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貧困対策の具体的行動計画、明らかに

プレスリリース 04/013-J 2004年01月22日

国連ミレニアム・プロジェクト、「開発への投資」報告書をアナン事務総長に提出
2015年のミレニアム目標達成に向けた費用効果的計画、と専門家も歓迎

世界屈指の開発専門家265人からなる精鋭チームは2005年1月17日、地球的な貧困、飢餓、病気に関するこれまででもっとも包括的な対策戦略として、多くの具体的かつ費用効果的措置のパッケージ案を提示しました。これらの措置がすべて実施に移されれば、2015年までに極度の貧困を半減し、貧困開発途上国に暮らす10億人以上の生活を根本的に改善できると見られています。

国連事務総長の独立諮問機関である「国連ミレニアム・プロジェクト」の提言は報告書「開発への投資:ミレニアム開発目標達成のための具体的計画」にまとめられています。報告書は同日、コフィー・アナン国連事務総長に提出されました。アナン国連事務総長は、国際社会と国連システムが、極度の貧困との闘いを2005年の最優先目標とすべきだと述べました。

3年間にわたり国連ミレニアム・プロジェクトの特別顧問を務めたエコノミスト、ジェフリー・D・サックス教授は「これまで、ミレニアム開発目標達成のための具体的計画はなかった。この一大事業に参加した専門家たちは間違いなく、目標の達成がまだ可能なことを示したのです。ただし、そのためには、この計画をすぐに実行に移さなければなりません」と述べました。

国連ミレニアム・プロジェクト報告書は、アジアの津波災害により、全世界の貧困層に対する援助の必要性や規模そして効果にグローバルな関心が集中している時期に発表されました。大津波の悲劇に対する極めて寛大な対応は、豊かな国々の一般市民が実際、このような援助を支持しているのだという強力なメッセージを送りました。それにはしかし、一般市民が援助の必要性をしっかりと把握するとともに、援助資金に苦しむ人々の手に届き、その助けとなることを確信できなければなりません。プロジェクトの計画では、こうした当然の懸念に取り組んでいます。そして、保健や教育、インフラといった不可欠な公共サービスに照準を絞った投資により、貧しいコミュニティがこのような災害や病気、飢餓、環境破壊などの問題に立ち向かえるようになることを示しています。

今年はミレニアム目標実現に向けた一連のグローバルイニシアチブが予定されていますが、プロジェクト報告書はその先陣を切るものです。3月には、事務総長が国連加盟国に報告書を提出することになっており、この報告書に、プロジェクトの提言が多く盛り込まれる予定です。さらに7月にはG8サミットで、9月には国連で、それぞれ世界の指導者が一堂に会し、目標達成に向けた前進を図ることから、貧困と病気への対策に向けた国際的支援を動員するうえで、2005年は鍵を握る年になったといえる、と国連関係者も強調しています。

「プロジェクトチームによる開発論議への貢献は、国連システムからのものとしては20年ぶりの規模になった」と語るのは、国連開発計画(UNDP)のマーク・マロック・ブラウン総裁。国連開発グループ(UNDG)の座長も兼任し、事務総長の次期首席補佐官にも内定しています。UNDPはUNDG全体を代表して、プロジェクトへの拠出と支援を行いました。

「プロジェクト報告書は、9月にニューヨークで開かれるミレニアム+5サミットの場で、グローバルな貧困削減と安全保障との『大取引』に対する世界的な支持を取り付けるのに役立つ」とマロック・ブラウン氏は述べています。「豊かな国も貧しい国も、開発途上国の貧困根絶を目指す政策改革と本格的な取り組みを、先進国が約束した貿易・債務面での譲歩と援助の早期実施によって具体化するのだという決意を固める必要があります。事務総長の脅威・挑戦・変化に関するハイレベル・パネル報告書とともに、この報告書は、安全保障と開発という重要な相互連関的課題の克服に向け、世界が新たなスタートを切る契機となるものです」

プロジェクト報告書の要点と主な提言は、以下のとおりです。

  • 具体的計画:2000年、各国の指導者は国連に集まり、2015年までに極度の貧困を半減させることで合意しました。プロジェクトの調査は、この目標がまだ達成可能であることを示すだけでなく、どのように達成できるかを技術的見地から、詳しく厳密に述べています。
  • 金銭的にも実現可能:プロジェクト専門家はこの種のものとしては初の詳細な見積りを行った上で、先進工業国の総所得のうちわずか0.5%を投資すれば、目標が達成できると結論づけています。この金額は、豊かな国がすでに達成を約束している国際援助目標値の枠内に十分収まるものです。
  • ガバナンスの重要性:目標を達成するためには、ローカル・レベルで政策を改革するとともに、国が最貧層援助に本腰を入れて取り組むことが不可欠です。
  • 貿易と民間資本の拡大:どの開発途上国でも、これらは持続可能な成長の鍵を握る要素です。しかし、最貧国はまず、道路、港湾、診療所、学校などの不可欠な公共インフラを整備し、疾病予防や教育、栄養、職業訓練への投資を通じて労働力の健康増進とスキル向上を図るための援助を受けなければ、貿易と投資の機会を活用できません。
  • 成功への近道:プロジェクトリーダーたちは、困窮し、しかも援助を効果的に利用できることが認められている国々に対し、直ちに集中的援助を提供することを強く促しています。その先頭に来るのは、重債務貧困国(HIPC)イニシアチブで、すでに債務軽減資格を有する「優先(Fast Track)」国と、米国政府が新たに設けた「ミレニアム挑戦会計」で援助対象とされている国々です。
  • 政府だけでは無理:成長と雇用創出を確保しながら、貧困層へのサービスを実施するという課題に立ち向かうためには、官民と市民社会の幅広いパートナーシップが必要だ、と報告書は主張しています。裾野を広げることが成功への鍵になるのです。例えば、女性団体や市民団体が経済や政治の表舞台に立てなければ、目標は達成できないでしょう。
  • 質の高い援助:援助の量的な増大は不可欠ですが、質の高い援助も同じく重要です。プロジェクトの作業部会は公共衛生や教育、経済開発への効率的かつ効果的投資に向けた詳細な計画を策定しています。こうした支出を現状で「前倒し」実施すれば最終的に、数十億ドルの資金が節約できるだけでなく、数十億人の命を救うことができるとの説得力のある議論を展開しています。
  • 「即効策」:先進国、途上国は直ちに、少ないコストで数百万人の命を救えるという意味で「即効策」といえる一連の活動に着手すべきです。具体的には、無償の学校給食、病院・学校用の小型ディーゼル発電機あるいは太陽発電機、抗HIV薬、単価5ドルのマラリア防止用蚊帳などの提供があげられます。

報告書がもっとも重視しているのは、協調的な取り組みにより、このような支援を十分な規模で提供し、国レベル、さらにはグローバル・レベルでの効果を確保するという点です。

「私たちの世代で極端な貧困を終わらせることはできる」とサックス氏は断言します。「単に貧困を半減させると言っているのではありません。本気で努力すれば、2025年までに極端な貧困をなくせるのです」

プロジェクト参加者はまさに、開発研究者と実務者の「人名録」の様相を呈しています。具体的には、前メキシコ大統領のエルネスト・セディージョ氏、インドネシア貿易相のマリ・パンゲストゥ氏、世界食糧賞を受賞したM・S・スワミナタン氏、ナイジェリア教育省「全ての人に教育を」プログラム調整官のアミナ・J・イブラヒム氏、マッカーサー・ジーニアス賞と世界食糧賞を受賞したペドロ・サンチェス氏、ルワンダ国家エイズ対策委員会事務局長のアグネス・ビナグワホ氏、コロンビア大学マラリア・プログラム部長のアワッシュ・テゥクルハイマノット氏、世界自然保護連合会長のヨランダ・カカバドス・ナバロ氏、アフリカ水作業部会議長のアルバート・M・ライト氏、世界工学団体連盟会長の李怡章氏、全国連生物多様性条約事務局長のカレストス・ジュマ氏などがあげられます。プロジェクトの成果には、教育からマラリア、飢餓といった諸分野の作業部会が個別に作成した13の広範な報告書も含まれています。

プロジェクトの調査結果や報告書は、世界銀行や国際通貨基金(IMF)など、他の主要機関の専門家にも提出され、審査と提言を受けています。
報告書は、現行の国際的な開発システムについて、焦点が定まらず非効率的であることが多いとしたうえで、その抜本的見直しを求めています。プロジェクトの調査によれば、1ドルの国際援助のうち、極度の貧困や飢餓、疾病の緩和を目指す貧困国での投資プログラムの現場に届くのは、わずか30セントに過ぎません。専門家は、援助を一元化し、それを現地で戦略的に使うことにより、より効果的かつ安価な支援ができるのではないかとしています。報告書執筆者の試算によれば、低所得国に対する二国間援助のうち、ミレニアム開発目標達成のために必要不可欠な現場での投資に利用されているのは、実際のところわずか24%に過ぎません。多国間援助については54%となっていますが、これもまだ十分とはいえません。

「開発への投資」の執筆者たちは次のように述べています。「問題は、援助がうまくいくかどうかではありません。十分かつ的を射た援助がうまくいくという証拠は十分にあります。問題はいつ、どのようにして、どの国にどれだけの額の援助が行われているのか、という点にあります」

国連ミレニアム・プロジェクトでは、極度の貧困の中で暮らす人々が集中する国々を調査して、飢餓や教育、男女平等、保健、水と衛生、スラム、エネルギー、道路といった課題に対応するために、どれだけの投資が必要かを算定しました。低所得諸国では、投資額を2006年に一人あたり70~80ドルへ、2015年には一人あたり120~160ドルへと増額しなければなりません。中所得諸国については、十分な債務軽減措置と専門的な技術支援が必要となる場合も多いものの、この程度の投資資金は概して独自に調達できるでしょう。しかし、さらに貧しい国々は国内資源だけで十分な対応ができません。外部からの資金調達で、この不足分を埋めなければなりません。

プロジェクトリーダーたちは、「大胆な行動の10年」を呼びかけ、次のような指針を提示しています。

  • 開発途上国は目標達成に向け、積極的な国家開発戦略を採用するとともに、これに伴い、具体的な政策改革や、投資ニーズと資金調達オプションの詳細なアセスメントを実施すべきです。
  • 高所得国は開発途上国の輸出産品に対して自国市場を開放しなければなりません。また、インフラ整備や、貿易促進、科学技術分野への投資を通じ、最貧国の輸出競争力強化を援助すべきです。報告書執筆者は、ドーハ開発ラウンドを2006年までに完了させることを強く求めています。
  • アフリカ連合(AU)などの地域グループは、域内貿易と複数の国にまたがるインフラ(道路・エネルギー・通信)の整備を促進し、環境マネジメントを強化すべきです。援助機関はこれらの重要な地域プロジェクトに対する資金供与を増額すべきです。
  • 国連事務総長は国連諸機関の調整を強化し、国際レベルと国内レベルで目標の達成を支援すべきです。
  • 目標達成のためには、先進国からの援助額を、2006年には国民総生産(GNP)の0.44%へ、2015年までには0.54%へと増加させる必要があります。ただし、この数字は2002年のモンテレー開発資金会議で世界の指導者が再確認したGNPの0.7%というグローバルな目標値を下回るものです。
  • 途上国への支援が必要な重要分野でも、ミレニアム開発目標の枠組みから外れる多くのものについては、プロジェクトの試算に含まれていません。具体的には、将来の大規模インフラ整備プロジェクト、気候変動に対応する支出増額分、紛争後の復興、その他地政学的優先分野などがあります。国際援助額を2015年までにGNPの0.7%に引き上げるとする長期的目標は、2002年のモントレー会議でも再確認済みです。プロジェクトリーダーたちは援助国に対し、これを達成するための取り組みを実施、継続、加速するよう強く求めています。
  • 報告書執筆者たちは絶対額として2006年の開発援助総額を現状の確定額より480億ドル増額し、1,350億ドルとするよう豊かな国々に求めています。この金額は、全世界の軍事費の約5%に過ぎません。さらに2015年までに、年間援助額を1,950億ドルにまで引き上げるべきです。
  • この援助追加分には、保健、農業、エネルギー、環境マネジメントおよび気候研究を中心に、貧困層向けの科学技術促進を目的とする援助を含めるべきです。この援助は当初50億ドルとしながら、2015年までに年間70億ドルへと増額する必要があります。
  • 国連ミレニアム・プロジェクトは英国が提案する「国際金融ファシリティ(IFF)」を、2005年における開発資金調達における突破口として支持しています。IFFは2015年までに開発援助の倍増を図るもので、具体的には、援助機関による長期的援助の約束を担保とする債券を発行し、資本市場から追加的資金を調達するという仕組みとなっています。しかし、具体的な資金調達方法の選択は各援助機関に委ねられています。いずれにせよ、新しい資金を迅速に利用できるという点が重要です。

ミレニアム開発目標:グローバルな安全保障への保険
ジェフリー・サックス教授は、「最貧国を貧困の罠から解き放つことは、私たちの安全保障にとっても緊急の課題だ」と述べています。「人々が食糧や医療、安全な飲料水、よりよい未来をつかむチャンスを欠いていれば、その社会は不安に陥り、それが世界の他の地域にも波及する恐れが大きいのです」

2015年の目標達成までに10年しかないことを考えれば、残された時間は少ないといえます。しかし、報告書によれば、目標の達成はグローバルな公正や人権を確保するうえでの課題であるばかりでなく、グローバルな安全保障にとっても不可欠な条件です。専門家たちは「貧困と飢餓を抱えた社会は高所得社会に比べ、乏しい生活資源をめぐる紛争に陥る恐れが大きい」と主張。暴力的紛争、情勢不安、テロの終結に向けた国際社会の取り組みの中心にミレニアム開発目標を据えるべきだとしています。

報告書はその一方で、資源を効果的に活用する必要があると警告し、良いガバナンスを実践しながら透明な予算編成に本格的に取り組んできた開発途上国に、特別な配慮を行うことを強調しています。報告書によれば、改革を進め、最貧層の利益に真剣に取り組んでいることを実証してきた低所得国は、数十カ国に上ります。

「腐敗した指導者が治める無法国家は保健や教育、道路に投資する能力がない」とサックス氏は述べました。「増額された国際支援は、良いガバナンスを立証した国々、すなわち経済を開放し、政治制度を改革し、腐敗と闘おうと努めている国々に向けられるべきです」

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