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第81回国連総会での アントニオ・グテーレス国連事務総長演説 (ニューヨーク、2026年9月22日)

プレスリリース 26-056-J 2026年11月02日

UN Photo/Loey Felipe

総会議長、各国代表の方々、皆様、

私たちの世界の溝が広がりつつあります。

亀裂は峡谷のように深くなりました。

この10年間に勃発した戦争は、壊滅的な被害を及ぼし、卑劣な残虐さをもって長々と続いています。

民間人が標的になりました。

人権が蹂躙されました。

飢餓が武器と化しました。

人道要員が殺害されました。

国際法はないがしろにされました。

地政学的分断が深まりました。

不平等が拡大しました。

信頼は揺らぎました。

気候危機は遠くからの警告から、日常的な現実へと変わりました。

そして人工知能(AI)は、その創造者さえも想定していなかった速さで進化しました。

これらは別個の危機ではありません。

それぞれが同じストーリーの一章を成しています。

それは力のストーリーです。

誰が力を持つのか。

誰が力を拒否されるのか。

力がどのように行使されているのか。

そして、力がどう変化しているのかという話です。

皆様、

力は根本的に、3つの形で変遷を遂げつつあります。

第1に、国家間で。

経済的、政治的、技術的な影響力の中心地が新たに台頭してきました。

第2に、政府から一握りの民間企業、そして個人へと異常な形で力が移行している様子を私たちは目の当たりにしています。

その影響力は今や、政治、経済、情報の流れ、技術開発、そして社会が依って立つ市民空間にまで幅広く及んでいます。

そして第3に、人間はますます大きな力を機械に委ねつつあります。AIエージェントが人を欺いたり、自律型致死兵器がSFの世界から抜け出て、軍事的現実と化していたりするのもその表われです。

しかし、私たちのグローバル・ガバナンスの機構や制度は依然として、はるか昔の力の実態と利害関係を反映しています。

私たちが抱える決定的な課題はそこにあります。

人類が未曽有の脅威が集中する状況に直面しているまさにその時に、私たちのコレクティブ・アクション(集団的な行動)の仕組みはますます大きな試練にさらされているからです。

皆様、

私たちが多極的な世界に向かって歩を進めていることは明らかです。

そして、この動きを逆転させることはできません。

しかし、多極性はさまざまに異なる形になり得ます。

一つの可能性として、分裂と取引中心の世界が挙げられます。

それは緊張が高まり、不信感が深まる世界であり、

市場が分断され、制度機構が弱体化する世界であり、

協力関係が縮小し、ゼロサムの勝ち負けの理論がはびこる世界です。

私たち現在、多くの意味でこの経路を進んでいます。

しかし、道はもうひとつあります。

ネットワーク型の多極化を目指す道です。

それは、相互依存に基礎を置き、経済、政治、社会、技術の緊密な網の目のようなつながりによって維持される世界であり、

国際法と共有されたルールという共通の枠組みの中で複数の影響力を持つ拠点が共存する世界です。

このような世界は、私たちが覇権的傾向や、私が「大いなる分断(Great Fracture)」と呼んだもの、すなわち、

世界が経済、技術、そして安全保障の体制を異にする2つの敵対的ブロックに分かれてしまうという状態を回避することに役立つ可能性があります。

ネットワーク型の世界とは、いかなる大国も独力で今日の課題を解決できないことを認める世界です。

もちろん、競争は国際関係を恒久的に特徴づける要因となり続けるでしょう。

しかし、競争がいつも対立を意味するわけではありません。

健全な競争はイノベーションを牽引し、レジリエンス(強靭性)を高め、機会を拡大できる可能性があるからです。

しかしそのためには、安定を維持するとともに、協力が不可欠な場合にこれを可能にする枠組みの中で競争せねばなりません。

ネットワーク型の未来の構築は、特に超大国が次のことを認識することから始まります。

つまり、その力は「超大」ではないこと、

そして、その力には限界があるということです。

近年の出来事は、この事実を疑いの余地がないほど明白にしています。

軍事力だけで平和を確保することはできません。

経済力だけで安定を実現することはできません。

そして、技術力だけで安全を保障することもできません。

ネットワーク型の多極的世界は、グローバルな問題をよりバランスの取れた、すそ野の広い形で解決するための条件を整備できます。

しかしそのためには、国連を中心とするバランスの取れた、すそ野の広い多国間システムが必要です。

それはすなわち、80年前の力関係ではなく、今日の世界における各国や経済の現状と、次第に変化するその相対的重要性を反映する実効的な機構に他なりません。

幸いなことに、私たちはゼロからスタートするわけではありません。

すでに拘束力を持つ基盤があるからです。

それこそが国連憲章であり、

その根拠となる諸原則、

すなわち国際法の優位性、

人間の尊厳の擁護、

そしてあらゆる次元での正義の追求なのです。

これらは、21世紀の実効的かつ正当な、責任ある力の行使に向けた基盤となるものです。

皆様、

すべては次の問題に帰着します。

それは、私たちは何によって力を律してゆくのか。法なのか、それとも武力なのか、

協力なのか、それとも強制なのか、

若者や将来の世代に対する責任なのか、それとも、彼らの運命に対する無関心なのか、という問題です。

なぜなら、私たちの時代を象徴する課題は、力の問題とは別物ではなく、

まさにそれを体現するものだからです。

そして、私たちがさらに深い分断や不安へと陥ってゆくのか、それとも協力や正義、集団安全保障に向けて前進してゆくのかを決定づけることにもなります。

今後を見据える時、私たちの未来は、次の4つの大きな力にまつわる試練に私たちがどう対処するかにかかってくるでしょう。

それは、戦争と平和を司る力、

富を集中させ、不平等を広げる力、

気候カオス(大混乱)や自然との闘いを激化させる力、

そして、人工知能(AI)によって解き放たれる力の4つです。

皆様、

力にまつわる21世紀の第1の大きな試練は、平和と安全に関するものです。

平和とは、単に紛争がない状態を言うのではありません。

それは、法律による力の抑制がある状態であり、

また、国連憲章に謳われているとおり、誰の命や権利、将来が優先されるのかを武力によって最終的に決めることはできないという認識がある状態を指します。

現在、この原則は大きな重圧にさらされています。

中東全域で紛争が連鎖しています。

いわゆる「停戦」も、実質的には「火力の低下」程度のものに過ぎず、民間人がその代償を払い続けています。

もうたくさんです。

私はこの議場にいる指導者に対し、今年のハイレベルウィークを緊張緩和と対話に最大限、活用するよう訴えます。

この議場から、明確なメッセージを発信しようではありませんか。

戦闘は止めなければならない、

人道支援は届かなければならない、

そして、航行の権利と自由は、国際法に基づき全面的に回復なければならないというメッセージを。

中東地域全体が紛争に飲み込まれる中でも、私たちはパレスチナ占領地域の悲惨な状況から目を背けてはなりません。

ハマスによる10月7日の忌まわしいテロ攻撃から、まもなく3年になります。

これに続くガザでのパレスチナ人への猛攻撃は、私が事務総長在任期間に目にしたことのない規模の殺戮と破壊につながりました。

国際司法裁判所(ICJ)は、次の事案名で法的拘束力を持つ保全措置を命じました。

「ガザ地区における集団殺害罪の防止および処罰に関する条約の適用」

ICJは昨年の勧告的意見でも、国連がガザでそのマンデートの遂行を認められること、そして国連職員と人道要員が保護されることの必要性を明確に示しました。

すべての当事者は、国際法とICJの命令を遵守しなければなりません。

そうしている間にも、ヨルダン川西岸地区での暴力と住民の強制避難、イスラエルによる入植地拡大は平和への道を強引に踏みつぶし、民族浄化の度合いを強めています。

私たちは2国家共存の解決策が目の前で消え去ることを許すわけにはいきません。

ウクライナでは、ロシアの全面的な侵攻により、主権国家が国連憲章を踏みにじる残虐な戦争に陥りました。

戦闘の最前線からはるかに遠い場所でも、民間人が犠牲になり続けています。

主にウクライナで、そしてさらに最近ではロシアの一部でも、家屋やエネルギー・水道システム、輸送インフラが繰り返し攻撃され、世界中で食料とエネルギーのサプライチェーンが脅かされています。

スーダンでは、外部勢力に煽られた権力闘争が、民間人を標的とした戦争へと化しています。

数百万人が避難を余儀なくされ、

飢餓が拡大し、

ドローンが病院や家屋を攻撃し、

性暴力や特定の民族を標的とする攻撃が激化しています。

そして、世界が目を背ける中で、国全体が引き裂かれようとしています。

ミャンマーでも、もう一つの危機に対する世界の関心が薄れつつある中で、

暴力の激化や、

大量の避難民、

そして越境犯罪の拡大が生じています。

皆様、

これらをはじめとする数多くの紛争は、力の抑制が効かなくなり、武力が外交に勝り、軍事予算が急増し、説明責任が放棄されたときに何が起こるのかを如実に示しています。

私たちにとっての試練は、力が法の範囲内で行使されるのか、それとも法の枠を超えて行使されるのかという点に帰着します。

私たちはこの試練に打ち克たねばなりません。

そのためには、二重基準なく国連憲章を擁護しなければなりません。

例外なく民間人を保護しなければなりません。

妨害なく人道支援のアクセスを確保しなければなりません。

人道要員を確実に守らなければなりません。

遅滞なく核不拡散と核軍縮を推進させなければなりません。

そして、公平に、客観的に、中立的に、説明責任を求めなければなりません。

私たちはまた、現在の課題が求める正当性と実効性を伴う形で今日の世界を反映できるよう、安全保障理事会を改革せねばなりません。

安全保障理事会は、第2次世界大戦の直後に構想されました。

しかし、世界はそれ以来、根本的な変化を遂げています。
その変化が安保理に反映されているとはとても言えません。

中でも、最も驚くべき例はアフリカです。

国連の創設時、アフリカの大半はまだ植民地支配下にありました。

今日に至るまで、アフリカは安保理の常任理事国となっていません。

21世紀の安保理にアフリカの常任理事国を欠くことは不公平であり、弁解の余地はありません。

この状況は変えねばなりません。

皆様、

力にまつわる第2の試練は不平等に関するものです。

不平等はしばしば経済の問題として捉えられていますが、

それは実際のところ、力の問題です。

機会や資源、発言権を支配する力です。

人類がこれほどの富や知識、技術力を持ったことは未だかつてありません。

にもかかわらず、何十億の人々にとって、進歩は依然として手の届かぬところにあります。

豊かになるのは周りばかりで、自分たちではないと感じているのです。

グローバル化で裾野が広がると言われながら、そこから排除されています。

技術で生まれる新たな可能性を約束されながら、多くはそれによって生計手段が奪われることを恐れています。

その一方で、依然として何十億もの人々が、持続可能な開発目標(SDGs)に盛り込まれた必須要素、すなわち

食料、

安全な水、

教育、

ディーセント・ワーク(やりがいのある人間らしい仕事)、

保健医療、

そして尊厳を得られない暮らしを送っています。

皆様、

いかなる国も、不公平極まりない金融システムで勝ち組に入れないという理由だけで、持続可能な未来を拒絶されるべきではありません。

それにもかかわらず、開発途上地域では多くの国が、持続不可能な債務によって押しつぶされ、

自分たちが原因にほとんど加担していない災害に翻弄され、

低利の融資から締め出されつつあります。

こうしたことから、私たちはたゆまず、次のことを求め続けてきました。

国際金融アーキテクチャの改革。これは単なる技術的な話ではなく、代表性や公平性、そして力にかかわる問題です。

時宜に適った効果的かつ公正な債務救済。

より大型かつ大胆で、低利の長期融資を大規模に提供し、民間資金もふんだんに活用できる手段を整えた多国間開発銀行。

そして、最も必要とする国々が活用できる特別引出権(SDR)。

皆様、

不平等に関する議論で、その最も普遍的な形態を無視することはできません。

それは女性と男性の間の格差です。

世界中のあらゆる場所で、女性は大人も子どもも、差別や暴力、排除、虐待を受け続けています。

全世界で、

その権利は後退を強いられ、

その声はかき消され、

その身体は戦場と化し、

その自由は交渉材料として取り扱われています。

これは言語道断であり、人類にとって由々しき損失でもあります。

女性が交渉の場に加われば、平和はより長く持続します。

女性が均等な機会を得られれば、経済はより活性化します。

女児が学び、リーダーシップを発揮し、恐怖から解放されて生きることができれば、社会のレジリエンス(強靭性)は高まります。

そして、力が平等に共有されれば、制度機構はより効果的になります。

私たちはこの10年間で、非常に大きなマイルストーンを達成しました。

私は今、国連が史上初めて、すべての上級指導者層で、すべての本部で、そしてすべての専門職で、ジェンダー・パリティー(男女比同率)を達成したことを報告でき、誇りに思います。

これは私たちが障壁を取り除き、既成概念に挑み、力とは常にこうあるべきだという考えを拒絶したからこそ、達成できた成果です。

私たちはあらゆる段階において、資質と能力という点で決して妥協しませんでした。

平等は夢ではありません。それは決断で実現します。

国連が変われるのであれば、

政府も、

議会も、

企業も、

和平プロセスも、

そして、この国連総会も変われるはずです。

皆様、

力にまつわる第3の大きな試練は、気候変動に関するものです。

それは多くの点で、世代間の最も大きな力の不均衡を反映しています。

一つの世代が次の世代の未来を使い果たしているという意味で、そして、

一つの集団が利益を得る一方で、最も責任の小さい人々が最初に、最大の被害を受けるという意味で。

私は3年前、ネパールの山岳地帯で、氷河の融解が加速していることに警鐘を鳴らし、世界の屋根が崩落しつつあると警告しました。

中には、危険性を誇張しすぎているとして、この警告を無視する向きもありました。

しかし、悲劇的な出来事が示しているとおり、その影響は多くの人が予想したよりも早く訪れ、より大きな打撃を与え、より広範囲に及んでいます。

私たちは今や、1.5度の限度を超える気温上昇がほぼ確実となり、超大型のエル・ニーニョ現象が人類を直撃する状況に直面しています。

危険は現実化しています。

しかし、そこには希望もあります。

この10年間のうちに、私たちの時代で最も有望な力のシフトが一つ進みました。

クリーン・エネルギーの台頭です。

太陽は誰のものでもありません。

風力に禁輸措置は効きません。

イノベーションはあらゆる場所で起こり得ます。

これは力関係の根本的な再編を意味します。

再生可能エネルギーは現在、世界の大半で最も安価な新電源となっています。

そして、エネルギーの安全保障や自給、持続可能な成長に向けた最も実現性の高い道筋でもあります。

皆様、

脱化石燃料の未来が見えてきました。

問題はそれをどう実現するかです。

それは国際協力に基づいた、公正で秩序ある移行になるのか。それとも、大きな混乱とコストを伴い、取り残される人々や国々が出てくるのかという問題です。

私は本日、すべての政府に対し、1.5℃という温暖化目標と整合し、明確なスケジュールと、影響を受ける労働者やコミュニティーの保護策を盛り込んだ、化石燃料からの脱却に向けた国家移行計画を採択するよう呼びかけます。

私たちは、化石燃料の利害関係者が自ら道を譲らないことはわかっています。

何十年にわたり、大手石油会社は大気を垂れ流しの下水溝のように扱い、そこから利益を得てきました。

ロシアによるウクライナ侵攻以来、欧米の大手石油会社5社は5,000億ドル近い利益を手にしています。

それとは対照的に、開発途上国に対する国際的な公的適応資金供与額は、統計のある最新年でわずか340億ドルにとどまっています。

その間に、庶民が負担するエネルギーや食料、保険の費用は増大しています。

私たちはこれまでも、同じような力の乱用を目にしてきました。

大手たばこ会社がもたらす害悪に疑いの余地がなくなった時、各国政府は動きました。

気候危機に対しても同じ決意が必要です。

最も多くの汚染を引き起こし、最も大きな利益を得てきた者は、それによって生じた損害の回復にも、はるかに大きな責任を負わねばなりません。

汚染者はその代償を支払うべきです。

そして指導者や都市、市民社会や市民は、その責任を問わねばなりません。

その意味で、皆さんは歴史上、正義の側に立っているのです。

取り組みを続けてください。

政府もまた、あらゆる方面で取り組みを続けねばなりません。

森林破壊を終わらせること。

送電や蓄電に投資すること。

メタン排出量を削減すること。

しかし、こうした取り組みだけでは不十分です。

私たちは、適応と金融を重点とする気候正義を必要としています。

先進国はその約束を守らなければなりません。

適応資金の供与額を3倍に増やさなければなりません。

そして、「損失と損害」基金を大規模に運用しなければなりません。

「損失と損害」基金が現時点で使える金額はあまりにも少なすぎるからです。

私たちはまた、重要鉱物の採掘によって、過去の不平等がさらに掘り下げられることのないようにせねばなりません。

生産国と影響を受けるコミュニティーが、その資源から生まれる価値のより大きな部分を享受しなければなりません。

略奪を止めなければなりません。

搾取を終わらせねばならないのです。

皆様、

力にまつわる第4の試練は技術、とりわけ人工知能(AI)に関するものです。

何世紀にもわたり、力は領土から生まれました。

次にそれは産業となり、

そして金融となりました。.

現在、力はますますデータや演算能力、アルゴリズムから生まれるようになりつつあります。

この新しい力は極めて集中しています。

また、驚異的な速さで進んでいます。

そして、私たちがその成り行きの全貌を理解できる能力さえ凌駕しようとしています。

2017年当時、AIは世界の関心をほとんど集めていませんでした。

それでも、私は初めての国連総会開会の挨拶で、次のように警告していました。

「人工知能は、開発を刺激し、生活環境を大幅に改善できる新たな存在です。しかし、労働市場に劇的な影響を及ぼし、それによって国際社会や社会的結束さえも損なう可能性があります」

これが私の言葉でした。

それからもうすぐ10年が経とうとしています。

AIはまさに、大変革をもたらす新たな存在となり、医療の進歩、科学的発見の加速、機会の拡大、そして生活の改善といった大きな可能性を秘めています。

勘違いしてはなりません。

技術それ自体が危険なのではありません。

危険なのは、説明責任を伴わない技術、

つまり監視なき能力であり、

透明性を伴わない意思決定なのです。

そして、この危険性を軽視することはできません。

これらのシステムを構築している開発者自身が、今、警鐘を鳴らす事態となっているのですから。

皆様、

政府の第1の責務は自国民を守ることです。

政府はその責任を担わねばなりません。

そして、最大のAI能力を有する政府には、人類に対する最大の責任があります。

対話や透明性、信頼、そして協力のための経路を確立する責任です。

それは地政学的な対立にもかかわらず果たすべき責任ではなく、それがあるからこそ必要な責任なのです。

冷戦中の極めて重要な局面において、戦略的競争の当事国は、共有の存亡にかかわる危機を管理する必要性を認識しました。

そして、誤解を減らし、事態の激化を管理し、破局的な事態を防ぐためのメカニズムを構築しました。

当時の問題は核武装にありました。

現在、AIが同じ目的の明確さと緊迫感を求めています。

この技術革命を主導する国々は、新たに生じつつある安全性リスクに関する情報を共有せねばなりません。

その検証と評価で協力しなければなりません。

そして、私たち全員を守る共通のセーフガードの構築を図らねばなりません。

しかし、この問題が私たち全員にかかわることを考えれば、グローバルな連携は欠かせません。

そして、私たちに共通の未来を作り上げるうえで、あらゆる国に発言権を持つ場所は、ただ一つしかありません。

その場所こそが国連なのです。

皆さんは「グローバル・デジタル・コンパクト」を通じ、AIガバナンスに関する普遍的原則に初めて合意しました。

私たちは「AIガバナンスに関するグローバル対話」を通じ、政府や科学者、産業界のリーダー、そして市民社会が連携できる場を作り上げました。

「AIに関する独立国際科学パネル」を通じ、私たちは全世界の専門知識を結集し、エビデンスに導かれた政策の確保を図っています。

このAI科学パネルは昨日、AIの安全性と人間による制御逸脱によるリスクに関するテーマ別報告を発表したばかりです。

私たちはこうした取り組みを足場に、次なる歩みを進めなければなりません。

それは第1に、責任あるAI開発速度を保つための条件と、リスクに対処するために必要な追加的セーフガードを整備すること。

そして第2に、信頼できる独立の監督に支えられた多国間の「AIリスクマネジメント枠組み」の策定に努めることです。

また、私たちのあらゆる取り組みで、どの国も取り残されないようにせねばなりません。

AIは人類により、人類と共に、人類のために構想されねばならないのです。

そして、今後控えている課題に立ち向かう中でも、2つの根本原則は譲らないようにしようではありませんか。

まず、声を一つにしてこう言いましょう。

子どもを決して野放しのシステムの被験者にしてはなりません。

そして、生殺与奪の決定を決して機械に委ねないことも決意しようではありませんか。

私たちの未来に、キラー・ロボットの居場所を与えてはなりません。

皆様、

平和と安全、

不平等、

気候、

AI、

この4つが力にまつわる将来の大きな試練です。

そして、それらは絡み合っています。

戦争は不平等を拡大し、開発を破壊し、飢餓を加速させます。

不平等は、気候やその他のショックに対峙できる手段を持つ者と、無防備なまま取り残される者を決定づけます。

気候危機は不安定化と避難民の発生を助長します。

AIはこれらすべての課題の解決に役立つ可能性も、これらを悪化させる危険性もあります。

皆様、

これら4つの試練で決定的な問題となるのはいずれも力です。

武力や資金、エネルギー、技術、ルール、そして未来を支配する力です。

国連憲章、そして国連の活動がかつてなく重要になっている理由はそこにあります。

国連が存在するのは、力にはルールが必要だからです。そして、人類は力が原則に従う場所を必要としているからです。

また、国連憲章は選択的な解釈の余地を全く残していません。

憲章が創設したのは、次の3つの柱に支えられた国連という組織です。

平和、

開発、

そして人権。

これらは競合する課題ではなく、

ただ一つの現実を示しています。

開発なしに平和はあり得ません。

平和なしに開発はあり得ません。

そして、人権がなければ、平和も開発もあり得ないのです。

平和を尊厳や機会、権利とは別物として考えうるという主張は、受け入れ難い幻想です。

しかし、この真実を擁護することは、現状維持を擁護することではありません。

「未来のための協定」とUN80イニシアチブはいずれも、国連の3本柱の平等原則を尊重しつつ、国連を

より大きな対応力を備え、

より効果的で、

より一貫性があり、

より透明で、

成果をさらに重視し、

より厳しい規律をもって資源を活用し、

人々が私たちを必要とする場所でより大きな存在感を示す組織にすることを目指しています。

世界は弱体化した国連を必要としてはいません。

現実世界に対峙できるだけの強さと、あるべき世界を構築できるだけの決意を備えた国連を必要としているのです。

皆様、

10年を経た今、私は就任時に抱いていた一つの信念をさらに強くしています。

それは、最も偉大な力とは、支配する力ではなく、

あらゆる人のためになる未来を構築する力だという信念です。

私たちが共有する未来の姿は、人類が力を賢く律することができるかどうかで変わってくるでしょう。

不処罰が恒常化する前に、法を堅持すること。

数世代が犠牲になる前に、戦争を終わらせること。

社会が分裂する前に、不平等に対処すること。

ティッピング・ポイントを越える前に、気候変動対策を加速すること。

そしてAIによって私たちが律される前に、これを律すること。

それこそがこの総会、国連全体、そして人類自身に突きつけられた課題なのです。

皆様、

80年以上前、国連は世界的な大惨事に直面した際、立ち向かう意思を示すものとして創設されました。

それは、未来を恐怖に屈することを拒んだ人々の挑戦。

力こそが正義だという自滅的な発想に反対する挑戦。

私たちの未来が結び付いていることを認識する国々による挑戦。

そして、希望という名のもとでの挑戦でした。

残された100日の在任期間を通じ、私は毎日、この決意と決心の精神を守り続けます。

しかし、国連の価値観と原則に対するコミットメントは、その任務に就くことで始まるものではありません。

また、任務が終われば終わるものでもありません。

それはどのような任務より偉大なものであり、どのような肩書をも越えて続くものです。

ですから、私が事務総長を退任する来年の1月1日以降も、このことは確信していてください。

私がどこにいようとも、そして何をしていようとも、平和は可能であり、

人間の尊厳は普遍的であり、

法の力は力の掟に優らねばならず、

私たちの共有する未来は闘って得る価値のあるものだという信念を私が守り続けるということを。

私がこれからも国連憲章の価値観を擁護し続けるということを。

そして、決して諦めないということを。

ありがとうございました。

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。