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潘基文(パン ギムン)氏による
第8代国連事務総長任命受諾演説
(2006年10月13日、ニューヨーク)

プレスリリース 06/070-J 2006年10月26日

議長、
事務総長、
各国代表の方々、
皆様、

私はこの壇上で、皆様の温かい祝福と歓迎の言葉に、深い感動と意欲を感じています。私を信頼していただいた加盟国の皆様に対する限りない感謝と、この信頼に応えなければならないという固い決意とともに、私は、国連という偉大な組織の第8代国連事務総長への任命を、厳粛に受諾いたします。また、強力なご支持をいただいた加盟国の指導者と国民の皆様に対し、心から尊敬と謝意を表明したいと思います。

本日の会合を入念に準備し、導いていただいた議長に感謝いたします。私は、今次総会を賢明に運営し、成功に導こうとする議長を支援し、協力していくことをとても楽しみにしています。

議長、

私の先輩たちは、いずれも優れた指導者でした。それぞれの就任は、国連史上において大きな転機となってきました。本日の私と同様、前任者の方々も、この先の数年間、国連という激動を重ねる機関のトップを一体何が待ち受けているのか、じっくりと考えたに違いありません。そして、それぞれが、人類の最も深遠な価値と最高の願望を堅持するという私たちに共通の取り組みに、重要かつ恒久的な貢献を果たしてきたのです。

特に、アナン事務総長は優れた手腕により、国連を21世紀へと導かれました。事務総長が設定された野心的な課題により、国連は世界の平和、繁栄、そして人間の尊厳にとって真に欠かせない存在となりました。事務総長の勇気と展望は、私たちにとって計り知れない財産となったのです。私は事務総長の遺産を引き継ぎ、これをさらに豊かにしていく決意です。

各国代表の方々、

皆様は、次期事務総長の任命をスムーズに完了することにより、かつてない機会を与えてくださいました。新任の事務総長が十分な準備期間を得たのは、これが初めてのことです。私は皆様から、2カ月を越える猶予をいただきました。私はこの時間を活用し、改革と活性化という私たちに共通の取り組みのあり方につき、幅広く協議してゆく所存です。皆様の懸念、期待、そして忠告には、しっかりと耳を傾けたいと思います。

各国代表の方々、

私は40年前、世界への奉仕に能力を発揮されたウ・タント氏に続き、アジア出身者として2人目の事務総長に就任できることを、極めて光栄に思います。皆様が創立70周年を迎えるまでの10年間、国連を指導する次期事務総長を再びアジアに求められたことは、まさに的を射ているといえます。アジアは活力と多様性に満ちています。そしてアジアは、世界のためにさらに大きな役割を果たしたいと望んでいます。これまでに急成長を遂げ、今も発展を続けるアジア地域は、現代の成果と課題の受け手であるとともに、その送り手でもあるからです。

アジアはまた、謙虚さを美徳とする地域でもあります。しかし、この謙虚さは態度についていえることであり、展望や目標には当てはまりません。決意や指導力が足りないという意味でもありません。むしろそれは、粛々と事を進めていくという、不言実行型の決意を意味します。これはアジアの成功の鍵であると同時に、国連の成功の鍵であるともいえるのではないでしょうか。事実、国連が使える手段は限られていても、その価値は無限です。私たちは言葉を慎むべきであるとしても、決して成果を慎むべきではありません。国連の成功を測る真の尺度は、どれだけのことを約束するかではなく、私たちを最も必要としている人々にどれだけのことができたかという点にあります。国連の目的が不変であり、その原則に人々を鼓舞する力があることを考えれば、国連への賛辞を大声で叫んだり、その美徳について説教したりする必要はありません。こうした美徳はステップごと、プログラムごと、そしてマンデートごとに、当然のこととして粛々と実践してゆくのみです。

議長、

国連のサービスに対する要求の急激な高まりは、国連に不変の意義があることだけでなく、人間の尊厳を高める上で、国連が中心的な位置を占めていることを物語っています。国連は今、これまで以上に必要とされています。20世紀の国連は、国家間の戦争を防ぐことを中心的な任務としていました。新世紀の決定的な任務は、新たな課題の中でさらに人類の役に立てるような形で、国連という国家間システムを強化することにあります。バルカンからアフリカ、さらにはアジアから中東に至るまで、私たちは実効的なガバナンスの弱体化または欠如が、人権を踏みにじり、従来の人道原則の放棄へとつながるさまを目の当たりにしてきました。国連創設の主役である「われら人民」のニーズを満たすためには、能力と責任を備えた国家が必要です。また、国連を支える3本柱である平和、開発、人権を等しく精力的に前進させない限り、世界の人々への奉仕は不十分といえるでしょう。

万人に平和、繁栄、尊厳を確保できる世界に向け、私たちが歩まなければならない道には、多くの落とし穴が待ち構えています。私は事務総長として、国連憲章によって認められた権限と、皆様から与えられた委任を十分に活用していく所存です。また、最も弱い立場に置かれている人々を保護するという私たちの責任を全うし、国際の安全や地域の安定に対する脅威を平和的に解決すべく、熱心に取り組んでいきます。

議長、

このような委任の拡大と期待の高まりに応えるため、私たちは国連史上、最も大がかりな改革に取り組んでいるところです。その規模の大きさゆえ、各国代表団も事務局も、国連改革に多くの関心とエネルギーを注いできました。しかし、私たちはこれを最後までやり遂げなければなりません。人的、制度的、知的資源を寄せ集め、これらを適切に組織する必要があります。ミレニアム開発目標(MDGs)、平和活動の拡大、テロリズムや大量破壊兵器(WMD)の拡散、さらにはHIV/エイズその他の感染症蔓延による脅威、環境破壊、人権上の責務などへの取り組みにも、相応の役割を果たすべきです。

改革は他人を喜ばせるために行うものではなく、国連の本来の意義を大切に守るために行うものだということを忘れてはなりません。将来を信じるからこそ、改革が必要なのです。私たちに共通の取り組みを再び活発化させるということは、国連のプログラムや目的だけでなく、相互に対する信頼も新たにすることに他なりません。組織に対してだけでなく、自分たちに対しても、さらに大きな要求を突きつけるべきです。不信という霧の中を進むためには、さらに緊密な対話が必要です。一気にすべてを変えることはできません。しかし、賢明な選択と透明、柔軟かつ誠実な協力を行えば、一部の領域での前進がさらに幅広い分野での前進につながることでしょう。国連を再び活性化できるのは加盟国だけです。しかし、私には常に、必要に応じた支援と促進の役割を担う用意があります。

議長、
各国代表の方々、
皆様、

私は事務総長として、オープンで責任ある国連運営を行っていく決意です。そして、自由なアイデアや批判の交換を通じ、コンセンサスの構築に努めます。

アイデアや提案に関し、真に率直でオープンな議論を行わない限り、世界の人々に対する奉仕のあり方を突き止めることは難しいでしょう。

私は、あらゆる利害関係者のお役に立てるよう、精力的な活動に努めます。特に、国連を一層人々に近づけるための取り組みの一環として、私は市民社会に対話の道を歩ませるよう、全力を尽くしていく所存です。また、人道援助機関、財界、そして世界のその他市民社会要素に対し、援助と参加を働きかけていきます。それが国連のためにもなるからです。

私の任期中には、橋渡しと格差縮小に向け、たゆまぬ取り組みが行われることになるでしょう。分裂を拒み、唐突な指令を極力避けるという、調和のとれた模範的リーダーシップは、常に私の役に立ってきました。ですから、事務総長就任後も、この原則を忠実に守っていきたいと思います。

私は事務局運営の全責任を負います。加盟国は委任の確定と資源の提供を行います。立ち向かうべき課題に対し、資源があまりにも少ないと感じた場合、私は躊躇なく、皆様にその旨を伝えていきます。しかし、事務局が一度、任務の受け入れを決定してしまえば、その遂行責任はひとえに私たちにあります。

議長、

私は世界でトップクラスの事務局に加われることを、とても楽しみにしています。男女を問わず、来る日も来る日も、時には危険や個人的犠牲に立ち向かいつつ、その能力と意欲、さらには勇気を発揮されている国連職員の方々を、私は尊敬し、称賛しています。私はこれら職員の方々に対し、最大限の支援、献身、そして連帯を誓います。

国連職員の誇りある遺産を守りつつ、最高水準のプロ意識と誠実性を厳しく求めていくことは、私にとって極めて重要な目標です。事務局改革のねらいは、罰則ではなく報酬を与えることで、職員の才能、技能、経験、そして意欲を十分な発揮と、適切な活用を確保することにあります。それはすなわち、努力と業績に報いることでやる気を起こさせ、各人にその活動または不活動の責任をとらせるとともに、特に上級職員レベルで、ジェンダーのバランス是正に努めることに他なりません。

このような指針に基づきながら、私は事務局職員を結集させ、国連が最大限の成果を引き出せるよう努めていきます。事務総長として力不足の部分もあると思います。ご列席の皆様からの惜しみない支援、協力、信頼が必要なことは間違いありません。しかし、私の心と力の限りを尽くし、皆様のお役に立っていくことだけはお約束できます。私は謙虚に、しかし最高のものを求めます。そして、自ら模範を示します。一度した約束は必ず守ります。それが私の処世訓です。私はこれを守り通しながら、すべての関係者の方々とともに、約束を守れる国連の実現に向け、取り組んでいく所存です。

議長、

私の心は、国連事務総長として私を派遣していただいた故国と、国民の方々に対する感謝の気持ちで一杯です。戦争にうちひしがれ、貧困にあえぐ韓国に暮らしていた少年時代から、この壇上に立ち、恐れ多いほどの責任をいただくまで、私には長い道のりがありました。この長旅を乗り越えられたのは、暗黒の日々に国連が私たち国民の味方となってくれたからに他なりません。国連は私たちに希望と生活の糧、そして安全と尊厳を与えてくれました。そして、よりよい道があることを教えてくれたのです。そこから長い距離と時間を経たとはいえ、私は今まさに、故郷にいるような気分です。

韓国の国民にとって、国連旗は今も昔も、将来が必ずよくなることを示す希望の灯です。この信念を裏づける話は枚挙にいとまがありません。事実、私にもそのような話があります。世界で冷戦の嵐が吹き荒れていた1956年、当時12歳の少年だった私は、母校の小学校から選ばれ、ダグ・ハマーショルド国連事務総長に宛てたメッセージを読み上げました。はるか遠くのアジアのある国で、自由と民主主義を求めて闘っている人々を助けてくださいというのが、その内容でした。そのメッセージにどんな深い意味があるのか、私にはわかりませんでした。それでも、困った時には国連が助けてくれるという思いはありました。

それから50年。世界ははるかに複雑になり、頼るべきアクターも多くなりました。私はその間、世界を何度も旅しました。そして、国連が数え切れない人々の生活を実際に改善していることを知り、勇気づけられました。その一方で、失敗の現場を目の当たりにし、心を痛めたこともあります。あまりにも多くの場所では、国連が無策であったり、行動を起こしてもあまりにも不十分だったり、遅すぎたりしたために、人々が落胆しているのを肌で感じました。私は今、この幻滅を消し去ろうと決心しています。

今日の少年少女たちの目に映る国連の姿が、自分たちのよりよい未来を切り開くために懸命に努力する国連の姿であってほしいと、私は心から願っています。事務総長として、私は子どもたちの希望を受け止め、その声を聞いていきます。楽天家である私は、国連の将来についても大きな期待を抱いています。よりよく、より多くを達成できる国連の実現に向け、ともに手を携えてゆこうではありませんか。

ご清聴ありがとうございました。