、さらに700万軒が損傷を受けたほか、1,400万人近くの人々が避難を余儀なくされました。農業などの産業に対する経済的な損失は310億ドルにも上りました。UNEPは大雨の影響を大きく増幅させた環境要因として、森林破壊と過剰放牧による森林と草地の保水能力の大幅低下、湖沼と湿地帯の消失による中・下流域での貯水能力低下、および、浸食率の上昇による揚子江流域の河川と湿地帯への土砂堆積、の3つを明らかにしました。
 
 中国の国家環境保護局(SEPA)とUNEPの調整により、消失した数千カ所の湖沼と自然排水システムを復旧させる1,000万ドルのプロジェクトが発足しました。揚子江の河岸と流域には4億人が暮らしていますが、このプロジェクトは、揚子江が長引く大雨に耐える力をつけることをねらいとしています。プロジェクトは試験段階を終え、2003年半ばには本格的な活動に入る予定ですが、揚子江の上・中流域の自然林、草地およびその他重要な生息地を回復し、土壌の侵食と河床への堆積を減少させることも計画されています。専門家は、このようなやり方で揚子江の容量を増大できるだけでなく、大気中から二酸化炭素を吸収することで、地球温暖化対策にも役立ち得ると考えています。
 
 1998年の洪水以来、いくつかの重要な措置も講じられています。四川省では、樹木の伐採が禁止され、伐採者は植林あるいは森林育成事業で再雇用されました。この計画は森林破壊や浸食がもっとも起こりやすい険しい山腹地帯での不適切な農業によって劣化した土地を対象としています。農民には所得補償が行われています。
 
エジプトでの湿地帯設計
 エジプトでは、都市、工業および農業に起因する堆積物と汚染物質がナイル川の水質を悪化させ、数百万人の健康と生計、さらには地中海の生態系に脅威を与えています。マンザラ湖湿地帯設計プロジェクトでは、金銭的に妥当な比較的単純かつ効率的技術を用いて、堆積物と汚染物質が2エーカーの区域に封じ込められています。この総額450万ドルのプロジェクトに対しては、国連開発計画(UNDP)と地球環境ファシリティー(GEF)が支援を行っています。
 
水の消費:いくつかの事実

  • 水の利用という点では、大きな貧富の格差が存在します。先進工業国の人々は毎日、平均で400~500リットルの水を使います。開発途上国の人々については、家から歩いて1キロ以内の場所で1人1日当たり20リットルの水を手に入れられれば、淡水を利用できる状態にあると見なされます。多くの場所には、これに満たない水で生活しなければならない人々がいます。
  • 先進地域でトイレを1度流せば、開発途上地域で1人が1日平均で洗濯、掃除、料理および飲用に使うのと同じ水量が使われることになります。
  • ケニアのナイロビにあるキベイラ・スラムで生活する人々は、1リットルの水に対し、平均的な米国市民の5倍に当たる金額を支払っています。

メキシコの製糖工場における水の再利用
 サトウキビからの製糖工程には大量の水が使われることがあります。メキシコのハリスコ州にあるサンフランシスコ・アメカの工場では、1トンの砂糖を生産するのに111立方メートルもの水が使われていました。国連工業開発機関(UNIDO)が運営するクリーンシュガーテク・プログラムによる徹底的な再検討を受けて、水を再利用し、無駄を最小限に抑える措置が講じられました。これにより、水の消費量は砂糖1トン当たり5立方メートルと、正味93%以上も削減されました。さらに、排水中の汚染物質も20%削減されました。この工場では毎年、収穫の時期に4,800トンのサトウキビが加工され、1日約500トンの標準的砂糖が生産されることを考えれば、その効果は大きいといえます。閑散期には、プロセス廃水の下水からの分離、廃液への油脂混入量の削減、水を蓄え、再利用するための冷却槽設置など、一連の技術的改善が行われました。
 
健全な将来のための衛生施設:いくつかの事実

  • 中国、インドおよびインドネシアでは、下痢性疾患で死亡する人々がHIV/エイズによる死者の2倍に上っています。
  • 過去10年間に下痢性疾患で死亡した子どもの数は、第2次世界大戦以来、武力紛争で死亡した人々の合計を上回っています。
  • 世界全体の住血吸虫感染者2億人のうち、約2,000万人が深刻な症状に陥っています。住血吸虫症は今でも74カ国で見られます。調査によれば、水道と衛生施設の改善により、感染者が77%も減少した地域があります。
  • 2050年までに世界人口がさらに50億人増えることを考えれば、毎日38万3,000人に新たに下水施設を提供する必要があります。

マラウイの村では淡水に投資
 地方の統治を強化するという、より幅広い目標を支援するために、国連資本開発基金(UNCDF)とUNDPはマラウイ政府との協力により、地区レベルにおける資本投資の参加型計画策定と資金調達に関するパイロット・プロジェクトを策定しました。同国西部のムチンジ地区にあるマリザニ村の開発委員会は、地区開発基金(District Development Fund)からの資金の一部を新たな淡水システムに利用する決定を下しました。きれいな水を利用できるようになったばかりでなく、マンザニ村民の暮らしは多くの意味で改善されました。村の開発委員会議長を務めるエレン・サンガ氏は「病気が少なくなり、衣服がきれいになり、皆の顔が幸せそうになった」と語っています。
 
南アフリカの成功例
 南アフリカで新たな民主政権が誕生した1994年、4,200万人の国民のうちおよそ1,400万人は、清潔な飲料水を利用できませんでした。1996年の憲法では、十分な水へのアクセスは人権であることが宣言され、金銭的に利用可能な基本的水供給を確保するため、地方自治体に補助金が支給されました。2001年までに、清潔な水が利用できない人々は700万人にまで減少しました。南アフリカの水問題・森林大臣によれば、現在の目標値が達成できれば、2008年までに国民全員が清潔な水を利用できるようになります。
 
 衛生施設に関する措置はこれほどの成功を収めていませんでしたが、2000年のコレラ蔓延が起爆剤となりました。40万人を対象として4万9千カ所に便所が設置されたほか、2010年までに衛生施設を完全普及させるという野心的な目標値が採択されました。保健、教育、住宅、公共事業、地方自治体および環境問題に関する取組みを調整する部門横断的アプローチが取られ、そのための公共支出も大幅に増額されました。女性運動、NGOおよび現地企業の動員も行われました。衛生に対する意識と一般市民の態度の変化は、水系伝染病の蔓延予防に不可欠なものとして認識されるようになりました。
 
 南アフリカの例に着想を得て、アフリカ発展のための新パートナーシップ(NEPAD)と地域機関を通じ、この経験をアフリカ全体に広げようとする試みも行われています。
 
水資源の共有:いくつかの事実

  • 複数の国の政治的国境にまたがる流域を有する河川は263本に上ります。これら国際流域は地球の地表全体の45.3%を占め、その影響は世界人口の約40%に及んでいるほか、地球上の河川流量に占める割合もおよそ60%となっています。
  • 領土に国際流域を含む国々は145カ国に上ります。その領土全体が国際流域に属する国も21カ国あります。
  • 5カ国以上が流域を共有する河川は19本あります。中でも、ドナウ川の流域は17カ国に及んでいます。
  • 紛争の潜在的可能性があるにもかかわらず、過去50年間に暴力が絡む激しい紛争は37件しか発生していません。同じ時期に、157件の条約に関する交渉と署名が行われました。紛争は一般的に、部族、水を利用する部門あるいは州/省の間で生じています。近代になってから、水資源獲得戦争は起きていません。事実、歴史上唯一の実質的「水戦争」の例は、4,500年前にチグリス・ユーフラテス川流域の都市国家ラガシュとウンマの間で生じた紛争にまで遡ります。

「万人に水と衛生を(WASH)」イニシアチブ
 「万人に水と衛生を(WASH)」キャンペーンは、安全な水を利用できない11億人の人々、および十分な衛生施設を持たない24億人の人々の苦難に終止符を打つために政治的意識、支援および行動を動員する協調的な唱道とコミュニケーションのキャンペーンです。WASHは、水道・衛生インフラ整備プロジェクトを成功させるために必要な補完的要素として、少女の教育を重視しながら、学校の子どもたちとコミュニティに基本的な衛生教育を行うことを主眼としています。WASHは国連経済社会局を通じた水供給・衛生施設協力会議(WSSCC)の調整により、30カ国以上で活動を行っています。
 
ナイルの水の共有
 数カ国を流れる河川の水資源をどのように分配すべきか。これは、国家主権の問題が絡む極めて複雑かつ政治的に慎重を要する課題です。ナイル川流域を共有する国々については、ナイル川の公平かつ正当な利用に道を開く、受入れ可能な枠組みを定める目的で、UNDPの支援によるプロジェクトが行われています。現在も継続中の同プロジェクトは、総額320万ドルで1997年にスタートしたもので、一連の対話とワークショップを開催しています。国別報告を作成するため、法的・制度的問題とデータ・技術的問題に取り組む2つの研究グループが結成されました。枠組み案では大きな歩み寄りが見られましたが、重要な問題がいくつか積み残されています。UNDPが明らかにしたところによれば、対話の確立、資源を共有しなければならない国々によるプロセスのオーナーシップ、および、関与する外部機関に対する長期的な信頼が、国境を越える水資源問題解決の鍵を握っています。
 
 水道・衛生施設プロジェクトについてさらに詳しくは、www.un.org/worksをご覧ください。
 
 
 
(国連広報局 DPI/2293C-December2002)